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 シザーラビットは標的を俺と見定めたのか、マサルくんには目もくれず、こちらに向かって前歯を突き出して威嚇してくる。


「ギイイイイイイィ!」


 シザーラビットの耳は、プロペラのように頭上でくるりと回転するほどの可動域の広さだ。


あれだけの可動範囲なら、すれ違いざまに片耳で斬り裂かれる可能性だってあると思ったのだが、どうやら刃になっているのは耳の内側だけのようで、攻撃にはハサミのようにチョキンとするくらいにしか使えないようだ。



シザーラビット

・ハサミギ○チン

・たいあたり



 みたいな感じか。


 すれ違いざまにバッサリいかれたらどうしようもないけど、これなら予備動作でハサミの攻撃をよけることもできそうだ。


「ギイイイィ!ギギイイイィ!」


 頭上でくるりと耳を回転させてクロスさせた。首の角度や視線から俺の下半身を狙っているのが丸わかりだ。


「はい、残念」

「ギヤギイイィ!」


 シザーラビットに向かって飛び上がり、背中を踏みつけてさらに距離をとるように跳躍する。


「ギイイィ!ギイイイイイイィ!」

「ふふん」


 こちらを睨み付け、悔しそうにバンバンと地団駄を踏んでいる。そんなシザーラビットに、こちらは満面の笑みで返してやる。


「ギイイイイイイィ!」


 それがいけなかったのか、激昂したシザーラビットは、なんと両耳を前方に突き出したままこちらに向かって突進してきた。


 ちょっと調子に乗って煽り過ぎちゃったよ。あきらめてマサルくんを狙ってくれるかなと思ったのに、あてが外れてしまった。


「くっそ、早すぎるだろお!」


 高速の体当たりを繰り出してくるシザーラビットをギリギリで横に転がって避ける。


 間違っても防御して受け止めることはできない。腕でガードした瞬間に腕ごと内臓を貫かれそうだ。


「おお!シザーラビットの怒り状態なんてなかなか見れねえぞ!よおし!どんどんかわせえ!」


 あの状態は滅多に見られない状態?あんだけ東さんがテンション上げてるってことは、あの体当たりは通常のハサミ攻撃よりもやばいはず。


 間違ってもくらうわけにはいかない。


「ギュルイ!ギュルウウウイ!」

「は?」


 片足を下げ、状態を低くしたシザーラビットは、体にひねりを加えながら弾丸の如く突っ込んできた。床が抉れるほどの踏み込みって、普通に考えてやばいだろ。


 銃弾ほどの速度はないだろうが、当たれば威力はそれ以上だろう。


「だけど、かわしやすくはなったんじゃないかな?」

「ギュルイ?」


 体のどこを狙ってハサミ攻撃がくるか、それを警戒しながら回避するのに比べれば、直線的な攻撃なんてかわすのはハードルがぐっと下がる。


 さらに、この攻撃はシザーラビットの体力をかなり削るようで、徐々にその速度が遅くなっている。


「ギィ・・・ギィ・・・ギィ・・・」


 体力が限界に近づいたのか、シザーラビットは息を荒げながら動きを止めた。


 さすがは野生動物と言うべきか、体力が限界に近づいても周囲の警戒を怠ることはなく、地面に体を投げ出すようなこともしない。


「なっはっはっは。いやあ、よくやったなあ護!あんだけへたり込んだシザーラビットなんて見たことねえよ。これ以上は訓練にならなそうだし、今日はここまでにしとくか」


 そう言いながら、シザーラビットの両耳を掴んで体を持ち上げると、そのまま檻の中に放り込んだ。


「え?あれ?しまったら勝負にならなくなるんじゃない?」

「ああ、ポッ○ーゲームか!あんなの、開始早々に負けちまっただろうが?お前、今自分が何も咥えてないの、わかってねえのか?」

「は?」


 どうやら、俺は開始早々シザーラビットが突っ込んできたときに、ポッ○ーをかみ砕いて落としてしまったらしい。


 いや、歯を食いしばってとかそういうヤツだよ。不可抗力だよ!勝負ついてたんならとっとと止めてくれよちくしょうが!


「あ、ええと・・・・・・こほん、で、では、勝者クリストフ―――」

「待つぴょん!」


 戸惑いながらも勝者の名を告げようとした久賀くんを、勝者本人が止めに入った。


 勝負に勝ったのに何か文句でもあるのか?それとももしかして、俺のハーレムが実は中身が空っぽだということがバレたか?


「この勝負、ボクの・・・・・・負けだぴょん」

「は?」


 急に何言ってんのこの人。あんだけ頼み込んで泣きの1戦やらせたくせに、いきなり敗北宣言とかおかしいでしょ。


「マモルきゅんは、あれだけ見事にシザーラビットの攻撃を躱しきったぴょん。ボクは、それを横で見ていることしかできなかった。いや、途中から目で追うこともできなくなったぴょん。もしあの攻撃が一度でもボクに向けられていたら、このポッ○ーが折れるどころではなかっただろう。これでキミのハーレムの女性たちを迎え入れるなど、恥ずかしくてできるわけないぴょん」


 いや、まあ、迎え入れるべき女性なんて存在しないんだけど。マサルくんが良いって言うならそれで良いか。


「殿下、御立派でございます。さすがはサランド王国王家に連なるお方。このローウェン、貴方様に仕えられたこと、誇りに思いますぞ」

「爺、止めるぴょん。テレるぴょん」

「しかし、陛下に無断で魔鉱石の採掘権や王家直属騎士団まで勝負の質草にしたのは、到底許されることではありませんな。良くに目がくらみ、引き際を見極められぬとは。どうするのですか?殿下はたった今、全財産を失われた。それどころか、民草から安寧の盾を失わせたのですぞ」

「そうであった。私は、ツキヨノ嬢や麗しのレディに心を奪われ、短慮になっていた。己の邪な野望のために、民を危険に曝すとは、王子失格だ」


 いや、そんなシリアスな感じ出されても困るんですが?


 正直、魔鉱石の採掘権がどれくらいの価値になるのかさっぱりわからんけど、王子様が所有する程の資産なんていらない。そんなん持ってるだけで命とか狙われそうだし、採掘とか流通の管理なんてできない。


 騎士団だって、ねえ。国防に関わるレベルの戦力ってんなら、一般家庭に駐留するのは物理的にムリだろうし。個人でそんな戦力を保有したくない。それこそ世界中から命狙われそうで、安心して寝られなくなるわ。


「えっと、マサルさん?賭けのことなんですが、なかったことにしても良いですよ?」

「なんだと!それはダメだ。互いに対等な価値があると思うものを賭け、私は敗れた。私にどれだけ不利益があろうとも、護殿にはそれを受け取る権利がある!」


 これまた面倒なこと言い出したな。勝った俺がいらないって言ってるんだから、それで納得してくれれば良いじゃんか。


「最後の勝負は、ルール上では俺の負けでした。だから、勝負は引き分けってことに―――」

「男の勝負に引き分けなどはない!私の完敗だ!」


 さすがにここで引き下がるわけにはいかない。


 この話を受け入れてしまえば、普通の庶民からは程遠い生活を送ることになってしまう。


 普通に普通の生活を・・・・・・そうだ!


「だったら、マサルさんにお願いがあります!」

「お願い、だと?」

「そうです。これからサランド王国の皆さんはこの風守学院に通う。その間だけで構いません。どうか、普通の高校生として振る舞ってもらえないでしょうか?」

「普通の高校生として?」

「そうです。貴族や平民の差別などなく、全ての生徒が平等な立場で学院の生活を送る。これは、魔鉱石の採掘権や騎士団を譲り受けるよりも、よほど大変なことだと思いますけど、受け入れてもらえるでしょうか?」

「平民と対等?ふふふ、おもしろい。守るべき民が対等な友となる、か。よかろう。これもまた王族の務めだ。その願い、しかと受け届けた。サランド王国の貴族たちも良いな?」

「「「「「「は!」」」」」」


 一斉に跪いたサランド王国の生徒たち。こんな形になってしまったけど、これなら学院生活も、普通な要素が増えるんじゃないだろうか。


 だからね、ミナモちゃん。嬉しそうな顔でロシアンたこ焼きを持ってくるのを止めようか?せっかくきれいな感じで終わりそうだったのに。



 その後、サランド王国の生徒全員がロシアンたこ焼きを口に突っ込まれ、教室中をゲロまみれにして交流会は終了した。


 全員にゲロ吐かせたからって、ミナモちゃんがゲロった事実はなくならないんだからね?







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