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3-11






「ねえねえねえ、せっかくリーダーと離れられたんだし、マモルくんとバディ組めば良いんじゃない?」


 入学式の後、マコトと一緒にお昼ご飯を食べているときに、そんなことを言われた。たしかに久賀くんと離れられたことは嬉しいけど、護とバディを組むのはきっとムリだろうと思う。


 護も月夜野さんとのバディを解散したみたいだけど、だからといって、アタシと藤岡くんとだけはバディを組むことはないだろう。


 一緒にこの学院に通えることになって、少し浮かれていたんだ。また、あの時みたいになれるなんて、絶対にムリだってわかっていたのに。






 6年前。アタシと護が小学4年生の夏。


 アタシたちの共通の幼馴染みだった桐生聖がいなくなった。


 いなくなったって言うのは、引っ越したとか、死んでしまったとかではなく、本当にどこかへいなくなってしまったのだ。


 聖の家は両親が共働きで、日中は聖が1人で留守番していることが多かった。家が近所だったアタシたちは、1つ年下の聖を本当の妹のように可愛がって、たくさんの遊びをしたことを覚えている。


『ねえ、ひかりお姉ちゃん。とうじお兄ちゃんはひかりお姉ちゃんにあげるから、まもるお兄ちゃんはうちがけっこんしてもいいよねえ?』


 なんて言うくらい、護に懐いていた。あの時はお母さんに怒られるくらい本気でケンカしたっけ。


 なんで藤岡くんみたいなアホとアタシが結婚しなきゃいけないんだ。


『がさつですぐ手が出るところがそっくりだから』


 なんて言ってたけど、アタシは平和主義者で暴力なんて振るったことも無いのに。


 そう言えばあの子、あのときアタシのお尻を思いっきり噛んだんだよ。子どものケンカでお尻なんて噛みつく?すぐ手が出るのは聖のほうじゃん!


まあ、お返しに両足を持ってふっ飛ばしてあげたけど。


 今思えば、あのケンカが聖とした、最初で最後のケンカだったなぁ。


 その年の夏休みだったんだ。


 聖が家からいなくなってしまったのは。


 家は荒らされた形跡はなく、玄関や窓にも鍵はかかっていた。玄関には聖の靴もあったし、どこかへ出かけた様子もなかったらしい。


 まさに神隠しにあったかのような事件に、世間の注目が集まってしまった。


 テレビや雑誌の取材でごった返し、聖と特に仲が良かったアタシたち3人、とりわけ護には、常に取材が張り付いていた。


「家出に協力したんじゃないか?」

「どこかでかくまっているんじゃないか?」

「一緒に遊びに行って、川に突き落としたり、崖から突き落としたんじゃないか?」


 なんて質問、小学4年生の子どもにする?


 そのせいでどれだけ護が傷ついたと思ってるんだ!もしかしたら自分のせいで聖がいなくなったんじゃないかって、どれだけ苦しんだと思ってるんだ!


 あれからメディアのことが大っ嫌いになったアタシは、芸能事務所やモデルのスカウトがあっても絶対に断っている。


 あの頃からだよね。護が変わっちゃったのは。


 昔はアタシのことも『ひかりちゃん』って呼んでくれたし、敬語で話すことなんてなかった。


藤岡くんとだって、毎日一緒にバカな遊びをしていたのに、全く遊ばなくなった。


 アタシたちのことを避けてるんだって、すぐにわかった。


 きっとアタシたちといると、聖のことも思い出しちゃうから。


聖はもう一緒に遊んだり、笑い合ったりすることができないのに、自分だけ楽しい思いはできないって。


 それに、アタシや藤岡くんはけっこう周囲から注目を集めていたから、それも良くなかったんだと思う。


 藤岡くんは剣道の大会で全国大会に出られるほど強くて有名だったし、アタシは、まあ、自分で言うのもおこがましいんだけど、そこそこ男子からモテたから。


 そんなアタシたちと一緒にいれば、護に良くない感情を持つ人もいるわけで。


 そんな人たちの視線が、当時のメディアの視線と似ていたのかもしれない。


 護が『目立ちたくない』『普通が良い』なんて言うようになったのは、きっとこのせいだ。


 だからアタシは、ムリに護と一緒にいようとはしなかった。時間が経てば、またいつか昔みたいに一緒にいられるようになるって。


 でもそんないつかはやって来なくて。小学校を卒業して、中学校に入学しても、護はアタシたちと距離をとったまま。


 もしあの時、しっかりと護に寄り添ってあげられていたら、もっと違った未来があったのかもしれない。


 神様にお願いする暇があったんなら、護の家に行って、チャイムを鳴らし続けていたほうが良かったのかもしれない。


 だから・・・・・・






「アタシには、護の隣に立つ資格なんて、ないんだよ」


 ポツリと、口をついて出てしまった。その言葉は残念なことに、しっかりとマコトの耳に届いてしまったようで、彼女は眉をひそめた。


「ねえねえねえ、そんなのって、ひかりちんが決めることじゃないんじゃない?」

「え?」

「マモルくんが言ったの?隣に立つな、近づくな~って」


 そんなこと言われてない。でも、そんなこと護に言われたらアタシ、ショック死しちゃうかもしれない!


「乙女の祈り、だっけ?それを受け取るためには、ひかりちんに対する好感度が低くちゃダメなんでしょ?」

「でもあの時は、護、気を失ってたし」

「んじゃあ、無意識ではひかりちんのこと大好きなんじゃないの~?」

「うぇ!?」


 意識的にはアタシのことを避けてるけど、本当はアタシのことがだ、だだ、大好き?


 え?うそ?でも、待って待って!た、たしかに昔『アタシと聖、どっちと結婚したい?』って聞いたら、『どっちも~』って言ってたし、護はアタシのこと、結婚したいほど好きってこと?


「あ~でもでもでも~、今は月夜野さんがいるか~」

「・・・・・・なんで上げてから落とすの?」


 そうだ。今は月夜野さんが護のバディ。なぜか急にやってきた執事服の人にバディを解散するように言われてたけど、それは家庭の事情?みたいなものだから、2人の気持ちは関係ない。


 もしかしたら、2人はもう、お互いに好きあっていたり・・・・・・


 そんなことになったら、それこそアタシの入る隙なんてないよ。


「それにそれにそれに~、異世界のお姫様や貴族のお嬢様たちも、護くんの婚約者?候補?なんでしょ~。いや~モテモテだね。ハーレムかよ~」


 そう言えば、いたねぇそんな人たち。


 護は頑なに違うって言ってたし、絶対結婚しないって言ってたけど、みんな美人だったし、どう転ぶかなんてわかんないよね?


 ハーレム?なんてもの、目立つのが嫌いな護が望むわけないけど、あの中の誰かと恋人になる可能性もある。


「いいの?ひかりちん。うかうかしてたら、かっさらわれちゃうよぉ?」

「うぅ・・・・・・」


 でもやっぱり、アタシが隣にいることで、護が傷つく可能性は高い。外敵はどんな手段ででもアタシが排除してあげられるけど、こころの傷は、アタシが近くに居たらいつまで経っても癒えないかもしれない。


 回復魔法だか治療魔法だか知らないけど、こんなんじゃ癒してあげられない。


 学院に来て護と再会したとき、月夜野さんと一緒にいた護は、昔みたいに笑ってた。あんな笑顔、本当に久しぶりで、それを見た時は嬉しかったけど、悔しかった。


 あの笑顔は、アタシが奪ったもので、アタシが取り戻してあげられなかったものだから。


 もう、昔みたいにはなれないのかなぁ。


『ねえ、また昔みたいに―――』

『ムリですよ。もう、あの頃には戻れないんですから』


 あの時の言葉が、ずしりとこころを押し潰す。


 また昔みたいに、仲良く遊びたい。お話がしたい。そんなちっぽけな願いが、こんなにも叶うのが難しいなんてなぁ。







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