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帆布に描くぎじゅつ  作者: Aa_おにぎり


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17/35

#17

花火大会から五日後、八月二〇日は正直なんのためにあるか分からない出校日の日だ。本当、何のためにあるんだろう…。


「ふぅ…」


出校日と言ってもやる事は教室に行ってそこで担任の話を聞くだけ。なんて無駄な時間だろうと思いながら冬歌は教室で軽く溜息を吐く。

するといつもの様にさくらが話しかけにくる。

上社と狸道では席がだいぶ離れて居るため、話すときはこうしてさくらから来る事が多かった。


先生からの話も終わり、一部の生徒は来月に行われる運動会に向けての準備の為に運動部に通う同級生達は出て行くが、冬歌達はそもそも運動会に出ないためにあらゆる工作をして来たので、運動会に出る事はなかった。


運動会に出ない為に冬歌達は『術式研究同好会』なる絶対誰も入らないような二人だけの同好会を作って運動会に出場しない様にするための工作を行なっていた。

同好会という事で部室すらない有様で、部費もへったくれもないが。冬歌達がそもそも運動会に出ない為に作った物だけに対して興味もなかった。


あの花火大会から五日経ったが、冬歌は相変わらずさくらとの関係を保っていた。

やはり勇気が出せないからと言うのと、まだ日は短いが相手側が何も行動を起こさないからだ。

相手は宇野達、つまりあの研究所の生き残り、そしてその上にいるのは恐らく…。






「ーーねぇ、冬歌!聞こえて居るの?!」

「ん?」


さくらの叫び声で思考が戻ると、さくらが呆れた様な目で冬歌を見ていた。


「はぁ…冬歌にお客だよ」

「お客…?」


そう言い、さくらの指差した方を向くと、そこには一人の生徒が立っていた。足元の靴の色を見て三年生であると認識すると冬歌は席を立ち上がってその生徒に近づく。

既に学校は終わっており、校舎に残って居るのは自分達駄弁りたい人や運動会に向けて準備をする人だった。他の人たちは既に帰っており、よくある社交界デビューを果たす。


やれやれだと思いながら冬歌はこんな自分に誰が会いに来たのだろうと思いながらその生徒に聞く。


「私をお呼びですか?」


そう問うと、その女性は冬歌を見て聞いた。


「貴方が、上社冬歌?」

「あ、はい。そうですが…」


すると、その女性は私を確認すると挨拶をした。


「初めまして。私、カラニット・イェニエルと言うわ」

「は、初めまして…カラニット先輩」


カラニット・イェニエル…名前からして留学生。それも恐らくイェルサレム共和国出身の生徒だろう。


基本的に、亜細亜連合に属する所属国家は経済活性化の為にパスポート審査は比較的緩い。

最近の輸出入の物に関しては帝都同時多発テロの影響で厳しい事になって居るが、金属探知機を必ず通る出入国に関してはとても簡単で、指名手配されていなければ誰でも出入りが可能であった。

そして亜細亜連合に加入して居るイェルサレム共和国も、当然簡単に日本にやって来ることができた。


元よりロシア帝国や世界中からの弾圧から逃げ込んだ多くのユダヤ人は今の北支那に逃げ込んでいた。

キリスト教徒違い、支那などで積極的な布教活動を行ってこなかったユダヤ教徒は江戸時代から続く良き隣人であった。

今の歴史書にもある通り、北支那に逃げたユダヤ人が旗本となる藩があるほどであった。そしてイェニエルと言えば…。


「そうよ、私の親はJMCの社長をして居るわ」

「(あぁ、やっぱりか…)」


冬歌は自分の推察が間違っていなかった事を確信していた。




イェルサレム・ミリタリー・カンパニー、通称JMCと呼ぶその会社はその名の通りイェルサレム共和国の軍需企業であり、小火器から戦車まで何でもござれな世界でも名の通る一大企業である。


イェルサレム共和国は建国当初から真横にソ連と言う脅威があり、実際何度かソ連による樺太侵攻があった。

しかし、イェルサレム共和国国民は漸く手に入れた安住の土地を奪われまいと抵抗し、三度の侵攻作戦を退けた。今でも間宮海峡越しでロシアと睨み合っており、エブリデイ警戒体制であった。

建国の恩がある日本とは密接な友好関係を維持しており、西オホーツク海を収めていた。


明治維新以前からロシアと言う脅威にさらされて来た日本は常に北の守りを警戒していた。ノモンハン事件もあった為に、マレー作戦展開中ですら北部管区の軍は動かす事はなかったほどだった。


そして、樺太自治政府が独立してイェルサレム共和国となった後は西オホーツク海の防衛を任せ、日本は千島列島沖にのみ戦力を割くことができる様になった。


切っても切れぬ関係であるイェルサレム共和国と日本。当然亜細亜連合と言う大きな経済枠に参画しており、日本でもJMCの武器は採用されていた。

特にUZA短機関銃は今でも一部で使われている現役のロングセラー商品であった。

当時、独立したばかりで貧弱な工業体制であった樺太でも大量製造できたこの武器は世界的ヒットを生み出していた。




そんな有名なJMCの御令嬢が自分に何の御用かと思って居るとカラニットは冬歌に言う。


「随分と遅くなってしまったけど、私が人質にされていた時のお礼をと思ってね」

「…あぁ、あの時の」


ポンと手を軽く叩いて思い出した様子の彼女にやや苦笑しながらも彼女は頷いた。


「そっ、あの後貴方を探すのに結構苦労したんだから」


そう言えば沙耶香に功績を全部押し付けたからあの時人質になっていた人は皆。沙耶香に挨拶していたけど、まさか自分に来るとは思わなんだ。

そう思って居ると、カラニットは単刀直入に冬歌に言う。


「貴方、あんな英雄的行動をしたのにどうして誇らしげにならないのか不思議に思っちゃってね」

「あぁ…」


なるほど、結構細かいのが気になるタイプかと思いつつもある意味で当たり前かとも思った。


今の私はただのごく一般的な家の娘。そんな娘がこんなお嬢様学校に通う理由は上の者に顔を覚えてもらう上昇志向が強い子だけだろう。

私が助けに来たのを知って居るのかと思いながら、冬歌はそんなカラニットの問いに答える。


「簡単な理由です。私は『指示されてここに通って居るだけ』ですから」

「…ほぅ?」


そう言い、少しだけ興味深くなったカラニットに冬歌は答える。


「私は親に言われて通って居るだけです。人前に出たくないから虎寺嬢に功績を全部渡しただけです。…まぁ、一種の反抗に近いですよ」


一部嘘を混ぜながら答えると、カラニットはニヤリとして冬歌に言う。


「ふーん、自分が助けた事は否定しないんだね」

「…」


すると、カラニットはしてやったりと言った表情を浮かべる。しまった、これは墓穴を掘ったな…。

冬歌は内心しまったと思って居ると、カラニットは冬歌に茶化す様に言う。


「まっ、沙耶香嬢が救う行動をしたのも事実だし、銃を持って居るのはあの時に見て居るから言い逃れられないけどね」


そう言うと、カラニットはまるで小悪魔の様な表情で冬歌を見た。うわぁ、性格悪い人だ…。

すると、冬歌の心を読んだかの様にカラニットは言う。


「あら、私はいつでも小悪魔系よ?」

「…」


内心マジかと思いながら冬歌はカラニットを見ると彼女は冬歌に言う。


「この前、私を助けてくれたお礼に私の会社のパーティーに誘おうと思っていたのだけど…どうかしら?」

「JMC社の…?」


するとカラニットは懐から封蝋された封筒を渡しながら冬歌に言う。


「そうよ、貴方みたいな子が上層の人達と関係を持てる良い機会だと思ったんだけど」

「…」


家の防諜能力の高さはお墨付きだなと思いつつ、冬歌はカラニットの話を聞く。


「そこに居る家具屋の娘の分もあるから。指定された場所にこの紙さえあれば中に入れるわ」

「…」


さくらの事を家具屋の娘呼ばわりされ事に若干ムッとなりつつも、冬歌は良い機会かもと思いつつ封筒を受け取るとカラニットは冬歌に言う。


「じゃあね。また今度会いましょう」

「?」


最後に含みのある意味深な言葉を聞きながら、冬歌はカラニットを見送るとそのままさくらの元まで戻る。


「なんか先輩と話してたみたいだけど、誰だった?」

「ん?あぁ、カラニット・イェニエル先輩って言う人から招待状を貰ったよ。ほら、さくらの分まである」

「…えぇ!!招待状!?」


そう言い、さくらは招待状という単語に驚くとさくらの分の招待状を受け取っていた。

あぁ、そうか。普通の人はイェニエルがJMCの御令嬢だって思わないんだ。


違うベクトルの驚き方に冬歌は認識の違いを感じて居ると、さくらは封を開けて中身を見ていた。


「ほぇ〜、来月の十五の夜に新帝国ホテルの宴会場でやるんだ…」

「ふーん、新帝国ホテルね…」


いつも母と待ち合わせをする時などは母の好みと立地的に旧帝国ホテルの方が多い為、間違えない様にしないとと思って居るとさくらが冬歌に言う。


「ねぇ!冬歌って社交界に出るのって初めて?」

「そりゃそうでしょう。私はさくらと違うんやぞ」


と言うか、こっちは中学卒業まで殆ど外に出たことがない身だぞ。と言うか、普通社交界デビューは十六歳からだから…。


「て言うか、さくらは社交界デビューなんてしてたの?」

「ん?私も無い!!」


さくらが自信満々に言ったその瞬間、冬歌は椅子から転げ落ちた。


「さくらも無いんかい!!」


思わず冬歌はそう叫んでしまうと、さくらは招待状を見ながら言う。


「冬歌。社交界の時、どんな服で行く?」

「そりゃ…まぁ妥当な服でしょうね…」

「じゃあ、ドレスとか?」

「だからって派手なの着るんじゃ無いよ」


さくらの事だからやりかねんと思って先に忠告を入れると、さくらはわかって居ると言わんばかりに反論する。


「分かってるって。だからお母さんから色々と聞くよ。あの人しょっちゅうお父さんと社交会行って居るし」


そう言うと、なぜか脳裏に芹一さんと蘭子さんが腕を組んで社交界を楽しんでいる姿が浮かんだ。あのお似合い夫婦なら確かに社交界を楽しんでそう…。

まぁ、家具屋を営んでいると言う事はそれだけ多くの家に顔を覚えてもらった方が品物も売れて良いだろうと思っているとさくらは冬歌に提案する。


「あっ!どうせなら冬歌の分もやって貰おうよ!!」

「え?」


するとさくらはいい事を思いついたように冬歌に提案する。


「冬歌、多分そう言う服とか持っていないだろうからさ。私とかお母さんがついでに選んであげるよ」

「え、でもそれはいくら何でも迷惑じゃない?」


そう言うと、さくらは無問題と言わんばかりに冬歌に言う。


「大丈夫。事情を言ったら理解してくれるから」

「そうなの…?」


そう疑問に思ってしまうと、さくらは冬歌の手を持つと教室を出て行く。


「さて、そうと決まれば行きますか」

「えぇ!?今から?!」


思わず冬歌はさくらのフットワークの軽さに思わず驚いしてしまうのだった。

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