#29
時々、あの資本主義の極右団体が最後に叫んでいた言葉を思い出す。
『この、帝国主義の犬どもがぁぁぁあ!!』
帝国主義の犬と聞いて気分を悪くしない訳ではないが、帝国主義も資本主義も見た様な物なのではないのか?ただ資本主義の方が上に立てるチャンスがあると言うだけで、社会構造自体は何ら変わりないのではないか…と。
そもそも日本の帝国主義は形骸化しており、その中身は民主主義である。それを諸外国も理解しているからこそ、今更帝国主義やらで騒ぎ立てるのも何らおかしな話だった。
だからおそらく、あの極右集団の目的はイェルサレム共和国の防衛システムを得ようとしていたと言うのがカラニットや沙耶香と話した結論だった
。後ろに居たのはアメリカかロシアか、どっちでもあり得たから深く詮索する事はなかったが…。
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一〇月八日
放課後 教室
運動会が終わり、次に文化祭の準備が始まる中。放課後の誰も居ない教室の中でカラニット、冬歌、沙耶香の三人は集まり。その後ろでさくらと愛結は互いの小銃を取り出して整備をしていた。
最近は減ってきているが、学内に銃を持ち込む人はまだいた。春のテロ事件から半年近くが経ち、東京も落ち着きを見せていた。
連続焼死体事件も止まっており、今も警察が全力で追跡を続けていたが。
まぁ、捕まる事はないだろう。理由は恐らく宇野が術式を使っているからだ。あれじゃあ、警察の追跡も中々容易ではないだろう。何せ相手は訓練されて来た術師だ。人工術士のプロトタイプであり、実力的に言えば上の中と言った所だろう。
正直、生きていたのかと思っていたが、そうなると彼らの資金源がどうなっているのかが気になる所だ。
まぁ、そこら辺も今は封印中の彼女らに聞けばわかる話だが…。
そう考えながらも、冬歌と沙耶香は椅子に座っていると、カラニットは持っていた鞄を机の上に置く。
「さて、あなた達のお望みの商品よ」
そう言いながら鞄を開けると、そこにはスポンジに入れられた二丁の拳銃を見た。
白と黒に塗装された大型拳銃を見て、二人はそれぞれ拳銃を手に取った。するとカラニットは最初に沙耶香の手にする黒い拳銃を見て詳しく話す。
「LAR グリズリー・ウィンマグ Mark V。.50AE弾を使用する大型拳銃よ。装弾数は最大八発。6.5インチバレル仕様で、重さは約1.5kg」
「おぉ…!」
そう言いながら、沙耶香はカラニットから受け取った拳銃と弾倉、そして弾丸を確認する。最強格の拳銃弾である.50AE弾を使用する拳銃を持ち、沙耶香は通常弾で非術士でも対抗出来ると思っていた。
この前の事件で体術でクワトに負けたのが相当効いたのか、彼女は前以上に格闘技に熱を入れていた。愛結曰く、学校ではダントツで強い位には…。
「んで、冬歌の銃はRuger-57。最近流行りの5.7ミリ拳銃弾を使う自動拳銃…の強装弾を使うオリジナルの改造を施している」
そう言い、モダンな見た目の拳銃を手に取って弾倉を確かめる。
「全く、あんたらも思い切った注文をしたね」
カラニットは新しく銃を貰う二人を見ながらそう言う。
「注文通り、威力のある銃と貫通力の高い銃を選んでおいたよ」
「ありがとう」
「感謝します」
そう言いながら空になった箱をしまうと、カラニットは二人の調子が良さげなのを確認する。
「銃の程は?」
「満足」
「十分です」
そう言うと、二人はショルダーホルスターに入れるとカラニットは呆れるように言う。
「しかし、いくら対術士用とは言え。あんた達も割り切った行動をする物ね。流石は基礎体力の多い獣人だ事で…」
「そりゃどうも…」
「私はそこまで体力はないんですが?」
そう言いながら拳銃をしまうと、新たな相棒を得た二人はその重さを感じながら試し撃ちをしてみようと思っていた。
「沙耶香は良いけど…冬歌の拳銃は試験したけど正直扱いたく無いね」
最後にカラニットが不穏な言葉を呟きつつも、冬歌は耐久試験はしたのだと確認したので取り敢えず教室を出て行った。
対する沙耶香のウィンマグはすでに市販されている物を持って来た品物なので耐久試験も問題なかった。
「家に帰ったら試し撃ちをしてみますかね…」
「あぁ、そうだな」
ずっしりと感じる拳銃を感じながら二人は教室を後にしていた。
学校から帰る途中、冬歌達は寄り道で池袋に向かう。
「ふぅ、やっと一仕事落ち着いたや…」
「まぁまぁ、お疲れ」
「こっから文化祭?ひぇぇ、忙しいや」
そう言いながら池袋にあるさくらが行きたいと言っていたカフェの中で休憩しながら二人は話す。主に愚痴が飛び交う二人の会話だが、今日も同じく愚痴を溢していた。
「ーーはぁ、全く。あの馬鹿タレがさ〜…」
「そうだね、確かにそれはちょっと思うかも…」
そんな愚痴の言い合いに発展していると、外でプラカードを掲げる集団を見た。
「あれは…?」
「何を叫んでいるんだろう」
少なくともこんな場所でデモなんて珍しいと思っていると、彼らは仕切りにこう叫んでいた。
「術士を取り締まれ!術式を使わせるな!!」
話を聞くと、どうやら彼らは術師に制限をかけようとする団体の様だ。その文言を聞き、少しだけさくらや冬歌は目元を細くしてしまう。
現在、日本における術士は能力を有していても自由に職に着くことができる。それは世界的に見れば非常に珍しい事であった。
術師と言う数少ない能力を有する者は能力があると分かった瞬間に軍に凱旋されるのが海外での常識であった。
日本がこんな事をすることが出来るのは獣人と同様、日本における術師の割合も多い事にあった。
何かと恵まれている様な気もするが、太古から術士の歴史のある日本は術士の数が戦国時代に爆発的に増えており、割合的に言えば四人に一人が強弱はあれど術を使えると言うレベルであった。そして術が使えると言う事は、つまりそれだけ犯罪にも使われることがあるわけで…。
実際、宇野がしていたと思われる連続焼死体事件も術士による犯罪である。そして術士による犯罪は年々増加傾向にあるのもまた事実。
人口に対する割合が多い以上、全てを把握するのは難しいだろうが、犯罪抑制には繋がるかも知れない。しかし術士を諸外国の様に徹底的に管理する事は、即ち術士を奴隷の様にここ使う事になるのではないかと言う懸念もあって度々団体同士で揉める事があった。そして今も…。
「術士取締反対!!」
「国民を奴隷の様にするのか!!」
術士制限に反対する団体が同じくプラカードを持って道路を歩き、鉢合わせた事に周りの警察が慌てて仲裁に入り、装甲車からは解散する様命令を受ける。冬歌達もこのまま傍観するのは危険かと思い、カフェを出ようとした時。
タァンッ!!
デモの反術士団体の方から銃声が一発聞こえた。その音を聞き、一瞬だけ静粛が支配した後。その場にいた全員がパニックになった。
散り散りに逃げ惑う民衆。突然の銃声に警官は発砲した人物を捉える為に突入を始め、マカロフを持っていた一人の男を取り押さえていた。かく言う自分達もいきなりの銃声には驚いた。
「まさか発砲するなんて…」
混乱に乗じて事情聴取から逃れる為に駅のホームに戻った冬歌は思わずそう呟くと、さくらも頷きながら言う。
「うん…まさかあそこまで過激な事をするなんてね…」
そう言いながら二人はそのまま列車に乗り込む。新しい銃を貰ったばっかだが、また変な厄介ごとに巻き込まれるのは勘弁だと思いながら二人は梯子で別のカフェによって居た。
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冬歌達が池袋で寄り道をしている頃、まっすぐ家に帰った沙耶香と愛結は虎寺家の地下の射撃場で引き金を引いていた。
ダァンッ!ダァンッ!
流石、オートマチック用では最強の拳銃弾。反動も大きいと感じるが、これならばあのベースカラーとか言う術士にも対処できるかも知れない。まぁ、対処ってだけで倒す事は無理だろうが…。
何せ、自分の拳をモロに食らっても衝撃を溜めずに逃し、最後はあの電流での攻撃だ。
恐らく、自身の筋肉に微弱な電流を流し、一時的なブーストで出せる最大限の力を加えて殴って来た。そして、殴る瞬間に自分の体に電気を流した、一種のスタンガンだ。あの攻撃のせいで自分は行動不能になってしまった。
痺れる中無理やり半分無我夢中で銃を撃っていたが、正直あの時の敗北は屈辱的だった。あれ以降、学業よりも格闘技を優先するようになって親から色々と言われるくらいには…。
でも、自分には自分なりの闘い方がある。対術師用にどうするべきかを考えていると、愛結が心配そうに声をかけた。
「大丈夫ですか、沙耶香様?弾倉、空になっていますが?」
「あっ…」
するとそこで沙耶香は無心で銃を撃っていたことに気付き、スライドが移動したままのウィンマグを眺めた。
撃ち切ったからそのまま弾倉を外して銃を仕舞おうとした時、ふと違和感を感じた。
「(あれ?さっきは反動を感じていたのに…何故だ?)」
先程まで考えが中断されるほど反動のあった拳銃だったのに、それが感じられなかったと思っていた。覚えているだけでも残弾はあったはずだが…。
集中しすぎていたかと思いながら沙耶香はウィンマグを片付けていた。




