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3-1





 小学校4年の夏。


 あの夏の出来事が、今の俺という人間を形作っているのは間違いない。


 どれだけ周りがあの出来事を忘却したとしても。


 どれだけ自分の中で折り合いをつけたとしても。


 それは俺のこころのどこかで影響を与え続け、それと共に成長し続けるしかないのだ。




「お~い、お兄ちゃん。大丈夫?」


 声をかけられて、沈み込んだ意識が持ち上がる。どうにも最近は気分が沈みがちになってダメだ。


 そういうときは決まって、昔のことを思い出してさらに気分が落ちて行く。まさにマイナススパイラル状態。


 少しでも気分を切り替えようと思って、訓練だけは欠かしていないのだが、ランニング中に別の考えに意識が持って行かれるのはよろしくないな。


「この前のお出かけから元気ないみたいだけど、なにかあったの?」

「・・・・・・」


 まさにそのとおりで、返事ができなくなってしまった。


「もしかしてだけど、あの無礼な男たちのこと、本気で好きになっちゃった、とか?」

「それは絶対にない!」


 まだこのネタ続くの?


 なぜかあの日以降、俺が男色家という噂が広まった。しかもそれは、俺の周辺だけではなくて。配信を見ていた人たちが情報を拡散したせいで、今では世界中にその誤情報が知れ渡ってしまい、『BLの守護騎士さま』は、一時期ネットのトレンドにランクインするほどだった。なんでやねん!


「いい加減、そのネタ止めてよね」

「本当にネタなんだよね?」


 どうしてそんな真剣な眼差しでこんなことを質問されないといけないのだろうか。


「一応お兄ちゃんの従者候補の男の子たちには、そういうのが求められる可能性もあるって話を―――」

「しなくていい!むしろしないでくださいお願いします!」


 そんなバカ話をしながら、準備運動のランニングを終わらせた。


 ミナモちゃんが訓練に参加するようになって、もう1週間ほどになる。最初はランニングだけでバテてしまっていたが、今ではランニングをこなせるだけのステータスになったようで、戦闘の訓練も一緒に行えるようになった。


 おかげで朝から東さんにボコボコにされることはかなり減ったんだよ。


「ふぁ~、おはよう2人とも」


 戦闘訓練の準備をしていると、大きな欠伸を隠すことなく大口を開けた小雪が到着。


 相変わらずランニングは嫌いなようで、俺たちが走り終わる時間を見計らってやって来るわけだ。


「それじゃあ、戦闘訓練始めるか」

「ん?」


 訓練用のショートソードと盾を持ちながら小雪に声をかけると、なぜか首を傾げられてしまう。


「そろそろ準備しないと、入学式間に合わないよ?」

「・・・・・・え?」

「2人とも汗びっしょりだから、さすがにシャワーくらい浴びないと。姫様だって、髪を乾かすだけってわけにはいかないでしょ?」


 女の子は準備に時間がかかるって言うもんね。たしかに式典に参加するなら、シャワー浴びただけじゃダメ・・・・・・今なんて?


「今日って入学式あんの?聞いてないんだけど!」


 たしかに4月には入ってたし、ここ数日で寮とか食堂に人が増えたな~とは思ってたけど。今日が入学式だなんて連絡、全然もらってない。


「端末に通知来てたよ?ほら」




通知


4月8日月曜日9:00より、風守学院入学式を開催する。

生徒各位は、校舎前に設置されたクラス分けを確認後、8:30までに指定のクラスへ入室し、待機していること。




 命令書かな?


 せっかくの入学式のご案内なんだから、もう少し言葉で飾ったりとかできなかったんだろうか。


これじゃあ軍隊にでも入った気分だ。いや、もしかしたら世間ではそういう扱いなのかもしれないな。


「そんなわけだから、早く準備してきてよ。初登校なんだから、一緒に行こうぜ、相棒」

「いや、まだ2時間以上あるんだけど」


 時刻はまだ6:30。


 とりあえず8時に女子寮の前で待ち合わせをすることにして、解散した。




 7:45


 女子寮の前に行くと、すでに小雪は準備を終えて俺を待っていた。


「ねえねえ、どう?」


 そう言って、小雪は真新しい制服を見せつけてきた。そう言えば、この学院の制服って初めて見たな。男子の制服だって、さっき袖を通すときに初めて見たくらいだし。


 男子の制服は、緑の上着に赤いネクタイ。ズボンは黒。緑の上着に黒のズボンって、なんか微妙な感じ。


 女子の制服もブレザーで、男子と色合いは一緒。以前まで小雪が着ていたセーラー服とは趣が違うので、新鮮に感じる。


 ただ、こういうときくらい右手の指ぬきグローブは外しても良いと思うんだけど。


「お~い、護く~ん。褒めろって言ってるんだよ?ほら、褒めて褒めて」

「うん。普通の中にほんのり厨二っぽいアクセントを取り入れていて小雪らしい!」

「だあああああぁ!それは言っちゃダメって言ったじゃん!もっと褒めるとこ別にあるでしょ?え?もしかしてそれ以外に褒めるところなかった?」

「そんなことないよ。ただやっぱり、どうしてもそこに目がいくって言うか」

「うぅ・・・・・・でも、ちゃんと護くんも着けてくれてるじゃん」


 そう言えば、俺の左手にもしっかりと指ぬきグローブが装備されていた。もう長らく装備しっぱなしだから、ないと落ち着かなくなっちゃったんだよね。


「じゃあ、行こうか」

「あいよ」


 小雪が差し出してきた右拳に、コツリと自分の左拳を当てる。これもやりなれてきたんだけど、男女でやるとなんだか気恥ずかしいよね?


「あ・・・・・・おはよ」


 歩きはじめようとしたところで、寮の入り口から上野さんが顔を出した。


彼女はこちらに視線を向けると、気まずそうに視線をそらしながら、一言あいさつをして立ち止まってしまった。


「おはようございます、上野さん」


 あまり俺がここに留まるのも迷惑だろうと思い、とっとと歩き出すことにした。小雪も上野さんに軽く会釈だけして着いてきてくれた。


「一緒に行かなくて良いの?」

「いや、一緒に行く理由とかないでしょ」

「・・・・・・ふ~ん」


 それこそ、上野さんと一緒に登校なんて、小学校以来してないわけで。同じ学校だからと言って、わざわざ一緒に登校する必要はない。今はもう、その程度の関係なんだから。


「ちょおおおおおおっと待ったああああああぁ!」


 なんて、ちょっとイタいことを考えながら歩いていたら、後ろからよく知る声が聞こえてきた。朝から叫ぶのとかマジで止めて。目立ちたくないんだから!


「お兄ちゃん!なんで待っててくれないの!せっかくの入学式?なんだよ!」


 入学式の後に?が入ってる時点で、あなた入学式のことよくわかってませんよね?


「ミナモ様。失礼ながら、両陛下がお待ちです」

「え?お父様とお母様が?なんで?」

「そりゃ、自分の子どもの入学式なんだから見に来たんじゃないの?」


 でも、ミナモちゃんのご両親って、国王様と王妃様ってことだよね。まさかとは思うけど、そんな国賓クラスのVIPを保護者席で座らせたりしないよね?


 アニメの王族ってかなりゴテゴテした衣装を着ているイメージがあるけど、スーツとか着たら意外と普通の人に見えたりするんだろうか?


パイプ椅子に座らされる王様って、ちょっと見て見たい気がする。


「よろしければ、護様もご一緒なさいますか?」

「いえ、今日は小雪と一緒に行く約束をしてるんで、お断りします」

「うえ、ちょっと、ずるいよお兄ちゃん!」


 なにがずるいんだよ。さすがに一国の王様とエンカウントなんかしたくないわ。自分の親なんだから、しっかり入学を祝ってもらうと良いよ。


「ふえええぇん!ロレーナァ」

「急ぎましょう。お時間にも限りがございますので」


 必死の抵抗も虚しく、ミナモちゃんはロレーナさんに引きずられて行った。







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