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第百五十三話 経過観察・2

作者: 山中幸盛

 現実は厳しい。身体中に潜む癌の芽を水田自身の強い生命力と免疫力で事前に摘むつもりでいたが、遠からずして癌の猛攻に遭うこととなった。 

 問題の主治医・消化器外科のK医師は、直腸癌からの転移ではないと判ると笑顔を見せてくれ、次の診察は、術後半年ごとに実施している造影剤を使用してのCT撮影と血液検査の結果を踏まえて、その一週間後の十月二十三日にしましょう、ということになった。

 その後、呼吸器外科Y医師の診察があったが、次の診察は三カ月後の十二月にしましょうか、と問われたので、造影剤を投与してのCT検査が十月十六日に予定されている事を伝えると、それではついでに、肺の方の検査項目を増やして調べてもらいましょう、ということになって、次の診察日はその翌日の十月二十四日となった。

 前立腺癌も直腸癌も肺癌も面倒なことだが、これに加え、春頃からの腰痛が徐々にひどくなっていた。二リットルの水のペットボトル六本が入った箱を運ぶにも、一歳の孫を抱くにもイタタタ、と難儀するほどだ。それで息子に勧められて有名なマットレスを八月にアマゾンで二万円近く出して購入したりもしたが、それでもさほど改善しない。

 そこでとうとう、友人が患っている脊椎版狭窄症みたいなものだとイヤだなあと思いながら、十月十一日に近所の整形外科医院まで徒歩で行ってレントゲンを撮ってもらったが、すこし背骨が曲がっている程度と言われ、貼り薬と飲み薬を二週間分出してくれたが、大して効果はなかった。

 そのような中、十月二十三日に検査結果を聞きに行くと、K医師はパソコンで肺のCT画像を表示させながら

「大変な結果が出ました。肺のこの白い部分は、おそらく癌かと思われます」

 とキッパリとした口調で言った。七月七日に摘出した部分も小さく白く写っていたが、K医師が指で示したその部分はその何十倍も大きい。

「呼吸器外科のY先生の診察が明日入っているみたいなので、直接話があると思いますが、もし癌と確定すれば放射線治療を受けてもらうことになります」

 水田はガックリ肩を落として診察室を出た。直腸癌の方は異常がないので、次の診察予定日は来年の一月十五日となったが、はたして肺癌の方がどうなることやら。

 翌十月二十四日、診察室に入ると、呼吸器外科のY医師も昨日のK医師と同様の話をした後、広範囲のリンパ節に転移していてもはや手術ができないので、これから呼吸器内科のN先生の診察を受けてもらいます、ということになった。つまり、N大学附属病院から来ている呼吸器外科のY医師から、ここK総合病院呼吸器内科のN医師にバトンタッチするということだ。

 そのN医師の話では、十月三十日にPET検査を受けて肺癌と確定すれば、ひと月半ほど入院して放射線治療を受けることになるということだが、三十一日にも心電図、肺機能、心臓エコー、MRIの検査を受けて、さらに十一月九日には内視鏡検査が予定されていた。

 そして翌十一月一日、レントゲンを撮ってから診察室に入ってN医師の話を聞くと、それは最悪の、悪夢のような展開が待っていた。彼はPET検査の画像を見ながら言った。

「ごらんのように、肺のリンパ節、骨、肝臓に転移していますが、これほど早く転移したということは、小細胞肺癌ということで他の先生方との見解が一致しています。ですから、広範囲になりましたので放射線治療はできなくなりました。ステージⅣで、進展期にありますので、七日から入院していただいて、抗癌剤治療を受けてもらうことになります」

「九日に予定されていた検査はどうなります?」

 と水田が確かめると、

「その必要がなくなりました」

 と一刀両断されたが、これで長い間悩まされてきた腰痛の原因が判明した。つまり、骨の癌からきていたのだ。

 それから診察室を出て、入院手続きの受付に行った。そして四人部屋を希望し、十一月七日十三時四十五分から入院することが決まった。この日は朝九時十五分に去勢手術と抜歯を終えて動物病院に一泊した飼い犬を迎えに行くことになっていたので、それができることは幸運だった。

 そして入院日当日。腹の毛を剃られてツルッとなった飼い犬を迎えに行った。そして午後十二時半過ぎ、予定では二週間の入院になるので、病院の駐車場料金のことなどを考慮して、この家から病院までは大した距離ではないからタクシーを呼んだ。料金の三六七〇円は想定内だ。

 クラークに案内されて入った6A病棟13号室の右奥の場所で二週間生活することになったが、窓から眼下を見下ろすと、駐車場に出入りする車の様子が見て取れた。

 翌日から抗癌剤の点滴での投与が始まった。初日はイミフィンジ、エトポシド、カルボプラチンの三種類を投与したが、二日目、三日目はエトポシドのみの予定だ。

 抗癌剤をスタンドに吊すたびに看護師が薄いビニール服のようなものを纏って来るので、若い看護師に尋ねてみた。

「なぜ、わざわざビニール服を着てくるの?」

「点滴を取り付ける際に液が顔や手に付くとヤバイですから」



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