#16
「お前…まさか…!!」
ビルの屋上で首を掴まれて今にも死ぬかもしれないと言うのに、宇野は自分の首を掴む少女の正体を見て思わずそんな言葉が漏れてしまう。
すると、自分の変装が解けて居ることに気づいたのか、冬歌は慌てて距離をとって流れた。
「チッ…」
すると、その姿を見て思わず宇野は冬歌に言う。
「お前…ゼーロなのか…?!」
そう言われ、冬歌は宇野に吐き捨てる様に言う。
「ゼーロ?一体誰の事だ?」
すると、宇野は冬歌を見ながらそれは嬉しそうに言う。
「いや、間違いない。お前、ゼーロなんだろ?!」
「…何を言って居るんだ?」
しかし、宇野は嬉しそうに声を上げて冬歌に言う。
「良かった、君を探していたんだ!!さぁ、ファーターが呼んでいるんだ。迎えに来たんだよ!!」
「…」
宇野の興奮した声を聞き、冬歌は宇野に吐き捨てる様に言う。
「お前は勘違いして居る。私の親は狼八代雪だ」
「何を言って…っ!!」
そう言ったその時、冬歌と宇野の居た屋上に黒服を着た複数の狼八代家の術士が上がって来た。
「お嬢様!!」
「下がって下さい!!」
そして、冬歌を守る様に術士達は囲うと冬歌は最後に宇野に向かって言う。
「一応言っておこう…私は狼八代冬歌だ。人違いだと言っておこう」
「お、おい!!何処に行くんだよ?!」
そして、宇野はやや震えた声で言うと冬歌は宇野を見ながら呟いた。
「…やって、心陽」
『はい、お嬢様』
その瞬間、宇野の後ろにあった帝都一高い電波塔の対岸にある帝都スカイタワーの展望台の上から発砲炎が一瞬だけ映り、宇野の右肩を撃ち抜いた。
「っ…!!」
ビルの屋上に撃たれた宇野の血で出来た華が散り、咄嗟に撃たれた宇野は右肩を掴んだ。
思わず宇野は対岸の帝都スカイタワーの方を見ると、そこには消音器付きのDSR-1を構えてスコープを覗く心陽の姿があった。
狙撃されたのだと理解した後、宇野は血を流しながらも冬歌に向かって宣言する様に言う。
「…俺は諦め無いぞ。ゼーロ、お前が帰ってくるまでな」
「勝手に言うと良い。私の家族は狼八代家だけだ…!」
そう言い、冬歌が指示を出して宇野を捕えようとした時、宇野は口角を上げると、冬歌に向かって言った。
「今日はダメだったが、俺はいつでもお前に会うぞ。皆んな、お前を待って居るからな」
そう言うと、宇野は隠し持っていたアルコール入りの瓶を投げつけた。
「っ!離れろ!!」
その瞬間、咄嗟に冬歌は叫ぶと最後に宇野は冬歌に言う。
「じゃあ、ゼーロ。また会おうぜ」
そう言ったその瞬間、投げた瓶に向かって発火術式を使用して目の前で爆発させた。目の前で炎による目眩しを喰らい、その隙に宇野は逃げ出していた。
「追えっ!近くにいるはずだ!!」
そう言い、咄嗟に護衛の一人がそう言うも、冬歌は言う。
「無駄だ。もう既に奴は追えない。追わなくて結構」
「はっ、了解致しました…」
そう言い、宇野を逃したことを内心悔やみながら冬歌はやって来た護衛に指示をする。
「奴の能力は発火術式だ。追っても逃げ切られる。それよりも次の奴の動きに注意しなさい」
「はっ…!」
護衛がそう答えると、冬歌は服についた返り血を術式で分解すると護衛に言う。
「私はこのまま会場に戻る。お前達は捉えた左翼の男から情報を聞き出しなさい」
「了解しました」
そう言うと、冬歌は最後に護衛に言い残す。
「これから、ベースカラーが相手になる。母上に事細かく報告をしておきなさい」
そう言うと、冬歌は拳銃を鞄にしまいながらビルを降りていった。
その時の表情は窺い知れなかったが、それも悔しいに違いないと思っていた。
宇野を追い詰めたにも関わらず逃した事に、思わず冬歌は誰もいないビルの間の壁を殴る。
「…」
一発殴ってスッキリしたのか、冬歌はそのまま会場に戻ると花火大会の入り口でさくらが冬歌を待っていた。一応事前に変装具に問題ないかと確認をすると冬歌は何も無かったようにさくらと合流する。
「ごめん、待った?」
「もう、遅いよ冬歌。危うく始まるところだよ?」
「ごめんごめん、結構混んでいたからさ」
そう言い、二人は見物席に入ると指定された席に向かうと、そこには前に出会った事のある狸道芹一と、一人の女性と少年が座っており、少年がさくらを見た途端に声を上げて手を振っていた。
「姉ちゃーん!!こっちだよ〜!!」
そう言う、少年に思わずさくらは呆れた様に言う。
「えっと…?」
「ごめん、アレがウチの弟です…」
そう言い、ゲンナリするさくらを見ながら冬歌はまず初めに芹一に挨拶をする。
「お久しぶりです。芹一さん」
そう言うと、芹一は挨拶に来た冬歌を暖かく迎える。
「あぁ、久しぶりだな。冬歌くん、よく来てくれたよ」
「こちらこそ、御招待してくださってありがとうございます」
そう言って頭を下げると、芹一は気にしていない様子で軽く笑った。
「いやいや、お礼ならさくらに言ってくれ。元々さくらから言って来た事だからな」
そう言い芹一との挨拶を終えると、さくらが横にいた女性を紹介する。
「冬歌、紹介しておくよ。この人は私のお母さん」
すると芹一の横にいた女性が冬歌を見て挨拶をする。
「初めまして、狸道蘭子と言うわ。さくらをいつもありがとうね」
「初めまして。私もさくらには色々とお世話になっています」
そう言い、さくらの母と挨拶を済ませると次にさくらはその横にいた少年を見た。
「…んで、コイツが弟の「狸道桔平!!」…見ての通り体力馬鹿な愚弟です」
「愚弟言うな!!それに体力馬鹿なら姉ちゃんもだろうが!!」
「なんだとこの野郎!!」
そう言い、さくらと桔平は火花を散らし出していた。その様子を見ながら、冬歌はさくらの首を軽く持つ。
「はいはい、姉弟喧嘩はやめようね」
「ぐえっ」
そう言い、無理矢理引き離すと桔平は冬歌を見て挨拶をする。
「初めまして冬歌さん。いつも姉が迷惑をかけて居る様で申し訳ありません」
「あらあら、しっかりした弟さんね。今何歳なの?」
「この前十四になりました!」
そう言い、桔平は冬歌を見てそう話す。すると、後ろでさくらが桔平に揶揄いながら言う。
「ちなみに桔平はこの前学校の授業中に火事を起こしかけて大目玉喰らったけどね」
「むっ…そう言うと姉ちゃんだって家庭科の授業中に刺繍出来なくて冬歌さんに泣きついたらしいじゃん」
「なっ!お前どこでその情報を…!!」
そうして水掛け論になって居るのを見ながら蘭子が申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさいね。騒がしいでしょう」
「いえいえ、仲が良くて結構だと思います」
そう言い、喧嘩するほど仲がいいと言うのを体現した様なさくらと桔平の水掛け論を見ながら冬歌も少しだけ面白く感じながら二人の喧嘩の仲裁に入る。
「ほらほら、もうすぐ花火が打ち上がるから。気分よく見ようね」
「あ、はい…」
「す、すみません…」
そう言い、恥ずかしさから顔を赤くして二人は水掛け論を止めると、アナウンスがあった。
元々この花火は江戸時代から続く伝統的な花火大会であり、元々は悪病退散を込めて打ち上げられた花火だそうだ。それから度々打ち上げられていたが、伝統となったのは昭和初期でその時に長崎出身だった時の東京都知事が地元の文化を持ち込んで、お盆の最後に盛大に花火を打ち上げるのが恒例となっていた。
何千発もの花火が打ち上がることもあって海外からも観光客が押し寄せていた。
大勢の観客から声が上がる中、冬歌達は最もよく見える場所で椅子に座ってゆったりとした時間を過ごしていた。
上空に咲く火の華は大きく音を立てて夜空を彩っていた。それはとても綺麗で、今の冬歌の曇った感情を光と音で吹き飛ばしていた。
「始まったか…」
隅田川に架けられたとある橋の下で、心陽の狙撃で撃たれた右肩を治癒術で出血を止めながら宇野は仲間が到着するのを待っていた。
北の方角では花火が上がり、夜空を彩っていた。
「綺麗だなぁ…」
宇野はそんな事を呟きながら花火を見て居ると、河岸に車が止まってそこからクワトや仲間が降りてくる。
幼い頃から同じ飯を食ってきた仲であり、家族だ。同じ施設で暮らしてきた為に仲間の負傷の話を聞いて飛んできていた。
「大丈夫?!」
「あぁ…出血は止めた。弾も貫通していたからな」
「ちょっと待ってて。すぐに治すから…」
そう言い、緑髪の少女は宇野の傷口に札を貼り付けるとそのまま回復術を使用する。
淡く札の五芒星の部分が淡く光ると、穴の空いた右肩の銃痕はみるみる消えて行く。
「うっ…!!」
すると傷口から軽く湯気が出て宇野が呻き声を上げるも、穴が塞がると宇野は回復術を使った少女に言う。
「すまねぇ。瀬井」
そう言い、瀬井と言われた緑髪の少女は回復術を切ると宇野に聞く。
「結構な重傷だったけど、誰にやられたの?」
そう問うと、宇野は答える。
「ゼーロ…いや、正確には狼八代冬歌と言うべきか…」
「え…?」
すると宇野は立ち上がるとそのまま立ち上がって打ち上がる花火を見ながら言う。
「偶々だったが、狼八代冬歌と会った。アレは間違いなくゼーロだった…」
そう言うと、全員が驚いた表情を見せる。
そして宇野は隅田川の花火大会を見ながら呟く。
「アレは俺たちの開戦の狼煙だ…これから俺達は狼八代家と戦う事になる。確実にな…」
そう呟くと、宇野達は花火を同様に眺めていた。
同じ頃、花火を間近で見ていた冬歌はそこで花火を見ながら水面下で起こるであろう戦闘を想像してしまう。
「(まさか、日本に来て居るとは…)」
冬歌は過去の記憶を、自らの傷を掘り返しながら横で花火を楽しむさくらを見る。
私はさくらとこのままの関係を維持できない可能性が高い。
さくらを巻き込まない為にもここで一度関係を切ってしまった方が良いかもしれない。これから起こるかもしれない事はさくらには余りにも危険すぎる。これは私と、狼八代家で解決しなければならない問題だ。
無関係のさくらを巻き込んでしまった場合、私は面目が立たない。
私はさくらと距離を取る為に話しかけようとした時。
ドドーーンッ!!
花火大会で一番大きくて盛大な花火が上がり、さくらに話しかけようとした私は思わずその伸ばした腕が止まってしまった。
私にせっかく出来た友人を手放す勇気は私には無かった。
一人になるのが怖いと感じてしまう。
今まで箱入り娘で育ってきて初めて公の場で過ごして来て、そこで出来た友人。私が皮をかぶって居る事にも気づかず、変わらなく接してくれる友人を失う恐怖が私の中にあった。
その恐怖が私の伸ばした腕を元の位置に戻していた。
その時、最後の盛大なフィナーレが終わり、花火を見終えたさくらは陽気に冬歌に話しかける。
「いやぁ〜、すごいいい花火だったね!」
あぁ、私は満足に花火大会すら楽しめないのか…。




