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「うわ~、これ全部屋台なの?」


 自己紹介の下りが終わったので、まずはフードコートで食事でも、ということになった。


ちなみに俺は自己紹介してない。できれば今回の動画に映り込まないように徹底するつもりだ。今からでもカメラマンになれないだろうか?


 ドローンは録画を開始してからずっと俺たちに随行して空を飛んでいる。最新の技術を用いられていると仮定しても、バッテリーとか大丈夫なのかと心配になるし、どこを撮影してるかわからないので、俺が映り込む可能性がゼロにはならない。


 だったら俺がカメラを持って撮影していれば、間違っても映り込みだけはなくなるだろう。後、みんなが変なことを言う前に撮影を止めることも簡単になるし。


 記録に残ったら、粕川先生がおふざけで編集をしたり、切り抜きを作る可能性もあるからね。極力記録に残らないようにしたい。


「ねえねえお兄ちゃん。席に座っていれば給仕が来てくれるってわけじゃないんだよね?」


 口調は子どもっぽいものに変わっているけど、発想は完全にお姫様だな。こういうのはけっこう視聴者が喜ぶかもしれない。でも、できれば俺の名前は呼ばないでね?映りたくないから。


 俺はフードコートに向かう途中で購入した、A3サイズのホワイトボードに水性ペンで文字を書いていく。


『撮影中は俺に話しかけない。俺の名前は呼ばない。質問は全て上野さんにすること』


「え~!せっかくのお兄ちゃんとのデートなのに、どうして話しかけちゃいけないの~」


 俺の書いたカンペを見て、ぶーぶーと文句を言うミナモちゃん。デートって言っちゃってる時点で話しかけるのは禁止したい。


「ね、ねえ。アタシは護に話しかけても良いんだよね?」


『ダメですよ。俺のことはいないものと思ってください』


 俺がホワイトボードにそう書くと、上野さんはその場に膝から崩れ落ちた。


たしかにこの人数の異世界留学生を抱えて進行するのは大変かもしれないな。カメラに写り込まない範囲で、俺も協力できることは協力しよう。


『なにか食べたい物はある?』


「はいはい、は~い!」


 そう書いたボードを見せると、赤髪さんことマイラリアさんが元気に挙手をした。


「わたし、クレープってお菓子が食べてみたい!」


 素晴らしい!なんて普通の回答だ。『異世界の女の子が日本で初めてクレープを食べてみた』なんて企画、地味で普通で埋没しそうなのがとても良い!


 俺はマイラリアさんを手招きして、クレープの専門店まで案内する。ドローンもこちらに同行してきたので、案内を終えた俺は、これ以上映り込まないようドローンの背後に移動する。


「いらっしゃいませえ!」

「っひえ!」


 大声で敬礼をしながらあいさつをするのは、筋肉の塊。未だにこのショッピングモールの店員は、筋肉しかいないのかな。


「こちらのメニューからお好きな商品をお選びください!」

「好きな商品を?」


 涙目になりながら、マイラリアさんはこちらに視線を向けてきた。こういうお店ってメニューが多かったりするからな。クレープ初心者のマイラリアさんがこの中から1つを選ぶのは難しいかもしれない。


 ちょろっとメニューをのぞき見ると、およそ20の商品名が書かれていた。キッチンカーとかで売ってるクレープ屋に比べたら、かなりの数があるな。


「えっと、具材に果物を使った物が良いんですけど」

「はい!こちらの一列は果物を使ったものです!」




スタンダードメニュー

・ストロベリー  (チョコ ホイップ ミックス)

・ラズベリー   (チョコ ホイップ ミックス)

・メロン     (チョコ ホイップ ミックス)

・バナナ     (チョコ ホイップ ミックス)

・バナナプロテイン(チョコ ホイップ ミックス)




 いや、なんか最後のおかしいだろ。なんでスイーツ食べながら筋肉を育まなきゃいけないんだよ。




オリジナルメニュー

・ストロベリーとラズベリーの甘くて酸っぱい初恋クレープ

・メロンとハチミツのバブみたっぷり甘々クレープ

・バナナとプロテインの筋肉育成スペシャルクレープ




 だから!なんでスイーツ食いながら筋肉育まなきゃいけないんだよ!


筋肉育成って書いてあるから、隠す気ゼロだよこれ。


 店員と言いメニューと言い、本当にこの店で注文しても大丈夫なんだろうか?とは言え、いくら巨大なフードコートといえど、他にクレープやってる店はないしな。


「そ、それじゃあこの、ストロベリーとラズベリーの、やつで」

「はい!ストロベリーとラズベリーの甘くて酸っぱい初恋クレープお1つですね!」

「は、はぃ」


 ああ、プロテインに気をとられていたけど、他のオリジナルメニューもなかなか注文しにくい名前がつけられてたな。


 そんな商品名を堂々と叫べるんだから、彼はよく訓練された筋肉だな。


「スプーンはお1つでよろしいですか!」

「はい」

「了解しました!では、こちら商品になります!お気をつけてお持ちください!」

「わぁ、すっごおい!」


 筋肉店員から手渡されたクレープを両手で受け取り、マイラリアさんは花が咲いたように顔をほころばせた。


 美少女が満面の笑みでクレープを受け取る映像とか、それだけでかなりの取れ高だろ。誰だよ地味で普通で埋没するって言ったヤツ!


「ん~!フォルティアの王都で食べたクレープよりもクリームがずっと濃厚だ!」


 スプーンでクリームを掬って1口食べたマイラリアさんは、感動で瞳を潤ませていた。


 あれ?今『王都で食べた』って言わなかった?


「ねえ、わたしには少し量が多いから、旦那様も食べるの手伝ってくれない?」

「え?いや、俺は―――」

「はい、ど~ぞ」

「んぐぐ!」


 断ろうと口を開いたら、その隙にクレープを突っ込まれてしまった。


 口に入ってはどうすることもできないので、あきらめて口に入った分だけいただくことに。


「じゃ~わたしも~」


 俺が先ほどまでかぶりついていたところに、マイラリアがさらにかぶりつく。


 俺の歯形よりも少し小さい歯形が残って、なんだか気恥ずかしい。


「うん、おいしいね旦那様。もう少し食べる?」

「いや、もう大丈夫だよ。それより、クレープってそっちの世界にもあったの?」

「うん!王都ではすっごく人気の食べ物だったよ!」


 へぇ、やっぱり何人も地球の人が召喚されてたから、食文化もけっこう知られてるんだな。


 もしかしたら、ラノベみたいに料理のスキルで成り上がった、みたいな人もいたのかな?


「実はクレープってお菓子には伝説があってね」


 おお!やっぱり料理で無双した人が!


「男女2人で果物が入ったクレープを食べると、必ず結ばれるんだって」

「はい?」

「へへ、これでわたしは旦那様と、ずっと一緒にいられるね」


 そんなことを言いながらはにかんで笑うマイラリアさんにときめく、なんてことはなくて。


「必ず結ばれるって伝説、その元ネタをもっと詳しく聞かせてくれ!」


 伝説の詳細が聞きたくて仕方なくなってしまった。きっとクレープが絡んだ壮大な恋物語があるはずだ。


 伝説になった男女の間に何があったの?どうして果物が入ったクレープなの?そのクレープを食べた男女はどうやって結ばれたの?


 疑問や興味は尽きることはない。ぜひとも動画でその伝説の部分を切り取って配信したい。


「え?なんか昔の人が色々あって伝説になったみたい。へへ、わたしあんまり恋愛関係の書物とか読まないからわかんないや」


 なんか、一番肝心なところでおあずけをくらってしまった。


 さて、背後でクレープを手にした美少女集団の中には、この伝説を知っている人がいるんだろうか?


 ぜひ話だけ聞かせて欲しい。


 クレープはもういらないから!







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