第二十一章 デミ駆除作戦① 魔物プラネット
俺達はまたデミの討伐に駆り出されている。それにしてもまたデミが人間の町を襲っているのだな。今回の討伐はデミで人間の町の占拠ではない。だからと言って人間が攻撃してこないわけはないのだろうな。俺は両手に巨大手甲をつけた不思議な集団と交戦している。最初はあの老人近接DPSの強化版かと警戒したが力任せに手甲で殴りつけてくるだけで特に脅威はない。あの老人のように衝撃で内部を破壊するというような芸当もないようだ。ぶっちゃけ弱い。加護はあるがコイツラはなんだ。はっきり言って弱すぎる。これからこの物語のタイトルは「時間が経ったら人間が弱体化して楽々夢想ライフ」というタイトルにしよう。それぐらい弱い。
そして次に現れたのが巨大ハンマー。これも今まで見なかったものだ。こいつが本命かと思いきや、こいつも衝撃を使わずに殴るだけ。しかも身体強化に加護を使い、全身を使った攻撃で、大地の支配で下から棘を生やすだけで簡単に体勢を崩せる。これがグレートソード戦士だったら防御にも加護を割きスーパーアーマーを効かせて攻撃してくるだろう。そもそも内蔵のない魔物に打撃はあまりにも効率が悪い。筋肉に打撃を与えても止まらないだろう。だからこその斬撃だ。魔物を止めるには断ち切るしかない。
それにしてもあまりにも弱すぎる。脅威が全くない雑魚過ぎて致命傷を与えずにそのまま放置。単純に負傷兵を増やして敵の負担を増やす戦法だ。無能な敵は百の味方に勝る。とはいえ魔物と戦えない加護持ちは何のためにいるんだ? これからこの物語のタイトルは「人間が弱すぎて雑草過ぎるwそれを狩りつくす俺無双草刈りライフwww」にしよう。
極めつけが魔法使いだ。加護無し魔法使いというある意味理想のスタイルなのだが、半分寝てるシノの一撃で倒れる始末。流石に加護無しノーガードで無隠蔽魔法は豪胆に過ぎる。そのうえ接近されたオーガの俺にカウンターマジックを決められるのは流石にどうなんだ。これからこの物語のタイトルは「基礎を知らない現代魔法使いにオーガの俺が無双カウンターマジックで最強になる」にしよう。
おかしい。流石になんだこれは。さっきのタイトルじゃないがこれはまさに雑草の草刈りだ。むしろ止めを刺すのが気の毒に感じるほど弱い。市民が必死になって武器を持って立ち向かっているのでもない。明かに戦う姿勢だが、一体何と戦うつもりなんだ?
この俺の疑問はすぐに晴れた。同じような集団がデミを相手に戦っている。これでやっと納得がいった。あの打撃構成はデミ専用構成か。痛みのせいで打撃で怯み、核も打撃の方が効くのだろう。斬撃は再生されるからな。魔法にしてもデミはカウンターマジックなどしてこない。加護無しでも無隠蔽全力魔法でダメージも出せるのだろう。かなり優位に進めている。
言ってしまえばコイツラは魔物との戦闘部隊じゃなくデミを片付ける掃除係のようなものか。
俺は完全に彼らを標的から外した。今回はデミの掃除だ。人間との戦闘でも町の占拠でもない。俺達にとって全く脅威のない人間達がデミを狩ってくれるのならそれを利用すればいい。この街を占拠しろと指令が来ないのなら人間は放置でいいのだろう。
しかしこのデミは人間の掃討よりも急務なのか。デミが襲っているのは人間で放置すれば労せず勝利を得られそうなものだが。
しかしてその甘い考えは一瞬にして消え去った。デミの数も減ってあとは人間に任せて撤退か、と楽観視していた。
しかし俺は忘れていた。奴らの中にも世界を改変できるチートを使える存在が居ることを。
そして俺はそれに対処できると高をくくっていた。
そしてそれが現れた。
世界の改変。それは世界を改変して世界を意のままに操る力。それを使いこの世界を従える。だがそれは同等の同じ力を持つものならそれを拒否し世界の改変を行えないようにできる。つまりカウンターチートで自分を含め相手のチートも使えなく出来る。これがあるから俺はチートを恐れる必要などないと考えていた。
しかしそれは世界の改変ではなく、自身の改変であった。外の世界ではなく内の世界。自分自身の世界の改変。それはこの世界に新たな世界を生み出すに等しい。完全にこの世の理から外れた化け物がこの世界に誕生した。
それはどう形容するのがいいか。魔物の海が宙に浮いている。魔物のスープが具を飛ばしながら飛んでくる。重力を無視してるんじゃない。重力はあの中心にあるのだろう。だからこそ水玉状で落ちてこない。超小型の魔物の惑星といった方が良いだろう。空を覆うほどの大きさではないがその幅はオーガの全長四、五体分だろうか。いつぞやの超巨大ゴリラ阿修羅ロボットと同等か。
こんなのどうするんだ。もうおうち帰りたい。
「ようやく私の出番か。・・・これは何だ」
眠りについていたシノが起きだす。
「デミかコアか。そのどちらもだな」
そもそもこいつの中央に弱点という概念が存在するかも怪しい。例えるなら惑星である地球の弱点と言われても何も出てこないだろう。
「とりあえずお前の魔素を吸い出せ。私も今回は配分を考える」
俺はシノの中に舌を伸ばすと俺の魔素と同調して吸い出す。シノの中のコアは未だに傷だらけで修復している様子はない。ゴブリンの時に咄嗟に出た分け御霊という言葉は的を射てるのかもしれないな。完全でないからこそ制御できている。あの魔物惑星は完全な特殊魔素の到達点の一つなのだろう。全てがああなるかどうかはわからないが、その可能性を秘めている。俺達は大当たりだということだ。
俺が魔素を吸い終わるとシノはいつもより少量の俺の魔素を体内に入れる。そして片手で口を覆うと何かをその手に吐き出した。
「今はこれが限界か」
そう呟くと吐き出した何かを投げ捨てる。
これは核か。それがデミ髑髏を生み出す。三体か。
「それは制御できる。後で破壊してくれ」
俺が頷くとシノは髑髏を顕現させる。前に見た赤黒いやつだ。
「何か作戦はあるか? 私は久々に髑髏の本懐を果たそうと思うが」
「なにもないな。皆目見当もつかない」
「久々に楽しそうだな王牙。私とのオママゴトでも同じくらいに笑っていてほしいものだ」
「そうは言うがな。ようやく帰ってきた。俺は俺の場所に返ってきた。ここが正に俺のおうちだな」
「やれやれ、では私たちのおうちでオママゴトを始めようか」