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「それじゃあ第1グループ!お前らは第10階層までの立ち入りは自由だ。演習の間は自由にレベル上げしていいぞお!」
「よおっし!ガンガンレベル上げして強くなるぞお!」
「その調子だあ!なっはっはっはっは!」
脳筋同士が笑い合っている。
もうこの2人が師弟関係で良いのではないだろうか。
俺としては、訓練はすでに日課となってしまったので止めるつもりはないけど、レベル上げについてはまだ抵抗がある。
以前東さんに強制連行されて、第10階層のボスと無理矢理戦わされたとき以来、まともに魔獣と戦ったことはない。
レベルアップによって、急激にステータスが上昇することで、どんどん一般人からかけ離れていくのが、自分が変わってしまうのが嫌だったから。
地球が異世界と統合されて、レベルを上げることが普通になれば、俺もレベルを上げざるを得ないだろうけど。
でも、そのときが来るまではもう少しだけこのままでもいいやって、そう思ってしまう。
「ねえねえねえ、とりあえず4人でパーティ組んでダンジョン回ろうよぉ。ボクたちまだ第10階層って行ったことないんだよね~。さっそくボス討伐、行っちゃおうよ~」
そんなことを言いながら、ひょこりと俺の顔をのぞき込んでくる甘楽さん。
第10階層に行ったことがないってことは、ボスと戦ったことがないってことだ。階層に現れる通常の魔獣がどれくらいの強さなのかはよくわからないけど、ボスって言うくらいだから、第10階層のボスは第9階層までの魔獣と比べれば格が違うはず。
あの口ぶりだと、第1グループに指導員はつかないみたいだし、ムリをすれば大けがじゃすまない可能性も出てくる。
ゲームと違って死ねば終わりのリアルな世界なんだから、安全には十分配慮した方が良いだろう。
「パーティを組むのは良いけど、まずは浅い階層でしっかりとレベルアップしてからの方が良いんじゃないかな?」
「護が一緒に戦ってくれるんなら第10階層までの魔獣なんか楽勝だろ?レベル上げるんなら、深い階層に行ってレベル上げたほうが効率も良いはずだぜ?」
刀司が効率の話ができるようになるなんて!
レベルアップで知力が上がったおかげかもしれないね。でも、もう少し安全のことも考慮して欲しいし、俺のことも考慮して欲しい。
「俺はまだ第1階層の魔獣とも戦ったことないの!ダンジョンだって、3人とは違って入場した経験なんてほとんどないんだから」
「そういやそうだったな。だったら、今日は第1階層を軽く回ってみるか?パーティ組むんなら、お互いの役割も決めなきゃだろうしな」
「はいはいは~い!だったら、まずはマモルくんのステータスを見せて欲しいで~す!」
普通に嫌なんですけど?ステータスって個人情報じゃん?いくらパーティを組むとは言え、そんなのホイホイと他人に見せたくないよ。
バディだった小雪にだって、数える程しかスタータスを見せたことなんてないんだから。
「そう言やあ、第10階層のボスを倒したとき以来、護のステータス見てねえな。あれからどれだけ強くなったのか、俺も興味あるぜ」
いやいや師匠。そこは自分の弟子を守るところじゃないんですか?あれからレベル上げなんかしてないんだから、そうそう変わってるわけねえじゃん!
がははと大声で笑いながら俺の背中をバシバシ叩く東さんは、俺の個人情報を守ってくれるつもりはないらしい。
「ステータス」
中里 護(15歳)
レベル15
体力:340
霊力:268
魔力:238
筋力:372
知力:176
俊敏:360
耐久:395
器用:322
スキル
乙女の祈り
あなたと共に
大盾術レベル3
シールドバッシュ
カウンター
リフレクター
バックステップ
耐久力上昇
痛覚耐性
拳術レベル2
魔拳技レベル2
魔法
氷属性魔法レベル2
「はあ?」
表示させたステータスを見て、思わず驚きの声をあげてしまった。だって、なぜかレベルが10も上がっている。ステータスなんか軒並み倍以上に数値が上がっていし、『魔拳技』なんて謎スキルが生えてるし。
なんでこんなにレベルが上がってるの?まさか、俺が寝ている間に東さんが俺を抱えてダンジョン攻略してた、とか?
「フレイムフェンリルの経験値がデカかったみてえだな」
「フレイム?なんですか?そんなのと戦った覚えは・・・・・・」
思い出した!刀司と上野さんが襲われてた、あのデッカいオオカミのことか!でもあれ、気がついたら倒されてたんだけど、戦闘に参加したから俺にも経験値が入ったってことなんだろうか?
「なっはっはっは!これならソロで第30階層まで潜っても大丈夫じゃねえか?それにスキルも・・・・・・ん?」
ソロで第30階層って、クラスメイトと全然足並み揃えられてないじゃん!そんなことを考えていると、俺のスキル欄を確認した東さんは大間々先生を呼びつけて、俺のステータスを確認させた。
なんだよ。まさかまた変なスキルがあったとか、ステータスがあり得ない上がり方をしてたとかじゃないだろうな?
「これ、こっちと別個のスキルだよな?」
「・・・・・・たしかに。でも、そうなると、スキルの表示順でこっちの方が先と言うことになりますよ?」
なにやら神妙な顔付きで俺のスキルを議論している。俺のことを話しているはずなのに、当人は置いてけぼりだ。
「この話は授業が終わった後にしましょう」
「そうだな。せっかく護が成長してんだから、小難しい話は後回しだな!」
「でも、困りましたね。これだけステータスに差があると、上野さんたちとパーティを組ませるわけにもいきません」
俺のステータスが突出し過ぎていて、俺1人で無双ゲーのようになってしまうらしい。たしかにそれじゃあみんなの訓練の邪魔になってしまう。
「ちなみに、第2グループの月夜野さんも同様です。あのステータスで初心者のパーティに組み込むのはダメでしょうね」
「ん?小雪なら、まだまだ体力も筋力も伸びんだろ。演習の時間はひたすら走らせて筋トレさせとけば良いんじゃね?」
「じゃあ、中里くんにはひたすら魔法の練習をさせますか?」
ダンジョンに入らないで良いのなら、俺としては大変ありがたい。ありがたいんだけど、自由にダンジョンを探索して良いよって言われた手前、訓練場で魔法の訓練していたら目立つと思うんだよね、悪い意味で。
「まあ、とっととバディを復活させればダンジョンの攻略をやらせてやるよ。2人でな」
なにちょっと格好良いこと言っちゃってるんだよ。筋肉のくせに。
でもなぁ、小雪はそれを望んでいるようには思えないし、なにより一緒にいる新治くんのせいでまともに顔を見ることもできない。
このままで良いとは思っていないけど、さすがに新治くんをぶっ飛ばして、その隙に小雪と話をする、なんてのはダメだよな。
「あの、先生」
「どうしたひかり。お前も筋肉鍛えたくなったかあ?」
いや、そんなわけねえだろ。
仮に上野さんをムキムキに肉体改造したら、世界中の上野さんファンからぶっ殺されるわ。
「き、筋トレはちょっと興味ありますけど、そうじゃなくて。護がダンジョンに入らないんなら、アタシたちは3人でパーティを組むんでしょうか?その、アタシにもバディがいないんですけど」
それを聞いて、俺たちは固まってしまった。
上野さんのこと、すっかり忘れてた!
「え、ええっと、どうしますか東さん。上野さんは中里くんに祝福を贈っていますし、その効果を考えるのであれば、月夜野さん以上にバディとしてはピッタリかもしれませんよ」
いやちょっと!テンパりすぎてとんでも無いこと口にしてますよ?
「そう言やあ、2人で一緒にいるとステータスにバフがかかるって話だったか。たしかに、護にはひかりがぴったりかもしんねえな!」
「あ、アタシが護に、ぴ、ピッタリですか?」
「おうさ!盾職と回復職はお互いに支え合うことができるからなあ。向こうじゃ、盾職と回復職が結婚する、なんて話もよく聞いたなあ」
おいおい、なんだか雲行きが怪しくなってきた。さっき早くバディを復活しろって言ってたのはどこの誰だよ!
「護と一緒に基礎訓練ガンガンやりゃあ、すぐに護と釣り合うステータスになる!どうだ?やってみるか?」
「はい!」
このバカ師匠、後でどうしてくれようか。