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 スマホ端末にアップで映る俺。鏡でも見ているようで非常に気分が悪い。


どうしてラフィさんやアイシェアさんみたいな美少女が近くにいるというのに、俺なんかを映してるんだこのドローンは。


 さらに、動画の下で大量にうごめいている文字列。


生配信と言うことで、リアルタイムにコメントが寄せられているのだが、その数が恐ろしいくらいに多く、読む前にどんどんと流されていく。


「み、皆さん、こんにちは?」


 さすがに無言を貫き通す度胸もないので、当たり障りのないあいさつをしたところ、さらにコメントは加速していく。




>やっと気づいたか!

>まもるくんこんちゃ!

>BLの守護騎士さま

>この美少女よりヤンキーを守護る漢が

>ひかりちゃんシメ落とすとかなにしてくれてんだ!

>美少女の配信に男が混ざるな!

>悪漢を美少女から守るって草も生えん

>BLの守護騎士さま!BLの守護騎士様!



 あいさつを返してくれる人もたくさんいるけど、どうやらさっきのモブABを守ったことに対する批判が多かった。


 というか、『BLの守護騎士』って俺のことか?


「今のBLマンガは俺のじゃなくて、あちらのミィティリアさんが買った物だから。俺はBLの守護騎士じゃないよ!」



>マンガほんなげてたしな

>チンピラ2人を守ってる時点でさぁ

>あれまもるくんのためにひかりちゃんたち怒ってたんじゃないの?

>それを一方的にボコるとか

>おれは女子には興味無いぜ!ウホ

>ユキちゃんのファンだけど、これからは安心スノーシールドの動画見れる

>女の子に手を出さないならそれで



 ダメだこれ、絶対ネットでおもちゃにされる。


 こういう時は、肯定も否定もダメ。燃料を投下するだけだから、なるべく何もせずに燃え尽きるのを待てば良いはず。



>これ質問タイム入ってる?

>レベルってどうやって上がるの?

>スキル習得すると政府に強制連行されるって聞いたけどマ?

>スキルの習得方法を

>トージくんとはどんな関係?

>ひかりちゃんとはなんもないんだよな?そうだと言ってくれ!

>今日はマコちゃん出ないの?



 いつの間にか質問タイムに入ってるし。


 俺でも答えられそうな内容と言うと・・・・・・


「刀司とは幼馴染みの腐れ縁、ひかりさん?とは赤の他人だってこの前本人に言われたので、そうだと思います」


 上野さんのことを下の名前で呼ぶのって変な感じするなぁ。でも、フルネームで呼ぶと身バレが怖いから、コメントの呼び方と合わせておかないと。



>赤の他人って言われたって

>元気だせや

>ざっまあ

>まもるくんに女の子は必要ない

>トージくんとは幼馴染みなんか

>幼馴染み同士でスキル持ちって少年マンガのライバルか



「ライバルって、別にそんな関係じゃないですよ。昔っから刀司は有名人で、俺なんかただの背景キャラその1でしたから」



>背景キャラて

>さすがに卑下しすぎちゃう?

>モブ以下でも無双するのが最近の流行だし、元気だして

>せ、せめてどっちが受けかだけ教えて欲しいですぅ

>ひかりちゃんとも同じ中学だったってマ?

>ひかりちゃんの中学時代、わたし、気になります!



「ひかりさんの中学時代ですか?う~ん、中学時代のひかりさんとは1回か2回くらいしか話したことないので、どんなって言われてもお答えできないですね。告白は毎日行列ができてたって聞いたことありますけど」



>らーめん屋じゃん

>そんなんギャルゲのヒロインやん

>なおまもるくんのヒロインはトージくん

>実はまもるくんもその行列並んだことあるんじゃ



「なんで俺のヒロインが刀司なんですか!俺はいたってノーマル!でも、ひかりさんの行列には並ばなかったですね。あんまそういうの興味無かったんで」



>あばばばばば

>まもるくん、うしろうしろ

>やばいやばいやばい

>いや、うしろ見んほうがええやろ



 なぜかしきりに俺の後ろを気にするコメントが流れていく?見た方が良いの?見ない方が良いの?


「へぇ、護はアタシに興味なかったんだ・・・・・・へぇ」


 恐ろしく低く冷え切った声が、背後から聞こえてくる。


思わず画面に視線を落とすと、先ほどまで気を失っていた上野さんが、いまだに表情を失ったままこちらを見つめていた。


もしかして、さっき締め落とした?のを怒っているのか、それともモブABを守ったことを怒っているのか。


 まあ、俺にできることは1つだけ。たった1つのことしかできない。


 くるりと半回転して上野さんに向き直り、両手を床についた俺は、そのまま自分の頭も床にたたきつけた。


「申し訳ありませんでしたああああああああぁ!」


 渾身の土下座。決まっただろうか?恐ろしくて、顔をあげることはできないんだけど。


「ねえ、護は何を謝ってるの?」

「・・・・・・」


 土下座中に最も聞きたくないワードが飛び込んでくる。


 これを外せば、もれなく相手の怒りのボルテージがさらに上がるという恐ろしい言葉だ。


 正直俺は、この問いに正解する自信は全くない!なので、心当たりを全てあげることにしよう。きっとどっちかが当たってるはずだから。


「先ほどひかりさんを無理矢理抱きしめて、締め落としたことと、絡んできたヤンキーを助けたことです!」

「ひ、ひ、ひかりって、な、名前で呼んでくれた!それに、抱きしめたって、あ、あ、あれ、夢じゃなかったんだ!」


 ん?なんか急に声音が変わった気がするんだが?


 ちらりと顔をあげて上野さんの表情をのぞき見ると、両手で口元を隠している様子しか見えなかった。


 できればぴょんぴょんと小さく跳ねないでくれ。この位置からだと見てはいけないモノが見えちゃいそうなんだから。


「その、ま、護?」

「なんでしょうか、ひかりさん」

「~~~!」


 本当になんでしょうか?


俺と同じように床にかがみ込んだ上野さんは、左手で顔を隠したまま、右手で床をパンパンと叩き始めた。


 床、抜けないよね?


「ひかりさん、お許しいただけるでしょうか?」

「ふふ。アタシと護は名前で呼び合う仲なんだからぁ。怒ったりなんかしないよ?」


 いや、普段は名前で呼び合うほどの仲ではないですけど。これはあえて言う必要はないな。せっかく怒ってないって言ってるんだから。


「そうだ、ひかりさん」

「な~に、護」


 急に甘ったるい声をあげる上野さんにドン引きする。これ、本当に怒ってないの?怒りが一周してこんな変な感じになってるんじゃないよね?


「そ、そろそろ配信、止めてもらえると嬉しいんだけど」

「あ、いつもの癖で配信しちゃってたんだ。はい、終了しま~す」


 そう言ってドローンの中心部分を上野さんがポンと叩くと、ホバリングしていたドローンはゆっくりと下降していき、着陸した。


 あんな簡単に停止できたのかよ。


 というか、あんな雑に配信終了しちゃって良かったんだろうか?けっこうな視聴者がいたと思うんだけど。まあ、他人のチャンネルのことをどうこう言ってもしょうがない。あれが良いっていう訓練された視聴者たちかもしれないしな。


「ふふ、ねえねえ護」

「なんですか上野さん」

「え、あれ?どうして名前で呼んでくれないの?」

「いや、配信中はさすがに名字で呼ぶと個人情報とかいろいろまずいかなと思って」

「普段もその・・・・・・名前で呼んでくれると嬉しいんだけど。昔、みたいに」


 昔みたいに、か。


 上野さんのことをひかりちゃん、なんて呼んでた時期もあったけど、それはもう昔のことだ。


「ねえ、また昔みたいに―――」

「ムリですよ。もう、あの頃には戻れないんですから」


 それだけ言い残して、俺は1人で歩き出す。


 望んだって、あの頃に戻ることなんてできない。失った人を取り戻すことも・・・・・・


「・・・・・・ごめん」


 背後から上野さんの声が聞こえてきたけど、それに返事をすることなく、帰路に着いた。


 はぁ、感じ悪いよね。


 わかってるんだけど、やっぱり俺はただの器のちっちゃな普通の子どもだからさ。辛いことを思い出して、ついつい八つ当たりしちゃったんだ。


 ごめんね、ひかりちゃん。







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