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第十章 聖王都攻略戦⑤ 聖剣

 漸く精鋭たちを撒いた俺たちは遂に中央の神殿にたどり着いた。たどり着いてしまったと言うべきか。

 当初は精鋭の目を欺いて脱出するはずだったが、包囲の輪が強固なうえに殲滅に切り替わった事で外では無く内に。神殿まで追い立てられることになった。

 不味いとわかっていても包囲の輪に取り残されるよりは幾分かマシ。この先にボスが待ち構えて居なければだが。

 しかし思った以上に人が居ない。最初は罠を警戒したが今のところ何もない。心なしか追撃の手も緩んでいるように感じられる。罠と言ってもこの神殿を崩して俺たちの墓標にするようなこともないだろう。何かがあるのは間違いない。そしてそれは俺たちの前に姿を見せた。

 聖剣。聖剣の間と言ってもいいだろう。でかいフロアに聖剣が刺さっている。そしてその護衛はごく少数。蹴散らすのに秒とかからなかった。そしてそれは目の前に。多分だがこれが魔素キャンセラーの発生源だろう。これをどうにかすればそれは消えてこの都市のバリアが消える。普通に考えてこれを破壊するのは不可能で何かの仕掛けか剣を抜けば止まるのだろう。

 俺は聖剣を手に取ると思い切り引き抜く・・・

「わけないだろう!」

 俺は柄を握りしめた手を放す。

 今のは何だ? なぜ剣を抜く? そもそもオーガの手に収まるだと? 人間の聖剣が?

 何かがオカシイ。俺は異常を確かめるためにも聖剣を手にして引き抜こうと・・・

 して手を離した。

「シノ。何かの魔法か?」

 俺は周りを見渡しつつ聖剣の柄に手をかけ力を籠める。

 馬鹿な! 俺は手を放そうと試みたがそれは叶わず引いた手と共に聖剣を引き抜いてしまった。

「王牙!」

 シノの声に意識を集中して自分を取り戻す。俺は聖剣を手放す。手を放す。手を開く。決して掴まない。

「聖剣は地に落ちる!」

 自分の声で聖剣が俺の手から落ち地面に転がるのを感じた。

「王牙! 無事か!」

 ああ助かったと振り返ろうとして俺は足元の聖剣を・・・蹴り飛ばした。

「なんだこれは!」

 あらん限りの声を出してようやく我に返る。聖剣は抜けたが魔素キャンセラーは効いている。これは聖剣が止まってないな。

「魔法では無い。神の何かだ。気をつけろ」

 どうやらおかしかったのは俺だけみたいだな。味方のオーガとシノが俺を半円に囲んでいる。

 無事であることを告げると構えを解いた。よほどおかしかったのだろうな。魔物同士のリンクも切れていたのだろう。復帰した今ならわかる。

 まさかの魔物を操る聖剣とは恐れ入ったな。こんな神殿の真ん中に魔物を操る聖剣だと? 何をどうしたらそうなる。

 俺はまた聖剣に目を向けるとそれは聖剣ではなかった。

 それはよく手入れされた上質な金属の剣。どこにでもあるありふれた良質な武器がそこに転がっている。…オーガサイズの。

「それは無理があるだろう。聖剣の」

 それは俺が良く知るゲームの有名な武器だ。その武器はただのよく使いこまれ手入れされた上質な武器。何の力も持たない金属の塊。だがそれでも偉業を遂げたと伝えられる武器だ。

 これは俺の記憶に作用するのだろうな。流石にこれはわかる。俺の最も欲しいものに見えるという訳か。

「シノには何に見えるんだ?」

「ただの鉄の剣だな。お前が蹴った後に神の何かが抜け落ちた抜け殻だな」

 ? シノにも剣に見える。俺は周りのオーガにも疎通させてみるがただの鉄の剣に映るようだ。そうあの武器はただの鉄の剣だ。ここにいる全員にそう見えているらしい。そう俺にもそう見えている。数少ない前世の記憶にあるゲームのものだ。

 俺の記憶を読み取ったのではないのか?

「なぜお前がそれを知っている」

 俺は聖剣に語り掛ける。聖剣は微動だにしない。だがそれが俺には意思表示に思えた。魔素キャンセラーが機能しているということは聖剣は止まっていない。この剣が力を失っていないことを意味する。それなのになぜこの状況で俺を操らずにゲーマーに有名なその剣の姿を取るのか。俺はそこに興味を惹かれて剣に近づいた。

「まて。それはただの飾りだがあまり触るな。もう少し待て」

 やはりそう見えているんだな。これが飾り? 間違いない。これは正真正銘の聖剣だ。姿を変えているだけの。

「俺が求めるのは聖剣じゃない。ただのよく手入れされ使い込まれた上質な普通の武器だ」

 俺は自分の意志で剣の柄を握る。魔物のリンクは途切れてない。シノも制止しない。ただのガラクタか偽物だと思っているのだろう。何かが刻んである。そうそれは俺の記憶にはない。俺はその設定が好きなだけで造形自体にそこまでの拘りはなかった。刻んであることは知っていてもそこに何が刻まれているかは知る由もなかった。

「同郷か? 聖剣の」

 何かが繋がるを感じる。魔物のリンクに似た何かだ。さっきの俺を操ったのはこれか。俺を操るのではなく、世界そのものに作用して俺の行動を誘導した。俺にも同じ力がある。それに気づけたからこそそれに抵抗できた。つまりこの力は神のものではなく、元人間の意識があったものにある力。同郷の、しかも近い世界の人間だろう。

 それに逆らわずにリンクを続けていくと大体のあらましが分かってきた。こいつは器物に転生した奴か。武器となり各地を巡り最終的にこの地に辿り着いた。そしてこの地に魔素キャンセラーを発生させこの地に根付いた。そこからか。聖剣と崇め奉られて神殿を建てられその柄を握るものも居なくなった。そこから幾星霜、同郷の俺がやってきたというわけだ。

「いいのか? 俺は魔物だぞ? 人間を切り、未来永劫安住の地などない死出の旅路だ。その果てには祭られるどころか錆びて朽ちて折られる運命にある」

 俺は理想の武器の姿を思いうかべる。片手半剣バスタードソード。片手でも両手でも振れて剣の根元を握れてそこに護拳もついている。広い場所では振るい、狭い場所では根本を握って突きを繰り出す。その柄頭も頑丈で殴るのにも使える。剣幅は広すぎず頑丈で刃がしっかりと立っている。どんな状況でも扱える普通の武器。それが俺の求めたものだ。

 俺が目を開くとそれが俺の手に握られていた。それを切り払う。と同時に魔素キャンセラーが消失した。

「ともに行こう。ここは俺たちが求めた楽園だ」

 これは俺の言葉か聖剣の言葉か。少なくとも俺はここを楽園だと思ったことは一度もない。

「ああ。そうかもな」

 俺は当たり前のように存在していた鞘にそれを収める。背中に片側の空いた鞘。空いた上側から剣を入れ上下をひっくり返す。

 さてこれをどう説明すべきか。そこで騒いでいるシノへの説明を考えながら俺は踏み出した。


 聖剣を停止させて魔物側の勝ち確定と行きたいところだが、そうは問屋が卸さない。ガチギレ精鋭部隊の全力攻撃を受けて防戦一方。もしも武器がなかったらこの場で瞬殺されていたことは間違いない。しかもまたこのグレートソードだ。同じ人間ではないだろうが毎回苦戦するのはコイツだ。グレートソードを扱えるのは勿論だが、それに加えて神の加護バリアーでスーパーアーマーのゴリ押しに、援護の回復でダメージまで無効化状態。こんなの倒せるわけないだろいい加減にしろ。

 しかしどういうカラクリだ? 俺のバスタードソードの一撃を平気で受け流してくる。そもそもがグレートソードにバスタードソードなどはその重さで叩き潰すのが使い方だ。全身を使い、防御も受け流しもできない一撃を叩き込む。そのための一撃を狙いすまし、ダメージ覚悟の一撃さえいとわない。そういう武器だ。間違っても構えて敵の攻撃を受け流すような代物ではない。

 俺が間違っているのか? 俺は人間の時と同じように剣を振るい、狙いすました一撃を放っている。牽制やフェイントなどの攻撃はスーパーアーマーで崩される。本当の致命の一撃でないとその足さえ止められない。受け流されているのはこの一撃だ。この一撃さえ決まれば加護を抜いて致命傷にし命を食いちぎることができる。だが単純にそのパワーが足りてない。この体格差でこのザマとは。相手はそれこそ突っ込んでくるトラックをバットで打ち返すような芸当をしているのに、俺はこの巨体でボールを撃ち返すのが精一杯。絶望的な力の差。経験の差。これほどのアドバンテージを持っていながらこのザマか。

 周りを見ていても苦戦は必至だ。武器を手に入れた俺はその力を同属のリンクできるオーガに共有している。これはただの剣ではなく一種の能力だととらえた方が良いだろう。自分の理想の武器を自在に出現させられる。その証拠に俺と同じ武器を持つオーガは誰もいない。金棒であったり二刀流のサーベルだったり俺が見たこともない武器もある。共通点は特殊な能力のないただ普通の金属で出来たありふれた武器という点だろう。それこそ剣からビームが出るようなイカレタ代物がないな。人間側も何かを施された魔物特攻仕様の武器で魔剣のようなオモチャは見受けられない。

 やはり俺の使い方が間違っているのか。相手が加護を最大限に活かして人間以上の戦い方をしている。それに比べて俺はオーガの肉体を持ってして普通の人間の戦い方をしている。俺に制限をかけているのは俺自身か。俺はバスタードソードを片手で握りなおすとロングソードのように扱う。先ほどまでの狙いすました一撃ではなく確実に加護を削り取っていく。スーパーアーマーでゴリ押してくる相手だが片手で削る動きならこちらもそれほど被弾はない。少しずつだが確実に削れてきている。致命の一撃を受け流されていた時とは違う。間違いなく有利な状況にある。そう俺はオーガという魔物の体で大きなアドバンテージを取っている。それを最大限に活かせばいい。

 加護が薄れて力が弱まってきたな。これなら抜ける。俺は剣を両手に握り素早く重い一撃を連打する。今までのように体重を乗せた重い一撃じゃない。剣と体の重さを使った人間の戦い方ではなく魔物の筋力に物を言わせた一撃を多数乗せる。それこそ俺はトラックに乗っていて奴はバットで打ち返している状況だ。何を焦る必要がある。戦い方を変えるだけでこの状況は変わるのだ。

 見える。奴の命を刈り取りこの口に死の味を感じる瞬間が。その道筋は既にできた。あとはそれをなぞるだけ。

 だがそれの時は訪れなかった。撤退。奴らは現れた時と同じようにその痕跡を消した。見事な撤退だった。異変に気付き少し目を離したすきに視界から消える。何かの追撃に身構えたのが失敗だった。その警戒していた短い時間に奴らは撤退を完遂していたのだ。

 手練れも手練れ。戦闘能力はもとよりこの引き際と先の攻め方、状況の選別も的確。もしもシノが形態変化していなかったら、ここで俺が武器を手に入れてなかったら、一つでも歯車が嚙み合っていなかったら俺はここにいないだろうな。


Tips

世界の改変

俗にいうチート行為。世界の外から来たものが使う事が出来る。

主人公の王牙も使う事が出来る。

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