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#1



それは日本人にとっては新たな出会いや新生活が始まる時期だろう。

新しい生活などに期待を膨らませる者もいる中、新生活に心配を置く者も一定数居るのは確かだ。

そしてここに、そんな新生活にそれほど心が躍らないものが一人いた。






六月二日

大日本帝国 帝都東京

学業院女子部高等科


その日、名だたる華族しか入れない学院に一人の少女が足を踏み込む。

少女は肩まで伸びた三つ編み一本に整えられた黒い髪を持ち、眼鏡を掛け。瞳も鴉のように黒かった。頭のてっぺんには尖った犬の様な耳を持ち、時々耳を動かして外の声を聞いていた、

最近は髪を短くする事が流行りのようだが、そんな事に気に求めずに少女は学園の通路の端を歩く。

周りでは他の丸っこい形をした耳や、縦に長い耳など、多様な動物の耳を模した少女達が歩き。中にはその耳がなく、顔の側面に耳がある者も居た。

そんなセーラー服を着てキラキラしている少女達に目をやられながら少女は歩く。


「はぁ〜、神様は不平等だ…」


もしここに神様が現れたらその頬をつねりたい。

そんな叶えられない願望をしながら少女、上代冬歌(かみやしろとうか)は今日もトボトボと教室まで歩いて行った。




教室に着くとそこでは既に大勢の生徒が席に座っており、自分と同じセーラー服に身を包んだ女生徒達が集まっていた。

さすがは名門校、見た事ある顔が揃ってる事揃ってる事。

役者の娘に大企業の愛娘、政治家の子etc…

自分から親の事を話したり、苗字、身なりから大体誰が何処の子なのか分かってしまった。自分から親の事を鼻にかけてベラベラと喋るからそれに耳を立てているのが最近の趣味だ。


学校生活が始まった最初に友達作りに失敗した私は窓際で日光を浴びながら静かに過ごす生活を続けていた。




今日も憂鬱な一週間が始まると思いながら机の上に教科書を並べていると、不意に私は声をかけられる。


「冬歌ちゃん!」


その方を向くと丸っこい狸耳を持つ、自分とは真逆の世界にいそうな明るい様子の少女が私を見ていた。その少女を見て私も軽く笑みを浮かべて答える。


「ええ、おはよう。さくら」


彼女の名前は狸道(りとう)さくら。私のこの学校唯一の友人である。教室で一人で弁当を食べていた所を声をかけられてから親しくなったのだ。

さくらは計算力が異様に高く、話し上手で、話しているととても楽しかった。

そんな数少ない友人のさくらは私に声を掛けると、そのまま持っていた荷物をドサリと置き、そのまま私に話しかける。


「今日の朝礼だるいなぁ〜。校長先生の話長すぎるよ〜」


そう言い、愚痴るさくらを私はよく宥めている。


「仕方ないわよ。まだ座れる様になっただけいいと思えば…第一、内容なんて覚えていないでしょう?」

「まっ、それもそうか」


そう言い、さくらは冬歌と話していると始業のチャイムが鳴り、担任の教師が入ってくると私達は講堂に集められることになった。




前までは校庭に集まって整列をしてジリジリと熱い炎天下の中を永遠と朝礼を聞いていたが、ある日。朝礼中に貧血やて熱中症で倒れた少女が居た事からここ最近はずっと講堂の中やテレビ通信で行なっている。

しかし、これだけは言わせて欲しい。何故新入生だけが行動に移動しなければならないのかと…。


『ーーーえー、と言うわけでここ最近は不審者が増えて来ているので注意して登校してください。また、一人出て歩かない様に。特に夜の道にはよく気を付けてください。校長からは以上です』


校長から十分以上の長話を真面目に聞く生徒はおらず、一部は寝ている始末。無理もない、何せもう直ぐ中間テストが始まる。その為、テスト勉強疲れが溜まっているのだ。

それも先生はわかっているから何も言う様子はなかった。そして朝礼は終わり、生徒が教室に戻る中。さくらが再び聞いてくる。


「ねぇねぇ、この話知ってる?」

「?」


そう言い、さくらはあるネット記事を見せてくる。そのには『またも焼死体発見か!?』と言う見出しとともに詳しい情報が記されていた。


内容を読むと神田のある裏路地で右派の活動家が焼死体となって発見されたらしく。これで先月から合わせて六件目の焼死体事件となった。

被害者は右派のモンゴル進駐を訴える者ばかりで警察は右派を狙った連続殺人事件として捜査している旨などが書かれていた。


「また、焼死体事件ですか…」


冬歌はそう言うとさくらかニュースを見ながら言う。


「なんか怖いね。ここ最近ずっとこんな時間ばかりでさぁ〜」

「そうね、私達も気を付けないと」


不穏なニュースを見ながら話していると何やら騒がしい声がしてくる。その主を見たさくらが思わず逃げる様に私の手を取った。


「虎寺お嬢様のお通りよ。行きましょう」

「あ、うん」


そう言い、冬歌とさくらは廊下を出て一旦中庭に出る。

すると先ほどまで冬歌達のいた場所を一つのグループが歩く。

その真ん中を歩くのは虎耳を持ち、黒髪の中に金髪が混ざった虎柄の髪を持つ少女だった。少し吊り目で威圧感があり、女王のような風貌をしていた。

その周りには彼女と同じ様にセーラー服に身を纏う取り巻きが何人もおり、周囲の人間は避けている様だった。

その堂々たる姿に遠目で見ていたさくらは皮肉をこめながら、らしくなくお嬢様口調で呟く。


「やれやれ、皆さんお元気そうでなにより。呆れてしまいますわね」

「ははは…よくそんなこと言えるよね。流石だよ」

「いや、あれ見て冬歌も思わない?胡麻を擦ってできた関係なんて一本の絹糸の様な関係よ?だったら私は関わりたくないね」


さくらの持論に思わず吹き出しそうになってしまう。

中々変わった思考を持っているところも、私は好きだ。さくらは基本的に物怖じしないタイプの人な為、いざという時は自ら前に出てってくれたりする事をあった。

率直な感想を述べるさくらを見ながら冬歌は廊下を歩く虎耳の少女を見ていた。


虎寺(とらじ)沙耶香…軍人家系である虎寺家の御令嬢…」

「そう、同級生の虎寺沙耶香嬢は特に祖父の虎寺博通のお気に入りでもあるの。だから余計でしょうね…」


そう言い、さくらは沙耶香達のグループがいなくなったのを見ると廊下に戻って沙耶香達のグループを見る。


「あぁ…やっぱりいた」


そう言うと、さくらは沙耶香達のグループの中で沙耶香の右隣にいる狐耳を持つ同級生を見る。


狐山(こやま)愛結…彼奴か…」

「ん?どうかしたの?」


さくらの呟きに疑問に思う冬歌だったが、さくらがその訳を話した。


「『あの狐山の会社が最近参入してくる!』ってうちの父が言っていたの。ライバル社の参入よ…!!」

「ああ、そう言うね…」


そう言い、冬歌は横で苦笑しながら言う。

彼女の家は帝都でも有数の家具店である『狸道家具』を営んでいる。ウチにもその会社の家具が置いてあり、品質においては関東一だろう。

対する関西では『狐山家具屋』と言う会社が存在し、東の狸道・西の狐山と言われるほどだった。

そんなライバル会社が参入してくると言う事実にさくらは一人で燃えていた。そんなさくらを見て商売根性逞しいなぁと思いながら感心していた。






それから時は過ぎ、今日の授業が終わった冬歌とさくらは校内を歩く。

駐車場には大量の迎えの車などが停まっており、自分たちの主人が帰ってくるのを待つ中、ある者は部活へと向かい、またある者はそのまま教室に残り、ある者はそのまま帰路に着く。

自分達は帰宅部を選択しているので、このまま何処か寄り道を少しして帰ろうかと話しながら高田馬場駅から山手線に乗り込む。


「あっ、そうそう。渋谷に新しいクレープ屋が出来たんだって」

「へぇ〜、そうなんだ〜」

「今度行ってみる?」

「おぉ、いいね」


そんな他愛も無い話をしながら列車に乗り、に移動する。

列車の広告には『モンゴルへ進駐か!?平和派遣部隊の派遣を巡って大論争!』と書かれた見出しの週刊誌の広告が貼られ、他には家電やら飲料水の広告などで埋まっていた。

列車に乗るのは主に学校帰りの他学校の生徒や会社員、主婦の姿もあった。


いつもと変わらない通学路で親友と学校での愚痴などで盛り上がっていると、冬歌は変な匂いを感じる。


「この匂い…」


少し鼻をヒクヒクさせて違和感を感じた彼女に首を傾げていた。


「ん?どうかした?」

「いや…少し、焦げた匂いがして…」

「え?」


そんな彼女にさくらが疑問に思った瞬間、列車に乗っていた一人の会社員らしき人物から火の手が上がった。


「「っ!?」」

「うわぁっ!!」

「きゃぁぁああ!!」


その瞬間に悲鳴が上がり、逃げ出す乗客。

目の前で上がった炎にいきなりの事に呆然する狸道。

咄嗟に私は彼女の肩を掴んで横に倒れ、直後にさっきまで顔のあった場所に炎が襲った。


その後、誰かが車内にあった消化器を持って燃えた人に向かって消火剤を撒くが、火は収まらずむしろ強くなる。それを見て消化器を掛けた人が驚いて後ろに倒れてしまう。列車内のサイレンが響き、列車が急停車して人々が前に投げ出されそうになる。


「消えない火…それにさっきの匂い…間違いない」


周りが困惑する中、咄嗟に冬歌は懐から赤いインキで二つ巴に文字が印字された紙を取り出した。


「目の前の現象を抑える感覚…息を整え、抑える様に…」


そう呟いて冬歌は意識を集中すると持っていた札のインクが淡く光り、目の前に出すと広まっていた炎は弱まっていき、すぐに鎮火した。

現場には焼け焦げた椅子や棚と焼死体。そしてぶち撒けられた消火剤だけが残っていた。


「はぁ…はぁ…」


少し冷や汗を出しながら冬歌は息をしていると線路上で停車した列車の扉が開けられて中に一斉に駅員や警察などが入って来て安全確認や実況見分、乗客の退避などが行われていた。




「あ“あ”あ“疲れたぁ〜…」

「本当…ね…疲れちゃった…」


駅から離れて行く中、二人は使った様子でそう言う。時間にして午後七時。三時間ほどみっちり事情聴取をされて二人はグッタリしていた。


「…しばらく野菜だけで良いや…」

「うん…そうだね…」


少なくとも肉の焦げた匂いが充満していたあの車内を連想するから、肉は食べたくないと言いながら二人は駅を後にする。新宿で降りたは良いものの、さくらは代々木上原、冬歌は目黒に家があるのでさくらは列車でそのまま帰れるが、冬歌は目黒まで歩かなければならない。

さくらは両親が車で迎えに来ており、送ってあげようかと提案したがそれを冬歌は断ってさくらは迎えに来ていた車に乗り込んで走って行った。


「じゃあ、また明日」

「ええ、また明日ね」


そう言い、さくらは車を発進させる。海外の高級車に乗るさくらは金持ちなんだと言う表情を浮かべながら冬歌は車が見えなくなるまで沿道で立っていた。




それを見送った冬歌はそのまま新宿の駅前で待っているとロータリーの隅に停車する一台の黒塗りの車を見つけ、冬歌は近づくと車の側で立って待っていたスーツを着た女性に労いを受けた。


「お疲れ様でした。お嬢様」

「ええ、出迎えありがとう」


そう言い、冬歌は車に乗り込むと女性は車の扉を閉じてそのまま運転席に乗り込んで車を走らせる。

新宿の灯りを眺めながら冬歌は付けていた髪飾りと眼鏡を外す。すると、黒髪だった髪の毛は解けて雪色となり、鴉の様な目は天藍色に変化し、地味な雰囲気だった冬歌の姿はみるみる内に変貌していた。


「はぁ、隠れて過ごすのもなんだか癪ね…」

「それは仕方ありません。お嬢様、暫しの時間で御座いますので。ご辛抱を…」

「まっ、面白いから良いけど」


そう言うと冬歌を乗せた車は東京を走り抜けていた。

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