3-28
「「「ギイイイイイイィアアアアアアアアァ」」」
「っくぅ」
8階層から7階層に続く階段の入り口で、ひかりの盾を握りしめて魔獣の侵攻を食い止める。
階段の横幅は3メートル程と、広いのか狭いのか中途半端な広さだが、人が1人で塞ぐにはかなりのムリがある。
なので、階段の入り口は俺の後ろ以外氷の壁で塞がせてもらった。完全に塞いじゃうと、俺の横を抜けて氷の壁を破壊しようとする魔獣もいるかもしれないからね。
こうすれば、俺のところに真っ直ぐ魔獣が向かってくるんじゃないかなって思ったら、案の定そうなってしまった。
「・・・・・・グワアアァ」
予想外のことと言えば、先頭の魔獣が俺に攻撃をしてくると、ひかりの盾の効果で攻撃を反射し、攻撃をしてきた魔獣を後方に吹っ飛ばしてくれることだろうか。
後方に吹き飛ばした魔獣が戻ってこないので、もしかしたら吹き飛ばされたところで後続の魔獣に踏み潰されているのかもしれない。
「とは言っても、数が多すぎるでしょこれ!」
魔獣の群れと接敵してから早10分。
すでに先頭にいたゴブリンやオオカミの姿は見なくなったけど、魔獣の群れの終わりが全然見えない。
あとどれくらいで終わるのかわかっていれば気が楽なんだけど、終わりが見えない戦いほど精神的な疲労が高まっていく。
いくら体力と霊力をひかりの盾が回復してくれてるからって、辛いものは辛い!
「「ブオオオオオオォ!」」
「うっそぉ」
攻撃を防ぐだけの作業ゲーだと思っていたところに、盾の反射でも遙か後方に弾き飛ばされない魔獣が現れた。
10階層のボスであった、二足歩行の豚を小さくしたような魔獣だ。俺と同じくらいの身長かな?
しかし、その攻撃力がエグい。ひかりの盾で反射しているのに、俺の体も後ろに押し込まれてしまう。対して豚の魔獣は、後ろにのけぞりはするものの、すぐに体勢を整えて再び殴りかかってくる。
「「ブオオオオオオォ!」」
攻撃に合わせてカウンターを放てば倒せるだろうけど、そうすれば、その隙をついて他の魔獣が階段を抜けてしまうだろう。
「アイススピア!」
「「ブオォ!」」
再度振りかぶって殴りかかってきた豚の眼前に、槍状に尖った氷の塊が出現した。豚は慌てたように状態をそらして氷の槍を回避する。
「おっしい!もうちょっとで串刺しにできたのにぃ」
今のは小雪の魔法だったようだ。串刺しとか、ちょっと表現がグロいよ。
でもそうか。魔法を使うんなら、ひかりの盾を構えたままでも発動できる。氷の魔法なら俺も使えるし、試してみるか。
「「ブオオオオオオォ!」」
「アイススピア!」
「「プオォ・・・・・・」」
殴りかかってきた豚を相手に、カウンターの要領で氷の槍を出現させる。さきほどの小雪の攻撃では、攻撃に入る前に氷の槍を出現させたから躱されてしまったが、今回は攻撃に合わせて魔法を発動した。
「うわぁ、さすがに返り血は反射してくれないんだね」
氷の槍を回避できなかった豚たちは、攻撃の勢いも乗せたまま自ら氷の槍に顔面から突っ込んできた。
そのため、マイルドに表現すると、トマトを太いアイスピックで潰したような状態になったと言えば良いのだろうか。つまり、さきほど小雪の攻撃が狙っていた通りになったということだ。
改めて口にすると、吐きそうなほどグロい光景だな。
頭を無くした豚共は、その場にぐしゃりと倒れ伏した。後続で新たな魔獣がなだれ込み、豚共の死体を踏み潰していく。
死体がその場に残るのに、足止めの効果は期待できないみたいだね。足下が血の海になっていていますぐにでもどこかに逃げ出したいんだけど、そういうわけにはいかないよなぁ。
これがネットで生配信されていると思うと、お食事中の皆様ごめんなさいって感じ。
そこからは魔法も併用しながら戦い続け、着実に魔獣の数を減らしていった。途中で霊力がある程度回復した小雪が参戦して大魔法を発動しては霊力切れを起こしていた。
まあ、そのおかげもあって、終わりが見えてきたわけだけど。
おおよそ1時間は超えたであろう戦闘は、残すところ大型のボス魔獣が1体とその取り巻きが5体。
大型のボスはこちらも二足歩行をしている、3メートルは優に超えそうな巨体のオオカミ。いわゆる人狼とかワーウルフとかいうヤツだ。
その取り巻きはボスを小さくしたような人狼で、身長は130cmほどだろうか。各々がロングソードを装備している。
「ワオオオオオオオオオオォン!」
「「「「「アオオオオオオォン!」」」」」
ボス人狼の遠吠えに答えるように、子ども人狼が吠えながらこちらに向かって走り出す。
「小雪、ちっこいのは俺が抑えるから、ボスは任せた!」
「了解!黒炎弾マルチショット!」
人の頭ほどありそうな大きさの黒炎が、上空に大量に浮かび上がる。それは小雪が腕を振り下ろすことで、ボスに向かって飛びかかっていく。
「グルウウゥ!」
「ほらほら、まだまだ行くよお!」
ボス人狼は小雪の魔法を必死になって躱していたが、何発かは被弾したようだ。全身を覆う毛皮が、あちこち焼け爛れている。
これならボスはしばらく小雪に任せて大丈夫だろう。
俺はとっとと取り巻きの人狼を倒して、小雪のフォローに回らないと。
「「「「「アオオオオオオオォン!」」」」」
取り巻きたちは俺の周囲を取り囲むと、一斉にロングソードを振り下ろした。
「「「「「ギャイン!」」」」」
しかし残念。ひかりの盾は装備しているだけで全方位をカバーしてくれるのだ。
反射によって大きくのけぞった取り巻き人狼たち。その中の1体に向かって、腰に差しているショートソードを抜いて斬りかかる。
「・・・・・・ぅわふ」
全力で振り抜いたショートソードは、取り巻きの首を切り飛ばした。手に肉と骨を一斉に切り飛ばした感触が襲ってきたが、ぐっと堪えて残りの取り巻きを見据える。
「「「「グルルルルルゥ」」」」
1体が文字通り瞬殺されたことにより、残りの取り巻きたちは俺を警戒して距離をとった。低い声でうなりながら、こちらを睨め付けてくる。
向こうは近接攻撃しか手段がないようだけど、俺には遠距離攻撃がある。
「アイスランス!」
散々練習したおかげで、氷の槍の生成速度は格段に早くなり、狙いもかなり正確になってきた。
俺が生み出した氷の槍は、人狼たちの背後から降り注ぎ、その土手っ腹に大穴を空けた。
「「「「ギアオオオオォ・・・・・・」」」」
悲鳴にも似た叫び声をあげながら、4体の人狼たちはその場に崩れ落ちた。
生き物を殺すことにも、ずいぶんとなれてしまったような気がする。ちょっとずつ、自分が自分でなくなっていくようで怖い。
ただ、今はそんなことを言ってる場合じゃない。
早く小雪のところに戻って、ボス人狼を倒さなくちゃ。
「ワオオオオオオオオォン!」
ボス人狼が咆哮する。まだまだ元気なのかと思ったけど、どうやら違うらしい。
片腕は失い、両足はあちらこちらから出血している。胴体には、数えるのが苦になりそうなほど、焼けただれた跡があった。
まさに満身創痍と言ったところか。自分を奮い立たせるために、必死に雄たけびをあげているかのようだ。
「ゥワオオオオオオオオオオォン!」
「え?や、やば!」
もう一鳴きして、人狼はケガを度外視にして小雪へと突貫する。
まさかあの状態から突っ込んでくるとは思ってもいなかったのか、小雪は慌てたように後退る。
やばい!今から突っ込んで、俺が間に合う保証はない。
だけど、見ているだけなら間違いなく小雪は人狼の攻撃を受けるだろう。
「ワオオオオオオオオオオォン!」
「小雪いいいいいいいいいいぃ!」
必死に左手を伸ばす。
しかし、俺の手よりも先に、人狼の爪の方が早く小雪に届く。
「ご無事ですか?お嬢様」
そして、人狼の爪よりも早く、新治くんが小雪をお姫様抱っこして駆け出す方が早かった。