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「そっちもっと引っ張って!」

「あいよ!あ、やべ。切れちまった」

「何やってんだよこの筋肉バカ!」

「やいやいや~い!刀司くん怒られてやんの~!」

「甘楽さんもちゃんと働いて!大間々先生に言いつけるよ!もう時間ないんだから!」


 折り紙で作った輪っか飾り。和紙で作った花飾り。一般的な歓迎会ならこんなもんだろう。


 最後に黒板に「ようこそ風守学院へ」という言葉を、多彩なチョークで書いて、何点かの注意書きを記載すれば、俺たち流のお茶会会場ができあがる。


 今回は俺が買い出しを担当したので、飲み物もお茶系から炭酸系、果物ジュースまで各種準備している。


 お菓子も定番のポテチやポップコーン、チョコ菓子などなど豊富にそろっている。


 チョコ菓子と言えば、上野さんが買い占めてきたポッ○ーは、風守学院の教職員や早期入学している生徒たちに配った。


 それでも余った分だけを、今回の歓迎会で消費する予定だ。もちろんポッ○ーゲームじゃなくて、お菓子として食べてもらう。


「旦那様、フォルティア王国の皆様が到着いたしました」

「えっと、ロレーナさん?今日はその口調は禁止です。あと、旦那様と呼ばれる予定はないんで、俺のことは護って呼んでください。敬称をつけるなら、「くん」とか「さん」とかで。様付けは止めてください」

「かしこま・・・・・・コホン。ごっめんね~、こんな感じでおけ?マモルちゃん?」

「は、はい。大丈夫です」


 え?え?どっから声出したの?表情とテンションが全くあってないんだけど、無表情でよくあんな声出せたね。


 さすがは王女殿下専属のメイドさんなだけはある。


「でぇ?ミナちゃんたち着いてるけどど~する?もう入れちゃっても良き?」


 自分からお願いしておいてなんだけど、その口調どうにかならないだろうか。無表情の美人メイドがギャル口調って、脳が理解するのを拒否してしまうんだが。


 いやいや。ロレーナさんもがんばってくれてるんだ。俺も少しのことにはガマンしなくちゃ!


「それじゃあ、お通ししてください」

「りょ~!はいは~い、皆さん中にどぞどぞ~」


 仕草はいつもと変わらず静かで流れるように丁寧。教室のドアをガラガラと音を立てることもなく開けてくれたメイドさんに、声だけどっかで声優さんがアテレコしてるんじゃないか?と錯覚に陥りそうだ。


「・・・・・・お兄ちゃん、今日はよろしくね?」


 ロレーナさんの劇的な変化を見て、先頭で教室に入ってきたミナモちゃんも表情が引きつっている。


 さらに、後続のラフィさんは何が何だかわからないと言った表情で、あいさつもできずにパクパクと口を開けたり閉じたり。


「フォルティア王国の皆さ~ん!立ち止まらないで中まで入ってくださ~い。はい、それでは事前にお伝えしたとおり、今日はごく一般的な、普通の高校生らしいお茶会をしたいと思います。はいそこ、跪かないでください!日本では同級生相手に跪いたりしません!生まれに違いはあれども、学院の中ではみんな平等なんです。同級生を跪かせたってことになると、俺が先生方に怒られるんで、絶対に止めてくださいね~!」


 体に染みついた習慣をいきなり止めさせるのはなかなか難しいだろう。だから、こういう機会を通して少しずつ、こっちの世界の流儀に慣れていってもらいたい。


 日本の生徒たちの前でこの人数にいきなり跪かれたりしたら、間違いなく学院の生徒に注目される。それも悪い意味で。


 ただでさえ、世間一般からかけ離れた学院に通っているのに、その中でも一際変わり者の部類にだけは絶対なりたくない。


 できれば卒業まで目立たず、埋没した高校生活を送りたいのだ。


「この後サランド王国の人たちも来ますけど、貴族的なあいさつや言葉遣いはダメです。ここに書いてあることに違反したら、もれなく罰則を与えますので、そのつもりで!」


 黒板を指し示しながら説明を行う。





日本での生活に慣れるために


その1:家柄などの身分差はなくしましょう!

その2:貴族的な言葉遣いは止めましょう!

平民同士が話しているような言葉遣いが望ましいです!

その3:身分が上の相手に対して、決して跪かないようにしましょう!

その4:敬称は軽いもので!「くん」「さん」「ちゃん」など

    「様」や「殿」、「嬢」、「殿下」はダメです!


これらを守れなかった人には、サランド王国特産のヘルチリペッパーソースをふんだんに使った食べ物を食べてもらいます!






 普通に催し物が思いつかなかったので、これをゲーム的に行うことにした。


「まも・・・・・・お兄ちゃん、サランド王国特産のヘルチリペッパーソースって、1滴飲めばオークも卒倒するって言われてるんだけど。その食べ物には、どれだけ使われてるの?」

「1個につき、スプーン大さじ1杯くらい?」

「死んじゃうよ!」

「大げさじゃない?」


 そんなにやばいものじゃないと思うんだけどな?


これ持ってきたのは東さんだけど、罰ゲームにピッタリだって教えてくれたのは大間々先生だ。


「それじゃあ、試しに1つ」


 運営として、安全性を保証する必要がある。ただ、ちょっと辛さに悶えるようなリアクションを付け足せば、会が盛り上がるかもしれないな。


 用意したのは、みんな大好きたこ焼き。たっぷりのマヨネーズとお好みソースにヘルチリペッパーソースをかけた特別製。


 香ばしい中にピリッと鼻腔を刺す刺激臭。唐辛子と言うには少しばかり臭みがあるような気がする。


 まずかったら嫌だな、と思いながら、一口でたこ焼きを口の中に放り込む。


「う・・・・・・うぅ・・・・・・」

「そ、そんな、1口で!あんなに大量に口に入れるだなんて!だ、大丈夫ですか護様!だ、誰か!護様に治療魔法を!」


 口に手を当てて悶え苦しむ俺を心配してくれるミナモちゃん。本当に心配しているようで、口調がいつものお姫様口調に戻っている。


 つまり?


「ミナモちゃん、アウト~!」

「へ?ま、護様?だ、大丈夫なのですか?」

「いや~、けっこう辛かったよ。まだ口の中がヒリヒリしてるもん」


 あんまり辛いものって食べないんだけど、昔コンビニで買った○本のカップラーメンがこんな感じだったな。


 辛いって言うより、喉まで刺すような痛みが広がるって感じ。


「はい、と言うことでミナモちゃんも早速お1つどうぞ」

「・・・・・・・・・お兄ちゃん?」


 いや、そんな睨まないでよ。ちょっと場を盛り上げようとしただけじゃん。


 それに、この場で1番立場が上のミナモちゃんが率先して罰ゲームを受けてくれれば、他のみんなも罰ゲームを受けざるを得ない。


「で、でもアレだよね?お兄ちゃんが普通にしてるし、ヘルチリペッパーソースって言っても、薄めてあるとか、食べやすいように調整してるってことだよね?」

「うん?」


 東さんに渡されたビンをそのまま使っただけだから、そういう細かいことはわからないな。


 でも、あの人も一応飲食店を経営しているわけだから、食べられない物を渡してきたりは・・・・・・しないとは言い切れないけど、俺も食べられたんだからちゃんと調整してるってことなんだろう。


「ほら、ミナモちゃん。あ~ん」


 せっかくなので、罰ゲームっぽくあ~んで食べさせてあげよう。


 たこ焼きと俺の顔を交互に見比べてミナモちゃんは、唇を震わせながら小さく口を開けた。


「あ、あ~ん」

「えい!」


 そこに間髪入れずにスプーンに乗ったたこ焼きを押し込み、スプーンだけ引き抜く。


「う゛!」


 ミナモちゃんは眉間に皺を寄せると、一気に国民にはお見せできない顔に変貌し、そのまま俺の腹に顔を埋めた。


「ちょ、ちょっとミナモちゃん!」


 さすがにこんだけ人の目がある中で、抱きついてくるのはまずいだろ。


いくら従兄妹で、ミナモちゃんの見た目が小学生だとは言え・・・・・・


「うぼええええええぇ」


 俺の腹に盛大にゲロをぶちまけたミナモちゃんは、そのままこちらにもたれかかるようにして、意識を失った。








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