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第十八章 古城② 決戦


 最上階の大広間。最早誰が何のために拵えたのかわからないボス部屋で俺達は相対した。

 流れるような赤い髪に端正な顔立ち。人間と比べれば大柄だが華奢な体。今はぼろ布ではなくローブ状の衣服を身にまとっている。デミではない。デミではないが外側に血管が走っている。だが外付けの核ではなく内蔵された核であるコアがある。元が魔物の証拠だろう。見た目は別れた時と同じだ。

 しかし魔物のリンクが繋がらない。俺の時と同じか。悠然と構えているのも考えがあるのではなく、ないからそうしているのだろう。

「ゴブリン下がれ。これはマズイ」

 俺は言い放つと振り返り確認する余裕もなく同属に俺を盾にするように疎通させる。何の前触れもなく床に魔方陣が現れる。俺は床に盾を突き立てるとその衝撃を防いだ。

 間違いなくこれは無詠唱だな。魔法発動の動作すら見せなかった。いかに卓越しようとも詠唱無しで魔法は発動できない。世界を改変させて詠唱を無くしたか。この手の奴の十八番だ。そのうえ隠蔽などの小細工なしの全力攻撃。これを読んでのカウンターマジックは流石にありえないだろうからな。この初見殺しで大抵の奴は蒸発するだろう。俺は即座に世界への改変を禁じた。それに動揺したかのようにデミ髑髏達が姿を現す。後は掃討戦だな。

 まだ余裕か。この禁じ手で世界への改変を禁じればそれなりの反応があるが赤髪はまるで意に介していない。赤髪が詠唱に入るが所々隠蔽が施されている。デミとは違うと思っていたが何かおかしい。拙いというよりもこちらを試しているような。魔法に関しても殺意というよりも何かを試している。俺に集中しているのかと思えば後ろに攻撃を入れて俺が庇うのを見ても追撃が来ない。奴は宙に浮けるが俺達の手が届かない所までは飛び上がらない。あくまでこちらの土俵で戦っている。手加減ではない。何かの目的がある。

 だが結局コア持ちは息切れが起こる。魔法の精度も下がり詠唱の中断もできる。デミ髑髏も同胞が片付け終わる頃だな。遂に俺の一撃が赤髪のコアを捉える。そのショックで地に落ちる赤髪。そこで俺は勝利を確信した。このままコアに突き入れればそれで終わる。だがわかってしまった。コアの前に赤髪の、シノの体力が先に尽きる。以前のコア持ちは前衛系で体力もあるから気にも留めなかったが、コア破壊前に魔物のHPが尽きてしまえばコア以前に魔物が消滅してしまう。取り出そうにもシノ自体が小柄でコアの抜出に耐えられるか疑問だ。詠唱は黙らせることができるがこのままでいられるとも限らない。どこかで隙を見つけて反撃が来るだろう。

 不味い。捕らえた所でコアがどうにもならないのでは意味がない。迷っている俺に隙が生まれたのだろう。シノが拘束を抜け出し俺の喉元を狙う。その牙が突き立てられたとき、妙案が浮かんだ。食いついたシノの頭を鷲掴みにし食いついた口に魔素を流し込む。相手も最初からそれが狙いだったようで俺の魔素が吸い取られシノのHPが回復していく。

 これはいい。これで回復しながらコアを削れば時間はかかるが摘出できるだろう。

「馬鹿。出し過ぎだ」

 魔物のリンクが繋がりシノが目覚めたようだが俺は黙って魔素を流し込む。

「何をしている。私は・・・」

「早くしろ」

「・・・この傲慢な鬼め。望み通り吸い尽くしてやる」

 早くして欲しいものだ。コアが回復する時間を与えたくない。それこそあの時の特殊な魔素が欲しい所だが、あれは俺が破壊していしまったのか。つまりあれこそがコアの元だったのだろう。

「そういえば約束の返すはずだったあの魔素だがな。破壊してしまった」

「お前アレを壊してしまったのか。道理で不完全な筈だ。お前から取り出せないから不完全なままで力を引き出せなくなった。しかも壊しただと。おかげで私は制御不能なコレに振り回されていたんだぞ。全く貧乏くじだ。お前と関わるといつも貧乏くじだ」

 思ったよりも元気だな。これなら今のうちに摘出してしまうか。俺が体をまさぐるとシノが抵抗してきた。

「お前。まさか私の奴にまで手を出すつもりじゃなかろうな」

「そのまさかだ。それは破壊する。魔物に植え付けていいものじゃない」

「まて。これは魔法の常識を変える画期的な代物だぞ。完全であれば神の加護でさえ再現できたかもしれない」

「だろうな。それは世界の外にあるものだ。この世界を変えられる」

「お前、一体何を知っている。私を謀ったのか」

「逆だ。思い知らされたんだ。それはこの世界にあってはいけないものだ。すべて破壊する」

「・・・本当に王牙なのか?」

「ああ。約束は果たせなかったが、それの責任は取りに来た」

「当然だ。私をこんな目に合わせて一人で居なくなって。私を置きざりにした」

「それは、まあ、そうだな」

 俺は帰ることを諦めてしまった。

「そうだ。お前は私を見殺しにしたんだ。その責任はこれぐらいじゃ釣り合わない。この先ずっと一生償ってもらうからな」

「わかった。まずはそれを何とかさせてくれ」

 やはりコアも回復してきている。

「私はずっと待っていたんだぞ。これがあるうちはお前は居るんだって。お前の体は浸食されてはいたが全ては取り込めていなかった。足りない何かを、多分お前を探していた。だから安心だって。それが半身を失って私の中でおかしくなった。お前の体にあったそれが消えてしまって。おかしくなった。私は、私は」

 シノの様子がおかしい。急ぐべきか。

「私は悲しかった。お前に会えないのが辛かった。諦めるのが嫌で嫌で私はここで全てを、塞いで、何もかも知りたくなかった。お前が居ないんだって知りたくなかった」

 コアが暴走しかけている。支配というより一体化しようとしているのか。このままシノの回復を待つよりも先にコアを潰すか。

「シノ。コアを潰すぞ。絶対に死ぬな。何でもしてやる。俺をくれてやる。だから絶対に死ぬな」

 シノは限界か。まてこの状況俺と同じならシノの意識を盾に移せば安全にならないか。その後で体を元に戻せばいい。

「盾!」

 言葉はないが拒否の意志を感じられる。何故だ俺の口を使え。

「その者はお前が語った通りのアンデッドだ。この世界で生まれこの世界で魔物になった。我々の同郷ではない」

 だからこの改変は使わないという事か。同郷にはチートを使うがこの世界の存在には使わない。それがコイツラの不文律なのだろう。言葉を喋れば異世界転生という話ではないのか。

 なら俺が・・・、コイツラ俺のチートを止める気か。俺がシノにチートを使えばコイツラが禁じてくるのは明白か。

 その選択を考えるぐらいに状況が悪い。間違いなくコアを破壊すればその前にシノが持たない。

 そんな俺を動かしたのはシノだった。髑髏の体が構築されその腕が俺の腕をつかむ。その空洞の瞳が俺を見つめている。その腕は振り払おうと思えば振り払える程度のものだったが俺は覚悟を決めた。

「わかった。限界まで削る。後は任せた」

 髑髏の腕が離れ、俺は相棒を両手で構え慎重に突きを入れていく。宣言通り摘出は無しで出来うる限りコアの力を弱める。あとはシノ次第か。今度は俺が待つ番なのかもな。

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