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3-6





「は、あのあの・・・・・・どうしてわたし、ここにいるんでしょうか?

「「「さあ?」」」


 俺の隣で腰掛けているマイラリアさんは、水の入ったコップを手にしたまま、ガタガタと震えていた。


 さっきからコップの水がこぼれてテーブルやら制服やらを濡らしているんだけど、大丈夫だろうか?


「さてマモルくん。改めて、我はフォルティア王国国王、アルスローデ・リンデリング・フォルティア。この国の人にとっては長ったらしい名前だろうから、気軽にアルスと呼んでくれ」

「いえ、さすがに国王様を名前で呼ぶわけにはいきませんよ。」

「む?とは言えキミは我にとって甥にあたる。名前が嫌なら叔父さんと呼んでくれても」

「もっとムリです!」


 フランクな感じは大変ありがたいんだけど、人前で一国の王様を『叔父さん』なんて呼べるわけないよね?何様だよって、世間から怒られるよ。


「そうか、それは残念だ。キミになら、お義父さんと呼ばれるのも吝かではないのだが」

「あら陛下。それはまだ気が早いです。私と護様は学生の身ですもの。それは卒業した後ですわ」

「ふむ。ならばやはり、正式に婚約してだけでもしておいた方が良いのではないか?いい加減、ミサカイの使者を追い返すのも面倒になってきた」


 また出たよ、ミサカイ皇国。


 この前俺が襲撃されたとき、粕川先生が襲撃に関わった貴族たちをアレしたって言ってたけど、ミサカイの皇子は未だにミナモちゃんをあきらめていないらしい。


 国は疲弊していて民は困窮しているって話なのに、それでも女のことしか考えていないって、統治者としてどうなんだろうね。


「小国への侵略により国力は回復してきているようだが、大陸中の国から嫌われてしまった。そんな国にミナモを嫁がせれば、我が国まで大陸中から睨まれてしまう」


 国の代表同士が結婚するんだから、ミサカイとフォルティアは仲良しだよってアピールするようなもんだもんね。


「だが、ミサカイの軍事力を侮ることはできない。国内でミナモを嫁がせ同盟を結ぶべきではないかという声もあってな。ミナモの婚姻は早く決めてしまいたいのだ」


 そういえばミナモちゃん、東さんか大間々先生のことが好きなんじゃなかったっけ?


そんなに頭を悩ませるんだったらもう、本人の好きな人に嫁がせてやれば良いと思うんだけど、古今東西、どんなラノベやアニメを見ても、王族は国のための政略結婚をするものだ。


 嫁ぎ先に頭を悩ませるのは仕方がないんだろうな。


「すまないね、せっかくの式典のあとで、このような話を聞かせてしまって。さて、話をしたら喉が渇いてしまった。飲み物で喉を潤すとしよう」


 そう言って、メニューを見ることもなく笑顔で座っている国王陛下。もう注文は決まっているんだろうか。


 だったら早く注文を決めてしまった方が良さそうだ。隣にいるマイラリアさんにも見えるようにメニューを広げ、パラパラとページをめくっていく。


 適当に選んだ喫茶店だったんだけど、思いのほかメニューが豊富で、ドリンクを選ぶだけでも一苦労だ。


「マイラリアさんは何か飲みたいものとかある?」

「あひゃ!わ、わたしですか?わ、わたしはお、お水をいただいてますので」


 いや、そのお水を半分以上こぼしちゃってるじゃん。それに、お店に入って何も注文しないってのはよろしくない。


 貴族ってのは紅茶を飲んでるイメージだから、そこらへんか?ダージリンとかオレンジペコとか種類が書かれてても全くわからないんだけど、適当に注文しても良いだろうか?


「う~ん。紅茶とか果実水みたいなやつとか、あとは説明が難しいけど甘くてほっとするヤツとかもあるけど、どれが良い?」

「え、えっと。旦那様にお任せします」

「旦那様ではないよ。じゃあ、甘いヤツで良いかな?」


 こくこくと頷いたので、俺と同じで良いかな。ファミレスのドリンクバーではなかなかお目にかかれない、ホットチョコなるものがあるので、それにしよう。


 メニューが決まったので、ぱたりとメニュー表を閉じると、王様とミナモちゃんが、興味深そうな視線をこちらに向けてきた。


「マモルくん、それはなんだい?」


 黄金に輝く4つの瞳が、キラキラと見つめている先には、メニュー表?


「えっと、これのことですか?」

「うむ。先ほどそれを見ながら飲み物の種類を決めていたようだが、それはどういったものかね?」


 メニューをご存じでない?ということは、まだ何を注文するのかも決まっていない?


 もしかして、俺がメニュー表を王様に見せなきゃいけなかったのか?


「し、失礼しました。どうぞ、ご覧ください」


 慌ててドリンクメニューの書かれたページを開いて、王様に手渡す。


 それをのぞき込んだ王族2人は、黄金の瞳をまさにキンキンに輝かせた。


「これは、この中から好きなものを選んでも良いのかな?」

「そ、そうです」

「見てみよミナモ。これほどの種類を自由に選んで良いそうだ」

「す、すごいです!どのような飲み物かは全くわかりませんが、好きなものを自由に選んで良いとは!」


 メニューがどうとかいう以前の問題で、自由に選べると言うことに感激している2人。


 王族なんだから好きなものを好きなだけ召し上がれるんだと思っていたけど、違うらしい。


「特定の食べ物や飲み物を贔屓にすると、その領地の貴族を優遇しているととられるのだ。それに、毒物を混ぜられる可能性もあるのでね。決められたものを決められた量しか口にできないのだ」


 たしかに、王家御用達!みたいな看板があるだけで、信用と信頼を勝ち取れそうだ。そういうことをされないように、平等に扱っているってのはすごいことだと思う。


「それじゃあ、今日は好きなものを好きなだけ注文してくださいよ」

「「注文?」」


 それも知らないんかい!


 まあそうだよね。王様がカフェでランチとかしてたら普通に営業なんてできないだろうし。


 そう言えば、初めて小雪とフードコートに行ったときもめっちゃ興奮してたっけ。


 王族とまではいかなくても、小雪も執事を侍らせるお嬢様だったからな。同じように、好きなものを好きって言えなかったのかもしれない。


 せっかくこの学院に来れて、自由にできていたのに。


 あの執事が来たせいで逆戻りか。


 どうにかしてやりたいけど、家庭の問題に他人の俺がどこまで首を突っ込んでいいのか。


「ま、護様!注文をするときはどのような作法を?」


 おっと、まずはこっちの人たちをどうにかしてやるのが先だったか。


「もう注文するものは決まったの?」

「はい!名前だけでは何のことかさっぱりなので、気になるものを端から注文してみようかと」


 ここからここまで!みたいな注文は憧れるけど、それ店側には結構迷惑なのでは?いや、商品が大量に売れるんだからありがたいのかな?


 まあ、王様なんだからお金に困ることはないだろうし、本人たちが楽しそうだから良いか。


「店員さんに注文するときの作法その1。このボタンを押します」

「これを押すのかい?どれ、やってみよう」


『ピンポ~ン』


「「「おお!」」」


 ピンポンが鳴った瞬間に、異世界の皆さんが歓声をあげる。この程度で感動できるって、なんだかうらやましい。


 俺ももし、異世界に行くことがあったら、色んなものに驚いたり、感動したりすることができるんだろうか。


「お待たせいたしました!ご注文!お伺いいたします!」


 なんで喫茶店の店員まで筋肉で揃えてるんだよ。


 そんなことが気になったのは俺だけだったようで、3人はボタンを押して店員が来たことに驚いていた。







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