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3-4





「ねえ、アンタらダンジョン配信やってるチーム・ホーリーランのトージとマコトでしょ?」


 席に着いてわちゃわちゃしゃべっていると、クラスメイトに話しかけられた。


すらりとした長身で、ロングの黒髪を後ろで1つに束ねた少女は、なぜか名前を呼んだ刀司ではなく、俺に釣り目の鋭い視線を向けた。


 昔からこうだ。


 刀司は脳筋のバカだが見た目は悪くない。鍛え抜かれた細マッチョで短髪。見るからに運動できる陽キャですって見た目で、性格もあけすけで、女性人気は非常に高い。バカだけど。


 そんな刀司とお近づきになりたい女子は一定数いるわけで、そうなると、いつも隣にいるフツメンで、何の取り柄もない俺のことを、取り入るための道具に使うか、彼女のように排除しようとするか。


「はぁ、ちょっと席外すわ」


 甘楽さんの名前も出してたし、2人と話をしたいんだろう。圧が弱いうちに、とっとと逃げてしまおう。


「待ちなさい!」


 なんでやねん!今格好良く去って行こうとしてたじゃん?それを呼び止めるから、めっちゃ中腰で止まっちゃったじゃん!俺に用があるんなら、最初からそう言ってくれよぉ。


「アンタ、この前ホーリーランの配信に映り込んでた人でしょ?」


 この前のっていうと、間違いなくあの配信のことだろう。話がどれだけ続くのかわからないけど、とりあえず座り直させてもらおう。椅子の上で中腰ってめっちゃ格好悪いし!


「たぶんそうですけど?」


 俺がそう言うと、少女の目つきがさらに鋭くなる。そんな目で睨むなら、俺はとっとといなくなるから、引き留めないでくれよ。


「アンタ、トージと付き合ってるわけ?」

「そんなわけねええええええええだろおおおおおおおおぉ!」


 あんまりアホなことを言うものだから、思わず絶叫してしまった。


 教室の中心で愛を叫ぶ(叫んでないけど)俺に、クラス中から視線が突き刺さる。だから『やっぱりあの2人って』とか『なんだかんだで、ねえ?』とか言うのは止めてくれぇ!


「そうなの?トージはタイプじゃ無いんだ」

「そもそも男を恋愛対象として見たことはないよ?」

「ウソでしょ!」


 なんでそんな驚いた顔してんの?


たしかにヤンキーを守るために美少女と敵対しちゃったけど。


 でもさぁ。それは上野さんたちを守るためだったわけじゃん?あのままみんながヤンキーに手を出してたら、間違いなくボッコボコのベッキベキにしていただろう。下手をしたら・・・・・・


 さすがに女の子にそんなことさせるわけにもいかないじゃん。撮影もしていたし。


 それで手にした称号が『BLの守護騎士様』って、絶対おかしいでしょ?


「そんな・・・・・・男が好きだと思っていたから、あの配信を許すことができたのに」

「許すって、どういうこと?」

「アンタ、ひかり様に抱きついてたよね?」

「あ、ああ。見方によっては、そう見えたかもね」


 たしかに、正面から体を抱え込んだんだから、一般的には抱きしめたと言って相違ない。抱きついた、だとちょっと違う気がするけど。


 ていうかこの子、上野さんのことをひかり様って言わなかった?


「ひ、ひひ、ひかり様の高貴な体を、い、いやらしい気持ちで触ったってことでしょ!」

「いや、別にいやらしい気持ちとか全くなかったけど?」


 あの状況でそんな余裕は無かったでしょ。そんな気持ちでいたら、せっかく完成したショッピングモールに大穴がいくつ空いたことか。


少なくとも、あのヤンキーたちには間違いなく穴が空いてただろう。物理的な意味で。


「うそだ!あの小さくて完成されたご尊顔と、完璧に計算され尽くして創り出されたスタイルの、まさに女神とも言えるひかり様に抱きついて、いやらしい気持ちを抱かない男子なんて、男色以外あり得ないじゃない!」


 ああ、この人、上野さんのこと大好きなわけね。俺がBL趣味なんじゃなくて、この子が百合なんじゃねえか。


「小雪、これどうしたら良いと思う?」


 対応に困ったので、小雪に耳打ちをする。


「もうさ、上野さんにいやらしいことしたいですって言っちゃったほうが丸く収まるんじゃない?そうすれば、BLの守護者様も卒業できるかもよ?」


 なるほど、それはたしかに一理ある。このまま学院での生活が始まって、誤解されたままだったら、普通の男子の友だちなんて絶対にできないだろうし。


「さあ、本当のことを言いなさい!アンタ、ひかり様を抱きしめて、いやらしい気持ちになったんでしょ!」

「はい、俺は上野さんを抱きしめて、めっちゃいやらしい気持ちになりました」

「え!」


 ああ、はいはい。そういうお約束ですね。なんでこういうときだけお約束通りになるんだろうね。


 背後からバサリと何かが落ちる音と、聞き慣れた声。しかも正面に仁王立ちする少女が、俺の後ろを見つめて固まっている。


 これは、もう振り向く必要もなく後ろに上野さんがいるパターンでしょ?


「ま、護。あ、アタシ、その・・・・・・い、いやらしいのはまだ、ちょっと早いかなって・・・・・・・・・思うんだ」

「はっはっは。いっそ殺してくれ」


 さすがに教室のど真ん中でそんなこと言われたら恥ずかしいよね。言った俺もすっげえ恥ずかしいですけど。


「・・・・・・は!ひ、ひかり様!こんないやらしい男に近づいてはダメです!」


 再起動した少女は、慌てて俺と上野さんの間に体を滑り込ませると、そのまま上野さんの体を俺から引き離していった。


「え?あなた誰?アタシは護とお話を―――」

「いけませんひかり様。あんな変態に関わったら、何されるかわかりませんよ!」


 なんか失礼なことを言いながら、少女は上野さんを教室の外まで引きずって行った。


「さあ、お嬢様も。このような男と一緒にいてはいけません」


 そんな様子をあっけにとられて眺めていたら、いつの間にか小雪の後ろに、執事服を着た少年が立っていた。


「え?え?」


 突然現れた執事服の少年は、俺から小雪を守るように間に体を置く。


 いや、本当にどちら様でしょうか?


「凪ちゃん?なんでここに?」


 小雪の知り合い?


 入学式に堂々と執事服を着て着ちゃうあたり、小雪の厨二仲間な可能性が高い?


「へ?」


 そんなことを考えていると、俺の体は空中に浮いていた?


 なんで?


 顎に微妙な痛みがある。


 ああ、俺は殴られたのか。


 小雪を庇うように立っているあの少年に、いつの間にか顎に一発もらっていた。俺は殴り飛ばされて、後方にぶっ飛ばされてるんだ。


 そう自覚した瞬間に、時間が急速に進んで行く。


 いつの間にか殴り飛ばされていた俺の体は、後ろの机やいすを巻き込みながら、ガラガラと音を立てて倒れ伏した。


「ふむ。自分の筋力では、まだ彼にダメージを与えられないようですね」

「ちょっと凪ちゃん!いきなり何してんの!護くんは私の―――」

「ご当主様からのご命令です。お嬢様のバディとしてお守りするように、と」

「お爺様が」

「はい。ご命令です」


 少年の言葉に、小雪の表情が薄れていく。


 感情が、こころが、蓋をされていくようだ。


 あんな顔の小雪、初めて見た。


「小雪?」


 名前を呼ぶのが精一杯だった。


 顔にあれだけ感情が現れていた小雪が、今はまるで、表情の無い能面みたいだ。


「中里護くん、でしたね。今まで小雪お嬢様が大変お世話になりました。本日この時をもって、この新治凪が、お嬢様の正式なバディを務めさせていただきます。今後はどうか、お嬢様と関わり合いになりませんよう」


 胸の前に手を当てて腰を折った執事の少年を、俺は情けなくも、床で仰向けになったまま眺めることしかできなかった。







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