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帆布に描くぎじゅつ  作者: Aa_おにぎり


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#10

七月二五日

帝都 学業院講堂


その日、自分達は夏休みを迎えることとなった。この前の襲撃事件でカリキュラム変更の影響で少し遅れての夏休みだが、これからどう過ごそうかと言いながら彼等は楽しみにしていた。

相変わらず無駄に長いと感じる校長の話を聞きながら冬歌達は講堂を出る。


「終わったぁ〜…!!」


講堂を出ながら腕を伸ばすさくら。そんな彼女を見ながら私は軽く注意を入れる。


「こらこら、また面倒な事になるよ?」

「誰も見ていないから良いよ。別に」


そう言いながら二人は教室に戻る。虎寺達のクラスは普段は別なのだが。時折、ウチらのクラスにやって来る事がある。その時は大体、自分目当てなのだろが…。




自分は狼八代の娘であると虎寺沙耶香には明かした。理由は簡単で彼女が狐山を使って私を探るっているのが面倒だったから。

まぁ、あの事件で下手に脚光を浴びたくないと言うのもあるにはあった。


私がこの学校に通う理由は簡単で、母に『せめて大学まで出て欲しい』と言われたからだった。まぁ日本だと大学を出ていた方が何かと良いとは聞いていたから、私も特に反対する事なく此処を受験していた。


正直成績はギリギリだったかもしれないが、合格できた事にはホッとしていた。

そしてこうしてさくらという友人も出来た訳で、内心ホッとしているとさくらが気になった様子で聞いて来る。


「ねぇ冬歌。この前銃の使い方を教えてくれた時にさ、凄い上手だったじゃん。誰から教えてもらったの?」

「ん?あぁ、昔教えて貰ったのよ。その時、ついでに免許もね」

「ほぇ〜…」


そう話すと、さくらは納得した声をしながらまた冬歌に聞く。


「ねぇ、冬歌は夏休み何処かに行くの?」

「え?あぁ、私は実家に帰るかな…」


自分の予定を思い出しながらそう答えると、さくらはある提案をした。


「いつぐらいに帰って来る?」

「うーん、終戦記念日までには戻って来るつもり」

「おぉ!じゃあ一緒に花火に見に行かない?」

「花火…?」

「そう、これ」


そう言い、さくらは携帯からある画面を見せた。それには夏休み期間中に行われる花火大会について書かれていた。


「ほぅ、花火大会ねぇ…」

「ウチが協賛しているから特等席だよ。丁度余っているからどうかなって」

「おぉ、なんと!!…ちょっと、お願いしようかしら」

「やった!冬歌なら来てくれると思ったよ!」


そう言い、さくらは嬉しそうにするとそのまま教室に戻って荷物を手に取る。

今日はこれで終わる。既に上級生達は鞄片手に校舎を出ており、寄り道をする気満々であった。


「じゃあ、また後でね」

「ええ、またメールで相談しましょう」


そう言い、さくらと校舎前で別れると冬歌はそのまま駅へと向かった。




駅に到着するとそこでは心陽が既に待っており、冬歌は車に乗り込むとそのまま移動を始めた。


「冬歌様、今日のご予定をお伝えいたします」


車内で移動中、心陽は冬歌に予定を伝える。長々と細かく伝えたっる予定を聞き、面倒だと内心思いつつも。もう、慣れた事だと思いながら冬歌は離れていく帝都の景色を眺めていた。






====






高校生初の夏休みを迎え、私は実家である狼八代家本邸に行く。

春以来とは言え、とても懐かしく感じるのは矢張り、あの事件があったからかも知れない。


帝都同時多発テロと呼ばれる左翼団体による政府機関への攻撃により、日本政府は国内から左翼団体への圧力を強め、更にはあの術師も指名手配される事になった。

朧気な写真でとても情報が集まるとは思えないが、それでもあの写真が公開された事で動きづらくはなっただろう。

そもそも、関東全域で捜索したが見つからなかったという事は、術を使っていないから一般人に紛れてしまっては見つかるはずが無かった。


「ふぅ…さくらに連絡をしなくちゃ…」


自分と違い、帝都に家を構えるさくらは色々と便利で良さそうだなと思いながら携帯でメールを送っていると。冬歌を乗せた車は高速に乗り、そのまま走り出す。


さくらに自分の正体を明かそうとはまだ思っていない。さくらの事だからきっと明かしても関わり方を変える事はないだろうが、そのことが周囲にバレてしまった時の方が面倒だった。だから、もし明かすにしても高校を出てからになるだろう。


元々、白狼種はとても希少な種族。獣人であり、明治に開国する前からヨーロッパには伝承が伝わっており、何かと付け狙う輩がいたのも事実だった。




少しして、高速に乗るとそのまま北上する。

そして数時間の後、秩父に入るとそのまま街外れにある道を走り、そのままトンネルに入る。

すると走っていたトンネルの壁の一部がスライドし、そこから更に奥に続く通路が現れた。

そう、ここは既に狼八代家の敷地で、私の乗る車であるとトンネル入り口の機械が認識し。こうして家に続く扉が開いていた。


明治以降の列強による獣人の連れ去りが起こっていた状況を見て私の家の祖先は身を隠し、日本という国を裏から操っていた。

古くは平安の時代から居たとされる北関東を収めていた神職系の家系であり、強い術が使えると言うのが一般的な知識であった。


そしてトンネルを抜けると、そこには古典的な和式の屋敷が有り。周りを漆喰で塗られた塀で囲まれていた。

そして冬歌を乗せた車は屋敷の中の駐車場に停車するといつも付けている変装具を取り、雪色の髪や天藍色が特徴的な白狼種としての冬歌が車を降りた。

制服のままであるが、家に着いたら何よりもまず寄らなければならない場所があった。


冬歌は屋敷に向かうと、入り口で待っていた一人の燕尾服を着た男性が冬歌を待っていた。

彼は狼八代家当主…自分の母親の執事をし、同時に心陽の父親である瀬戸湊斗であった。

すると湊斗は冬歌がやって来たのを確認すると彼女に言った。


「御当主様は執務室におられます」

「ありがとう」


そう言うと、冬歌は靴を脱いで屋敷を歩く。

此処は元々小さな盆地のような場所で有り、上は先祖が作った結界のおかげで覆われており、航空偵察でもその姿が見える事はなかった。

屋敷の内部は半分ほどが洋式に改造されており、日本庭園の奥に煉瓦作りのその建物が見えていた。

少なくとも帝都にある別邸よりもはるかに大きく、移動するだけでも大変なものだ。




そんな武家屋敷のような通路を通過し、奥の洋風の屋敷に入った冬歌はある場所に到着する。


「失礼します」


そう言い、部屋に入るとそこには部屋の椅子でゆったりとした様子で電話をしている母の狼八代雪の姿があった。

彼女は何処かと電話をしている最中だったようで冬歌は静かに部屋の扉を閉じていた。


「ーーえぇ、ではそう言う事で。失礼します」


最後にそう言うと受話器を置き、雪は部屋に入って来た冬歌を見て彼女の優しい声色で言う。


「お帰りなさい、冬歌。学校はどうだったかしら?」


聞かれた冬歌は笑顔で答える。


「とても楽しいです。学友もできましたし、今度の花火大会にも誘われましたし…」


そう言うと雪は少しだけホッとした様子を浮かべながら冬歌に言う。


「それなら良かった…この前の事件で心配していたのよ」

「あぁ、それなら問題ありません。お母様」


そう言うと冬歌はソファーに座ると雪と話す。

雪の命令で学校に通う冬歌はそこで良い経験を積んだと言い、帰って来たことの報告を済ませた。


「じゃあ、私はこれで。少し着替えて来ます」

「学校もあって疲れているでしょう。今日はゆっくりと休みなさい」

「はい」


そう言うと冬歌は執務室を出ていった。




執務室を後にし、冬歌は屋敷に戻るとそこで向かってくるある人物を見かけた。

すると、前を横切るように歩いていた少女も冬歌を見つけると嬉しそうに駆け寄って来た。


「義姉様!!」

「久しぶりね。杏」

「はい!義姉様もお元気そうで何よりです!!」


彼女の名は柿山杏。自分と同じ白狼種で、赤い瞳が特徴である。狼八代の分家の一つである柿山家の長女で有り、冬歌の従妹であった。歳は自分の一個下で有り、出会った時から冬歌を慕ってくれていた。


「いつからここに?」

「一昨日からです!義姉様!」


母はあまり杏と会う事に良い表情はしないが、私は彼女と話すことは好きだからそう言ったこともあまり気にしていない。




杏は冬歌と会えた事に嬉しさを垂れ流していると、羨ましがるように冬歌の学業院の制服を見ながら言う。


「あぁ、これが学業院の制服…よくお似合いです。義姉様!」


普段は大阪で狼八代家の保有する貿易会社の社長を務める柿山家はお盆の時期や正月の時などしかここには来ないので、杏と会う機会は少なかった。

制服を見て羨ましそうにする杏を見て、私はふと提案をする。


「じゃあ杏も学業院に来れば?私の友人もいるわよ?」


そう言うと、杏は申し訳なさそうに冬歌に言う。


「申し訳ありません。義姉様と通いたいのは山々ですが、私は大阪の学校に行くよう言われておりますので…」

「そう…」


そう言い、少しだけ寂しくも思ってしまうが、柿山の通う予定の高校は学業院と姉妹校の為、いずれ会う機会もあるだろうと思いながら冬歌はそこで別れる。


「じゃあ、また後でね」

「はい!また祭事の時に会いましょう」


そう言うと冬歌は杏と別れるとそのまま屋敷を歩き、その中の一室に入る。

部屋は畳が敷かれており、ベットと勉強机や本棚が置かれた普通の女子の部屋といった様子であった。

荷物も置かれており、数ヶ月前まで暮らしていた部屋に帰って来たと思うと冬歌はそこで制服を脱いで部屋着に着替えるとそのままベットに横になっていた。


「…」


ベットで横になった冬歌はそこでゆっくりと目を閉じるとそのまま少しだけ仮眠をとる事にしていた。






====






「はぁ…はぁ……」


曇天の雨の中を一人の子供が走る。


その子供は頭に薄汚れた布を被り、顔を隠すように走り、たまに後ろを確認していた。


その姿はどこか逃げているようにも見え、その子供は息を切らして走っていた。


雨が降り、辺りは暴風雨のように吹き荒れ、遠くでは紺色の雨合羽を来た複数の大人が探し回るように走っていた。

すると子供を見つけた一人の犬の獣人の警察官が得意の嗅覚から匂いを辿ってその子供のいる方を指差して叫んでいた。


『居たぞ!!あそこだ!!』


そう言うと『POLICE』と書かれた雨合羽を着た大人は大雨が降る中、その子供を追いかけていた。

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