2-27
俺のハーレムをかけて勝負する?
「本気で言ってるんですか?」
「もちろんだぴょん!」
語尾のせいで本気度が全く伝わってこないのだが。まあ、それはしょうがないとしよう。
「俺が現在お付き合いしている女性とか、婚約している女性とかをかけて勝負するってことですか?」
「そうぴょん!ここは学び舎だというのに、そんなに美少女ばかりに囲まれてうらやま・・・・・・けしからんぴょん!」
「えぇっと、もう一度確認しますね?マサルさんが勝ったら、俺が現在お付き合いしていたり、婚約していたり、結婚している人をよこせ、ということですね?」
「ぴょん!」
それは肯定と受け取って良いのだろうか。
「受ける受けないの前に一言だけ言わせてもらいますけど、女性は物じゃありませんよ?俺に勝ったところで、現在俺と交際している女性がマサルさんに靡くとは思いませんけど?」
「ぐぬぬ。キミたちの間には、それほど強い絆があると言うことなのかぴょん」
「え?はあ、そっすね」
ちょっと何を言ってるのかわからないので、適当に返事を返す。強い絆も何も、ねえ?
「だが!キミがハーレムを解散して、今後彼女たちに関わらないと約束してくれれば、ボクにもチャンスは巡ってくるんだぴょぴょん!」
初対面の相手にいきなりプロポーズなんてアホなことさえしなければ、普通にモテそうなんだけどなぁこの人。
イケメンだし、戦闘だって強いらしいし、何よりも本物の王子様だ。言い寄ってくる女性だってたくさんいるだろうに。
「まあ、わかりました。じゃあ、勝負はパーティゲームでお願いします。せっかくだから、他の参加者の人にも楽しんでもらえるように」
「パーティゲーム?ハーレムをかけるんだぴょん?そんなお遊びで決めてしまって本当に良いのかぴょん?」
「問題ありません」
「お、お兄ちゃん、大丈夫なの?もしお兄ちゃんが負けたら私たち・・・・・・」
なぜか心配した面持ちでこちらを見上げてくるミナモちゃんの頭に、ポンと手を置いてやる。
「大丈夫だよ。何一つ問題なんかないから」
だって、俺に失う物なんて何もないんだから。
さて、勝負は3本勝負で先に2勝した方が勝ち。勝負の内容は、日本の生徒が1人1つずつ自由にパーティゲームを記入してもらい、箱の中に投入。その中からくじ引きをして決定する。
できれば甘楽さんの書いたのだけは引きたくない。
「それでは、ここからは僕、久賀翔が進行を務めさせていただく」
なんでこの人が当たり前のように仕切ってるの?いつの間にか手にはマイクを持ち、首元には赤の蝶ネクタイが着けられている。
「それでは最初の勝負は――――『斬ってかわしてじゃんけんぽん!』だ!」
「はぁ?」
叩いてかぶってじゃんけんぽんなら知ってるよ?ピコピコなるハンマーとヘルメット使ってやるヤツ。それのことかな?
「おお!俺が書いたヤツが当たったぜ!それじゃあこれ、2人に渡しとくな」
嬉しそうな表情を浮かべながらこちらにやって来た刀司は、俺とマサルくんに一振りずつ、日本刀を差し出してきた。
「ちょっと待って刀司。何これ?」
「模造刀だ」
「ああ、模造刀ね。それなら安心・・・・・・できねえよ?これ持って何させる気なのこんなに重い模造刀普通に凶器だわ本気で振ったらかすっただけで大ダメージくらっちゃうよ!」
せめてソフトチャンバラの剣先がふわっふわしたヤツ持って来いよ!
「ルールは簡単だ。じゃんけんをして勝った方が一太刀相手に浴びせる。負けた方は全力で回避する。どっちかが相手に一太刀浴びせれば勝ち。簡単だろ?」
「ふむ。非常にシンプルな勝負だぴょん」
刀を鞘から抜き差ししながら、マサル王子はニヤリと口元をつり上げた。
そう言えば、この人雷速とかって二つ名があるんじゃなかったか?そんなの相手に、速度で上回らないといけないとか、けっこう無理ゲーな気がしてきた。
「それでは両者、準備をしてくれ」
久賀くんに促されて、教室の中央で正座する。なんかクラスでつるし上げ食らった生徒みたいで嫌な感じだ。
「ナカサトきゅるん?その座り方はなにぴょん?」
「え?正座だけど」
「せ、せいざ?」
日本に来たばかりのマサル王子が正座を知らないのも無理はないか。普通に言葉が通じてるから、日本の文化に詳しいのかと思ったけど、そうでもないらしい。
「こ、こうやって座るぴょん?」
俺の見よう見まねで膝を折ったマサルくんは、おっかなびっくり腰を下ろした。
「こ、これはなかなか座るのが大変ぴょん」
「武道を志す者なら、正座はできて当たり前だぜ?それに、別の座り方にしちまったら、抜刀するまでの時間が―――」
「刀司、ここで武の道を説くのは止めてくれ。もし大変なら、マサルさんが座りやすい座り方で良いですよ?」
普段はアホで脳筋のくせに、剣道や武道に関することだけは博識で饒舌になるんだ。もう少し脳の容量を別のことに回したら良いのに。
「いや、この座り方で大丈夫だぴょん」
表情を引きつらせながらも、マサルくんは正座で座ることを選択した。たしかに、刀を抜くのも立ち上がるのもあぐらで座るよりよっぽど早く動き出せるもんね。
「それでは、はじめ!」
第1戦
「「斬ってかわしてじゃんけんぽん!」」
俺 グー
マサルくん パー
じゃんけんの結果に、片膝をついて立ち上がろうとした瞬間、鞘に収めたままの刀が目の前に迫っていることに気づいた。
「死ねええええええええええぇ!」
殺意満々じゃん!ふざけんなよクソ王子が!
躊躇なく俺の左目を狙ってきた剣先を、横っ飛びで辛うじてかわすことに成功する。
「ちょっと審判!今の反則だろ!刀を鞘から抜かないし、突きだよ突き!完全に俺の目を狙ってたよ!」
「う、うむ。たしかに刀は鞘から抜かなければいけないな。まあ、マサルくんも初めてのことだ、練習と思って見逃してやって欲しい。マサルくんも、次からはしっかり刀を鞘から抜くように」
「ッチ!わかったぴょん!」
あんの野郎!舌打ちしやがったよ舌打ち!一国の王子様が恥ずかしくないんですかねぇまったく!
それに今、ちょろっとだけど魔法使ってたよね?ルールで魔法は使っちゃダメだとは言わなかったから、俺も何も言わないけどさ。
「そっちが先に使ったんだから、文句は言わせないよ」
第2戦
「「斬ってかわしてじゃんけんぽん!」」
俺 パー
マサルくん チョキ
「ぬおおおお!か、刀が床に凍りついたぴょおおおおん!」
「審判。これ、よけるまでもないよね?」
「う、うむ。中里、セーフだ」
ふふふ。第2戦が始まる前に、氷魔法を使って刀を床に凍りつかせてやった。
「真剣勝負なら、首が飛んでいましたね、マサルさん?」
「ず、ずるいぴょん!魔法を使うなんてルール違反だぴょん!」
「あんたもさっき身体強化系の魔法使ってたでしょうが!何自分のこと棚に上げてんだよ!」
「ぐ、ぐぬぬぅ。ならば、次はこちらも全力でやらせてもらうぴょん!」
第3戦
「「斬ってかわしてじゃんけんぽん!」」
俺 パー
マサルくん グー
「しゃあああああ!」
勝ったのがわかった瞬間に刀を掴み、右膝を立てて一気に斬りかかる。
「ふん、その程度容易ぐおおおおぉ!あ、足が、足がしびれてえええええ!」
「死ねやああああぁ!」
ふはははは!魔法を使うまでもない。マサルくんは初めての正座で足がしびれてしまったのだろう。
動くこともできず、痺れにのたうち回っているマモルくんの脇腹に、渾身の一太刀を叩き込んだ。
「ぴょおおおおおおん!」
悲鳴をあげながら、マモルくんは教室の壁に叩きつけられた。
「勝者、中里護!」
「「「「「・・・・・・」」」」」
あれ?俺勝ったんだけど、どうしてみんなから冷たい視線を向けられてるの?ずるはしてないよね?ねえ?