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#8

学校の駐車場に並べられた救急車の車列に解放された生徒達が集められて検査を受けていた。


あの銃声を聞いた栄三達は直ぐ様突入部隊を講堂に突入させる。

その直後に学校の外階段から囚われていた生徒達が警察に保護された。話を聞くとさっきの銃声は沙耶香嬢が放った様で、栄三は沙耶香が何を考えて放ったのかを理解し、最初に講堂を制圧した直後に校舎へと移動させた。

そこでテロリストから奪った小銃で抵抗する沙耶香と冬歌を保護していた。


「…ねぇ」


保護された後に救急車で検査をされ、その後車内の担架に座っていた沙耶香が隣で同じ様に座っている冬歌に救助された時から思っていた事を聞く。


「アンタ、如何して常に魔導具を付けているの?」

「…」


沙耶香の問い掛けに驚く冬歌だったが、沙耶香は更に続けた。


「私だって術師では無いけど馬鹿じゃないんだ。髪留めと眼鏡が魔道具な事くらいは分かるわよ」


効果は分からないが、と言い残すと沙耶香は冬歌にそんな疑問を投げかける。

そんな沙耶香の問いに冬歌は少し間を置くと、懐から常に持っている御札を取り出すと術式を展開した。


「迷彩術式と気配消し…それに術式の多重展開…」


常人では恐ろしい集中力が必要とされる複数の術式の展開を安安と行なった事に驚いた様子の沙耶香に対し、冬歌は眼鏡と髪留めを取った。

すると今まで鴉の様に黒かった髪はみるみる雪の様な白さへと変わり、瞳も黒曜石から天藍色と変わっていた。

それを見た沙耶香は目を大きく見開いて思わず口笛を吹いてしまう。


「ヒュ〜…これは驚いたわね…まさか白r…」


すると冬歌は人差し指を出しながら静かにという合図を出した。

その目はいつものふんわりとした影の様にゆるい物ではなく。刃物の様に鋭く、見ただけで誰かを殺す事ができそうな視線だった。


「…まさか貴方が魔導具に気付いているのは予想外でした」


すると冬歌は先ほどの馴れ馴れしい様子とは打って変わって沙耶香に少しだけ威圧する雰囲気を出しながら言う。


「まぁ、この事は貴方の心の中にだけ仕舞っておいてください。…理由は分かりますね?」

「あっ、あぁ…」


沙耶香は少し頭が痛かった。そしてしまった基準じゃなかったと軽く後悔する。

前々から冬歌は何か隠し事をしているとは思っていたが、まさか白狼種の者だと誰が思っただろう。


世界でも日本にしか存在を確認されていない最も希少な獣人と言われている種族。そんな白狼種に高校生の少女が居るなんて沙耶香は初耳だった。


白狼種はその希少性から明治維新以降、何かと付け狙う不届者もおり。その危険性から白狼種は次第に閉じこもる様になり、種族全体が閉鎖的になっていた。

沙耶香はパンドラの箱を開けた気分となっていると冬歌は沙耶香に言った。


「あぁ、この際。自己紹介をしておきましょうかね」


そう言うと冬歌は沙耶香と反対の椅子に座ると手を胸に当てながら自己紹介をした。


「どうも、狼八代家の娘。狼八代冬歌と申します。以後、宜しくお願いしたしますね」


自己紹介を終えると、沙耶香の表情は驚愕と苦笑に包まれていた。




学業院女子高等科占拠事件の解決より二時間後、沙耶香に自己紹介を終えた冬歌は魔導具を付け直して、術式を破壊して学校を後にする。まださくら達は検査や色々な事が残っている為、冬歌は先に帰らされる事になった。


魔導具を付け直した後に学校を出て、少し離れた場所に止まっている車の側に心陽が立ち、冬歌の帰りを待っていた。

車の形がいつもと違い、心陽も少しばかり緊張した様子で扉を開けた。

すると中に乗っていた女性を見て冬歌は少し驚きつつも嬉しそうな声をしていた。


「随分と派手に暴れたようね…冬歌」

「御母様…」


冬歌を出迎えた女性の名は狼八代雪。当代狼八代家当主であり、冬歌の実母である。

冬歌はまさか来ていると思っていなかった雪の横に座り込むと心陽も助手席に座った。すると車は走り出し、学校から離れていく。

すると早速、雪は窓を見ながら冬歌に向けて言う。


「さて、色々と聞きたいけど…まずは何から聞こうかしら?」


そう呟く雪に冬歌は罰を受ける覚悟だった。すると雪は冬歌に聞きたい事を述べる。


「まず、あなたが学校に残った理由。次に虎寺の娘に正体を明かした理由。この順で話してもらいましょうか」


もう沙耶香に自己紹介をした事も知っているのかと親の凄さに感嘆を覚えつつも、冬歌は詳しく雪に報告した。


学校に残ったのはテロリストの動きに違和感を感じたからとさくらの事を誤魔化しながら言い。沙耶香に正体を明かしたのは拳銃の所持がバレて、そのまま誤魔化しても良かったがこの一件で下手に人目に晒されるくらいなら正体を明かして事情を理解してもらった上で今回の事を全部沙耶香のやった事にする…一種の共犯に近い状態にしたと雪に報告する。


「成程、状況は理解したわ」


話を聞き終え、雪がそう言う。


「勝手な行動をしてしまい、申し訳ありません」


そう言って謝罪をする冬歌を雪は軽く頷いた後に簡単に許し、逆に彼女の行動を褒めた。


「いえ、その判断は正しいわ。一目に貴方の姿を晒して勘づかれるよりずっと良いわ。虎寺の娘は博通元大将の性格を良くも悪くも継承している。情報漏洩の心配は無いわ」


そう言い、雪は正体を明かした事に対して問題はないと言い、簡単に処理を済ませると次に聞いたのはテロリストの話だった。


「御母様、相手の持っていた武器はソ連製自動小銃ばかりでした。しかし、彼等は弾薬の数も少なく。とても継戦能力があるとは思えませんでした。構成員の練度も低く、正直なぜあそこまでの攻勢を仕掛けたのか…」


冬歌が疑問に思っていると雪は冬歌に一枚の写真を出す。


「これは…?」

「国防省で五名の兵士に発火術式を使ったと思われる男。生き残った監視カメラが撮っていたそうよ」


そう言われ、監視カメラの端に映っていたであろう赤髪の男を見る。見た目的に青年らしき年だが、術士の様で。陸軍によって制圧される直前に何処かに逃亡したそうだ。


「陸軍はこの青年を追っている。連続焼死事件の容疑者の可能性が高いと言う理由からね」

「連続焼死事件の?」


冬歌はいまいち繋がっていなかった。何故連続焼死事件と繋がっているのか…。

すると雪が追加で捕捉情報を伝える。


「今回、都内同時多発テロをした者達は社会主義を掲げる集団の一つに過ぎない。事実、彼らの要求の中にはキューバに逃れる為に必要な資金と手順が明記されていた。それに、今まで焼死したのは右翼の政治家や記者…ここまで来れば分かるわね?」

「はい…」


全てが繋がった冬歌はそう答えると写真をじっと見ていた。

おそらくこの術師がいた影響で臨時赤軍部隊は調子に乗っていたと言えるだろう。それでここまで盛大に事を起こしたと思う。そう考えながら冬歌は雪に聞く。


「御母様、この青年を探すのですか?」

「ええ、関東全域で我が家の術師も追っている。それまで冬歌にも手伝ってもらうわ。期間は四日、それが今回の罰とします」

「分かりました」


そう答えると車は帝都を北へと走っていった。






====






同時刻 大黒埠頭


帝都で起こした襲撃事件が失敗したのを確認し、赤翼の先駆者のアジトとしていた貨物船では喧騒が起こっていた。


「急げ!書類も全部燃やせ!」

「警察がここを嗅ぎ付けるぞ!!」


船内で重要書類の上に油をかけて燃やしている構成員達。襲撃メンバーは殆どが捕まるか殺された。此処に居るのは後方で様子を眺めていた幹部やらの構成員だった。すると船内から悲鳴らしき声が上がる。


「なんだ?!」


すると船室に一人の青年が入ってくる。赤い髪の青年を見て赤翼の先駆者代表は警戒した様子で青年を見る。


「お前か…」


自らを宇野と名乗る青年に対し、代表は書類を指差した。


「お前の術でこの部屋にある物を燃やせ」


そう命令すると徐に青年は右手を前に出してパチンッ!と指を弾いた。すると次の瞬間、赤翼の先駆者代表から大きな火の手が上がった。


「ああぁぁぁあぁぁぁああ?!?!」


燃え盛る炎を見て驚愕する男。するとのたうち回った代表は部屋中の物を燃やし始め、それを見た宇野は


「部屋にある()()を燃やしておきましたよ?」


そう言い、口角を上げながら言うと肺が焼け、言葉も発せなくなった男の口が動いた。


ーーなぜだ


そう言った様に見えた宇野は何も答えず燃え盛る船室を後にし、船内の廊下を歩く。廊下には複数の人の焼死体が転がっており、それらを見ようともせず宇野は船を降りる。


降りた埠頭には一台の四駆が停まっており、席には宇野と同世代の色とりどりの髪をした青少年達が座っていた。宇野が車に乗り込むと緑色の髪を持った少女が宇野に話しかけた。


「お疲れ〜、如何だった?」

「…別に?」


そう宇野が答えると、宇野は甲板に転がっているドラム缶に手を出しながら再び指を鳴らす。するとドラム缶の中に入っていた燃料が爆発し、甲板上で大規模な火災が発生する。

遠くからパトカーや消防車と言った緊急車両のサイレン音が近づいて来ている中、赤髪の青年を乗せた四駆は埠頭を後にしていた。

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