プロローグ
こんにちは、全一です。
今回初のオリジナル連載小説を書いてみます。
至らない点も多いでしょうが楽しんでいただければ幸いです。
雪菜は研究室で一人、近日中に発表する予定の論文を纏めていた。
既に日は落ちており、窓から見える大学内の風景も月明かりに照らされている部分だけが見えるようになってきた。
「資料が足りない……」
図書館やインターネットを駆使して情報を集めていたが、どうしても現地の画像が足りない。このままでは壇上で発表する際にインパクトに欠けると思っていた。
期限までは余裕があり、後は画像を探してくるだけとなっているのだが、ここ数日は遅くまで画像収集をしているにも関わらず、集まらない。
「やっぱり現地で直接撮影するしかないわね」
そう口では言ってみたものの、簡単なことではない。まず現地へ行くためには許可がいる。しかもおそらく、大学の研究程度では許可が下りない。
「なんでこんな研究テーマにしちゃったかなぁ。どう考えても大学生じゃ情報収集が厳しいわよ。」
そんな不満をたらしながらも、図書館で借りてきた文献やインターネットで画像を探す。
雪菜がこのテーマを選んだ理由はひとつ。現地へ行きたかった、ただそれだけの理由である。この論文が認められれば、現地の研究職員として行くことができるかもしれないと考えているのだ。
「ああもう!埒があかないわ!こんな研究を続けていても無駄よ。やっぱり現地へ直接行くしかないわ」
元々優等生である雪菜には、ここ数日一生懸命にやっても成果が出ない状態というのは堪えたようだ。思い立ったが吉日と言わんばかりに決断する。
「無許可上等よ。それで罰せられる以上の成果を上げればいいだけの話だわ」
急に立ち上がると、そのまま現地へ向かう準備をする。幸い、ここ数日は泊まり込みで研究を続けていたので出かける準備はすぐに出来る。
「問題は……本部科学部門実験場までどうやって行こうかよね」
現地へ行くためには絶対に通らないといけない場所がある。厳重警備、最新のセキュリティを兼ね揃えた『本部科学部門実験場』である。
「使いたくは無かったけど……お父さんの偽造カードを使う時が来たようね」
雪菜の決心は固く、例えここに他の生徒がいたとしても止められなかっただろう。
「現地へ行ってバレずに帰ってくるためには……今の時間なら6時間ってところね」
時計を見て確認した雪菜は、そのまま研究室を飛び出した。
暗闇に包まれた研究室に取り残された論文には、こう題名が振られていた。
『同位亜空間における世界統治機構本部周辺の地理』