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「その、ごめんね?護」


 上野さんに回復魔法を使ってもらい、パンパンに膨れ上がった顔面から、痛みと共に腫れも引いていく。


 指で触れるだけで痛かった脇腹の痛みも、温かい感覚と共に薄れていった。


「ありがとうございます、上野さん」


 一応お礼は言うけど、お顔パンパンマンになったのは上野さんのせいなので、なんか釈然としない。


「ごめんねお兄ちゃん。でも、あんなところに飛び出してきたら危ないよ?」


 ミナモちゃんも謝罪の言葉を口にしてくれたが、どうも反省はしていないらしい。


 俺が止めに入らなかったら、せっかくできあがったショッピングモールが早々に営業できなくなる可能性もあったんだよ?


「子どもじゃないんだから、人前で本気のケンカはしない!人を巻き込んだら大変でしょ?」

「え~、あれくらいなら普通じゃない?城下町ではしょっちゅうケンカで建物壊してるよ?」


 日本の普通では、ケンカで建物は壊れないんだわ。


 でも、レベルが上がってステータスが高くなると、地球でも建造物が壊れるくらいのケンカが普通になっちゃうんだろうか?


 今までの普通がガラガラと崩れ去っていくようで、悲しくなってくるな。


「それじゃあ、気を取り直して、さっそく買い物に出かけようか」

「「「「「は~い!」」」」」


 元気に手を挙げる異世界美少女5人。


 これからこの子たちを率いてショッピングモールを巡るとなると、間違いなく目立つ。


上野さんも含めて美少女が6人もそろってるんだからね。そりゃあ周囲の視線を集めるよ。事前にわかっていたことだったけど、そう考えるだけで非常に憂鬱な気分になった。


 せめて刀司か久賀くんでも誘ってくれば、盾代わりくらいには使えたのになあ。


「そういえば、粕川先生から撮影してくるようにお願いされてるんだった」


 なんか不穏な人物の名前を口にしながら、上野さんがポケットからスマホ端末を取り出した。


 撮影ってことは、あの端末を使ってX―チューンに投稿する動画を撮るのか。


うちのチャンネルは大間々先生がカメラで撮影してくれてるから、端末で撮影ってしたことないんだよなぁ。


 なんか高校生っぽくて良いな。


「よし、ドローン起動!」

「ちょいちょいちょい!」


 上野さんが端末でなんらかの操作をしたら、いきなり端末が変形してドローンになったんだが?


 嘘でしょ。いつ日本の科学技術はスマホをドローンに変形させられるようになったの?


「あれ?護、この機能使ったことないの?アタシたちはダンジョン潜るとき、この機能使ってるんだけど。なんか所有者を自動で追尾する機能が搭載されてるんだって。すごくない?」

「驚くとこ、そこですか?」


 自動追尾とかかなりすごいと思うけど、それより変形機能のほうがやばいでしょ。明らかにスマホの形してたときより大きくなってるし。


「そういえば、護たちってダンジョンの攻略配信ってやらないもんね」

「え?上野さんたち、ダンジョンの配信やってるんですか?」

「あれ?うちのチャンネル見てくれてないの?」


 すいません、全く見てないです。


 動画はVチューナーさんの配信と、ラブコメ動画くらいしか見てないんだよなぁ。


最近国内でも、風守学院と同様の特殊機関に早期入学した生徒たちがダンジョン攻略の動画を上げているらしいけど、見ていない。


 魔獣を倒すシーンなんかは、規制に引っかかるため、ほとんどがモザイクばかりで何をやってるのかよくわからないので、見ててもあんまりおもしろくないんだ。


 ちなみに、風守学院では、俺たちの『チーム・スノーシールド』と、上野さんたちのパーティしかチャンネルを開設してない。


 早期入学した生徒もそこそこの人数いるんだけど、ダンジョンに安定して潜るだけのスペックが足りず、基礎訓練を受けている生徒がほとんど。


 とても動画制作して投稿するレベルではないらしい。


「それじゃあ、配信はじめるね?」


 そう言って上野さんがスイッチを押すと、ドローンは音もたてずに飛び上がり、上野さんの正面辺りでホバリングをはじめた。


「皆さんこんにちは~、ひかりです。今日はダンジョン配信はお休みして、異世界テリオリスからやって来た留学生と一緒に、ショッピングモールを見て回りたいと思います」


 ずいぶんとなれた感じで、上野さんがオープニングトークを開始した。しかし、こんなローテンションなはじまりで良いんだろうか?うちも人のことは言えないけど。


 まあ、上野さんはもとが良いから、あれくらいでちょうど良いのかもしれない。


「それじゃあ、本日のゲスト、紹介します」


 そう言いながら、こちらに手招きをする。入ってこいってことなんだろう。


「ほら、ミナモちゃんたち出番だよ。上野さんの隣に行って」


 異世界人の6人を上野さんの隣に立つように誘導すると、ドローンが後方に移動した。


 全員がアングルに入るように距離をとったってことなんだろうか。さすがハイテク機器だ。


「え?これ、あの浮いてるやつを見ながらあいさつすれば良いの?」


 カメラではなく、俺に視線を向けながらミナモちゃんが尋ねてきたので、俺は無言で頷いた。


「皆さん初めまして。フォルティア王国第一王女、ミナモ・リンデ・フォルティアと申します。つい先日、中里護様と婚約を結ばせていただきました」

「はいカット~!」


 姫様モードでアホなことを言い始めたミナモちゃん。慌ててミナモちゃんとドローンの間に体を滑り込ませて中断する。


「お兄ちゃん、なんで止めたの?」

「そりゃ止めるでしょ!むしろなんで止めた理由がわかんないかなぁ。世界中が見るかもしれない動画撮影で、嘘ついたらまずいでしょ」

「え~、別にうそなんてついてないもん。私、ちゃんとお姫様だもん」

「うんうん、そうだね。でも、俺の婚約者じゃないよね?」

「まだ、ね?」

「まだじゃないよ。なんでそんな含みのある言い方するの。知らない人が見たら、もうすぐ婚約するんだ~って勘違いするかもしれないじゃん。良い?俺たちは従兄妹。それ以上でも以下でもないの」

「まだ、ね?」


 だから、含みを持たせるなって!この動画、編集するのはどうせあのカスなんだから、面白がって変な感じに編集するに決まってる。


「とりあえず、今回は王女って話と、どうしても俺との関係を言いたければ、従兄妹って話だけにして」

「も~、わかったよ。恥ずかしがり屋なんだから」


 キミが従兄妹だっていうのが恥ずかしいよ俺は。


「では改めて、フォルティア王国第一王女、ミナモ・リンデ・フォルティオです。母が日本人で、護様とは従兄妹の関係にあたります」


 よしよし、今度は無難なあいさつだ。こういうので良いからね、ラフィさん。


「皆さまこんにちは、私はミラフィリーナ・ロンデ・グリスモール。グリスモール侯爵家の次女で、護様の第2夫人になる予定です」

「はいカット~!なにこれ?なんでラフィさんまでのっちゃったの?しかも第2夫人って、そんな話今まで一度も出てなかったよね?」

「あら、そうでしたかしら?問題があるのであれば、2番目以降でも構いませんが、家格は尊重していただきたいと思います」

「うんうん。家の格を気にするんなら、俺なんかに嫁ぐのは絶対ダメだね。とりあえず、余計なことは言わないで、あいさつと名前だけ名乗ろうか」

「私はミラフィリーナ・ロンデ・グリスモール。グリスモール侯爵家の次女でございます」


 不満そうな表情をしながらも、すぐに笑顔を作り直して貴族っぽい礼をとった。


「はいオッケーです!次」


 そこで、信号機3姉妹が同時に一歩前に出て、揃った所作で綺麗に一礼する。


「ミィティリア・ミシス・スロデリア。スロデリア子爵家の三女よ」

「マイラリア・マーシャス・ヒラフレア。ヒラフレア男爵家の次女だよ」

「アイシェア・アイリー・ラムスタン。ラムスタン男爵家の四女ですぅ」


 青、赤、黄の順であいさつをすると、カメラに向かってにっこりと笑顔を浮かべた彼女たち。


「「「この前無理矢理裸にされたので、マモル・ナカサト様に娶ってもらうことになりました!」」」

「は~い、いったん止めますよ~」


 どうしてこいつらは、似たような冗談をぶっこんでくるんだろうか。


 編集でカットされるのを祈るばかり・・・・・・いや、これは俺が編集した方が良いかもしれない。







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