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第十二章 聖王都攻略戦⑦ 終幕

ここに出てくるボスのイメージはダークソウル3の冷たい谷の踊り子の上半身を伸ばして阿修羅にした感じ。

 絶望に満ちた苦痛の日々。まさにそれが始まろうとしていた。

 超巨大ロボット。それを形容するのにそれ以上の言葉はいらないだろう。それが降ってきた。

 一応人型なのだろうか。下半身は貧弱だがそこから延びる猫背の上半身が倍くらいはある。そこから左右に三本ずつ、計六本の腕。顔は三面。言ってしまえば阿修羅。だがそのスケールが狂っている。全長は猫背で測りようがないが全高は優に俺の五倍。下半身の腰の部分で二体分、上半身で三体分というところか。振り上げた腕を入れるとこれも一本三体分くらいの長さか。

 これが一機だけだがコイツが兵員を乗せているらしく空から降ってきたトロイの木馬状態。流石に中も混乱している。そもそもが指令系統のない魔物たちだ。ここを死守する必要など全くない。

 だが俺たちは緩み切っていた。都市を落とし更なる獲物が降ってきたと歓喜していた。そう人間たちが勝ち目のない戦いなどする筈がないのだ。この前の戦いは人間にとっての防戦。今回は攻勢だ。その質も構成もまるで違う。俺たちは人間の力量を見誤っていたのだ。


 そこかしこで魔法の爆炎が上がっている。俺たちは当初神殿で待ち受ける気でいた。しかしそこに阿修羅の投げたオーガ一体分のサーベルが突き刺さったことで状況が一変した。ただの輸送機だと思っていたそれが俊敏にそして力強く動く。貧弱な下半身も上半身をゴリラのように使うことでそのスピードも踏破性能も並ではない。そして神殿は踊りかかった阿修羅によって瓦礫と化した。

 それはあまりにも強すぎた。貧弱な下半身を常に一本の腕で支えることによってトリッキーな動きをしてくる。そうかと思えば上半身を鎌首をもたげた蛇のように真後ろまでもを攻撃範囲にしてくる。何より六本の腕によるその攻撃の激しさは言うまでもない。その一本一本が独立して動いている。しかし連動していないはずなのにタイミングは合わせてくる。これは間違いなく一つの生命体の動きではない。それは装甲を見てもわかる。その球体関節は何を軸に動いているのか。多分これは神の何かなのだろうな。

 俺たちの初動の遅れ、いや敢えて残ったのは間違いなく失敗だった。ほとんどの魔物は逃げ出している。先も言った通り魔物に戦略的拠点など必要ない。放棄するのが正しい。それを見誤った俺達が間抜けだったということだ。そのせいで俺達は星空の輝く神殿で籠城戦の形になっている。散々暴れた阿修羅は神殿を離れ警戒態勢に入っている。ほとんど趨勢は決したようなものだ。今は人間たちが掃討戦に入っている。誤射を防ぐ目的もあるのだろう。

 そして俺たちはじりじりと敗退戦。逃げたいのはやまやまだが背を向けて走れば魔法の狙い撃ちだ。シノも善戦しているがいかんせん数が多い。言ってしまえば制空権を取られた地上戦の様相だ。攻めたくとも逃げたくとも立ち止まっても何かが降ってくる。味方の髑髏はほぼ逃げているようだな。魔法戦での優位は見込めそうにない。散発的な戦闘ならば魔物にも分があるが、戦争行為となると格段に人間が上だ。これほどの魔法使いを揃えてくること自体想定すらしていなかった。

 それも鳴りを潜め魔法の砲撃が終わった後にやってきたのはまさかのレーザー光波剣だった。


 漸く魔法の砲撃が終わって顔を出した俺達を待っていたのは光の刃だった。まさにアレだ。聖剣魔剣によくあるアレだ。下手に味方を巻き込む魔法よりも魔物特攻の光波を飛ばす方が掃討には便利なのだろう。だがコイツラを何とかすれば逃げる算段が生まれてくる。勝つにしても負けるにしてもこいつらの相手は必然。もちろん勝つというのは俺達が逃げおおせることだ。

 乱戦のさなか俺は躍り出てその光波を剣で弾く。良かった。これがもしも光線で剣を透過していたら打つ手がない所だった。原理は全く不明だが斬撃が飛ばせるとみて間違いないだろう。目視なら煙幕が有効だろうが、変に手当たり次第やられるよりは方向性が読める方がやりやすい。数といってもこの乱戦ではな。とりあえず一人一体。コイツラが引き出したら撤退だ。それだけを疎通させて俺達は戦闘を開始する。

 はぁ。またグレートソードか。俺と対峙した人間はマント付きのグレートソード。加護も相当なものだ。光波が使えるということは剣術が疎か、などと考えていたがその可能性は限りなく低い。その一撃の重さに耐えながら俺は両手でつばぜり合う。悪手だとはわかっていてもこれを封じないことには何が飛んでくるかわからない。距離は取れない。懐も加護の厚さが邪魔してくるだろう。このまま圧し潰す以外に道はない。しかしそれはやはり相手も警戒している。剣士が力を溜めるそぶりを見せるとグレートソードが爆発した。

 間一髪で避けるがまさか事前にやってたエンチャントを敵が使ってくるのは意外だったな。牽制にしては威力は十分。流石に即座に追撃は出来ないようだ。しかしこれで圧殺は難しくなったな。手数を見せたのはわざとか。フェイントに使われると厄介だ。俺は即座に打ち込む。剣戟の応酬。実際これしか手がない。つばぜり合いは間違いなく読まれてさっきのを食らうだろう。

 しかし重い。今までの剣士とは段違いだ。打ち合いで手一杯で加護を削ることすら出来ない。これが人間か。これは加護だけではなく本人の力量も相当なものだ。俺が魔物のアドバンテージなどとうそぶいている間に人間はここまで研ぎ澄まされていたのか。魔法などと遊んでいる場合ではなかった。俺はもっと自身を研ぎ澄ますべきだったのだ。この体格差で有利が取れていないのはそういうことだ。

 人間の剣戟が更に早くなっていく。そして重く。これは加護を消費している? 削っていないはずの加護が減りその分が一撃に載せられている。いや、自身の強化に使われているのか。これは俺にもできるのか? 魔法を使った強化は失敗に終わった。だがそもそもの魔素の肉体を燃やすのならどうだ? この一撃に自身を構成する魔素を燃やし加速する。

 弾いた。押されていた剣戟が有利に進む。だがそれは一瞬ですぐに相手のペースに戻る。これは燃やし続けなければ駄目だ。俺は全ての剣戟に自身の魔素を燃やした一撃を叩き込む。

 確実に弾いた。相手の体勢が崩れるのをスローモーションのように感じる。そして俺の一撃が相手に届いた。


 はぁ。もうガタガタだ。止めを刺そうにも体が動かない。残る最後の一撃。相手の命を奪う牙の一撃を出すことができない。完全に失敗だ。魔素を使い過ぎた。これは、俺は死ぬのか。言わば今の俺はHP1の瀕死根性状態。ここで後一撃食らえば俺は消滅するのだろう。周りを見れば俺の勝利で流れが変わりつつある。今なら逃げだすのも可能だろう。俺以外は。

 その意思を疎通させると俺以外は撤退を始める。シノが何かをごねているようだがその声が聞こえない。

「シノ! じゃあな!」

 俺は最後の挨拶を交わすために振り返る。そこにはシノの顔面が、そこから口移しに何かを流し込まれる。これはアレか。あの特殊な魔素か。回復というよりもHP1の上にシールドHPが乗るような状態だ。先ほどの魔素を燃やす一撃は出せないだろう。それでも命は長らえられる。

「死ぬな! 後で返しに来い! それは全て私のものだからな!」

 無茶を言う。だがその約束を果たすにはとりあえずシノが逃げる時間を稼ぐのが先決だな。俺は・・・後で化けて出ればいいだろう。鬼なのだからなんとかなる。一度は死んで鬼になったのだから。鬼が鬼になる方がよっぽど簡単だろう。

「確かにここは楽園だ。俺にとって、俺達にとってこの地獄はまさに楽園だ!」


Tips

楽園

この世界をそう呼ぶ者たちが居る。

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