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3-3





「なっはっはっは!よう護ぅ、待ってたぞお!」


 1―Aの教室に入ると、パッツンパッツンはち切れんばかりのスーツを着た筋肉が待ち構えていた。


「おいおい、教室はここだぞお?」


 慌てて教室のドアをぴしゃりと閉めたのだが、なぜがその直後に東さんの声が背後から聞こえてきて、がっつりと肩を掴まれた。


 ワンチャン、セクハラとかパワハラで訴えられないだろうか?


「ほれほれ、とっとと教室に入れ。訓練が始めらんねえだろお?」

「いや何言ってんの?」


 にっかりと歯を見せながら笑っているが、俺はアンタの思考が恐ろしいよ。


普通入学式直前に訓練する?しかも教室で。


 入学式のことも知らずに朝練してた俺が言えたことじゃないと思うけどさ。


「ちょうど今教室に空間魔法をかけて―――」

「なにやってるんですかこのおバカ!とっとと空間魔法を解除してください!新入生が怖がってるじゃないですか!」


 黒のスーツに白のローブを羽織った大間々先生は、手にしていた自分の身長ほどの魔杖で東さんの後頭部をぶっ叩いた。


 見慣れた光景を見てほっとするのは俺と小雪だけのようで、その後もボコボコと魔杖を振り回す大間々先生を見て、廊下を歩いている生徒たちはぎょっとした表情を浮かべ、立ち止まってしまう生徒も多くいた。


 そんな生徒たちに『なんでもないです』とか『いつものことなんで』と適当なことを言っては、立ち止まらないように促した。


 果たして入学式直前に俺は何をやらされているのだろうか?


「さあ東さん。とっとと教室に戻って魔法を解除!あと、生徒に謝罪してください!」

「わかった!わかったからボコボコ叩くなよ!


 大間々先生に尻ではなく後頭部をひっぱたかれながら、渋々と言った様子で教室に戻った東さんは言われた通りにすぐ魔法を解除したようで、俺たちが教室の中をのぞき込んだときには、すでに普通の広さの教室だった。


「全くもう!どうして初日からこんなことしてるんですか。もう少し教育者としての自覚を持ってください」

「んなこと言われてもよお、俺は高校入学する前に召喚されちまったから、高校生活とかよくわからねえんだよ」

「あ・・・・・・そうだったんですね。すいませんでした」


 異世界召喚のせいで、日本での生活が奪われた。当時の辛さがわかるからか、大間々先生は申し訳なさそうに魔杖を下げた。


 でもさ、高校生活がわからなくても中学までは普通に通ってたんだったら、学校生活くらいわかってるだろ。


 少なくとも入学式前の新入生に訓練を強いる中学校なんてねえもん。大間々先生がお怒りを鎮めてくれたから深くはツッコまないけどさ。


「大間々先生はどうしてここに?養護教諭でしたよね?」

「それなんだけれど、資格がないからさすがに養護教諭は任せられないって言われてしまって。仕方なく1-Aの副担任にされてしまったの」


 今になってどうしてそんなことになるんだ?


そもそも養護教諭の資格が無いのなんか最初っからわかってたはず。


「まあ、俺としては大間々先生が副担任になってくれて嬉しいですよ」

「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいです。これからもよろしくね、中里くん」

「よっし!そんじゃあ時間まで訓練―――」

「しません!ほら、担任なんですから、生徒は平等に扱ってください」


 東さんの余計な一言で、再び大間々先生が荒ぶり始めたので、俺と小雪はそれを見なかったことにして教室に入ることにした。


「「「・・・・・・」」」


 今のやりとりのせいで、教室にいた生徒たちから一斉に視線を向けられる。そのせいで、後ろにいた小雪がビビったのか、俺の制服の袖口をきゅっとつまんだ。


 元ボッチの小雪にとって、クラスメイトの視線を集めることは恐怖以外ないだろう。俺だってこんなに視線を向けられたらビビるわ。


「小雪、ほら、座席表確認しよう?」

「・・・・・・うん」


 さて、俺はあまり目立つのが好きではないので、座る席は窓側か廊下側の最後尾が好きだ。しかし、年度最初の座席で、そんな好位置をゲットできたことは1度も無い。


 なぜなら、俺の名前は中里護。五十音順で出席番号が決められるこのご時世、な行は中間地点なんだよ。


 大抵は教壇の正面である中央に近い列があてがわれることが多かった。


 せめて後ろの方が良いなぁなんて思いながら、黒板に張り出された座席表を確認する。


 1列5人。それが6列あって30人か。


「・・・・・・ああ、まあ、そんなもんだよね」


 どうしよう。よりによって、ど真ん中の席なんだけど。こんなに注目されてる中、教室のど真ん中に足を運ばなきゃいけないとか、ちょっとした罰ゲームのような気がする。


「良かったぁ、護くんの前の席だ」


 安堵した小雪と一緒に自分の席に向かうと、よく見知ったヤツが俺の隣の席に座っていた。


「おっす護!また隣の席だな」

「また刀司が隣か」


 大体クラスが同じになると、もれなく隣の席についてくる藤岡刀司くんだ。こいつの隣にいると目立つから嫌なんだよなぁ。


「ねえねえねえ、ボクも同じクラスなんだよ~。よろしくね!」


 ひょこりと刀司の背後から飛び出した甘楽さんは、刀司の頭の上に両腕を乗せながらこちらにあいさつをしてきた。


「おいマコト!俺の頭にのっかんじゃねえよ」

「やだやだやだな~。刀司くん怒ってんの~?」


 この2人も随分と仲が良いよなぁ。バディって言うより兄妹って感じもするけど。


「久賀くん、同じクラスになれなくて残念だったね」

「「あ~」」

「なんでそんな微妙な反応なの?」

「いやな、久賀のヤツ、かなりムリしてこの学院に入っただろ?それで、俺らについてこれなくなったんだよ」


 ああ、やっぱりパパのコネで無理矢理ねじ込んでもらってたんだ。


でも、それで久賀くんだけクラスが違うっていうことは、やっぱり成績というか、ステータス順にクラスが分けられているってことなのだろうか?


 そうだとしたら、現段階でのステータス優秀者を集めたのがこのクラスってことだ。そんなクラスに俺がいると思うと、なんだか気分が沈みそうだ。


可も無く不可も無くって感じでEクラスくらいが良かったなぁ。


 でも、そうなると稀少なスキルを持っている小雪とは別のクラスになって、バディも解消だっただろうな。


「それにしても、お前らは良いよなぁ」

「何が?」

「俺らが学園に来る前に、基礎訓練でステータス限界まで上げたんだろ?レベル上げる前にさ」


 レベル上げる前にステータスを限界まで上げた?


いやいや。レベルを上げたくないからダンジョンにも入らず、言い訳しまくって訓練をしてただけだけど?


 今だって、訓練は日課になっちゃったから続けてるけど、ダンジョンなんて潜ってないし。レベルだって、あれから全然上がってない。


「俺はこの前レベル20になったけどさぁ。護たちに比べたら全然ステータス低いんだもんよお」


 レベル20っていったらかなりすごいんじゃないか?内閣府の職員だった大島さんが、半年かけてやっとレベル21って言ってたから、かなりのハイペースでレベルアップしたんじゃないかな?


「待って、俺たちまだレベル5だよ?ステータスだって、刀司の方が上なんじゃ」

「だからさぁ、俺たちは訓練で底上げできるステータスの限界まで上がってないんだって。レベルアップのときに、ステータスの上昇値に差が出るんなら、最初から教えておいてくれれば良かったのにな」


 そういえば、大島さんと戦った後にそんなことを聞いたような気がする。


 俺のステータス、やっぱり普通じゃないんだ。








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