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第十一章 聖王都攻略戦⑥ 間奏

「何をしているんだ」

 シノのあきれた声が聞こえてくる。それもそのはず。占拠が完了して魔素ジェネレーターが設置された後に何をしているかと問われれば、オーガの同士討ちに見えるだろうな。好敵手が居なくなり、念願の武器を手に入れたオーガたちがそのまま鎮まるはずもなく、神殿は闘技場に成り代わっていた。

 かくいう俺も先ほどまで二刀流のサーベル使いと一戦を終えてそのイメージトレーニングにいそしんでいる。はっきり言って惨敗だ。一刀で二刀に敵わず相手に翻弄され続けた。ほぼ傷のつかない模擬戦だ。致命の一撃があれば受ける前にわかる。そこで試合終了だ。あまりにも相手が強かった。道理で人間の精鋭相手に誰も落ちないわけだ。ここに残っているのはオーガの精鋭。俺はただの武器供給係レベルのペーペーだと思い知らされた。

「惨敗して落ち込んでる俺を慰めにでも来たのか?」

「・・・お前。自分の顔を鏡で見てみろ」

「なんだ。そんなにひどい顔をしているのか。自分では気づかなかったな」

「冗談はいい。それよりも先の約束を覚えているか?」

 そういえば何かをしたような。

「お前が私をこんな姿にしたんだ。その報いを受けてもらう。お前も自分の筋肉が失われる感覚を知るべきだ。今から魔法の勉強だ。お前も魔法を扱えるようになってそのふざけた顔がイケメンになるまで叩き込んでやる」

 確かに今のシノは中性的、どちらかという美少女の類か。他人がそうなるは構わないが自分がこうなるのは屈辱だろうな。仕方がない。あまり気が進まないが魔法の訓練とやらに興味がないわけでもない。けっして美形のイケメンになりたいわけではないがな。


「お前に魔法の才能はない」

 散々時間をかけて得た答えがそれだった。確かに俺もそう思っていたが少しは興味があったのだがな。

「いいか。私たち髑髏は百から百二十辺りの言葉を組み合わせられる。今の私なら八十前後。人間なら三十から四十。そしてお前は三だ」

 は?

「いいかよく見ておけ。まず発生させる。方向を決めて投げる。これは見えるな? やってみろ」

 うなずく俺。同じことしてなにかしょぼいものが弾ける。

「そしてこれを覚えておけ。魔法として場に出た魔素は誰にでも扱える共有されたものになる。その代わりに様々な状況を構築できる。さっきのをもう一度やってみろ」

 俺はさっきのしょぼい魔法を撃とうとして爆発した。

「つまりは他人の魔法は奪えるということだ。今のは私がお前の魔法を暴発させた。次はお前がやってみろ」

 シノが魔法を発動させる。確かに場に出た魔法は俺にも干渉できる。それに触れて爆発させる。

「そうだ。それだけ覚えろ。魔法使いはこれをさせないために発動する魔法を隠す。だがそれは相応に労力を有する。私たちなら完璧にできるが人間では途中までが限界だろう。全て隠したらその魔法自体に大した効果は出せないだろうからな。発動の瞬間は確実に狙える。そこだけを狙え。もう一度だ」

 次のシノの魔法は隠されている。全く読めない。だがそのしぐさと挙動そのタイミングを見極めて暴発に成功する。

「筋はいいな。お前に使えるのはこれだけだ。有効に使え。お祈りやお守りぐらいにはなるだろう」

「まて終わりか? 敵に使えずとも何か自分に掛ける補助魔法などはないのか?」

 胡乱だ目でこちらを見てくるシノ。

「なんだそれは言ってみろ」

「まずは肉体強化だろう。バフだ。自分を強化する系統だ」

「アホかお前は。魔素の塊である魔物に魔素で干渉しては意味がないだろう。一度やった方が早いな」

 シノに促されて強化魔法をかけてもらうのだが、気持ち悪い。体の中に何かを入れるような気色悪さだ。周りに展開などもあったが素直に魔素の肉体で受けた方がましなレベル。

「人間の加護の真似事は出来ないのか」

「あれは神の加護だからな。それでバフか。あの技術は神の術だ。魔法とは完全に異なる」

「壁を張るのはどうだ? 魔素の壁で攻撃を防ぐ」

「やってはみるが弱点はやるまでもないぞ」

 シノが魔法で盾を構築する。これは相当に頑丈だ。俺の一撃にも耐えられるが、俺の干渉で一瞬で崩れ去る。

「固定した上で隠蔽も施すのは流石に髑髏一体では無理だ。防戦に使えても攻撃できない髑髏では居る意味がない。ましてや最前線のオーガではな」

「ではエンチャントはどうだ。武器に魔素を纏わせて強化する魔法だ。これなら奪われても消されても問題ないだろう」

 あきらめ顔でシノが俺の剣に魔法をかける。魔素を纏わせた俺のバスタードソードが・・・ただのこん棒になった。

「刃をつけるのは無理だぞ。素直に爆発させた方が早い。意表はつけるだろうな」

 さっきの盾と同じように俺が干渉して暴発させる。いやまてこれは使えないか?

 俺は埃をかぶった剣に魔素を這わせて爆発させる。そこには汚れの落ちた表面が。

「これはどうだ! 凄い魔法だ!」

「何がだ」

「これだ。これで血糊で切れ味が落ちることもない。手入れも汚れが落とせるだけで段違いだ」

「それを魔法と呼ぶなー! ここまで才能がないといっそ清々しい。お前があの妙な魔素を吸収しても何も起こらないわけだ」

「そこまで特殊なものなのか?」

「ああ。これは未だに私に馴染んでない。それどころか浸食してくる。とても興味深い現象だ。これは魔法の概念を変えるかもしれないぞ」

「そこまで危険なものなら俺に戻しても構わんぞ。今はがしたところで問題はないのだろう?」

「馬鹿を言うなこれはもう私のものだ。取り出すのも無理だ。お前の中で腐らせるよりは私が有効活用してやろう。本当ならこれを持ってたお前にも特殊な何かがあると思っていたが、まさかただの入れ物だとはな。それがお前の才能だろう」

 なるほど。これを運ぶために選ばれたという訳か。まさかな。あの状況を作るのは例え神でも無理だろう。


 魔法のお勉強を終えた俺はまた二刀流の前に立った。あの勉強で悟ったことが一つある。それは実践だ。実際に受けてこそその意味がある。その傷と痛みこそが突破口になる。俺が自分の剣で自傷するとそれを理解した二刀流が立ち上がる。同じ位置に傷。それが俺たちの合図だった。

 本来なら彼のサーベルは切り刻んで相手を追いつめるものだ。切り結ぶ戦いでは真価は得られない。間違いなく肉を切り刻んでいく彼の斬撃に臆することなく応戦する。相手の一撃は肉を切るがこちらの一撃は骨を折る。相手の軌跡は攻撃を描き先の切り結びとは違う。切り結びの時は俺が攻撃に躍起になってその隙を突かれた。今は相手が俺をそぐために全力を出している。そこに隙を見出す。

 相手にガードを誘発させ下から崩す。だがそれは得物の短さで彼の方が有利だ。致命傷を与えられる。それが人間であれば。その判断が彼を迷わせた。俺は切り上げた剣の根元を掴み短く持つとそれを彼の左腕に突き刺す、前で止めた。

 だが彼の戦意は消えていない。続けろということだ。俺が彼の左腕に剣を当てると腕を脱力し武器を落とす。そして絡みつく蛇のような動きの右腕を繰り出してくる。

 これは・・・。彼の顔を見ればわかる。先はまだまだ長そうだ。俺も二刀流とは言わず、ショートソードを仕込んでおくべきだな。


 結論から言えば俺は勝利した。間合いを図って漸くの辛勝だ。彼の晴れやかな笑顔が忘れられない。あれはまた更に強くなる自分を想像してのものだろうな。再選で勝てるかどうか。

「何をニヤついている」

 シノか。俺がニヤついているだと? 更なる強敵の誕生に絶望で打ちひしがれているというのにか。

「彼はもっと強くなる。それに俺が勝てるかどうか未知数だというのにか」

「お前自分が今どんな顔をしているのかわかっているのか?」

「絶望に打ちひしがれた子犬のような表情だろう。道の長さに途方に暮れているともいう」

 シノが魔法を発動させるとさっきの盾が出てきた。それも鏡面の。そこにはさっきも見かけた晴れやかな笑顔が写っていた。

 これは、これが俺の顔か。彼があんな晴れやかな顔をしていたのはこのせいか。

 というか俺は笑っていたのか。

 俺はいつも仏頂面だと思っていたが、俺は笑っていたのか。

「お前本当に気付いてなかったのか。窮地に立てばたつほどニヤついていたやつが良くも絶望などとのたまえたものだ」

「ああ。俺は笑っていたのか。気付かなかった。これは、ククク、ブッ、ファーハッハッハ! 俺は忘れていただけか! 俺は楽しんでいたのか!」

 流石に笑えてくる。なぜ俺はこんな時にも平然としていられたのか。その答えがこれか。

「仕方のないやつだ。やはり私が付いていないと駄目だなお前は」

「ああそうだな。お前が居ないと駄目だ。俺は本当に普通のつまらないただの鬼なんだな。正直俺は俺を特別だと思い込んでいた」

「全く正直な奴め。仕方がない。お前という貧乏くじを引いたんだ。最後まで付き合ってやろう」

「ああそうだな。これから絶望に満ちた苦痛の日々が始まるのだからな」

 こんなに愉快で楽しいことはない。ここは確かに俺の楽園なのかもしれないな。


Tips

魔法

他の作品でいう闇魔法や暗黒魔法。炎や水などの属性魔法は存在しない。この世界の魔素を使用する技術。無から有を生み出せない。人間でも扱うことはできる。

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