2-29
「もう1戦!もう1戦して欲しいぴょん!」
「嫌ですけど」
「そこをなんとか!最後の1戦で勝負を決めるということでどうか!ぴょん!」
「いや、ありえないでしょ。もう俺2勝したんですよ?せっかく勝ったのに、そんなことするわけないじゃないですか」
意識を取り戻したマサルくんは、俺の足にすがりついてわめいていた。
マサルくんが気を失っている間に、執事さんが水魔法や風魔法を使って全身きれいにしてくれていたけど、まだ酸っぱい匂いがするからひっつかないで欲しい。
だいたい、もう勝ちが決まっているのに、昔のテレビ番組じゃないんだから、最後の勝負に勝った人が優勝!みたいなこと言われたって困るよ。
ちらりと執事さんの方に視線を向けても、止めてくれるつもりは無いらしい。
王族が易々と負けを認めるな!みたいな感じなのだろうか?
「頼むぴょん!ボクはナカサトきゅんのハーレムが欲しいんだぴょん!もう1回!もう1回だけ勝負してぴょん!」
「はぁ、そんなに俺のハーレムが欲しいんですか?」
「もちろんだぴょん!」
「だったら、それにふさわしい対価を用意してください。そうしたら、もう一勝負してあげますよ」
「ほ、本当ぴょん?」
ふさわしい対価が用意できれば、だけどね。
「お、お兄ちゃん、本気なの?もしゲロ王子が対価を用意できたら―――」
「いや、ここぞとばかりにゲロキャラをマサルくんになすりつけるの止めようよ。ミナモちゃんもしっかりゲロ姫様だからね?」
「わ、私はあんなに盛大にゲロってないもん!お淑やかにゲロったからセーフだもん!」
お淑やかにゲロるってなんだよ?ゲロは総じてゲロなんだから、お淑やかもなにもないでしょうに。
「そんなことより!もしお兄ちゃんが負けたら、私たちあのゲロ王子に嫁がなきゃいけなくなるんだよ!」
はて?なんでミナモちゃんがマサルくんに嫁ぐ必要があるんだろうか。
いや、まあ、きっと誤解されてるだろうと思っていたけど、ここまであえてツッコまなかったんだけどさ。
俺はマサルくんとの勝負に、現在俺が所有しているハーレムを賭けると言った。
普通なら、人間を賭けの対象にするなんてことは絶対にしない。賭けるべき人間がいるのなら、ね。
だって、俺は現在誰とも婚約してないし、お付き合いしていないんだから。
本当に誰か大切な人をかけた戦いだったら、そもそもあんなお遊びで勝負するわけないでしょうが。
まあ、このタイミングでそんなことを言えば、また女性陣から冷ややかな視線を向けられそうだから絶対に言わないけどね。
「大丈夫だよ、もう1戦することになっても、俺は絶対に負けたりしないから」
「・・・・・・お兄ちゃん!」
今までにないほど熱い視線を向けられている気がする。そんな眼差しを向けられると、心が痛くなるんで止めてくれ!
後ろにいる信号機3人娘も!キミたちを嫁にもらった覚えもないし、その予定もないんだからね!
「マモルきゅん!ボクが所有する魔鉱石の鉱山、その採掘権。それから、サランド王国の各地にあるボクの別荘の全てを賭けるぴょん!これでどうだぴょん!」
なんかとんでもない物を賭けてきましたよ。庶民の俺にはどれくらいの価値があるのか全く理解できないんだけど。
「それが、俺のハーレムと釣り合うと?」
「ぐぬぬぬ。ならば、ボクが所有する雷の魔剣も付ける、ぴょん」
必死に絞り出すマサルくんの言葉に、俺は黙って首を振る。
このまま首を振り続ければ、そのうち賭けるものがなくなってあきらめたりしないかな?
この後も、現金や貴金属、各種利権などを提示されたが、その度に無言で首を振り続けた。
「はぁ・・・はぁ・・・も、もう、ボクの所有物で、か、賭けられる物なんて・・・・・・」
「あきらめてくれましたか?マサルさん」
「くっそおおおおお!だったら、ボクの所有するサランド王家直属騎士団を付けるぴょん!」
「「「「えええ!」」」」
なぜかミナモちゃんと信号機3姉妹が悲鳴をあげる。なに?騎士団てそんなに価値があるものなの?
そんなもんもらったって、日本で普通を謳歌する俺は持て余すだけなんだけど。
「お、お兄ちゃん!サランド王家直属騎士団って、ミサカイ皇国すら恐れる大陸最強の戦闘集団なんだよ。クリストフ王子の所有ってことは、第3騎士団でしょ?防衛戦では負けなしってくらいのすごい人たちだよ!」
説明してくれるのはありがたいんだけど、なんでそんなに興奮気味なんでしょうか?
防衛戦って、我が領土は庭付き一戸建ての敷地面積しかないっての。持て余すどころか、そんな集団がやってきたら家族の生活スペースだってなくなっちゃうよ。
「お兄ちゃんが勝てば、私がその騎士団を率いれるんでしょ!すごいよぉ!」
いや、俺が勝ってもミナモちゃんが騎士団を率いることは無いんじゃないかなぁ?
「お兄ちゃん、ここは私たちを賭けてでも勝負を受けた方が良いよ!」
「ダメダメ。いくら最強の戦力だって言っても、俺のハーレムとは釣り合わないよ」
こっちが不足過ぎて。
「ぐぬう。もう、ボクに賭けられる物なんて・・・・・・後はボクが個人的に所有している魔道具や魔導書くらいしか・・・・・・」
「のったああああああぁ!」
は?小雪さん?なに勝手にのっちゃってんの?絶対魔導書とか格好良いとか厨二心をくすぐられちゃっただけなんでしょ?
いい感じに無かったことにできそうだったんだから、こんなところでのっちゃわないでよ!
「ほらほら、もういいじゃん護くん!魔導書だよ魔導書!きっと持ってるだけで絶大な力を発揮できたりとか、封印されし終焉の悪魔の書とかがあるはずだよ!そんなのもう、もらっちゃうしかないんじゃないかなぁ」
「いや、絶対そんなすごいもんじゃないでしょ。せいぜい魔法の理論が書かれた書物とかじゃないの?」
テンションの上がった小雪をどうにか落ち着かせようと近づいたら、なぜか満面の笑みで顔を近づけてきた。
「どうせ護くんが負けても、誰かが王子様のものになるわけじゃないんでしょ?だったらこの辺で、手を打ってあげたら良いんじゃない?」
そう小声で耳打ちをしてきた。さすが俺の相棒。俺の考えは御見通しってわけね。
「はぁ、わかったよ。その内容で勝負を受けよう。その代り、これで本当に最後ですからね?勝っても負けても恨みっこなし」
「や、やったぴょおおおおおん!あ、ありがぴょん、ツキヨノぴょん。あなたは本当にボクの女神様だぴょん!」
まるで本当のうさぎのように、嬉しそうに飛び跳ねるマサル王子。
もし負けたら、この人王子として今後やっていけるのか心配になるくらいベットしてるって言うのに、緊張感もなさそうだ。
「そういうわけで、悪いんだけど久賀くん・・・・・・あれ?久賀くん?」
なぜか恐ろしい形相でくじの入った箱を睨み付けている久賀くん。その中に、親の仇でも入っているのだろうか?
「中里が負ければひかりがあんなクソ野郎の嫁になってしまう中里が負ければひかりがあんなクソ野郎の嫁になってしまう中里が負ければひかりがあんなクソ野郎の嫁になってしまう中里が負ければひかりがあんなクソ野郎の嫁になってしまう・・・・・・どうにか中里が負けない勝負を・・・・・・いや、中里が勝てば公にひかりと中里の交際を認めることになってしまうのか?ああああああぁ、俺はどうしたらいいのだああああああぁ!」
なんかよくわからないことをつぶやきながら頭を抱えていた。
「と、とにかく、最後の勝負だったな。それでは、くじを引かせてもらおう」
正気に戻った?久賀くんは、箱に手を突っ込んで、1枚の紙を取り出した。
「泣きの1回戦、勝負内容は―――『ポッキーゲーム』だ!え?ふ、2人でやるのか?」
ここに来て、最後でとんでもないフラグ回収がやって来た。
これ書いたの、絶対上野さんだろ!