3-27
「「「ギイヤアアアアアアアアアアアァ!」」」
悲鳴にも似た咆哮がダンジョン中を木霊する。間もなく、魔獣の群れがここになだれ込んでくる。
ひかりの盾を装備して、階段を下りて前に進む。
ここからは、1匹たりとも後ろに通さない。その覚悟を持って。
でも、だが、しかし・・・・・・
「刀司たち、戻って来ないんだけど!」
さっきから刀司たちの配信を見ているんだけど、背後に魔獣の群れは一切見えない。
魔獣の群れを引き離しているのだと思っていたんだけど、どうやらこれは、正規のルートから外れてしまったらしい。
ナビをしているのが刀司だからかな?あいつ、地図とか読めないからなぁ。
上野さんや甘楽さんはパーティを組んでいたんだから、そこら辺はわかっていたと思うんだけどなぁ。
『ちょっとちょっとちょっと~!なんか行き止まりになっちゃったんだけど?これって後ろから魔獣に押し潰されたりしないよね~?』
『あれぇ?おっかしいなぁ。さっきの道は右だったはずなんだけど』
『藤岡くん、ちゃんと地図見てたの?』
『おうよ!』
『7階層の入り口までナビがセットしてあったはずだよ?』
『ああ!なんか印がチラチラ動いてたヤツか?』
『そうそうそう!』
『なんか急に向き変えたりするから、邪魔だと思って消しちまった!』
『なんで!じゃあどうやってここまで来たの?』
『勘!』
『『『・・・・・・』』』
文明の利器、活用できず。
本当に、どうして刀司なんかにナビをお願いしちゃったんだよ。新治くんに担がれてるから、1番手持ち無沙汰ではあったんだろうけど、適任ではなかったよね。
「えっと、つまりみんなは戻ってこないってことかな?」
「・・・・・・そうだね」
どこにいるのかはわからないけど、刀司たちのもとに魔獣の群れが向かわないことを祈るばかりだ。
「「「「ギイイイイイイィアアアアアアアアァ」」」」
魔獣の咆哮が近づいき、地面を揺らす震源が徐々にこちらへと近づいてくるのがわかった。
「来る」
小雪が小さくつぶやいた。
その視線の先には、魔獣の群れが姿を現していた。
先頭を駆けるのは、緑色の肌にとがった耳、身長は120cmほどの小さな体躯。いわゆるゴブリンというヤツか。
ゴブリンたちは手には棍棒やナイフなど、小さい武器が握りしめているが、それらをふるうことはなく、必死にこちらへと駆けてくる。
「うわぁ、ゴブリンって、女の子が戦っちゃダメなモンスターランキング常連だよね?」
いや、知らんがな。それはある一定のラノベの世界線の話であって、あいつらもそれと同じとは限らないだろ。
上野さんなら、嬉々として殴り飛ばしに行きそうだし、ミナモちゃんたちも言わずもがなだ。
「とりあえず、あの群れの中には刀司たちはいないから、近づかれる前に高火力の魔法お願いできる?」
「ふーはっはっはっはっはぁ!任せておけ我が同胞よ。汝を守護することこそ我が宿命なれば、矮小な小鬼どもなど灰燼に帰っしてくれよう!」
な、なんか一瞬で厨二モードのスイッチ入っちゃったんだけど大丈夫か?
視聴者がいるかどうかは知らんけど、生配信中なんだが?
「来たれ、深淵に眠りし漆黒の暴龍よ!我が血肉を糧として、我らが敵を焼き尽くせ!ブラッディ†ドラゴニックロア!」
呼びかけに応えるように、小雪の影がぐにゃりと形を変え、魔獣の群れに向かって伸びていく。技名にダガーが使われたような気がするけど、気のせいだと思いたい。
『グオオオオオオオオオオォ!』
「「「「ぎいいいいいいいいいいいいぃ」」」」
魔獣の群れの先頭に到着した影の塊は、1頭の巨大な龍に姿を変えて、咆哮を放つ。
咆哮は、漆黒の塊へと姿を変えて、ゴブリンを先頭とした一団を飲み込んでいった。
「ふーはっははははははぁ!漆黒の暴龍の贄となるが良い。ふーはっはっはっはっはぁ!」
「これ、俺いらなくない?」
今の一撃でかなりの魔獣を倒すことができたはずだ。あと何発か同じように魔法を使ってくれれば、完全に殲滅できるんじゃないかな?
「さあ小雪、薙ぎ払え!」
「・・・・・・いや、ちょっとタイム」
「え?」
「い、いやぁ。久しぶりに護くんと戦えると思ったらテンション上がっちゃってさぁ。霊力全ぶっぱしちゃったんだぁ。だから、ちょっと休ませてほしいかも?」
「・・・・・・」
たしかにすっげえ威力だったけれども!
MP全消費の必殺技を開幕直前に使ってんじゃないよ。まさかこの子、頭のおかしい爆裂系の女子じゃないよね?
まだこの後も戦えるんだよね?漆黒の暴龍さんもまだ残ってるし?ってあれ?なんか暴龍さんちょっとずつ影が薄くなって・・・待って待って、やり切った、みたいな顔で消えていかないでぇ!
マジで霊力がすっからかんになったようで、漆黒の暴龍さんは帰って行った。せめてもう少し暴龍らしい暴れっぷりを披露していってほしかったんですけど。
「「「ギャアアアアアアアアアァ!」」」
暴龍さんの攻撃が当たらなかった魔獣たちが、再び咆哮をあげながらこちらに向かってくる。
先頭は生き残ったゴブリン。その後ろに灰色のオオカミが続いている。そしてさらに後ろには、10階層のボスであった2メートルを超える巨大な二足歩行の豚の姿もあった。
あの豚ですら追い立てられるように逃げてるなんて、その後ろにはどれだけ恐ろしい魔獣が控えているんだろうか。
「というか小雪さん?魔法使えなかったら、残りの魔獣どうするの?俺、攻撃系のスキルなんてほとんど持ってないんだよ!」
むしろ、懐に入らないと戦えないまである。小雪を護りながらこの数をさばき切るのはさすがにムリゲーなのでは?
「大丈夫だよ。こういうのって、お決まりの戦い方があるじゃん?」
そう言いながら、小雪は床を指差した。
こういうときのお決まり?
「ほら、床を凍らせてさ、先頭の魔獣を転ばせるの。そうすれば後続の魔獣が踏みつぶしてくれるでしょ?」
それはお決まりなのか?たしかに効果的なような気はするけど。
「凍れ!」
小雪に指示された通り、周囲の床を氷魔法で凍らせていく。イメージは、スケートリンクよりもさらにつるっつるにした、摩擦がほぼない地面。真っ直ぐ、均等に、平らに形作っていく。
思ったよりも集中力が必要で、頭がぼーっとしてくる。
「「ギイヤア?」」
氷の床に先頭が足を踏み入れた瞬間、小雪の思惑通りつるりと仰向けに転がった。その頭を、後続が踏みつぶす。頭を踏みつぶして進んだ魔獣は、その先で氷に足をとられてつるっと転倒・・・・・・
「「「ギャギャアアアアアァ」」」
「ブヒイイイイイイイィ!」
しばらくその光景が続いたのだが、いつしか氷の床は魔獣の死体で埋め尽くされてしまい、死体を踏みつけにすることで転ぶことなく氷の床が攻略されてしまった。
「あ~、予想以上に数が多かったねぇ。でもさ、数はだいぶ減らせたんだから良かったじゃん?」
「残りはどうすんの?雑魚ばっか倒されて、残りは強そうな魔獣ばっかりなんですけど?」
「ブヒイイイイイイィ」
「っカウンター!」
「ヒイイイイイイィ!」
真っ先に攻撃を仕掛けてきた巨大な豚にカウンターで合わせる。
豚は腹に大穴を空けて、後方の魔獣を巻き込みながら吹き飛んでいった。
「やっぱ10階層のボスは瞬殺じゃん!」
「そうだけれども、この後どうすんだよ、全然手が足りないんだけど!」
俺には、小雪みたいに範囲攻撃ができない。戦うなら、1対1を繰り返すしかないけど、そんなことをしてたら他の魔獣に抜かれてしまう。
1対1をひたすら繰り返して~、なんてのは当然ムリ!
だったらもう、護りに徹する以外選択肢なんてないよね?