第十九章 古城③ 目覚め(イチャラブ注意)
イチャラブしようと思ったけど面白くないのでカット。
このシーンも本来はコアからの浸食を防ぐためにコアごとシノの体をザクザクして弱らす的な流れだったがグロいのでこの形に。
「この服はどうだ?」
シノが俺の目の前で一回りする。何の変哲もない村娘の装束だ。スカートの丈が長いやつだ。それ以上は知らん。
結果だけを言えばうまくいった。俺が極限まで削ったコアをシノが押さえ込んで制御下に置いている。それだけなら問題はないのだが、一部が融合してデミと同じ特徴も備えてしまった。
まず第一に睡眠だ。俺も知らなかったがデミは眠るらしい。古城のデミ髑髏が暴れなかったのもこれが原因だろう。シノにもこれが必要らしい。どちらかというと休息のようだがこれも人間同様不安定なもののようだ。食事は必要ないが定期的に俺の魔素が必要らしい。どうも俺の魔素はコアの影響を受けづらくそれを体内に入れることで安定化が図れるそうだ。
第二に感覚器。デミオーガが痛みを覚えていたように五感がより人間に近しいものなっているようだ。冒頭の服もその一つだ。裸でいるのはキツいらしい。コアの特性で無から有を生み出せるらしく、服はそこから生成されている。魔物の時のような魔素で出来たただの覆いとは違うようだ。
そして第三に感情があるようだ。魔物に感情がないとは言わないが、それとは違う。体から生まれるものだ。シノの体にはコアから流れる血液が回っている。この前の戦いのように外に張り出すほどではないが内部にある。これが肉弾戦のオーガであれば戦いに支障が出るが、魔法使いタイプの髑髏の体にならばそれが流れた所でそれほど支障はなさそうだ。だがそれ以上に問題がある。これこそが本題だが、この感覚器と体からくる感情でシノの性格が少し歪められている点だ。コアによって性格が変わったというより、そこから得られる感覚の変化が影響を及ぼしている。本質は変わっていないが行動がおかしい所が増えている。今はだいぶ落ち着いているが最初はその感情に振り回されて言動までもがおかしかった。
例えば最初に目が覚めた時だ。よほどバツが悪かったのだろう。記憶喪失のフリはあまりにも痛々しかった。多分だがあれは自分で出した髑髏の顕現を利用したのだろう。顕現して消えた髑髏がシノで、目覚めた自分はシノとは違う存在であるかのようなふるまいをしていた。
はっきり言おう。魔物のリンクでそんなものはバレバレだったのだが、それでもシノは感情の制御が出来ず、それを受け入れられずにいてその芝居を続けていた。俺はそれに気づいていて合わせていたのだが、それがいたく気に障ったらしい。演技がばれてると知って半泣きするシノに俺は言った。
「お前はいま特殊な状態だ。感情のままに甘えろ。いつまでも俺が付き合ってやる」
この言葉でようやく自分を受け入れて感情のままに動くようになった。正直手間はかかるようになったが感情を偽っている時よりもマシになった。あの髑髏の顕現で俺の腕をつかんだのもコア惜しさに俺を止めていただけに過ぎない。命よりも感情を優先するのはあの時から始まっていたのだろうな。
「これはどうだ? 似合うか?」
まだシノのファッションショーは続いている。俺がこれに興味がなくても付き合うのをわかっているのだろう。生返事でも返しても激高しない。意外と言っていいのかわからないが衣装は露出が控えめだ。女性服を着てはいるが男の視線を引きたいわけではなさそうだ。シノの元の性別は不明だが露出が少ないのに下着を履かないのがよくわからない。一番守るべき所が露わなのはどうなのだろうな。もし俺なら付いてはなくても履きたい所だが、これは個人的意見で性別は関係ないか。
だが本当の問題は指示にある。未だにシノへの討伐指示は消えていない。俺のオーガ部隊とゴブリンは様子見に賛成はしているが、もし他の討伐を命じられた魔物が来たときはどうなるか。最悪俺以外は敵に回ると考えていい。
これではあの魔物の村の連中を馬鹿にできる立場にないな。俺のいう鬼に堕ちるとはどう意味だったのか思い出せないが、俺が望まぬことをするためではないだろう。友人を見捨てて生き残るなど、まるで人間だ。だからこそ滅びた。滅ぼした。俺がそれをなぞる事などないだろうからな。
「王牙。少し話がある」
珍しくシノが伺いを立ててて来た。今迄は傍若無人に甘えてきていたのに珍しいことだ。
「お前から吸ってきた魔素だがな。それが私に適合できない部分があるんだ。つまり消化不良で私の中に残ってる。それを取り出さないといけない」
なるほど。自分で抉り出すのはキツイだろうな。しかも痛みがあるのなら尚更だ。牙で齧って吸い出すのは危険だな。爪で穴をあけるか。
「まて。お前何をやろうとしてる」
「抉り出せというのだろう?」
「違う。そうじゃない。吸い出すんだ」
「牙でか? お前が持たんぞ」
「違う。そうじゃない」
視線をそらしモジモジしているシノを見て俺はピンときた。
「ああ。下から出すのか。構わんぞ」
「違う! 下から出るわけないだろう。口から吸ったんだ、口から吸いだすのが当たり前だろ!」
ああ、なるほど。それで言いにくいのか。俺は迷わずシノの口を吸いだす。少しの抵抗があったが問題ない様だ。だが肝心の俺の魔素が吸い出せない。腹を少し押してみたがそれでも難しい様だ。これ以上吸い出すのは腹をえぐるのと大差ないだろう。俺は舌を伸ばしてコアに到達する。確かに俺の魔素だ。シノとコアの両方で錬成され研ぎ澄まされた俺の魔素。これは極上の強化素材だ。単純にこれを得るためだけでも魔素を吸われた甲斐があるというくらいには有用だ。
それとは別に舌でコアの周りを嘗めとりながらその形を確認する。それは傷ついた鉱石のようだった。カットされた鉱石に俺がつけた無数の傷で削り取られている。亀裂のようなものは入っていない。それが一部から血管が伸び、シノの背骨辺りに絡みついているようだ。前面には伸びていない背面だけだな。いざとなればこのコアの背面を切り落として一時的に分離すれば問題ないだろう。
「いつまでやっている」
「ああ。極上の魔素に仕上がってる。これはうまい」
「ばか。私はお前のおしゃぶりじゃないぞ」
「だがこれは吸い出せるようなものではない。俺が直に同調させないと剝がれそうにないぞ」
「なら。もっと私の頭を撫でろ。体もだ。中だけ撫でまわされるのは、なんか、イヤだ」
俺が抱きかかえる様に撫でるとシノの体のこわばりが消えていく。だがそれは血液の流れを意味しコアとの同調を高める。俺の魔素が取り払われたこの時に暴走をするようなら問答無用で破壊するつもりでいたがその心配はないようだ。だが。
「このまま壊してもいいか?」
「お前、なにを。私を、これ以上、何を奪うつもりだ」
気持ちよさげに目を細めていたシノがカッと目を開く。
「この鬼め! まだこれを壊す気か。これは駄目だ。どんなに私が壊れてもこれだけは駄目だ」
「駄目か」
「そうだ。駄目だ。もう変われ。次は私が吸い出してやる。お前の魔素で研究が遅れたんだからな」
やれやれだ。確かに俺の魔素がコアを塗り固めていた。コアの制御は楽になるが、コアの利用もし辛くなるという事か。
「見ろ! 私の体だ! やっと元に戻った!」
その声に顔を向けるとそこにはオーガよりも大柄の髑髏の姿があった。赤黒い何かのコーティングがされて、ぼろ布マントをなびかせている。そしてその中央、肋骨の間に赤髪のシノの姿が眠っている形だ。
ネームドどころか明らかにボスだな。
「わかるか。このコアは無から有を生み出す。いわば魔素も生み出せるのだ。それを使った魔素の骨にコアの血液を纏わせて魔法使いとしても、その耐久という面でも最強になった。これでエルフどもにも後れを取らん」
確かに魔素は二体分、いや三体分はあるか。これは確かに憧れる。俺がオーガでない肉体面を重視した魔物でなければ選択肢に入っていただろう。もし俺が同じことをしても魔素人形の加護制御のような感じで逆に弱くなるだろうな。魔法使いタイプだからこその性能だろう。
「この体なら優に二百は超えるだろう。今見せてやるぞ。私が私を壊してまで手に入れたかった力が!」
シノの本気の魔法が繰り出されるのだろう。全力で攻撃に回すわけではなく隠蔽も含めた実践的な魔法だ。身振りや詠唱はあるものの魔法の気配がまるでない。ただ消費される魔素が今までの比ではない。コアを使用する事で心配していたチートなどではないな。間違いなくこの世界の制御の内にある力。だがそれでも身の毛をよだつ恐ろしい感じが俺の体を駆け巡っている。今までの言動で忘れていたが髑髏は本来こうなのだろう。魔法による圧殺。同じ魔物である俺でさえ恐怖を感じる魔法とはなんだ。
空に穴が開いた。一言で言えばそうだ。そして爆発。実体を感じるほどの強烈な魔素が辺り一面に降り注ぐ。これは余波だな。最初の爆発がメインでそこから漏れ出した魔素が実体化して降り注いでいる。一体どれほどの威力があると余波で攻撃魔法に匹敵する効果を与えられるのか。城はおろかまわりの地形も魔素に塗れて地獄絵図状態。だが魔物にとっては恵みの雨くらいの代物だ。戦場でこれが放たれれば戦況を一変できるだろう。余波だけでも強烈なバフになる。これの爆発部分を食らったらどうなるのか想像もつかないな。
「シノ!」
俺は思わず声を上げた。満足げなポーズのままシノの体が崩れだし倒れこむ。駆け寄ったが本体の赤髪以外は消えてなくなってしまった。意識もないが消滅するわけではないようだ。いつもの眠りに近い状態だ。コアもシノも弱っている。魔素を相当に消費したシノを前にしてもコアが浸食していない。それほどまでにコアも弱っているのか。それとも何か別の要因があるのか。取り合えず様子見か。
だが一ついいニュースがある。シノへの討伐指示が消えたようだ。これでひとまずは安心だな。