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3-14






「おうっし!それじゃあ今度こそ、訓練場行くぞお!」


 午後のオリエンテーションがはじまると同時に、教室に突入してきた東さんがそう告げた。


 ほら大間々先生、出番ですよ?


「・・・・・・」


 そう思って、東さんの隣に立ってる大間々先生に視線を向けたのだが、なぜかすまし顔で、魔杖で東さんをぶっ叩くそぶりがない?


「大間々先生!本当に訓練場に行くんですか?」

「おお!午後からはレベルに応じてグループ分けを行う。グループごとに訓練の内容を決めていくからな!」


 なぜか大間々先生じゃなくて東さんが答えてくれた。隣の大間々先生が苦笑しながら頷いているので、本当に午後からは訓練場を使うようだ。


「グループ分け、ですか。これは由々しき事態ですね」

「俺からしてみれば、ずっとこっちを見ているアンタの方が由々しき事態だよ」


 執事くん。新治くんは授業がはじまったと言うのに、教壇に背を向けてずっとこちらに視線を向けている。


 その体勢、疲れないのかな?


 さすがに授業がはじまれば、後ろの席に座っている女子をチラ見したりはしないよ。


「中里護くん。上野ひかりさんのことをどう思いますか?」

「この状況でよくそんな話題をぶっ込めたね。恋愛相談なら放課後に聞いてやるから、前向いてくれない?」


 教室が騒がしいんだったら百歩譲って話に付き合っても良いんだけどさ。今、教室で話し声を上げているのって、キミと俺だけなんだよ。


 聞きたくなくても、俺たちの会話はみんなに聞こえてしまう。


 なにが言いたいのかと言えば、もの凄く目立ってる。


 昨日絡んできた上野さん推しの女子はもの凄く睨んできてるし、突然名前が出た上野さんもチラチラとこちらの様子を伺っている。


 さらに、なにが楽しいのかニヤニヤした笑みを浮かべた大間々先生は、東さんの口を両手で押さえながらこちらの行く末を見守っている。


「いや、大間々先生は注意してくださいよ!」

「え?あ、そうですね。新治さん?もう授業がはじまっているので、前を向いてください?いくら中里くんのことが好きでも、そういうアプローチ、先生はいけないと思いますよ?」


 その注意の仕方はダメでしょ!せっかくBLの守護騎士なんて称号が消えかけていたのに、再燃しちゃうじゃん!


「申し訳ありません」


 いや、謝罪したんなら前を向きなさいよ!なんでまだ俺と対面したまんまなんだよ。


 まさかとは思うけど、本当に俺のことが好きなんてことはないだろうな?


「おおっし!それじゃあ全員、訓練場に移動だ!遅れたヤツは明日の朝から護と一緒に訓練させるからなあ!」


 その言葉を聞いて、クラスメイトたちが一斉に教室から出て行く。


 これ、朝の訓練が嫌だから急いで移動してるんだよね?俺と訓練するのが嫌だからじゃないよね?


「では、自分はお嬢様とご一緒しますので」


 地味にショックを受けている俺を置き去りに、新治くんはとっとと俺の後方へ移動していった。


「ね、ねえ、護。一緒に訓練場まで行かない?」


 いっそ新治くんの後をこっそり追いかけてやろうと思っていたら、上野さんに声をかけられてしまった。


 今朝のこともあるから、できれば一緒に行くのはご遠慮願いたいんだけど、ここで断るだけの精神力を俺は有していない。


 でも、あんまり一緒にい過ぎるというのも、俺の精神衛生上よろしくない。


 上野さんの気持ちはわかる。


 昔のように、あの頃のように戻りたい。仲の良かった幼馴染みの関係に。


 俺だって、戻れるものなら戻りたい。


 でも、そのための大事なピースを1つ、永遠に失ってしまった。


それはきっと俺に責任があって。


 全てを失ってしまったアイツの分まで頑張って生きようと思えたら、どれだけ楽だっただろうか。


 絶望して、ふさぎ込んで、全てをあきらめて生きることができたら、どれだけ幸せだっただろうか。


 切り替えて前向きに生きることもできず、かといって、絶望して後ろ向きに生きることもできない。


 普通、普通と言いながら、結局はただ中途半端に生きているだけだ。


 刀司や上野さんとは距離を置いたけど、突き放すこともできずにいる現状に、嫌気がさす。


 小雪のことだってそうだ。


 本人からなにも言われていない。


 それなのに、俺は本人に理由を聞く努力すらしていない。拒絶されるのが怖いからか、家の都合であっても、この関係が完全に終わってしまうのが嫌だからなのか。


「護、大丈夫?や、やっぱりアタシとは、一緒にいたくなかったかな?」

「いえ、その、ちょっと考えごとを。とりあえず移動しましょうか。『遅れたら、護と朝の訓練を一緒にしなければならない』らしいですから」

「そ、それなら、ちょっと遅れても良いかもしれないね」


 結局中途半端な態度のまま、上野さんと教室を移動することになった。






「それでは、現状のステータスを考慮して、3つのグループに分けたいと思います」


 訓練場に移動すると、大間々先生が『1』『2』『3』と書かれた小さな旗を手に持ちながら説明を始めた。


 まず第1グループ。このグループは、基礎訓練は十分であり、ダンジョンも10階層までなら自由に探索しても良いと判断された者たち。このクラスでもトップレベルの生徒ということらしい。


 次に第2グループ。このグループは、基礎訓練は十分であるが、ダンジョンへの入場はまだ指導員が必要だと判断された者たち。


 最後に第3グループ。このグループは、まだ基礎訓練で伸びしろがあると判断された者たち。徹底的に筋肉を苛め抜くためのグループだそうだ。


「はい、それでは中里くん。この旗を持って立ってください」

「え?俺ですか?」


 ニコニコと俺に手渡された旗には、残念ながら『1』と書かれている。


 こんなの俺に手渡さないでくれよ。これじゃまるで、俺がこのクラスのトップみたいじゃないか。


「中里くんなら、ソロで20階層のボス戦も余裕だと思うけど、他の生徒との足並みも揃えないといけないから」


 などと、俺を持ち上げないでいただけますかね。意識高い生徒たちの視線が痛すぎるんですけど。


「第1グループは、上野ひかりさん、甘楽マコトさん、月夜野小雪さん、藤岡刀司くんも含め、5人です」


 ふむふむ。どうやら新治くんは第1グループには入れなかったようだ。これなら、小雪とゆっくり話をすることができるかもしれない。


 今の俺に、小雪と話をするだけの胆力があるかは別として、だけど。


「先生!自分も第1グループに所属したいのですが」


 やはりと言うべきか、新治くんはきれいに腕を上げてそう言った。しかしながら、本人の希望がそのまま通ることはなく、大間々先生は上に挙がった新治くんの手に、『2』と書かれた旗を握らせた。


「ダンジョンは危険がいっぱいです。まずはゆっくりとダンジョンに慣れることが大事です。焦らず、一緒に学んでいきましょうね」

「・・・・・・わかりました」


 悔しそうに顔をゆがめながら、新治くんは腕を下ろす。さすがにここでさらに反論はできなかったようだ。


「大間々先生。それなら、私が第2グループへ移動することはできますか?」


 2日ぶりに聞いた小雪の声は、ひどく冷たく俺の鼓膜を震わせた。


「月夜野さん、同じグループの中からバディを決めていただこうと思っています。それでも、グループを落としますか?」

「はい」


 大間々先生は、暗にグループを落とせば俺とのバディは解消になると、そう言ったのだ。それに対して、小雪は躊躇せずに頷いて見せた。


 つまりはそういうことなんだと、俺の体から、力が抜けていくのがわかった。せめて、直接小雪からバディを解消して欲しいって言って欲しかったな。


「え、ええっと。そ、そうなると、あ、アタシのバディって・・・・・・」


 あ~、刀司と甘楽さんがそのままバディ継続だったら、そういうことですよねえ。








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