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「えっと、その・・・・・・大丈夫?ミナモちゃん」

「・・・・・・」


 あの後気を失ったミナモちゃんを、まさしくお姫様抱っこして保健室まで運び、大間々先生に治療してもらった。


 教室を出るときのみんなの視線がかなり痛かったのだが、今は忘れよう。


 それよりも、目下1番の問題は、臣下の前で盛大にゲロをぶちまけた王女殿下である。


 お互いにゲロまみれになった制服を着替え、教室に戻る道すがらなのだが、先ほどから隣を歩くミナモちゃんは、頬を膨らませて、口を開く気配が全くない。


 たしかに、同級生の女の子が教室でゲロ吐いたとなると、かなり深刻な問題だ。


 下手すれば、「ゲロ子」とか「ゲロ姫」なんて不名誉なあだ名で呼ばれていじめられる可能性も・・・・・・


「護様?」

「は、はい!」


 底冷えするような声で、ミナモちゃんがやっと口を開いた。


さすがの俺も、ここで「護様って呼んだ~、はい、罰ゲーム!」なんて言えない。


「フォルティア王国の法では、王族を辱めた者は、その一族郎党含めて打ち首と定められています」

「い、一族郎党?」


 それはつまり、俺だけでなくお父さんやお母さん、じいちゃんばあちゃん、あまり接点のない親戚の人たちまで・・・・・・親戚?


「ミナモちゃんや水姫さんもその一族なんだけど?」

「・・・・・・そうでした。残念ですが、護様の首を王城の前に晒すことはできそうにありませんね」


 いや怖いわ!


 たしかに俺も責任は感じているけど、打ち首のうえ晒し首にされる覚悟はない。


 この子、つい最近まで俺に結婚してくれって言ってたんだよね?緩急の落差激しすぎてついていけないわ!


「では、生きて責任をとっていただくしかありませんね?」

「いやいやいやいや!たしかにたこ焼きを食べさせたのは俺だけど、ゲロったのはミナモちゃんでしょ?」

「あ、あんなものを食べさせておいて、護様には責任がないと?あ、あと、あんまりゲロゲロ言わないでください!」


 責任の所在を求めるなら、あのソースを使うように勧めてきた東さんが1番悪いのでは?次点で、罰ゲームにはピッタリですね。なんて笑っていた大間々先生だろうか。


 使うと決めて食べさせた、現場の責任者である俺は、きっと悪くない。


 あれ?と言うことは、ミナモちゃんが恋しているかもしれない東さんか大間々先生に責任をとってもらえるチャンスなのでは?


「それなら、東さんか大間々先生に責任をとって結婚してもらえば?」

「・・・・・・は?」


 いや、こえーよ。なんでさっきよりも圧が上がってるの?こっちはミナモちゃんのためを思って言ったのに。


 結局この後ミナモちゃんは、一言も口を利いてくれなかった。





「それじゃあみんな~、テンションぶち上げてくぞ~!」

「「「「「うえ~い!」」」」」


 教室に戻ると、パリピがうえ~いしてフィーバーしてた?


いやいや、最後のは年代が違うか。


「って、なんじゃこりゃ!」

「ま、護くん、やっぱり私にはクラス会なんて無理だよ~」


 青ざめた表情で小雪がこちらへやって来る。


延々と続く一気飲みのコール。謎にヒップなホップを踊り出す男子。その踊りに合わせてパラパラと手を動かしている女子。


 年代すらもカオス!


 誰だ!何も知らない異世界の人に、変な文化を吹き込んだカスは!


「うぇ~い、そんじゃあ次は~、ポッ○ーゲームとか教えちゃう~?」

「やっぱりアンタか!」

「ぶっへ!」


 この騒ぎの元凶を思いっきりひっぱたいた。


「ここはキャバクラでもクラブでもねえの!学校なの!こんなテンションの陽キャばっかだったら、学級崩壊だわ!」

「いっててててぇ。なにな~に中里く~ん。せっかく俺が中里くんの代わりに日本のふつ~を教えてあげてたのに~」

「こんな普通があるかよ!」


 誰だよこの人連れて来たヤツ。この前みたいにならないように、この人には今日のことを教えてなかったはずなのに。


「ふっふっふ~ん。俺のことハブろうとしたってムダだよ~?だって、俺の担当生徒が参加してるんだからね~」


 あ~そりゃそうだわ。上野さんたち4人だって毎日訓練の予定があるんだから、担当である粕川先生に休みの申請なり一言断りを入れているはず。


 どこで何をするのか聞かれれば、答えるのが普通だ。


 さて、どうやってこの人を排除しようか。


「護くん、これこれ」

「ほほ~う」


 小雪から小瓶を手渡され、俺はニヤリと笑みを浮かべる。


 近くにあった紙コップにその小瓶の中身を全て入れ、ウーロン茶を少々。コップいっぱいになったそれを再び小雪に手渡すと、彼女は満面の笑みで粕川に近づいていった。


「粕川せんせ~!せっかくなので、景気づけに一気飲みしてくださ~い!」

「え~なになに小雪ちゃ~ん。さすがに昼間っからお酒はまずいっしょ~って言いながら~いっちゃいま~す!」

「「「「「うえ~い!」」」」」


 なぜかノリノリで一気のコールが始まり、それに気を良くした粕川先生は、その中身がなんであるかを確認せず、一息に煽った。


「ぶうううううううううううう!」


 粕川先生は、真っ赤な液体を大量に噴き出しながら仰向けに倒れていった。


 これで悪は滅びたな。


「ね、ねえお兄ちゃん。今の小瓶に入ってたのって、何?」

「飲んでみる?」

「絶対ヤッ!」


 今粕川先生が飲んだのは、ヘルチリペッパーソースの原料に使われている、『ヘルジョロキア』の実の果汁。


異世界の果実なので詳細は不明だけど、ヘルチリペッパーソースの100倍辛いらしい。


 みんながヘルチリペッパーソースを平気そうにしていたら、一滴混ぜてやれと東さんに渡されたものだ。


 大の大人が白目をむいて口から泡を吹くほどの効果があるとは。使う前にその危険性がわかって良かった。


微妙に体が痙攣しているような気がするけど、動いてるんだから生きてるんだろう。


「はい皆さ~ん!アレは間違った日本知識で~す。サランド王国の皆さんが来る前に全部忘れてくださ~い!さもないと、同じの飲ませますからね~」

「「「「「は~い!」」」」」


 よしよし、良いお返事だ。


「護ちゃ~ん、来たよ~」


 相変わらずの無表情で、ロレーナさんが来客を知らせてくれる。


 さて、事前に今回の趣旨を手紙で伝えてはいるが、マサル王子はどう出るかな?


「みんな~!今日はよろしくね~!きゅるん♡」

「「「「「「・・・・・・」」」」」」


 両手をグーにして顎の下に当て、可愛らしくウインク。


 それをしたのが一国の王子様だってんだから、みんな絶句しちゃうよね。俺も返す言葉が見つからない。


「あれあれ~?どうしちゃったのかなナカサトく~ん。きゅるるるん?」

「え~っと、マサル、さん?その言葉遣いは、何を参考に?」

「うん♡サランド王国のみんなで『目指せアイドルプロデューサー学院』を見て勉強したんだお~」


 だお~、じゃねえよ!日本の文化を美少女アニメで勉強すんな!


 ちらりとマサル王子の後ろに視線を向けると、サランド王国の貴族子息令嬢とおぼしき生徒たちが、同じようなポーズでこちらを見つめていた。


 男子も、である。


そりゃそうだよ。さっきマサル王子が言ってたタイトルのアニメ、女の子しか登場しないんだ。


 徹底的に男キャラは排除された作品なので、普通の男性を勉強するには不向きな教材だと言わざるを得ない。


 ちなみに、「きゅるん」とか「だお~?」とか、少し時代を感じさせる台詞回しのキャラも登場するので、マサル王子はそこら辺からキャラ作りをしてしまったのだろう。


「えっと、マサルさん?」

「な~に?ナカサトきゅん♡」

「小雪たち、完全にひいてますからね?」

「なんだとおおおおおおおぉ!」


 さあ、交流会のはじまりだ。






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