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第十五章 魔素人形訓練場③ 炎上

 俺は拘束されていた。どこかで見たような包帯巻きのぐるぐる巻きの姿で拘束具を取り付けられている。

 人々に恐れられて封印処置、と言いたいところだがこれは単純な修理作業だ。魔素流体の漏れ。それが原因だ。あの戦いで装甲をパージするために魔素流体のパイプを吹き飛ばしてしまったのがまずかったらしい。この部分は修理不可で外から包帯の押さえつけで対処しているが魔素流体の漏れは防げず、さらに拘束具を重ねている状態だ。とてもではないが戦える状態ではない。

 万事休すか。あの戦いに全てをかけすぎてしまった。本来なら負けてもいいのだろう。だがそれでは面白くない。あの状況であのまま引き下がるのは生存するという約束よりも優先されるべき事柄だった。結果は散々宿主殿と相棒の助けで勝てたに過ぎない。

 宿主殿といえばやはり魔素ジェネレーターは禁止されたのだろうな。外から見ればあれは魔素人形の魔物化。加護で扱う機体を魔物に変えては本末転倒だ。しかし人間が魔素を使った魔法を扱えるのが不思議でならなかったが、魔素をどこからか取り出しているのか。魔素ジェネレーターは魔素を発生させるのはなくどこかと繋げている。そこから引き出すのだ。人間を媒介にした魔素ジェネレーター、魔法を扱える人間、人間はそのゲートを開けられる存在だという事か。そのために生み出されたのか、たまたま持っているだけなのか。魔物が人間を狙う理由はそれか。魔物は魔素生物でありながら自前で魔素を生成できない。自然に流れている量でも結構なものだが、あれは何処から流れてくるのか、それとも自然に存在するのか。それすらもわからない。そもそも魔物とはなんだ。

 考えることが多すぎる。それというのもここに鎮座されて飾りになっているからだな。魔物化して大会を制覇した伝説の機体だ。大切に修理され何かの祭りにでも担ぎ出されるのだろう。そうでなけば即廃棄処分だ。

 相棒の気持ちが良くわかるな。偉業をなして飾り物は退屈に過ぎる。これを打開する存在ならば例えそれが神だとしてもその手を取っていただろう。魔法使いが居れば動くのは可能だ。魔素の発生さえあれば魔素体で漏れを防いで起動できる。だがそれも宿主殿レベルでないと供給が間に合わないだろうな。動けないというのもどかしいものだ。


 何やら外が慌ただしいな。どうやら祭りでも始まるのか。俺の機体にも大型のタンクが取り付けられている。背中側のアバラの下に差し込む形だ。確かにタンクをつければ問題ないだろう。

 そして久々の人間の搭乗。しかしこれは宿主殿か? それにしては大きさが違う。もう子供ではない。しかし相変わらずの加護のなさだ。加護がないから魔法の才があるのか魔法の才があるから加護が身につかないのか。どちらにしてもシノを思い出す。あれからどのくらいの時間が過ぎたのか。

 操縦席に魔素が満ちる。久々に目を開けるな。今までも何かに駆り出されてはいたがそこまでの魔素供給がなかったものな。ただ歩いて終わりという記憶がある。よほど平和だったのだろう。

 だがそれももう終わりか。燃え盛る都市の匂いが映像から漂ってくる。今まで眠っていたような感覚が研ぎ澄まされていく。これは間違いなく俺の出番だ。宿主殿も何をしているのかと思えば何かを語っているようだ。それは俺には伝わらん。多分何かの感動的なシーンなのだろうが俺には興味もない。ようやく演説が終わってこちらの反応待ちだ。俺は即座に魔素不足のランプをつける。

 高密度の魔素が充満する。即座に魔素体で漏れ部分を覆うと機体を立ち上げる。まだ何が居るかわからん。状況も不明だ。いきなり全力は出せないだろう。俺は施された武器を手に外に出る。

 外は火の海。魔物の襲撃か。案の定苦戦しているな。俺の目の前に切り飛ばされた魔素人形の腕が飛んでくる。

 早いよ。

 俺は微かに笑いながら施された剣を投げ捨てる。そして目の前に突き刺さった相棒を抜く。これで魔素の濃度を上げられるな。装甲はそのままに包帯部分を吹き飛ばす。これでだいぶ楽になるだろう。

 相手はオーガか。しかし驚くほど俺は冷静だな。魔物との戦闘にもっと拒否感があるかと思っていたが。相手は二体。何かに浸食されている。体に何かの核がありそこから脈打つ血管が伸びている。あれはなんだ?

 俺は迷わず踏み込んでコケタ。

 が踏みとどまる。

 そこで足を滑らせ手にした剣で自分の喉元を突き刺してしまう。

 これは、あれか。相棒にやられたやつか。世界に干渉して相手の行動を意のままに操る。これでこうまで簡単に事が運んでいるのか。これは俺にも使える。だがそれは気に入らない。それは禁じ手だ。だから俺はそれを禁じた。

 空気が変わったことに気付いたのかうろたえるオーガたち。俺は喉元の剣を抜くと傷を塞いで一太刀を入れる。そもそも魔素人形の首に剣を突き立てて何の意味があるのか。首を切れば魔物でもHP分の魔素を削れなくても絶命させることはできる。それにしても意図がわからない。そしてそれは確信に変わった。オーガが痛がっている。切りつけられた腕を押さえ恐れおののいている。そして血が噴き出している。

 これは…。俺は血糊を魔法で吹き飛ばすと片方の首を切り飛ばす。そしてそれが再生した。これはオーガじゃない。本体は核だ。俺はその張り付いている核を叩き潰す。絶叫と共に血を撒き散らし生きあがこうともがくデミオーガ。それをしばし眺める。核を潰してしまえば再生はしないようだ。だがもう一体は傷を押さえている。再生はしているが痛みに慄いているようだ。

 こいつらはなんだ? 魔物が痛みだと? それにこの血液。世界への干渉。何もかもが異質だ。なにより俺がコイツラを気に入らない。殺したい。俺はもう少し観察しようという冷静な判断を捨てて止めを刺す。もうその存在が許せない。


 そしてもう一つ信じられないものが俺の前に現れた。ああこれは間違いなく俺だ。俺がそこにいる。巨体のオーガ、間違いなくこれは俺の体だ。もしも相棒が居なかったら俺こそがフェイクだと思っていただろう。それが核に浸食されている。先ほどのデミオーガと違い体の中、鳩尾の部分にそれが見える。血管が外には出ていないが中には張り巡らされているのだろう。

 これは想定外だ。魔素切れランプを点灯させる。これは今の状態では倒せない。魔素ジェネレーターの起動を確認して俺はオーガ体を顕現させる。相手の得物は鬼の金棒か。とげの付いた例の奴だ。これが使えるということは相棒とのリンクがあることを示している。やはりこれは俺で間違いないか。それにしても厄介だ。鬼の金棒のとげなど飾りだと思っていたがその全てが護拳で打ち合いでの軌道が読めない。しかもこん棒は刃を立てる必要もなく動きの選択肢も大きい。刃で絶つことによる絶対的な致死力はないがそのフレームや骨にダイレクトにダメージを与えてくる。想像以上に厄介だ。

 それでも肉体に問題があるようでこちらが有利に進めている。まずは痛みか。間違いなくこれを感じている。傷はもとより自身の攻撃や動きでも思い切りがない。そして呼吸と脈拍。間違いなく息が上がってきている。失血はあの回復力をみればないだろうが全身を駆け巡る血液がうまく機能していない。そもそも魔素体の魔物の内部に血液を流すことがナンセンスだ。それなら先ほどのデミオーガのように外付けにした方が機能するだろう。そもそもの構造に無理があるのだ。

 俺は鳩尾の核に相棒を突き入れる。その衝撃でショック状態になった体に何度も突き入れる。そして横から、アバラを極力傷つけないように斜め下からの切り上げを左右から行う。だいぶ弱ってきた核を取り出し一閃。空中に浮かんだ核を上下に五撃。ようやく破壊が出来たな。

 これは。

 核を破壊したことで俺の体が元に戻りつつある。張り巡らされていた血管が排出され血液も流れ出る。俺が元に戻っていくのを感じる。それはこの意識も。俺は元に戻るのか。


 俺が目を開けると俺の機体が擱座しているのが見える。そして俺の手にはサイズを合わせた相棒。どうやら戻ったらしい。目の前には擱座した機体から降りた宿主殿もいる。まだ戦う気か。魔法使いとしての才を伸ばしていたのだろうな。俺は手にした相棒を切り払うと地面に突き立てた。これで意志表示になるか。表情も言葉もわからないが攻撃の手は止めたようだ。俺は機体に手をかけるとリンクをつなぐ。これで友軍表示を出す。これなら問題ないか。俺はここで敵対する気はない。いま魔物としてのリンクも回復したがやはりここを責めるという指示は出ていない。逆に撤退を促されている。この侵略は核の独断だろう。

 とりあえず俺はあの気に入らない核を軒並み潰して回りたい。あれをこの世界に存在させたくない。しかし面倒だな。ここでの人間の相手は気が乗らない。俺の機体を担ぐのも面倒だ。だが宿主殿が気を効かせてくれるようだ俺の機体に乗り込む。まあそれが最善か。しかし俺のいない機体では足手纏いだ。

 前々から思っていたがこの機体は、変形できる作りに見える。

 可能なのか。

 宿主殿に衝撃警報を鳴らすと機体を変形させていく。丁度盾の形だ。タンクが翼のように出て魔素の排出口が下に出る。これは背負えるな。魔素体のベルトで固定すると魔素切れランプを点灯させる。阿吽の呼吸で生成される魔素ジェネレーターの魔素を魔素流体と混合させる。排出される魔素流体に魔素を再度吹き付けるアフターバーナー。これで跳躍ができるはずだ。

 俺はまた衝撃警報を鳴らすと跳躍態勢を取る。ジャンプと同時に点火。次の獲物はもうわかっている。これは効率がいいな。


 俺は着地と同時にデミの核を切り裂く。重さを乗せた一撃ならば貫けるな。残りのデミも切り裂いていく。肉体はともかく核はやはり固い。数度の打ち込みが必要だ。しかしコイツラ世界の改変を使って人間をいたぶっているのか。おかげで被害は少ない様だが俺の機嫌はすこぶる悪い。そうかこれはチートか。それで俺の怒りが収まらない。この世界の理を崩す行為が許せない。

 ここは俺達の楽園だ。好き勝手は許さない。ルールから外れる人間には消えてもらおう。

 スッキリしない怒りを抱えながら俺は次の獲物に向かう。デミではない核持ちの魔物だ。核を内蔵している魔物は俺と同じ元魔物の可能性がある。極力傷つけずに核への攻撃に集中する。やはりさっきの俺の体と同じ状態だ。核を破壊してどうなるか。取り出した核を叩き潰す。魔物のリンクが繋がる。これは成功だ。これなら核持ちは元に戻せそうだな。今しがた助けた牛頭は魔物のリンク通りに撤退を始める。これはエスコートも必要か。仕事が増えるな。案の定撤退をみて攻撃してくる魔素人形が居る。面倒だな。これは潰すか。

 そう思った矢先機体のリンクから降車のサインが届く。宿主殿か。何かするつもりか。俺はその場に屈むと降りる状態を作る。何かを話しているようだが内容はわからない。話が付くと牛頭の表示が「敵味方不明」に切り替わる。そして次の敵への目標表示。俺は少し迷ったが魔素人形が魔物への攻撃をやめたことで納得する。まあそういう事か。ならば憂いはない。ここは指示に従おう。

 

 デミを殲滅し撤退する魔物をエスコートしながら城門に向かう。その間も魔物に手を出そうとする魔素人形を小突きながらも状況は終わったようだ。魔物を監視する俺たち以外は消火活動に入っている。このまま何事もなく終われば御の字だがおかしな光景だ。全ての魔物が城門から出ていく。最後は俺だ。乗っていた宿主殿を下すために屈みこむ。そこで歓声が上がった。城門が閉まる。

 は? 魔物が残ってるだろ俺が。

 宿主殿は人々に囲まれてる。これは放っておいても良いだろう。それよりもこの城門だ。これを跳び越すのは骨だな。この状況で城門破りも厳しいだろう。あとはこの機体か。残存魔素量ならあと一度跳躍は可能だろう。俺は跳躍態勢を取るとタンクを外す。これはもう空だろう。

 そして跳躍。長かったこの時間ももう終わりか。着地と同時に魔素体のベルトを外す。この機体ともお別れだな。魔素が無くなればただの盾だ。盾としての利用も可能だろう。ここに置いておくよりは持っていくべきだろう。

 この機体とはお別れだな。リンクを使えば人型で多様な使い方ができる。

 この機体はここに置いていこう。変形可能な人型盾を手放すなんてありえない。

「お前か。俺をここに留めていたのは」

 外せないなら腕に持つしかない。盾に変化した機体を睨みつける。なんて便利でありがたい盾だろう。これからの必需品だ。

 変形という時点で気づくべきだった。そんな考えを持つ人間がこの世界にいるはずがない。

「ここは俺達の楽園だ。これからも守っていこう」

 俺の口を使うな。こいつも相棒と同じ奴か。道理で俺に干渉できるわけだ。チートは業腹だがそれに助けられたか。そうでなければ変形ロボットマニアの出しゃばり盾など置いていくぞ。


Tips ザクっと概要。

ここでの重要点は

デミオーガによる世界の改変による攻撃。それを王牙は止められるという事。

王牙の体は王牙の魂を探し求めてここに来た。

そして王牙の魂を保護していたのはこの機体だったと言う事。聖剣の「楽園の呼びかけ」に答えて協力していた。

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