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#4

さくらがデモ隊にケチつけた日から三日後。


どうやら渋谷でデモをしていた社会主義団体の『赤翼の先駆者』から学校に抗議の電話があったらしいが、事前に警察から話が入っていた様で注意だけで終わった。

担任と教頭から注意を受け、注意を受けた後に職員室から出た冬歌とさくら。二人は大きくため息を吐いていた。


「はぁ…全く、さくらも気をつけてよ?」

「あはは…ゴメンナサイ…」


いくらか血の気が多いさくらはついカッとなってしまった事を思い出しながら反省すると、いつもと違う格好の冬歌に少しだけ疑問に思った。


「あれ?どうしたのそのカーディガン?」

「ん?あぁ、ちょっとこれからクーラーで寒くなるから着てきたの」


カーディガンを触りながら答えると、さくらは軽く相槌を打った。


「あぁ〜、そう言えば今日からだったっけ?エアコン点くの」

「そうそう、私ちょっと冷え性だからさ」

「そうなんだ〜」


そう言い、白色のカーディガンを羽織り、腰には腰巻きのポーチを付けた冬歌は答える。


そう、今日からエアコンがやっと点く。

外の気温は三〇度、とことん暑くなってきている最近の暑さには目が回りそうだ。

早めにエアコンが点けられるのはありがたいが、学校のエアコンは強力すぎてむしろ寒かったりするのでこの時期にカーディガンを持ってくる生徒は少なくなかった。


そして職員室から出た後、教室まで歩いていると不意に冬歌は視線を感じた。


「(何だ?)」


それが霊的なものであると術士の冬歌はすぐに感覚的に分かった。


「(何処だ…?)」


そして少しだけ目線を回す、するとその視線の元を見た。


「(傀儡術を使った監視…あれか…)」


そして校庭にの木の上で止まっている一羽の鴉を見た。微動だにしない鴉に掛けられている術式を見た冬歌は嫌な予感を感じる。


「(まさか…)」


鴉は視線を他に移す事なく私達を見ていた。その気味の悪さを感じると同時に危機感を感じていた。


「ふぅ…」


冬歌はさくらに見えないように右手をスッと動かし、術式を発動させる。その瞬間に微動だにしなかった鴉は突然顔をクルクルと回した後、不思議そうな顔をした後にどこかに飛び去って行った。


「(不穏な雰囲気ね…)」


冬歌はそう思いながら飛んでいく鴉を見届けていた。

少なくとも、こんな場所で傀儡術式を使う奴なんて大抵まともな奴じゃない。






====






同時刻

横浜港 大黒埠頭


「…うおっ!?」


埠頭に接舷する貨物船の一角。そこで一人の術士の男が驚いた声を上げた。すると周りにいた他の者達が気付き、何があったのか聞いた。


「どうした?」

「…偵察に向かわせた鴉が誰かにやられた」


その答えに他のメンバーが問いかける。


「殺されたのか?」

「いや…傀儡術式を壊された…」

「…」


傀儡術式を破壊されたと言う情報に其処に居た全員の顔が険しくなる。

術式破綻は術者にしか出来ない所業。つまり、この術師が偵察をしていた学業院には術師がいると言う事だった。

全員の顔が険しくなると倉庫の一角で風船ガムを膨らませながらドラム缶の上に座っていた一人の赤髪の少年が呟く。


「流石は日本屈指のお嬢様学校。警備も厳重だねぇ…」


するとその少年に赤いヘルメットを被った一人の構成員が注意をする。


「おい、赤髪。そのだらけ切った態度はなんだ!これからが重要だと言うのに…ウガッ!」


そんな男の顔を掴んで、少年は不満げな表情で言う。


「いちいちうるさい奴だなぁ…ちょっとは静かにしてよ…」

「アガッ…ウゴッ…!!」パキッ


ヘルメットにひびをいれ、その上から握り潰さんとする少年と構成員を仲裁する様に一人の男が中に割って入る。


「そこまでにしておけ。宇野」

「チッ…はいよ〜、分っかりました〜…」


そう言い、宇野と言われた少年は手を離すとそのままつまらなさそうにしてドラム缶から降りて口笛を吹きながら消えていく。

その様子を見てヘルメットを取りながら怪我をした構成員が仲間の術士の術式で治療を受けながらボヤく。


「……ったく、何様のつもりだ。あの餓鬼め…」


恨み言を呟く構成員に別の男が宥めるように言う。


「落ち着け、あれでもあの少年は我々にとって戦力となる。現に、あの少年は我々の目的を忠実に遂行している」

「しかし隊長、私はどうもあの餓鬼を信用できません」


そう言うも、男は答える。


「彼は数少ない攻撃型の術師だ。我が部隊の重要な戦力なのだ。何、もう少しの辛抱だ」


そう言いながら隊長と呼ばれた男は部屋の壁に飾られたボードを見る。そこには罰マークのついた写真や、赤ペンで書かれた地図などが書かれていた。

それはここ最近、都内で起こっている連続焼死体事件の被害者の写真ばかりであった。


すると男は全員を部屋に集めてボードに手を当てながら構成員達に説明を行う。しかし、そこに先ほどの宇野は居なかった。


「ーー以上を持って我が部隊は二日後に行動を開始する」


そう言い、隊長は地図に指を差しながら言う。


「我ら第四部隊の目標は未来の支配層の集う学業院女子部高等科である!『六月革命計画』成功のためには必要不可欠な場所だ。偉大なる祖国建国の為に!労働者の為の政治を手に入れる為に!皆には奮励努力して貰いたい!」

「「「はっ!!」」」


そう言うと『赤翼の先駆者』の過激派実行部隊『臨時日本赤軍』は準備を進めていた。






====






帝都に少しだけ不穏な空気が流れる中、冬歌はいつも通り授業を受けていた。


「(さっきの傀儡術は大陸系に物に近かった…大陸の術者か?だとしたら観察か、それとも…)」


こんな場所で傀儡術式を使う時は大体が偵察か、よっぽど学校の授業が気になるどっかの親御が術者に依頼しての者か、どっちかしかない。しかし帝都は基本的に術式使用禁止区域であり、公的機関以外の人間が術式を使うことは違法である。

…とすると偵察と言うことになるが、学業院は軍事施設では無い。とすると何が目的なのか…。


少なくともあの傀儡は悪意あっての偵察だろう。あの雰囲気だと学校の形を把握していたのだろう、一体何が目的なのか…。誘拐でもするつもりなのだろうか?


「分からないなぁ…」


そもそもあの傀儡術を下手に破壊してしまったので、術士本人への干渉をすっかり失念してしまっていた。

記憶改竄を行わなければ後からつけられる可能性があった。


「しまったなぁ…」


術士である自分はまだまだひよっこも良いところなのでもっと良い練習をしたいと思っていた。

せっかくの学校生活なので楽しく過ごしたいと思う反面、術士としても練習したいとも思っていた。


「上社さん」

「はいっ」


そして教壇に立つ教師から名指しを受け、冬歌は持っていた教科書の中身を読み上げていた。


「キリスト教信者による寺社破壊を受け、徳川家による江戸幕府によりキリスト教のカトリック宗派は禁教となり、支那を領土としていた我が国は…」


歴史の授業で教科書を読ませるのはなぜ何かと教師に問いたい気分なのは隠しておこう。






放課後、普段はさくらと下校する冬歌だが、今日は珍しく一人で帰っていた。理由はさくらの両親が学校の近くの料亭で夕食を取ると言う事でここで別れる事になったのだ。


「もう少し術の練習をしよう…。あと支那の風水の勉強をもっとやらないとなぁ…」


一人しかいないのでブツブツと呟いて帰路に着く。心陽には今日は高田馬場駅まで迎えに来て貰っていた。

周りの同級生や先輩が楽しげな会話をしながら帰る中。冬歌はいつになく真剣な表情でブツブツと呟いており、それを見ていた周囲からやや気味悪がられていた。


そして迎えの来ている駅まで歩く途中、駅前の少し裏路地に入った時に冬歌はふと徐に立ち止まる。


「…一人なら簡単に攫えると思っています?」


冬歌がそう問いかけると、何も言わずに冬歌に襲いかかる影があった。それを見て冬歌は呆れたような声を出す。


「やれやれ、返事すら無いですか…」


そう呟くと冬歌は持っていた学生鞄を接近して来る影に向かって振り回す。

すると接近しすぎた二人の男が冬歌の持っていた学生鞄で殴りつけられて後ろに吹っ飛んだ。ぶつかった衝撃で潰れた表情になると二人の人族の男達は壁に叩き付けられてそのままノックアウトする。


「辞書が入っているから結構痛いでしょう?」


そう問いかけるも返事は無く、気絶したのだと理解すると冬歌はさらに後ろにいたもう二つの影を見る。

その者達は片手にナックルダスターやヌンチャクを持っていた。相手は獣耳が無いので獣人では無い。

基本的に獣人の力に対して一般の人は三人がかりで倒せると言うのが今の一般的理論だ。


「おーおー、中々に危ない武器を持っているじゃ無いですか。そんな物をか弱い女学生に向けないで下さいよ〜」


そう言うと二人の男達は緊張した様子で冬歌を見るとそのまま一斉に突っ込んで来た。

しかし、冬歌はそんな二人を見るとそのまま鞄を落としてナックルダスターを持った男の方に向かった。


「なっ!?」


まさか突っ込んでくるとが思っていなかったナックルダスター男は冬歌に向けて拳を突き出す。

しかし、冬歌は頭を下げてこれを躱した。

そして避けたかと思った瞬間、目の前に横にいたヌンチャク男の技が顔面にクリーンヒットし、そのまま背後によろけてしまった。

そしてヌンチャク男が驚いている間に冬歌は男の鳩尾を思い切り殴る。


「ゴハァッ…!!」


鳩尾を思い切り殴られ、男はそのまま地面に倒れると冬歌はすかさず御札を取り出して術式を出す。

術士の愛用品である御札。流派や家によってその模様は千差万別存在し、最近では御札専用のコピー機の量産品が一般的だった。


「暫く眠ってなさい。…多分次起きた時には勾留場だけど」


そう言うと冬歌は持っていた札から麻酔術式を展開するとそのまま襲って来た四人は阿片をやった後のようにグッタリと倒れてしまった。


「…っと、これで全員ね…」


そう言い、冬歌は心陽に連絡を取った後にそのまま裏路地を後にするのだった。

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