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「な、ナカサトきゅるん?この話し方はおかしいのら?」

「・・・・・・罰ゲームを受けさせられないのが残念です」


 あまりのショックで、マサル王子は膝から崩れ落ちた。こちらとしては、きゅるんきゅるん言ってる口にたこ焼きをねじ込めないのが残念でしかたない。


「クリストフぴょん、大丈夫ぴ~?」

「クリストフきゅん、落ち込まないで欲しいにょん♡」

「元気だすダス!クリストフどん!」


 マサル王子を取り囲むようにして、声をかけるサランド王国の生徒たち。


 しかも、今声をかけたヤツら全員男なんだ。先ほどのマサル王子と同じように、両手の拳を顎の下に当てながら各々独特な語尾をつけてしゃべっている。


 最後のヤツが何を参考にしているのかは謎だけど。


「マサルさん、それにサランド王国の皆さん。今日はもうそのキャラで良いですけど、学院がはじまるまでには直してください。特に男子!」

「「「ぴょん!」」」


 返事がよろしくない!あと、両手を頭に当ててうさ耳を表現するな!特に男子!


 もう、普通に王族や貴族っぽく振る舞ってもらった方がマシに思えてきた。


こっちの方がよっぽどファンタジーしてるもん。


「よし、中里。全員そろったなら、次は乾杯だな」

「あ、うん。そうだね」


 久賀くんが突然紙コップを片手にやって来た。たしかに乾杯はするだろうけど、なんでこの人が前に出てくるのだろうか?


「皆さん、まずはこの紙コップというものを手に取って欲しい。そして、テーブルの上に置かれた飲み物が入ったペットボトルというものを―――」


 なぜか久賀くんが紙コップやペットボトルについての説明を始めてしまった。


参加者は、初めはやや戸惑ったように聞いていたが、いつの間にか様々な種類の飲み物に興味を引かれ、どれを最初に口にするかで楽しそうに盛り上がっている。


「マモルさん、こ、これ、どうぞ」

「マモルくん!見てこれすごいわよ!泡がパチパチしててきれいだわ!」

「旦那様はどちらを飲まれますか~?」


 そして、なぜか俺の隣では、この前の交流会で戦った信号機3人娘がわいわいと騒いでいた。


「えっと、なんでここにいるの?」

「パーティの始まりは、夫と一緒にいなきゃいけないですよ~」

「なるほど?」


 代表して金髪さん―たしかアイシェアさんと言ったか―が答えてくれた。


 つまりどういうこと?この会場にはアイシェアさんの旦那さんも来てるってことなのかな?


 異世界もののラノベとかだと、16歳で結婚してる人なんて普通、みたいな設定のものもあるから、この中に結婚している人がいても別におかしくはない、のか?


「アイシェアさんの旦那さんはどこにいるの?あいさつとかした方が良いのかな?」


 いや、この前あんなことがあったんだから、旦那にあいさつなんかしたらぶっ殺されるかもしれないけど。


 ただ、わざわざここに来てるってことは、旦那さんを紹介したくてやって来たってことじゃないのか?


「?」


 そんなことを考えていると、アイシェアさんは可愛らしい顔をコテンと横に倒して、疑問の表情を浮かべた。


「えっと、ワタシたちは、将来の夫と一緒にいるつもりなんですけどぉ」


 照れながらそんなことを言うアイシェアさんの顔を見て、交流会の日のことを思い出した。


「「「何番目でも構わないので、どうかもらってください」」」


 そう言えば、そんなことがあったのをすっかり忘れてた。


どうせその場の勢いとか、あまりの恥ずかしさに気が動転してそんなことを言ったんだろう。数日すればなかったことになってるだろう。


 そんなふうに考えていたのだが、交際すっ飛ばして、婚約とか結婚したことになってる?


「俺たち、こ、婚約も結婚も、してない、よね?」

「「「?」」」


 そこで3人で首を傾げるな!


「そんなことより、そろそろ乾杯するみたいよ。ほら、早くグラスに飲み物を注がないと!」

「あ、ミィちゃん。わたしその、泡がシュワシュワしてるやつ飲んでみた~い!」

「ワタシは~、果実水をいただきますねぇ」

「・・・・・・あ、あたしは、マモルくんと同じので」

「「あざとい!」」

「う、うるさい!」


 婚約や結婚という重大な話題は、飲み物によって完全に流されてしまった。


 これ、将来的にはなかったことができるのだろうか?ラノベでもちょいちょい婚約破棄とかあるから、大丈夫、だよね?


「護くん、もう疲れちゃったんだけど、帰っちゃダメかなぁ?」

「ちょっと月夜野さん。せめて乾杯するまではしゃんとしててよ」


 かなり疲れた顔をしている小雪を支えながら、上野さんもやって来た。


まだ手には飲み物を持っていないようなので、小雪には炭酸がきつめのコーラ、上野さんには白ブドウのジュースをついでやる。


「あ~、お兄ちゃん私も何かついで~」

「ひめ・・・・・・ミナモさん。飲み物なら私がついで差し上げますよ」


 さらにミナモちゃんとラフィさんもやって来て、周囲の女子率がぐっと高くなる。女子率っていうか、美少女率っていうか。


 信号機3人娘も含めて、普通の学校にいればかなりの人気を集めそうな美少女ばかり。


その中心にいるのがぱっとしない平凡な男というのはあまりにも場違いな気がして、その輪から離れようとするのだが、俺が少し移動すると全員が同じように移動する。


 やめてよね。これじゃあ美少女を何人も侍らせるテンプレハーレムクソ野郎じゃないか!


 俺は普通で平穏な日常が送れればそれで良いんだ。こんなところで、美少女に囲まれキャッキャうふふして、周囲から目をつけられるのなんかまっぴらごめんだ!


 これ以上周囲から勘違いで妬みや嫉みの感情を向けられたくないんだ。


 もうすでに、もの凄い形相でこちらを睨んでいる人がいるんだから。


「ナカサトきゅん。ツキヨノしゃんや麗しのレディがいるのに、他にもあんなに美しい女性を侍らすなんて、ずるいぴょん!」


 小雪はバディだけど、別に恋人ってわけではないし、上野さんにはこの前赤の他人だって言われたばっかだし、侍らしているとは言わないんじゃないかな?


 たまたま集まっちゃっただけで、俺がモテてるわけではないんだよマサルくん。だからそんな、人を呪い殺せそうな形相で睨むのを今すぐ止めて欲しい。


「それでは皆さん、僭越ながらこの久賀翔が、乾杯の音頭をとらせていただきます」


 いつの間にか会を進行し始めた久賀くんは、クラス会と言うよりもどっかのパーティの主催者かのように振る舞っている。


 いきなり高校生のノリを異世界のみんなに求めるのは難しいので、初めはあれくらいでちょうど良いのかもしれないな。くっそ長い話はどうにかして欲しいけど。


「それでは、テリオリスと地球の友好を願って―――乾杯!」

「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」


 グラス代わりの紙コップが高らかと掲げられ、みんながそこに注がれた飲み物を思い思いに煽った。


「氷もないのに、飲み物がこんなに冷たいなんて!」

「こんな芳醇な香りの果実水は初めてだ!」

「ぐおっ!この黒い液体、喉がイガイガするけど上手い。また飲みたいと、後をひかれる」


 それぞれがこちらの用意した飲み物を喜んでくれているようで良かった。最後の人は、飲み過ぎてゲップが出ないと良いね。


「ナカサトきゅるん!」


 さて、現実逃避は止めて、目の前の現実に向き合うか。


 マサルくんは、怒りと嫉妬を煮詰めたような瞳で、こちらへと詰め寄ってくる。


「なにか?」

「ふん、女に守られて恥ずかしくないのかきゅるん」


 俺をかばうようにマサルくんとの間に体を滑り込ませた青髪さんを見て、マサルくんは鼻をならした。


 たしかに恥ずかしいけど、マサルくんの語尾に比べればマシかな?


「ナカサトきゅん!キミのハーレムをかけて、勝負するぴょん!」


 語尾とは裏腹に、マサルくんの目は鋭く、そして濁っていた。







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