第十三章 魔素人形訓練場① 起動チュートリアル
ここは、どこだ? 俺は王牙で間違いない。あの戦いの後を憶えていないが。
俺は捕まったのか? 体が自由に動かない。何かの封印か。
なんだ。何かが注入されている。これは完全に実験動物的なアレか。
その何かが体に満ちると体の各部の状態が伝わってくる。俺は目を開くとそこは何かの工場のようだった。そして何か椅子のようなものに座らされている。体は、何だこれは。金属で覆われている。拘束というよりも装甲といった感じだ。動かそうと思えば動かせるが体の魔素の量があまりにも少ない。これは注入されているのは魔素か。それもかなり薄い。少し動けばあっという間に消費して動けなくなるだろう。これは実質的な鎖か。よほど念入りに封印処置を受けているようだな。動かせるのは目ぐらいか。これも何か具合がおかしい。目が移動している。なんだこれは。隣を見るとこれは魔素人形か。それが座らされて・・・。
ん? これはもしかして俺は魔素人形に囚われたのか。封印どころか実験材料。
なるほど、捕らえた魔物を再利用というわけか。なんとも無様だが化けて出る余裕はありそうだ。とりあえずは廃棄処分されないように大人しく魔素人形を演じるとするか。
どうやらこの注入されている魔素は魔素流体というべきもののようだな。魔素を含んだ何かの液体。それを体に巡らせて動かすようだが動力としては心許ない。それも魔素を使い果たした後は気化して蒸気として排出する。なんとも効率の悪いことだ。素直に魔法使いを乗せればことは足りるだろうに。少なくとも俺というOSがあるのだから・・・ああその対策か。ならなおさら効率が悪い。何のために魔物の再利用をしているんだコイツラは。
そしてどうやら有人機で人が乗り込むらしい。それにしても子供か。子供が戦えれば確かに効率的だがそもそもこの機体は役に立つのか。それに操縦士と呼ぶのだろうか。だが会話ができない。人間が整備しているのだが言葉でなく何かの鳴き声に聞こえる。言葉での疎通は無理だと考えた方が良いな。そうこうしているうちに起動するらしい。これはまたロボットのような感じだな。各部をチェックして起動。何かの安全装置が外れて動き出す。
これは、装甲を動かしている? よくはわからないが装甲が自発的に動いて機体を動かしている。例えるならオモチャを手で動かすような、操り糸で人形劇をするような感じだ。装甲に干渉して機体を動かすのか。これはまた非効率な。この体に流れている魔素は動力ではなく潤滑油か。それも消費式の。
立ち上がるのも苦労しているようだな。少し手を貸すか。魔素を使って機体を自立。安定させる。そこで操作を渡す。これぐらいはオートでもいいだろう。立ち上がりに時間をかけていてはいつまでたっても話が進まない。
前に移動。言葉ではない。リンクのようなものか。機体を通じて操縦者の意志が伝わってくる。なるほどその方が早い。よちよち歩きをしていても話が進まない。俺が操作して工場の外へ出る。ここは訓練場か。かなり広い場所だ。
周りを見てみると自立して歩くのがやっとのようだな。あれには魔物OSが乗っていないのか。俺達はどうやら先に訓練が始まるらしい。武器を取って・・・これは施された武器か。それも大型の。なるほど。これを使うためのこの機体か。これも操縦者がリンクをつなげて操るようだ。つまるところこの武器にしろ装甲にしろ施されたものを操縦士の加護で操る感じか。少しずつ掴めてきた。
だがここにきてけたたましいブザーが鳴り響く。魔素の不足を知らせるものか。確かに俺が動かしていると魔素の消費が激しい。そもそも潤滑油に使っているものを燃料にしていればそうなるか。これは配分が必要になるな。
今回はどうやら違う人間が乗るようだ。どうも前回の子供がこの機体の担当。俺の仮宿の宿主殿と呼ぶ事にしよう。それとは違う教官か何かの大人だな。どうも俺の性能だけが高いのに不信を抱いているようだ。つまるところ俺の機体だけが俺という魔物OSを搭載していると言う所か。というかコイツラが俺を封印して実験材料にしているわけではないようだな。
そして機体が起動する。流石に宿主殿とは段違いだな。機体の立ち上がりがスムーズ。俺が手を貸すまでない。どうも見ていると装甲どうしの干渉をうまく使っているようだ。立ち上がりに手間がかかる所は変わらないが立ち上がった後は干渉をうまく使って魔素の消費を減らしている。何より宿主殿と違って加護そのものも強い。正直ロボに乗るのは小柄な方が良いと思っていたが、乗る人間の加護が機体のジェネレーターになるならそれも変わってくる。俺の見立てでは加護とはHPで大柄の前衛の方が多い印象だ。ならばこの機体の乗り手もそれに準じた方が強いのだろう。
しかしやる事がないな。あまりに順風満帆で魔素のコントロールすら必要ない。この最小限の動きで魔素の消費を抑えた効率的な動きは勉強になるが、まあそれだけだな。そもそも魔物OSの必要ない機体の乗り手だ。俺が下手に手を出せばブッキングして動けなくなるだろう。むしろこれは俺への訓練か。あまりにも魔素の消費が激しかったものな。この動きを使えばだいぶマシになる。そう思えばこの時間も無駄ではないか。
と思っていたらやはりな。何かの仕掛けがあるようだ。遠距離からの弓。それも操縦士は気付いていない。やっと俺の出番か。
俺は警報を鳴らして操縦士の集中を解くとコントロールを奪って飛んできた矢を弾き飛ばす。そしてすぐにコントロールを戻す。そして敵の位置を表示。この辺はシノの真似だな。つまり俺がシノの役目をすれいいということだ。魔素人形も悪くない。
一悶着はあったようだが無事終了したようだ。しかしこの操縦士の動きを見るに魔物OS搭載機は今のところ俺だけみたいだな。俺のテストや訓練とは違うようだが、では誰が俺をここに閉じ込めているのか。少し用心すべきか。
はぁ。宿主殿が戻ってきたがなんとも加護の出力のなさにため息が出る。効率的な動きを憶えた俺がほとんど動かしているがそれでも魔素の消費が他の機体よりも大きい。その理由が最初のため息だ。
はっきり言って向いてない。ここまで加護がないということは魔法使いタイプなのではないかと疑っている。他と比べて見ても加護の成長の度合いが低い。そもそも俺のサポートなしでは動くこともできないだろう。指示も曖昧でいいのだが細かく操作をするような塩梅で逆に動きづらい。他との成長の差は歴然だった。
そしてとうとう着いていけなくなった。操作に指示に何もかもが滅茶苦茶で潰れてしまった。そして最後の落第試験。これに落ちればお役御免なのだろう。宿主殿の焦りが伝わってくる。これで俺も同時にお役御免は流石に避けたい。何とかするには宿主殿の協力が必要だが・・・
俺は魔素不足のランプを点灯させる。勿論魔素流体は満タンだ。それでも魔素が必要だ。これで宿主殿が気付けば何とかなるが。どうやら俺の賭けは成功したらしい。操縦席が魔素に満ちる。魔法にもならないただ放出されただけの魔素。勿論それは俺でも干渉して使うことができる。満ちた魔素を機体に流し動力に変える。
それでいい。あの魔素流体とかいう紛い物よりも純粋な魔素の方が良いに決まっているだろうに。なぜこの方法を取らないのか。
相手は手練れの操縦士か。だが動きはわかっている。最適な動きではその構造上機械的なパワーを出せるがそれ以外の動きは出来ない。正確には魔素不足で出来ない。この機体の本当の使い方を教えてやろう。
案の定多角的な攻撃に弱い。これではオーガに対応できないような気がするが。その攻撃力は本物だが当たらなければ意味がない。それも読みやすい。数で押せていれば有効だが、つまりそういう使い方なのだろう。
宿主殿の方も調子が良い様だ。単純に魔素の生成に集中しているようで操作は完全にこちらに預けている。やはり加護の低さは魔法使いの才能と捉えて問題ない様だ。ならばこちらも応えるべきか。機体に魔素の肉体を構築する。これでオーガほどではないがパワーの上がり方は段違いだろう。
だが問題が起きた。ガクンと武器の重さが増す。施された武器のリンクが切れた。マズイ。今まで動きでは機体の負荷で自壊する。これか。これが機体の制御に魔素を使えない理由か。施された武器が魔物に使われることを拒否している。これが武器だけならいいが鎧もこうなったら機体のフレームが持たない。
マズイな。これはこれ以上魔素体の比率を高めると動けなくなる。俺は鉄塊になった剣を人間の時のように体を使った動きに変える。もはや腕だけでは支えきれない。俺は魔素過多のランプをつけると充満した魔素を排出していく。今ここにある魔素だけで片を付ける。宿主殿の信頼には応えたいからな。ここは全力で行かせてもらおう。
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Tips ザクっと概要。
王牙は魔素人形に魂が捕らわれている状態。
ここで重要なのは魔素で機体を強化すると、施された武器が拒否反応で使えなくなるという事。
ロボ編はこれ含めて三章で終了。