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サランド王国集団嘔吐事件・・・・・・楽しい交流会が終了して翌日。
なぜか俺は1人、風守ショッピングモールの入り口に立っていた。
もう来週には入学式があるため、一般入学の生徒も続々と寮に移動してきているようで、初めて来たときと比べてかなりの人で賑わっていた。
大体が俺と同年代か、少し下くらい。
あの全員が何らかのスキルを所持していると思うと、世界が変わってしまったのだと実感する。
「スキルや魔法がありふれた世界、か」
ラノベやアニメは好きだ。
その世界がフィクションであり、現実にはあり得ないと実感できるから。
リアルで起こる非日常は嫌いだ。
俺から大切なものを奪っていったから。
特別扱いも、注目されるのも、みんなからもてはやされるのも、大っ嫌いだ。
そんなことを求めたから、大切なものを失ってしまった。
だから俺は普通でいなきゃいけない。無個性で、埋没した存在でいなければいけない。
これ以上大切なものを失わないために。
『ねえ、お兄ちゃんは大きくなったら―――』
「―――る!ねえ、護!」
「うおぉビックリしたぁ!」
眼前で美少女が俺の顔をのぞき込んでた。マジで心臓止まるかと思ったわ。
待ち合わせのためにここで待っていたんだけど、まさかいきなり目の前に出現するとは思わなかった。
「驚きすぎじゃない?幼馴染みなんだから、顔なんて毎日合わせてるでしょ?」
「いや、さすがに毎日は会わないでしょ?中学の頃なんかほとんど顔合わせなかったし」
「あ、アタシは毎日、見てたけど?」
「いや、それはさすがにないでしょ。それが事実だったらさすがにひくわ~」
「・・・・・・」
あ、あれ?さすがに冗談だよね?なんでそこで黙っちゃうの?冗談だって言ってよ!
「ほらほら、そんなストーカー女おいて、遊びに行こうよお兄ちゃん」
そんなことを言いながら、ミナモちゃんが俺の右腕に自分の腕を絡ませてきた。その瞬間に、俺の肘が柔らかな感触に沈んでいくのがわかった。
意識が完全に持って行かれてしまう前に、俺は慌ててミナモちゃんの拘束から逃げ出した。
「ミナモちゃん、日本の学生は人前で腕を組んで歩いたりはしないの!」
「え~!でもほら、みんなやってるよ~?」
「そんなわけ・・・・・・」
ミナモちゃんが指差した先には、公の場だというのにそれを全く気にせずに腕を絡め合ったり、指を絡め合ったりしている男女の群れが。
お、おかしい。さっきまでこんなにカップルなんていなかったはずなのに。って言うか、まだ学院に来てそれほど日数が経っていないのに。なんなら授業すら開始してないのに、どうしてこんなにカップルが溢れてるの?
「最近増えたよね、付き合いだした子たち。一緒にダンジョン探索してると、そういう雰囲気になりやすいみたいでさ。特にバディで付き合うことが多いみたい」
「・・・・・・へぇ」
べ、別に悔しくなんかないもんね。俺にだってちゃんとバディはいるし?仲だって別に悪くはない、はず。
まあ、そんな俺のバディは今日来てませんけどね!
小雪は、昨日の交流会の後、マサルくんから大量の魔導書と魔道具をもらった。勝利の報酬は「みんなで平等に過ごすこと」って決めたんだけど、その後小雪がゴネまくって、魔導書と魔道具だけはもらえることになった。
そのため、今頃魔導書を読みふけっているのではないかと思われる。
ミナモちゃんも騎士団が欲しいってゴネたけど、さすがにそんなものはいただけないので、代わりに今日遊びに付き合うことになったわけで。
なぜかラフィさんや信号機3人娘もついてくることになったんだけど、その人数を俺1人が面倒見るのは無理なので、頼れる相棒にヘルプを送ったところ。
「この前みたいに貸し切りだったら行けるけど、人が多いとムリだよぉ。陽の気が強すぎて浄化されちゃいそうだもん」
との返答をいただいた。
いっそのこと浄化されて、陽の者になっちゃえば良いのに!
というわけなので、小雪が来られなくて困っていたところに、頼れる幼馴染みが救いの手を差し伸べてくれたわけ。
「そ、それじゃあ、アタシたちも、手、つなぐ?」
「いや、つながないでしょ」
「なんで!」
上野さんと手なんかつないで歩いてたら、間違いなく注目される。それも悪い意味で。
『彼女めっかわなのに、あれ、彼氏のほう地味じゃね?』
『うそ、彼氏なわけないじゃん。罰ゲームかなんかっしょ』
みたいな感じで陰口をたたかれるのが目に見えている。
「ほら、幼馴染みは幼馴染みらしく、適度な距離間を保ってよね。お兄ちゃんは私と手をつなぐんだから!」
「いや、ミナモちゃんともつながないでしょ」
「え?私たち、従兄妹だよ?」
どこの世界に出会って数ヶ月の従兄妹同士が仲良く手をつないでお出かけするんだよ。
小っちゃい子ども同士ならまだしも、高校生の従兄妹同士が手をつないでお出かけなんかしないよね?
「ほら、従妹なんてお呼びじゃないの。早く護から離れて」
「なんちゃって幼馴染みだってお呼びじゃないよ!」
人選、間違ったかな?今からでも上野さんと甘楽さんをチェンジ・・・・・・いや、どっちにしろ面倒ごとが起こりそうだな。
ぎゃあぎゃあと口げんかをする2人をなだめることなく、俺は2人から距離をとって、残りのみんなが来るのを待つことにした。
「ええと、マモルさん。これは一体どういった状況なのでしょうか?」
しばらくして、ラフィが信号機3姉妹と一緒に集合場所にやって来た。
4人とも学院指定の制服に身を包んでおり、多彩な髪色のせいか、この空間だけアニメの世界のようだ。
「それじゃあ行こうか。ラフィさんたちは、何か見たいものとかある?」
「待ってくださいマモルさん。さすがにあの状態の姫様を放置するわけにはいきません」
「ですよねぇ」
ぎゃいぎゃい言い争っていたミナモちゃんと上野さんだったが、そのうちどちらからともなく手が出始めて、2人はお互いの両頬を力の限りひっぱり合っている。
「いやあ、美人と美少女って、ほっぺた伸ばされても絵になるんだねぇ」
「絵になるわけないじゃないですか!早く止めてくださいませ!これ以上王女殿下の醜態を衆目に曝すわけにはいきません」
そうは言ってもなぁ。昨日盛大に醜態をぶちまけてたし、今さらって感じはあるし。
なんならあの2人がずっとケンカしててくれたら、4人でゆっくりショッピングモールを回れると思うんだよね。
「そもそも、俺が止められる?」
「・・・・・・大丈夫です」
なんだよその間は!そこは間髪入れずに大丈夫って言ってくれないと、安心して止めに入れないじゃん。
まあ、多少痛い目を見るつもりで止めに入るよ。ケガしたら、ケガさせた本人に治してもらえば良いし。
「あ~2人とも~、みんな揃ったからそろそろ―――」
「とっとと手を離しなさいゲロ王女!」
「そっちこそ手を離せパチモン幼馴染!」
2人は同時に手を離し、拳に魔力を込める。
タイミングよく歩み寄っていた俺は、2人の間に棒立ちの状態になり、2人が同時に放った全力の拳を、脇腹と顔面にもろにくらってしまった。
攻撃が当たったらダメージに応じて服が破れるシステムがなくて、本当に良かった。
でも、できれば全力の攻撃は、訓練場以外では止めて欲しいなぁ。
「全然大丈夫じゃなかったじゃん、ラフィさん」
「いえ、その、何と言いますか・・・・・・姫様がご無事で何よりでした」
そこは俺の心配してくれよ!