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3-7





「これ、なんだかホッとするねぇ。緊張がほどけてくよぉ」


 真紅のツインテールもヘニョヘニョとしなだれているように見えるのは気のせいかな?


 マイラリアさんは王の御前で緊張しまくっていたが、ホットチョコを口にしたことですっかり緊張がとけたようだ。


 まあ、目の前の親子を見て緊張するのもアホらしくなったのかもしれないけど。


「なんということだ!飲み物の中に氷が入っているぞ。くぅ~、キンッキンに冷えているぞお~!」

「こちらの飲み物の上には白い山のようなものが乗っています!あ、甘い!しかも冷たいです!温かい飲み物の上に甘い雪山を乗せるなんて、この国の技術力は凄まじいです!」


 キャッキャキャッキャとはしゃぎながら、すでに3杯以上ドリンクを注文しているのだが、手が止まる様子は全く見られない。


 飲み物ばかりあんなに注文して、お腹大丈夫だろうか?飲み過ぎでお腹を下しでもしたら、この店お取り潰しになったりしないだろうか。


「マイラリアさん、なんか食べる物でも頼む?」

「え?でも・・・・・・」


 いや、あの2人を気にしてもしかたないから。あっちが落ち着くまでは、放っておいた方が良さそうだよ。


「せっかくだから、パンケーキでも食べてみる?」


 喫茶店で女子が頼むものと言えばパンケーキかパフェが定番じゃない?俺、女子とちゃんとした喫茶店入ったことないから定番かはわからんけども。


「じゃ、じゃあ、頼んでみようかな」

「我も!」

「私もお願いします!」


 はい、パンケーキ4つ入りま~す。





「ところでマモルくん。そちらは、ヒラフレア家のご令嬢だね。どうして彼女を伴ってきたのかな?」


 パンケーキを食べ終わった王様は、新しく注文したアイスミルクティーを飲みながらそんなことを尋ねてきた。


 そう言えば、マイラリアさんを連れてきた理由を説明してなかった。


とは言え、王様のことを最初はマイラリアさんのお父さんだと勘違いしてました。王様とのお茶会なんて俺だけでは心細いので、そのまま道連れにしちゃいました。


 なんてことは言えないよねぇ。


「まあ、公式の場ではないから構わないが、もし今後、貴族や王族と社交をするときは、同伴させる女性はしっかりと選びなさい」

「なにか、問題があるんですか?」

「うむ。女性を同伴するということは、その人が自分の妻や婚約者だと周りに周知しているようなものだ」


 それって、マイラリアさんが俺の奥さんですって、王様に紹介したようなもんじゃん。


「ご、ごめんマイラリアさん。俺そんなこと知らなくて」


 慌ててマイラリアに向けて頭を下げる。


無理矢理俺に連れてこられた挙げ句、強制的に自国の王様に婚約者として紹介されるなんて恐ろしすぎる。


「えっと、わたしは別に気にしないよ」


 ああ、そう言ってもらえて良かった。


 安堵した気持ちで顔を上げると、マイラリアさんはいつものハツラツとした笑顔ではなく、どことなく羞恥に歪んだ笑顔を浮かべていた。


「その・・・・・・序列の順番は、気にしないからね?」


 いや、そっちの話は気にして欲しいんですけど?


 ちょっと肌を見ちゃったくらいで結婚とか、貞操観念が厳しすぎる。まだ15歳なんだから、将来もっと良い人が見つかるはずだ。


 それこそ、異世界だったらガチの白馬に乗った王子さまだって現れるかもしれないしね。


 正式に約束したわけじゃないし、そのうちうやむやになることを願って、深く掘り下げないでおこう。


 俺には誰かと結婚する意志も、その権利だってないんだから。


「そういえば、今日は月夜野さんはご一緒ではないのですか?」


 ミナモちゃんから尋ねられて、表情が強張ってしまった。


「何かあったのですか?」


 その反応が良くなかったみたいで、ミナモちゃんも王様も、何かあったことを察してしまった。


 特に隠し立てをするつもりもないし、話を聞いてもらった方がすっきりするかなと思って、朝の出来事をつらつらと語ってしまった。


「護様は、あの狂戦士に劣情をもよおすと?」

「待って!違うよ、それは小雪が言えって言ったからであって、俺はただ、殴りかかろうとした上野さんを羽交い絞めにしただけであって、いやらしい気持ちなんか全然なかったし?むしろ恐怖体験?」

「はあ、わかりました。男色で無かったのが幸いですね」


 それは絶対わかってないやつじゃん!


「・・・・・・」


 どうすんだよ、王様がめっちゃおっかない顔のまま黙り込んじゃったじゃんか!


「あの、国王陛下?俺はただ、一般市民を助けただけでして」

「む?ああ、すまない。少し考え事をしていたよ。ときにマコトくん。そのツキヨノ家は、どのような家柄かわかるだろうか?」

「家柄、ですか?」

「どのようなことを生業にしているのか。親族の構成など。なんでもかまわないが」


 そう言われて、俺は固まってしまった。


 2か月以上一緒に生活していて、小雪の家のこと、家族のこと、全然知らない。


 失ったときに辛い思いをするのが嫌で、深くは踏み込まなかった。いや、本当の意味で親しくなろうとしなかった。


だから俺は、小雪がいなくなってもほんの少しの寂しさですんでいるけど。


 結局また失っているんじゃ、あれから全然成長して無いなあ。


「・・・・・・すいません。なにもわからないです」

「そうか。しかし、日本で専属の執事がつく家柄は、そうそうないのだろう?」

「はい。というか、執事なんて、空想上の職業だと思ってましたよ」

「ならばやはり、あのツキヨノ家か」


 そう言って、王様は再び思考の海に沈んで行った。


「でも、そうなったら護様のバディはどうなるのです?私はクラスが違うのでムリだと言われてしまいました」


 言われてしまいましたって、すでに誰かに交渉してたのかよ。


「まあ、バディはほとんどの生徒が決まってないんだし、相手くらいすぐに見つかるよ」

「いえ、これはあくまで推測ですが、バディはお互いの弱点をカバーできる相手が選ばれると思います。それも、ステータスにあまり差がないような相手が」


 たしかに、俺は小雪が後衛の魔法職だから盾を持った立ち回りを訓練させられた。


 ステータスだって、内容に違いがあっても合計値はそれほど差がないはずだ。


 だから、まさに相棒といえるパートナーだった。


「私、あの人嫌いなんです。できれば別の人とバディを組んでもらいたいのですが、そうもいかないでしょうね」


 ため息交じりにミナモちゃんがつぶやいた。あの人?小雪のことじゃなければ、誰のことだろう?


「一応、回復職は後衛の支援職ですから、役割だけ考えれば、ピッタリですよね?たとえ戦闘が始まれば、狂戦士のように暴れまわろうとも」

「あ~、そうなっちゃう?」


 俺もそのバーサーカーはちょっと苦手なんだよね。この前も突き放すようなこと言っちゃったから、まだ気まずいし。


 何より朝の『いやらしい気持ちになる』問題もあるし。


 どうしてこうも上手くいかないことばっかりなんだろう。


 せっかくの入学式だというのに、気分が沈んだまま解散することになった。


 王様は随分長い間なにかを考え込んでいたみたいだけど、お迎えの人に暴飲暴食がバレてめちゃくちゃ怒られながら迎えの車に押し込まれていった。


 色濃い時間を過ごしたけど、まだお昼を少し回ったところだったので、俺は1人で夕食まで、訓練場でランニングや筋トレをして時間を費やした。


 そう言えば、明日以降の日程を全然知らないんだけど、学校って明日から始まるのかな?







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