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裏と表  作者: 全一
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就職活動で忙しくてなかなか書き込めませんでした!

次です。

さて、これからどうしたものだろう。電灯だけが頼りの公園で訳のわからない女の子と二人きりっていう光景は滑稽すぎる。なんというのか、対応に困る。とりあえず自己紹介でもしておくかね。

「あー……俺の名前は柳佑人。御津根西高校に通っている高校一年生だ。それぐらいしか自己紹介できるものはないな、うん。」

 自己紹介って意外にあっさり終わるもんだなおい。

「ご丁寧にどうも。私は麻倉雪菜よ。機構大学大学院修士課程一年生。研究の資料集めのためにオリジナルへ来たわ。」

 薄暗くてよく分からないが思ったより年を取っているんだな。あれ?院生……?はて、学生服を着ているように見えるが。

「アンタが何考えてるか当ててあげましょうか?なんで私が学生服を着てるか、でしょ?」

 頭に浮かんだ疑問をぴったりと当てられた。野球ならホームランだぜそれ。

「先に言っておくけど私飛び級で大学行ってるからこれでも16歳よ。ちなみに学生服は偽装用。年に合ったものを着ていれば怪しまれないでしょ?」

 頭がいいのだか悪いのだか分からない。言いたいことは分かるが私服でも怪しまれることはないと思うぞ。

「それよりアンタ少しは気をきかせなさいよね。何が悲しくて公園なんかで冴えない男と二人で会話しなきゃならないのよ。どこか案内しなさいよ。」

 冴えないって……。

「一言多いぞ。おーけー分かったよ。近くにファミレスあるからそこで話を聞こうじゃないか。それでいいだろ?」

「言っておくけど私オリジナルの紙幣なんて持ってないわよ」

 初めから期待してないから大丈夫。



 ファミレスの角の席を取ることに成功した。突拍子もない話が大量に出てくると予想している俺にとっては好都合の席だ。

 俺の正面に雪菜が座る形になった。明るい場所で改めて雪菜の姿を見る。

 透き通った白い肌、名前の如く太陽に照らされた雪のように銀色に輝いている髪。そしてその少し癖の付いている髪を両側で結んでおり、それと同調している蒼い瞳。美少女という代名詞のために生まれてきたのではないだろうか。身柄を預かるのも悪くないと思えてくる。

「……なにジロジロみてんのよ、気持ち悪い」

 性格は良くないみたいだな、うん。

「んー、どこから話そうかしら。聞きたいことある?」

「ありすぎて困るぐらいだ。出来れば普遍的な高校生にもわかるように一から説明してくれると助かる。」

「そうね、それじゃぁ……」



 パラレルワールド論。条件の違う世界が同時多発的に存在しているという考え方がある。雪菜が来た世界は、俺のいる世界から見たパラレルワールドに近いものらしい。分かりやすい例えとしてコインの表を見てくれ。10円玉なら平等院鳳凰堂が書かれているだろ。この表側が俺らのいる世界。しかし10円玉は表だけでは存在できない。なぜなら物質というのはそちらが『表』と決めた場合、逆側は『裏』になってしまう、つまり物が作られた時点で表裏は形成されているのだという。これが世界にも当てはまるらしい。分かりやすい例えと言ったが、俺には理解できなかった。

 雪菜のいる世界では、それを同位亜空間と呼んでおり、かなり研究が進んでいるみたいだ。説明としては、完全なる無がどのようなものかと問いただされた。空間に分子が全くないことか?と答えたが、正解はノー。空間すら存在しないのが無。俺の世界と雪菜の世界で決定的に違うのは、その空間自体を構成する物質『オルタナティブ』を発見しているかどうかというところ。オルタナティブを研究、解析することで同位亜空間の存在を発見できたのだそうだ。詳しい説明は省いてもらった。どうせ聞いても分かりはしないからな。

 そして雪菜の世界では『国』という単位はなく、『世界』という単位でまとまっている。その世界を統括しているのが世界統治機構。国際問題や国同士の戦争という概念は無いみたいだ。そしてそのついでに紹介されたのが、先ほどのスーツの二人組。男の方は白川金時。世界統治機構の治安維持部の最高司令であり、『中央不敗』の異名を持つ。異名の通り公式、非公式戦合わせて不敗、無敵の称号を手にしている人物である。俺が間違えて殴ってしまった女はリーシャ・クロノフ。中央不敗の近衛隊の副隊長であり、『狂気』の異名を持っている。個人の戦闘能力は中央不敗に引けを取らないが、一度「スイッチ」が入ってしまうと中央不敗以外に止められる人物がいないという、細かい作戦やチームワークが苦手な人物。よって良くも悪くも中央不敗の近衛隊しか務まらないようだ。雪菜が言うには、不意打ちであっても狂気に一撃を放ってダウンさせた俺は凄いとのこと。

 最後に俺が一番気になっていた「オリジナル」の存在。世界が表と裏で同時進行しているのを理論的に発見した段階で、同じく雪菜の世界は『裏』であることが証明された。これもまた詳しい説明をしてほしいか聞かれたが、どうせ説明されたところで馬の耳に念仏。次の話へいくように促した。そして俺の世界である『表』の世界を皮肉を込めて『オリジナル』と呼んでいるらしい。ちなみに雪菜の世界を称する対義語は『リバース』だ。



「……とまぁ、簡単に説明したけど分かってもらえたかしら?」

 うん、さっぱり分からない。妄想にしては細部まで話が出来すぎているし、なにせこいつ一人だけの話じゃない。疑うより信じさせられる情報が揃い過ぎている。

「ああまぁ、ある程度は。」

 いまいち自分が置かれている状況が把握できないが、きっと凄いことに巻き込まれている気がする。

「ちなみに私は知識上でしかオリジナルのことは知らないけど、同位亜空間理論を知っているオリジナルの人間は少ないはずよ。そもそも同位亜空間を移動する手段を見つけたのですら私たちの世界では最近の話だから」

 確かにこんな話が世間に広がったらとっくの昔に新聞の記事にされたり特番組まれたりしてるよな。ん?特番?

「ああああ!楽しみにしていた特番見逃したぁ!」

 一か月も前から楽しみにしていたのにっ!珍妙な事件に巻き込まれたせいですっかり忘れていた。

「何よ急に大きな声出して……恥ずかしいから静かにしてよね」

 渋い顔をした雪菜は注文したハンバーグにナイフを入れているところであった。

「特番は見れないし変な事件に巻き込まれるし、さらには事件のついでに厄介事に巻き込まれるし!」

「人間万事塞翁が馬よ。細かいことは気にしないことね。きっといいこともあるわよ」

 淡々とした顔でハンバーグを口に運んでいく。

「ん?待てよ、そういえば同時進行してる世界って言ってたよな?じゃぁやっぱり俺らの世界とは歴史が違うのか?」

 塞翁が馬なんていうことわざが出るってことはどうなんだろう。確か中国の故事から生まれた言葉だよなぁ。

「それに関しての答えはイエスよ。」

 やっぱり違うのか。

「私たちの世界とオリジナルは西暦という暦の上では同年。だけど決定的に違うのは『代替学』という独立した学問が生まれたかどうか、というところね」

「だいたいがく?」

「代わるに替えるで代替。その学問の総称よ。んー……そうだ、論より証拠ね。とりあえずアンタご飯食べなさいよね、ハンバーグ冷めちゃうじゃない。」

 言われてみると注文してから俺は頭ばかり働かせてハンバーグに手を付けていない。

「そうだな、冷める前に食うかな」

 話は後でも聞けるだろう。冷たいハンバーグほど食ってて寂しいものはない。

「はい、ナイフとフォークよ」

 渡されたナイフでハンバーグを切り、フォークで口へ運ぶ。

 今まさに口にハンバーグのかけらが入ろうとした瞬間、両手に持っていたフォークとナイフがパン、と音を立てて砕け散った。

「うおお!あぶねぇ!」

 不意の出来事に対処できるはずもなく、ハンバーグのかけらは空しく地に落ちてゆく。

「なんだなんだ!?すいません店員さ……むぐっ」

 雪菜に口を押さえられた。

「静かにしなさい。私が恥ずかしいでしょ!?」

 押さえている手を取る。

「いきなり砕けたんだぞ!?不良品にしても限度ってものがあるだろ!?」

「話を聞きなさい、これが代替学よ。」

「はぁ?」

 全く分からない。フォークとナイフが砕け散ったのが代替学?こんな不良品を見せつける学問なんてこっちから願い下げだぜ。

「今私がアンタに渡したフォークとナイフは代替学に沿って私が作ったものよ。さっき『オルタナティブ』について少し話したでしょ?」

 一呼吸置いて冷静になる。

「あ、ああ。空間自体を構成している物質だっけ?」

「正解。なんでオルタナティブなんて名前が付いているか知ってるかしら?」

 オルタナティブか、英語で確か代わりになるもの、みたいな意味だったような。

「それで正解よ。オルタナティブは何もしない状態だと空間を構成しているだけ。けれども一定の手順を踏むことで他の物質を構成することが出来るのよ。」

 まさに代わりになるものだな。万能すぎる物質じゃないか。砕け散ったフォークとナイフを見せつけられてる俺としては反論が出来ない。

「それで?勝手に空間を使いこんだらまずくないのか?その場所にあった他の物質、空気とかはどうなるんだよ。」

「アンタなかなか頭の回転速いわね。心配はいらないわ。宇宙が膨張を続けてるって話は知ってるでしょ?あれはオルタナティブを無限に生成し続けていると私たちの世界では証明されているの。オルタナティブは他の物質とは違うのよ。使われた分は他の物質に影響しないように補填されるわ。私がここでフォークとナイフを生成した分だけ宇宙の膨張速度が下がったってことになるわね。流れてくる川の水を一滴取ったところで変わりはないでしょ?それと同じで危惧する必要はないのよ。」

 ふむふむ。納得は出来ないがなんとなく理解は出来た。

「ああそれでか、さっき雪……ええと麻倉がいきなり日本刀らしきものを出したのは。最初見たときは何も持っていなかったからなぁ」

「雪菜でいいわよ。年一緒でしょ?」

 意外にフランクな女の子だ。こういうシリアスな話の流れだと嬉しい性格だな。

「いい洞察力してるわねぇ、そこまで見ているなんて」

 相手の力量を計るのも格闘家としての実力だからな。と、昔空手の先生に教わったな。

「便利な能力だろうが、武器にするには不向きじゃないか?日本刀にしてたみたいだけど数秒で壊れたら話にならないぜ?」

 確かにオルタナティブを知らない人間からしてみれば無から有を生み出しているように見えて便利そうだが、モノ自体がすぐ壊れちゃうなら使い道がなさそうな気もする。

「能力じゃないわよ、学問よ。学んで経験を積めば誰でも出来る、アンタでもね。んーそうね、じゃぁ私の手を見てみなさいよ」

 手か。細くて綺麗な指だな。

「そこじゃない!手に持っているものよ。」

 フォークとナイフ。

「見た?じゃぁお皿の隣にあるものは?」

フォークとナイフ。

「ああっ!」

 テーブルにフォークとナイフが二人分置いてある。そして雪菜の持っているフォークとナイフは俺にさっき渡した物とデザインが一緒である。

「なんで?なんで?俺に渡したフォークとナイフ砕け散ったのに!?そうか、タイマーだな、タイマー付きで渡したんだろ?驚く俺を見て笑おうとしたんだろ!?」

 くそぉ!馬鹿にされた気分だぜ。滑稽か?滑稽だったか?ん?ん?

「早とちりは良くないわ。順を追って説明してあげるから良く聞いてちょうだい」

「オルタナティブで生成された物質は原則数秒から数十秒……そうね、熟練の代替術師なら数分は持つかもしれないけれど、全て長持ちはしないの。」

 最初からこのデザインのフォークとナイフを持っていたとか?

「そんな手品師みたいなことはしないわよ。ただ一定の条件が重なれば維持することが出来るといいたいのよ。」

 ふむふむ。

「これを見て」

 そういうと雪菜は右の人差し指を突き出した。

「指輪?」

 銀色のなんの装飾もされていないシンプルな指輪が嵌められていた。

「これはオリハルコンという金属で作られた指輪。といっても純正のものではないわ。含有量としては5%から10%ぐらいね。」

「オリ……ハルコン?聞いたことない元素だなぁ。」

「とりあえず話を進めるわ。この金属は精神関与する作用があるの。どうせ詳しい説明しようとしてもアンタは拒否するでしょうからしないけど。代替学に沿って作られたものは、生成者が精神関与できる距離にある限りはその物質のままで居続けるのよ。」

「さっぱり理解できないなぁ。そんでその距離ってのは?」

「大体肌で触れられる距離、ってところね。」

 生成物を肌で触れられる距離、つまり持っていれば壊れることはないらしい。

「それで俺に渡した物は壊れたってわけか。確かに百聞は一見にしかずだな」

 目の前で見せつけられたばかりだから納得もいく。

「どう?分かってもらえた?」

「あ、ああ」

 訳のわからない事件に巻き込まれたと思ったら訳のわからない学問を叩きこまれたな。だがこれだけ証拠を見せつけられたらもう疑いようがない。俺が願うことは雪菜の迎えが来るまで何も起きないことを祈るだけだ。ん?待てよ?

「なぁ、俺がこの代替学について誰かに話したらどうなるんだ?見た限りじゃ同じ年数の歴史を歩んできたはずだがお前らの世界のほうが科学は発展してそうだし。俺らの世界の科学も発展するんじゃないか?」

 これだけの技術というか学問を現代に取り入れれば科学の発展に大きく貢献するはずだ。しかも雪菜達は俺らの世界に来る技術を持っている。その技術も……ん?待てよ。何の目的で雪菜達は俺らの世界に来ているんだ?

「待て待て、何のためにお前らは俺らの世界に来ているんだ?」

 雪菜はため息をつきながら話しだした。

「質問はひとつづつにしてくれないかしら。最初の質問の答えからね。確かに代替学がオリジナルで普及すれば科学は飛躍的な進歩を遂げるわね。けれどアンタみたいな一高校生の話に世間が飛びつくと思う?代替学を学んで元素術を使えるのならともかく、机上の理論を語ったところで誰も信じはしない。そう思ったから話したのよ。この話をすることで私たちがリバースから来たっていうことも信じてもらえるから。」

 確かに俺がどこへこの話を持って駆けこもうが頭の沸いた高校生にしか見られないだろう。

「次の質問。私個人は大学院の研究資料の入手のためにオリジナルへ来たわ。中央不敗と狂気は不法滞在している私を捕まえに来たって訳。」

 それってつまり、

「言い換えればアンタは私のわがままの尻拭いをしてるってお話になるわ。」

 わかっててその態度かよぉぉぉぉ!

「お前俺に迷惑かけてるの分かってるんだったらもう少し下手に出ろよな!?」

「はぁ?肝っ玉の小さい男ね。女のコが困ってるんだったら助けなさいよ!現にアンタ私が襲われてると思って助けに来たんでしょ?過程はどうであれ最後までやり切りなさいよ。」

 くぅ。さすが飛び級の院生。痛いところを突いてくるぜ。

「あと、誤解のないようにひとつ言っておくけれど、オリジナルへ来れる人数は5人までと限られてるから占領とか植民地化とかそういった物騒なことは考えてないわよ。」

 5人?それはまた限定的だな。

「情報を処理しきれないのよ。オリジナルへ人間一人を送り込むのに凄い量の情報を処理しなければならない。しかもそれは送り込まれた人間が帰還するまで断続的に計算されていて……って、こんな話どうせアンタには分かるわけないか。」

 自分から話を辞退するのと勝手に能無しと決めつけられて話を打ち消されるのではこんなにも感じる印象が違うのか。

「へいへい、どうせ分からないですよ。つーかそれならその情報を処理できるだけの機械を作ればいいじゃないか。そうすれば万事解決じゃね?」

 機械の数が不足していて無理な話なら機械の数を増やせばいい。

「アンタ見かけと同じで頭悪いのね。それが出来たら苦労しないわよ」

 く、この女……言うことは正論だが一言多いぞ。

「さっきも言ったけどオリジナルへ来る手段自体が最近見つかったものなの。その技術に物理的に追いついてないといったらわかりやすいかしら」

 そりゃ大変だ。物理的に追いついたら俺らの地球は10日で占領されちまうな。

「そうね、中央不敗と近衛隊だけで制圧できると思うわよ。」

「さらっと物騒なこといった!?」

 そんなに戦力差あるのか。是非友好的に進めてもらいたいものだ。

「だから物騒なことは考えてないっていってるでしょ!それよりご飯食べて話も終わったんだから帰るわよ」

 そうだな、気づけば10時になろうとしてる。ん?帰る?

「雪菜チャン、ひとつ聞いてもいいかい?」

「なによ、汗なんてたらしちゃって」

「もちろん自分の世界に帰るんですよね?」

「なにいってんのアンタ。アンタの家に帰るに決まってるじゃない」

 間違ってる、日本語間違ってるよこのコ!それは帰るって言わない。お邪魔するって言うんだよ!?


こんばんわ、全一です。

次は雪菜と佑人の現地散策、その次はトリックスターの沙耶との出会いです。

一応バトル物なんですけど、戦闘シーンはまだ先の話。

今までの内容でこの物語の世界観をつかんでいただけたらいいなと思います。

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