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帆布に描くぎじゅつ  作者: Aa_おにぎり


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26/35

#26

九月二二日


カラニットの誘拐事件より一週間後、来週に運動会控えている学校は運動会の勝者が誰になるのかで盛り上がっており、放課後は必ず出場する選手は居残って競技の練習をしていた。

冬歌達は運動会運営委員なので裏方作業に徹して会場の設営などの準備を整えていた。クワト達の戦闘で壊れてしまった変装用の呪具はすぐに準備出来たので、学校を休まずに通うことができた。


「冬歌、こっちの資料を片付けて」

「はい」

「さくら、資料室から写真を持ってきて」

「わかりました」


もはや慣れた行動であるカラニットのパシリだが、あの事件以降も二人は変わらず接してくる。


まさか思わないだろう、一年生に公爵家の娘が二人も入学していたなんて…しかも一方は多くの政治家のバックに立つ、日本の政治を支配して居るともっぱら噂の希少な獣人。

緊張しないはずがないのに、此処まで平然と保っていられるのも賞賛すべき事だ。人と言うのは基本的に何かしら自分しか知らない秘密を抱えると、ついつい人に言いたくなってしまうが、そんな感情を抑え込んでいるさくら達に私もいつもと変わらずに接していた。






「で、話を聞かせてもらおうか」


それでこの有様である。運

営本部で書類を片付けていたら沙耶香に空き教室に呼ばれてこの有様だ。部屋の椅子に縛り付けられ、逃げられないようにされた後、冬歌は尋問の様に沙耶香に問い詰められていた。

部屋にはカラニットもおり、さくらや愛結は来ていない様子であった。


「これ、拷問では?」


第三者視点からの意見を言うと、沙耶香は反論した。


「肉体的に苦痛は与えていない」

「拷問って精神的苦痛も入りませんか?」


そう疑問に思いながら冬歌は聞くと、沙耶香は言う。


「まぁ、そんか事はどうでもいいんだ。…冬歌、アンタらが持ち帰ったあの術士。あいつらは何なんだ?体に電気を纏わせる電気人間の様に見えたぞ?」


そう聞くと、冬歌は縛られた状態のまま沙耶香の疑問に納得する。このまま逃げようかとも思っていると、沙耶香冬歌に忠告するように言う。


「あぁ、因みに真面目に答えなかったら術士の一件を父にバラす」


Oh…強硬手段をとって来たか。中々エグい方法だと思いながらも、冬歌は味方は多い方がいいかもと思いながら沙耶香達を見ながら聞く。


「沙耶香さん達は、この話を聞く覚悟はありますか?それも、




アメリカ政府ですら恐怖したこの情報を…」




「っ!?」


まぁ、あの二人を見たからには知っておいた方が理解をして貰えるだろう。これで、沙耶香の反応次第ではこのまま話を終えてしまうかもしれないが…。


「…どう言う事なの?」


すると、沙耶香は詳しく聞く選択をとっていた。それなりの覚悟ができたのかと思いながらも、冬歌は二人に話し出した。






====






時は第二次世界大戦以前まで遡る。

当時勢いを大きくしていたナチス・ドイツは公的研究機関であるアーネンエルベを創設し、様々な分野の研究を行っていた。科学分野からオカルトまで、実に様々な範囲で研究を行っていたアーネンエルベではとある研究が行われていた。


それは、嘗て喪われた西洋魔法の復活であった。今でもそうだが、魔法と言えば日本から伝来して来た東洋魔法と呼ばれている魔法が主流であった。それもそのはず、欧州における魔女弾圧によって西洋魔法の伝承は潰えてしまっていたからだった。


今でも歴史の七不思議と言われている魔女狩りだが、当時のナチス・ドイツはその西洋魔法の復活のために残された資料を世界中からかき集めていた。

今まで何度も西洋魔法の復活は試みられて来たが、ナチスほど熱心に行った事はなかった。なぜなら元々強力な東洋魔法があるのだから西洋魔法はそこまで要らないと思われていたからだった。


そして研究を続けていたアーネンエルベだったが、戦争が終わり。冷戦が始まると、アメリカ軍が行ったドイツ人技術者を賠償金代わりに本国に連れ帰った作戦。所謂ペーパークリップ作戦によってある男がアメリカに連行される。


その男の名はエドモンド・クライツァー。元アーネンエルベ魔法科学部門の職員であり、西洋魔法復活を目指す第一人者であった。

また彼は人工的に術師を作り出す研究を行っていた人物でもあった。


遺伝によって能力が左右される術士を人為的に、それも同じ程度の能力を有した術士を量産できれば戦力の拡大が出来る。そんな研究を行っていたエドモンドは当時としては破格の待遇でアメリカ政府に招待され、術士不足に喘いでいたソ連も彼を最重要人物としてマークしていたほどだった。

本格的に冷戦が始まった中、エドモンドは充実した研究施設を与えられ。連邦魔法科学局、通称FOMSの初代局長として日々人工術師の研究をさせられていた。


エドモンドは彼自身も術士であり、アメリカ政府の命令で人工術士の研究を行っていたが。彼が最もしたかったのは西洋魔法の研究であった。

術師では扱えなかった西洋魔法をどうすれば仕える様になるか。エドモンドはアメリカ政府に何度も西洋魔法の有用性を交渉して来たが、悉く断られた事から段々とエドモンドはアメリカに反抗的になっていった。


しかし、どれだけ経っても一向に結果の出ないFOMSにアメリカ政府は徐々にこの研究に不信感を抱き、遂に政府は一向に結果の出ないFOMSの解体を発表。エドモンドはFOMS局長を解任され、その後はシカゴで孤児院を開いて余生を過ごしていた。

当時、冷戦も終わりを迎え、アメリカも無駄な予算を流す余裕は無かったのであった。


しかし、事態が変わったのは一〇年ほど前。エドモンドの経営する孤児院で違法な研究が行われているとタレコミがあり、FBIが極秘で調査をするとそれが事実であると確信。すぐさま摘発が行われる事となった。


エドモンドの孤児院で行われていた研究はFOMS時代に完成しなかった人工術士の研究であり、その材料となっていたのはスラムなどで身寄りのなかった子供達であった。孤児院と謳って子供を集め、エドモンドは彼らを実験材料にしていたのだ。

政府はエドモンドがFOMS時代に実は完成していたが、隠していたのかと思いながらエドモンドの確保と、子供達の保護を指示していた。


そしてエドモンドの運営する孤児院の周囲を警察が取り囲み、研究施設に乗り込もうとした時。施設から術式が放たれ、装甲車が爆発していた。

術式を使ったのはエドモンドが保護していた子供達であった。彼等は囲んだいた警察に術式を使うとそのままシカゴ市内に逃走。


術式を使う事から警察も銃を持って来ていたが、彼等の予想外の強さに警戒を強め、追跡を始めた。その途中で何人かの警官や派遣された州兵が犠牲となり、一線を超えた事から政府はエドモンドの生み出した人工術士の射殺を許可した。


後の調査結果からエドモンドの作った人工術士は十二人おり、彼等は『ベースカラー』と名付けられていた事なども分かった。






====






「人工術師…まさか、そんなものが…」


話を聞いた沙耶香とカラニットは震えていた。

人工的に安定した能力を持つ術士を作れるのならば、それは小国家でも列強と並ぶ戦力を確保できる可能性がある。それこそ、全人類を術士にすることだって出来るわけだ。そして、犯罪組織の勢力が強まることも示唆していた。

もし、その人工術の技術が裏で流れたら…。

そう思うと、震えるのも理解できた。すると冬歌は更に続きを話す。


「そして、その時に射殺されたベースカラーは四人。いずれも十歳ほどの子供でした」

「じゃ、じゃあもしかして先週にさくら達を襲った術士も….?」

「えぇ、そのベースカラーですよ」


冬歌はそう答えると、沙耶香は冬歌に聞く。


「じゃあ、そのベースカラーと冬歌の関係は?」


そう問われ、冬歌は少しだけ間をおくとその人工術師に関して更に詳しい話をする。


「その人工術士を作る為の薬剤には霊力に慣れた者…つまり術士の血清が必要になる。そして、その血清は霊力との親和性が高いほどより高い純度になる」

「っ!!まさか…!!」


今までの情報を集めて、沙耶香は心底驚いた様子で冬歌を見ると、彼女は頷きながら沙耶香達に言う。




「えぇ、その薬剤の原料となったのは私の血ですよ」




そう言うと、今度こそ二人は凍りついた。

今更だが、この話を聞いたことを後悔した。夢のような人工術士の技術だが、その原料は術士の生き血。つまり、先程沙耶香が考えた全人類を術士にするならば今いる術士全員をタンクのように使い倒すことになるわけだ。そんなのは人道的に大問題だ、許されるはずが無い。

沙耶香はそう思っていると、カラニットが気になった事を冬歌に聞く。


「と言う事は狼八代家は人工術士研究に手を貸していたの?」


そうだ、冬歌の血があのベースカラーに使われているのなら。それはつまり狼八代が人工術士の研究に手を貸していたと言うことになる。沙耶香はそこで思わず狼八代家に疑惑を持つと、冬歌は答える。


「いいえ?実家は人工術士の研究か一切協力していませんよ?」

「え?じゃあ、冬歌が?」

「半分正解で半分間違いです」

「どう言う事??」


困惑する沙耶香に冬歌は少し間をおくと沙耶香達に衝撃の事実を告白した。


「誘拐されていたんですよ。幼い頃に…」

「はい?」


首を傾げる沙耶香に軽く笑って冬歌は言う。


「私は六歳までエドモンド・クライツァーの手でベースカラーと共に育てられて来たんです」


そう言うと、冬歌は思い返すような遠い目をしながら沙耶香達を見ていた。すると、冬歌は唖然となる沙耶香を見ながらもう一つ。人工術士に関する話をする。


「そして、その血清を用いた人工術師を作るには体が未成熟の一〇〜一二歳までの子供の頃に打たなければならない。それに拒絶反応があった場合は速やかに薬剤を抜かないと死に至る悪魔の薬なんです」

「「…」」


冬歌は簡単に言うが、沙耶香達にとっては衝撃的な話の連続であり、頭の中が混乱してしまっていた。

しかし冬歌は話を止める事は無かった。


「そして、アメリカ政府はこの人工術士の技術の代償やその効果に恐れ。人工術士に関する研究の一切を禁止し、このシカゴでの摘発も無かったことにされたんです。私はその時、ある人物に見つけられ。そのまま保護されて日本に帰って来ました」


そう言うと、冬歌は縛っていた縄を自力で解くとそのまま席を立った。


「話はこれで終わりです。十分でしたか?じゃあ、私はこれで失礼します」


陽が水平線上に消え、すっかり夜になってしまった学校の教室で冬歌は呆然とする沙耶香達を置いて帰ってしまった。

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