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3-10





 執事服を着た少年、新治凪は、なぜかそのまま小雪の席に腰掛けた。


「なんでそこに座ってんの?そこ、小雪の席なんだけど」

「いいえ。今日からここは私の席です。少々目が悪いので、お嬢様と席を代わっていただきました」


 いや、それ絶対ウソじゃん。目が悪いヤツが、的確に顎を狙って一発入れることができるわけない。


「お嬢様の従者として、席を譲っていただくのは心苦しかったのですが。お嬢様はこころがお優しいので、すぐに了承してくださいましたよ」

「まあいいや。それじゃあ、小雪は後ろにぎゃああああ!」


 後ろを振り向こうとした瞬間に、首をごきりと捻られた。いくら耐久が高くても、関節を捻られれば相当痛い。


 首、捻挫とかしてないと良いなぁ。


「なにすんだよ!」

「失礼。あなたの視界にお嬢様が映るのが許せなかったもので」


 どんだけ独占欲が強いんだこいつは。


「お~っし、みんな席着けぇ~。ホームルーム始めるぞお」


 強制的に黒板に向けられた視界の中に、巨大な筋肉の塊がやってきた。我らが担任教師、東さんだ。


「あ~、まずはなんだったか?護ぅ、任せた」

「は?」


 よくわからないが、任されてしまったので号令をかけて朝のあいさつを行う。前の席のヤツがあまりにもきれいな所作で頭を下げるものだから、若干イラッとしたのは内緒だ。


「おおっし、それじゃあ今日の予定を伝えるぞお。まず、ホームルームの時間で自己紹介?終わったら教師引率の元、学院の見学?」


 手にしていたメモ帳を見ながらそう告げた東さんは、そのメモ用紙を放り投げた。


「よおし!それじゃあ訓練場行って殴り合うかあ!」


 言った瞬間に、黒板が凍りつく。いや、黒板の設置されている壁一面が氷に覆い隠されてしまった。


「東先生?スケジュールの通りに進めていただかないと困ります」


 そういえば、大間々先生は副担任でしたね。


 養護教諭じゃなくてこのクラスの副担任に回されたのは、東さんの暴走を押さえられるのがこの人しかいなかったからなのではないだろうか。


「スケジュール通りだろお?自分を知り、相手を知るためには、拳で語り合うのが1番だって、こんなの常識だろ?」

「そんな常識、スパルティアの戦闘民族だけですよこのおバカ!入学初日なんですから、無難に口頭で自己紹介をしてもらえば良いんです!」

「はあ?そんなんで何がわかるんだよ」

「趣味とか、好きな異性のタイプ、とか?」

「んなもんわかって何になるんだ?戦いには関係ねえだろ?」

「生徒たちは別に戦いにきたわけじゃないんですよ!友だち作りとか、恋人作りとか、もっと他にやるべきことがあるんです!」


 うぅむ。これだけ大間々先生が言っても、東さんはまだ納得がいっていないようだ。結局この人は、戦いや訓練が絡まないと納得しないからな。


「東さ・・・東先生!自己紹介をすると、今後のパーティやバディを組むのがスムーズになると思いますよ?」

「んん?そうなのか?殴り合った方が早いと思うが・・・・・・まあ、護がそういうなら仕方ねえな。んじゃ、ほれ、奏からやってみろよ。なんだっけ?好きな男の話、だっけ?」

「え?私から?って、好きな男の人の話なんてしませんよ!」

「まあなんでも良いよ。ほれ、前出て自己紹介しろ」


 ふぅ。どうにかまとまったな。


 ついつい目立つようなことをしてしまったけど、訓練場で殴り合いをさせられるよりはずっとマシだろう。


 なぜか大間々先生がトップバッターで自己紹介をすることになったけど、その後は大間々先生の進行で、無事に全員が自己紹介を終えることができた。


 印象としては、やる気のある生徒が多いって感じかな。


さすがにAクラスに所属するだけあって、ほとんどの生徒が早期入学組。すでにかなりの訓練を行っていて、スキルを複数習得した生徒も多い。


 俺はまあ、そこら辺は詳しく話さなかったけどね。


 ダンジョンの探索に対しても熱意がある生徒が多く、刀司たちのようにX-チューンで配信を行いたいという生徒や、ダンジョンで一攫千金を夢見る生徒、純粋に強さを求める生徒などなど。


 向上心の塊かこのクラスは。


 できれば早いとこクラス替えをして欲しいなぁ。


 そう言えば、今日初めて小雪の声を聞いた。なぜか新治くんの鉄壁のガードで顔を見ることはできなかったけど、淡々と名前を名乗って自己紹介は終了していた。


「それじゃあ、これから訓練場に―――」

「これから学院の見学に行きます。クラスごとにルートが違いますので、はぐれないようにしてくださいね」


 というわけで、大間々先生が先頭に立って、学院の見学をすることになった。


 訓練場と学食、保健室は利用したことがあるけど、それ以外は初めてだな。


 風守学院は初等部、中等部、高等部、大学部のエリアに分かれているらしく、今まで俺が活用していた訓練場や食堂は全て高等部エリアの施設らしい。


 高等部エリアでは、校舎だけで1年生棟から3年生棟の3つがあり、それ以外に体育館、室内プール、図書館棟などなど、半日費やして主要施設しか回れなかった。


 体育館はドームかアリーナかっていうくらいに広かったし、室内プールは最早スパリゾートかってくらいの豪華さだった。ちなみに室内プールは休日に解放されているらしく、生徒なら誰でも自由に使えるとか。


「これら以外にも、休み時間を有意義に過ごすための庭園などもあります。もし購買でお昼を買う予定の人は、活用してみても良いかもしれませんね」


 そう大間々先生が絞めて、午前の校内見学は終了となった。


 それにしても広い。いや、広すぎるだろ!


「こんだけ広いと、移動するのも大変だな」

「ぷっぷっぷ~、トージくんだと迷子になっちゃうかもしれないね~」

「はぁ~?道くらい余裕で覚えられるっての。今日だって迷わず登校できただろうが」


 まあ、寮から1年生棟の校舎までは1本道だし、Aクラスの教室は2階の1番端っこだから、迷う要素なんてないしね。


 なんならあちこちに看板が立ってたし。


「ねえねえねえ!混む前に食堂行こうよ~。さすがに全校生徒が食堂に移動したら、いつお昼食べられるかわからないよ~」


 1年生だけで300人もいるしな。座席数は全員が座れるだけあっても、調理には時間がかかるだろうし。


 でも、さっき大間々先生が言ってた購買も気になる。食堂は何度も行ったことがあるけど、購買は今日オープンらしい。


 俺、一度でいいから購買戦争っていうのを体験してみたかったんだよ。


リアルにあんなもみくちゃになるようなことがあるのか?ちょっとワクワクするな。


「というわけだから、俺は購買に行ってみるよ」

「購買だと!よし!俺も焼きそばパン争奪戦に参戦するぜ!」


 同じノリで、刀司が仲間に加わった。さすが脳筋、争い事にはついつい顔を出したくなるヤツだ。


「ちょっとちょっとちょっと~!だったらボクも一緒に行くからね~」


 まあ、そうなるよね。


「そう言えば、上野さんってどうしてるんだろ?もう他の友だちができたのかな?」


 校内案内の時から姿を見てない気がする。自己紹介はしてたから、どこかには居るんだろうけど。


「おやおやおや~?やっぱりマモルくん、ひかりちんのこときになるのかにゃああああああ!だから乙女の顔にアイアンクローはああああああああ!」


 甘楽さんにアイアンクローを決めたまま、俺たちは購買に向かった。


「焼きそばパン1つ。コロッケパン1つ。合計400ポイントになりまっす!」


 購買は、争奪戦争なんかやってなかった。ちゃんと列に並んで安全に購入できましたよ。







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