#21
カラニットに招待されたパーティーのて偶然沙耶香と出会した冬歌は、沙耶香と会場の端で話をしていた。
「まぁ、狼八代家はそもそも滅多に公の場に出ることはないから仕方ないけどね」
「それは仕方ありません。明治維新以降の欧州の術士拉致を見ては…」
「そうね…それが引きこもり公爵家となった要因だろうし…」
そう言い、沙耶香もやや苦笑しながらギラギラと灯の灯る帝都を見ていた。少なくとも、明治維新の頃は真っ暗であっただろう。まだ此処を江戸と呼んでいた時代は…。
日本のみならず、支那沿岸部などの地域で起こっていた術師の拉致事件。主にやっていたのは仏・英国と言われており、明治維新から現在まで遺恨を残す国際問題であった。
欧州で劇的に数の足りなかった術士の数を補う為に欧州各国は支那沿岸や日本の特別区から術士を拉致して連れ帰っていた。
その頃、術士が戦争を変える重要な立ち位置にあると言われ始め、術士の需要は急激に拡大していた。
歴史の七不思議と言われて居る魔女狩りだが、欧州において魔女の文化は潰えており、一部の文献などでしか残っていなかった。
そして、その術式を使うには適性があり、当時の考えでは極東にいる術師ならば俗に魔法と呼ばれる術式を使えるのではないかと唱えられ、その為に上海や青島といった大陸沿岸部の日本から術士を拉致していた。しかし、そう言った術士は魔法を使うことができないことが次第に明らかになる。
術士でも魔法が使えないことが分かると、次第に列強は拉致した術士の持つ技を求める様になった。
今でも魔法復活の為の研究は行われて居ると言うが、非人道的研究になるのではないかと言われ、あまり進んでいないのが現状であった。
そして、拉致された術士に対する損害賠償やらは日本は日英同盟の時の術士帰還や軍縮条約の際に融通を聞かせることでーー今でもたまに揉めるがーー収めることができたが。今でも両国の関係に暗い影を落としていた。
パーティー会場の一角で、ドリンクを嗜みながら冬歌と沙耶香は話して居ると、ふと沙耶香は冬歌に聞く。
「貴方の家の性格はわかるけど、親友の狸道にも正体を明かさないのね」
沙耶香は冬歌に、せめて友人くらいには明かしても良いのではないかと問いかける。
自分に正体を明かしたのならば、自分以上に交流の深いさくらにも正体を明かしても良いのではないかと問いかけた。
すると、そんな問いかけに冬歌は少し間を置いた後に答える。
「…まだ明かすつもりは無いですよ。私がこの皮をかぶって居るからこそ、さくらも余計な心配する事なく接することができるんです。明かすにしたって高校を出てからでしょうね…」
そんな冬歌の返答に、沙耶香は忠告する様に言う。
「…狼八代、その皮を被る行為がいずれ、狸道を危険に巻き込む可能性がある事を覚えておきな。この国は何かと問題を抱えて居るからな…」
そう言って沙耶香は壁から離れると、先ほど出て行った愛結を回収する為に人混みの中に戻っていった。
冬歌は沙耶香の忠告を聞き、少しだけ戸惑った後に同じ様にさくらを探し始めた。
愛結とさくらが揉めて居る頃、パーティーにやって来た招待客の相手をしていたカラニットは内心ため息を吐きながら、好きでも無い接待をして居ると少し休憩のために会場を出て行こうと思った。
「少し失礼しますね」
そう言い、カラニットは半分無理矢理接待を終えるとそのまま涼む意味も込めて会場を出る。そしてそのままついでに化粧直しの為に会場の横にあるトイレに移動した。そしてトイレで化粧ポーチを手に取った時。
「っ!!」
「動くな」
鏡に一瞬だけ映った黒い影から背中に銃を当てられた。それを見て、咄嗟にカラニットは銃を突きつける招待客に扮した男に聞く。
「…貴方達は?」
「今は知る必要はない」
「そう…随分と不親切なのね」
そう言うと、その男は銃をさらに強く突きつけながらカラニットに言う。
「さぁ、ついて来てもらおうか」
「…」
カラニットはここで反抗しても無意味だと理解し、今は従うのが賢明であると考えた。
「ヒィィ、アッチー…あんな人が多いなんて聞いてないわ。あぁ、疲れた…」
会場外で手で仰ぎながらさくらは涼んでいた。今は愛結と印象付けで勝負をしており、今まで会場内でぼっちだった人を狙ってさくらは話をしていた。顔を覚えてもらう目的だったので、さくら的にはうまくいった作戦だと思っていると、会場に続く扉が開いてそこから愛結が出て来た。
「ふぅ…暑いわね…はぁ…」
そう言いながら愛結も同じように手で仰ぎ出すと先に外に出ていたさくらとバッチリ目があった。
「「あっ…」」
思わず二人して固まってしまうと、さくらと愛結は扉を挟んで宴会場の壁に背を預ける。
二人の親の経営する会社はいわばライバル社だ。そして二人は知らないが共に公爵家の直系の友人を持つ。そんな二人は会場外で涼んでいると、暫くしてさくらが愛結に聞く。
「どうして私の誘いに乗っかったの?」
そんな問いに、愛結は答える。
「どうしてでしょうね…強いて言えば、『楽しいから』でしょうか」
「楽しい…ねぇ…」
そう言いながら、さくらは先ほどの光景を思い返す。
正直、さくらとしてはまさかあの提案に愛結が乗っかってくるとは思っておらず、得意の話術で答えてくるかと思っていた。だから、その後はそのまま別れようと思っていたのだが、挑戦に乗っかって来た影響でさくらもこのパーティーに参加する人に顔合わせをしなくちゃならなくなってしまった。
親からは会社の事は弟の桔平に任せると既に言われているので、私はその補佐をする事になると思っているから、さくらもそろそろ自分の会社のことを考える時期ではあった。
同じ家具店という事で、さくらはよく愛結を観察してした。すでにライバル社となっている狐山の事は個人的に調べていた。まぁ、あまり本格的ではないからそこまで細かく調べられたわけではないが…。
そう思っていると、不意に愛結はさくらに聞く。
「狸道さん、貴方はどこまで自分の親の会社のことを考えているのですか?」
「え?」
すると、愛結はそこからさくらに更に問いかける。
「狸道さんと私は同じ家具店を営む会社の娘。どの位会社のことを考えているのか、この場で聞いて見ようかと思いましてね」
「あぁ、そう言う…」
少なくとも、この場には私と愛結しかいない。この場を借りて、愛結はさくらに何処まで会社に対しての思い入れなどがあるのかを聞こうとしていたのだろう。
そう感じ、さくらはその問いかけに応えようとした。
「そうね、私は…」
その時、さくらは通路を見て固まっていた。いきなり話が途切れ、どうしたのかと思って愛結はさくらを見ると、彼女は自分とは反対側の方を見ており、愛結もその方を見ると、そこには一人の女性が男を連れて歩いていた。
するとさくらはその女性の方を見ながら呟く。
「あれ、カラニット先輩だ…」
「カラニット…?」
「ウチらを此処に呼んだ人」
そう言い、さくらはあの男と共にいる女性の正体を聞くと、さくらが不思議そうに呟く。
「もう帰るのかな?」
「今回の主催関係者がですか?まだ時間はありますのに…変ですね」
そう言い、時計を確認した愛結が疑問に思った。カラニットと言えば今日のパーティーの主催者の娘であり、本来であればこの時間に帰るなんてあり得ないのだが…。
少し疑問に思うと、さくらは気になった様子でこっそりと跡を追おうとし、咄嗟に愛結はさくらの腕を掴んでいた。
「何処に行かれる気ですの?」
疲れているであろう相手に挨拶にでも行くのかと聞くと、さくらは遠くにいるカラニットを見ながら愛結に言う。
「…ちょっと、嫌な予感がしてね。おまけに男の方から強めの火薬の匂いがした」
「…」
確かに、少し臭いを注意深く嗅ぐと火薬の匂いがした。
ここにいる軍人は多いが、獣人も多いので少々不快な気持ちにさせる火薬の匂いのついた服を持ち込まない。
実際、この会場にいる軍人は自衛用の銃を持ち込んではいるものの、実際に撃つことは無いし事前に預けている。
あくまでも牽制用であることは愛結も理解していた。だから、さくらの違和感の理由も理解できた。
「で?どうする気ですの?」
「後を追いかける。貴方は冬歌達に連絡して欲しい」
そう言い、さくらが追いかけようとした時、愛結が言う。
「お待ちを、私もついて行きますわ」
「え?でも連絡は…」
「問題ありません。沙耶香様に携帯で連絡すれば良い事。さ、行きましょう」
「…仕方ないわね」
そう言い、二人は携帯で冬歌達に連絡しながらカラニットの後を追いかけ始めた。
パーティー会場でさくらを探していた冬歌は、そこで連絡を受ける。取り出した携帯の画面を見ると、相手は探していたさくらからだった。
「ちょっとさくら?貴方今どこに居るのよ?」
そう言うと、さくらが電話越しで返答する。
『あぁ、ごめん。ちょっと変な人が居たから追いかけて居る』
「不審者?何を言って居るのよ」
『火薬臭い人が先輩の後ろからずっと離れないし。第一、先輩がもう帰ろうとして居る』
「…」
それを聞き、一瞬脳裏にカラニットの誘拐が過ぎる。まさかと思って思わず聞き返す。
「さくら、今どこ?」
『先輩を追ってエレベーターホールの前。もうちょっとでエレベーターが来る』
さくらが現状を報告すると、冬歌は背筋が凍る様な嫌な予感が感じた。そして大体嫌な予感というものはよく当たる。
「(新帝国ホテルには此処から降りられる階段がある…)さくら、もしもに備えて今から階段から降りなさい。それで数階下からエレベーターに乗って」
『え?それって…』
「最悪の想定をしないとね…」
『了解…』
冬歌の指示を聞き、さくらは頷く。
「私も直ぐに行くわ。さくらは念の為、身体の見られない様な場所に携帯を隠しておいて」
『うん、分かった』
そう言い、さくらはドレスの中に携帯を隠すとそのまま会場を出る。すると、そこで同じタイミングで宴会場を出る人物がいた。
「沙耶香さん…」
「狼八代…」
同時に会場を出たのは沙耶香でその手には携帯が握られていた。その光景を見て、冬歌は沙耶香を見て言う。
「もしかして沙耶香さんも?」
「と言うことはアンタもか…?」
そう言うと、二人は頷くと受付に向かって預けた鞄を受け取りに行った。




