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3-23






 お互い氷の上から動けなくなり、模擬戦は引き分け、ということになった。


 新治くんは「全くなにもできなかった、自分の完敗です」なんて言ってたけど、散々氷の上でひっくり返った亀のようにうごめいていた俺が勝ったなんて、とても恥ずかしくて言えなかった。


 あれは恥ずかしかったな。


「魔法を解除すれば良いのでは?」


 新治くんにそう言われるまで、一生このまま氷の上でうごめいているのかと、ガチ目に絶望していたよ。


 さてさて、そんなことがあってから早3日。学院は本格的にはじまり、午前中は座学(普通に高校生の勉強)をして、午後から基礎訓練を行っている。


 上野さんは、俺と朝練も一緒にこなすようになり、日々ステータスが上昇しているようで、もうすぐ俺のステータスの合計値に追いつきそうなんだとか。


 そうなってくると、残念ながらやることは限られてしまうわけで・・・・・・


「なっはっはっはっは。それじゃあ護ぅ。今日からひかりと2人でダンジョン攻略だなあ!」

「いや、まだ上野さんの基礎ステータス上がるかもしれないじゃん!もっともっと筋肉を追い込めるって!」

「んん?言われてみれば、たしかに、まだ追い込みが足りない、か?」


 よしよし!これで今日もダンジョンに入場しなくてもすむぞお!


「なにを言ってるんですか2人とも。今のステータスなら上野さん1人で20階層まで余裕で攻略できますよ?これ以上基礎訓練で鍛える必要なんてないでしょう?」

「でもやっぱり、こういうのって最初に限界まで鍛えた方が、後々大きな差になってくるんじゃないですか?」

「はぁ、もっともらしい言い方ですけど、それは単に中里くんがダンジョンに入場したくないだけでしょう?」


 い、いやぁ、そんなことはないような、あるような?


「やっぱり、上野さんの将来を考えたら、できることはやっておいた方が」

「上野さんの将来を考えるなら、今は少しでもダンジョンに入場することです。毎朝中里くんと基礎訓練を続けているんですから、すぐに基礎ステータスは限界まで上がります。ダンジョンには限られた時間しか入れないのですから、戦闘訓練とレベル上げ、しっかりとしてきてください」

「・・・・・・はぁい」


 俺の抵抗虚しく、本日よりダンジョンでの訓練がはじまることになってしまった。悲しい。


「ねえ、護は10階層のボスまでは攻略してるんだよね?」


 ダンジョンの入り口で、上野さんに尋ねられる。そんな尊敬の眼差しを俺なんかに向けるのは止めて?『10階層のボスまで』、じゃなくて『10階層のボスしか』攻略してないんだから。


 途中の魔獣は全て一瞬で筋肉超特急にひかれてしまったので、道中どんな魔獣が潜んでいるのかも全くわからない。


 まあ、10階層のボスより強い魔獣が道中に現れるとは思わないけどさ。


「改めて、よろしくね護。護は絶対、アタシが護るから!」

「あ~いや、一応俺が盾職なので、護るのは俺の仕事なんですけど」


 盾1ヒラ1の編成って、どう考えても火力足りないんだけど、継戦能力は非常に高い。まあ、10階層くらいまでなら俺の火力だけでもどうにかなるだろう。




「どりゃああああああああぁ!」


 そう思っていた時期が、俺にもありました。


 現在ここは第4階層。


 周囲にはオオカミのような魔獣が取り囲んで、その悉くを上野さんの拳が粉砕していく。


 基礎訓練によって底上げされた上野さんの俊敏や筋力の前では、オオカミ程度ではかすり傷1つ負わせることはできないようだ。


 俺の役割はと言うと、上野さんの上空を飛び交うドローンに映らないようにしつつ、もしものときに備えて待機することくらい。


 あとは生配信で寄せられるコメントを適当に読むこと?



:ひかりちゃん動きが全然違う!

:あの量のウルフを1人で相手にするなんてガクガク

:ひかりちゃんヒーラーだろ?なんでソロでダンジョン潜ってんだよ!

:トージとマコトは別窓で配信してるぞ

:カケルは・・・・・・すまんなんでもない



 ソロではないんですよ皆さん。ただねぇ、上野さんが強すぎて手を出せないというか。


 ちょいちょいこっちにくるオオカミはしっかりと処理してるけど、それでも手持ち無沙汰ではある。


 ちなみに、Dチューンの配信は年齢によるレーティングがあり、18歳以上であればほぼ規制なく視聴ができるようになっている。


 つまり、ぶち抜いた腹も、潰された頭も、噴き出した血も、それをかぶり、赤黒く染まりながら笑みを浮かべる上野さんも、バッチリ世界中に配信されているわけだ。



:神々しい

:女神様だ

:ひかりん最強!ひかりん最強!

:最強に可愛いひかりたん



 あれを見て美しいとか神々しいとか言えるヤツ、絶対どうかしてる。血に飢えたオオカミよりも血に飢えてるって、どうみてもバーサーカーでしょあんなの。


 なんでそんな返り血浴びて笑ってられるのか俺には全く理解できない。こんなん、100年の恋も余裕で冷めるでしょ!


 ま、まあ?上野さんの配信を追ってる人なんて、みんな上野さんのファンなわけだから?こういう暴力的な面を含めて推してるんだろうから、今更なのかもしれない。


「護ぅ~終わったよ~!」

「ちょ!配信してるんだから、俺の名前は出さないでください!」



:まもる?誰ぞ?

:守護騎士様おるんか?

:BLの守護騎士様やん。

:は?もしかしてひかり様とパーティ組んでんのか?

:戦闘にちっとも写ってなかったけど

:もしかしてひかり様に戦わせておいて自分はかくれてたんか?

:ばっかお前!BLを護るためにしか戦えねえんだよ!



 ああ、見つかってしまった。1階層で上野さんが配信を開始してから今までずっと隠れていたのに。


「あれ?まだ護のこと紹介してなかったっけ?」



:してない

:むしろ開始のあいさつすらなかったが

:1人でマイペースに配信するひかりたんかわよ

:このままひかりだけでいいわ

:不純物が混じるな

:まあカケルよりはマシか?

:まもるくん女の子に興味無い品



「うえ・・・・・・ひかりさん、俺のことは良いから、先に進みましょうよ」

「ひ、ひかりさん!う、うん。ひかりさんですよ。もっと呼んでください」



:ひかりさんですよw

:なんで頬染めてんだ!

:2人はどういう関係ですか?

:なんか前のPTのときより表情が柔らかい



「もう配信止めちゃいますか?どうせこっからしばらく先まで、前のパーティで攻略動画配信したんですよね」


 なによりコメントが鬱陶しい。


 この配信のせいで、またネットのおもちゃにされてはたまらないからな。まだBLの守護騎士様ってネタはなくなってないみたいだし。


「アタシはどっちでも良いけど、護が止めたいなら終わりにしようか」



:えええええぇ!

:ひかりちゃん成分が圧倒的に足りてない

:まだダンジョンアタックするなら配信も続けてほしい

:守護騎士様ももっと見たいお

:そうだそうだ



「ほら、視聴者もこう言ってるので、とっとと配信を終了しましょう」



:こう言ってるとは?

:止めろとは言っていないんだよなぁ

:まもるくんの言うことは聞いちゃダメだ

:つうかなんでこいつはひかりと一緒にいるんだよ!



「さ、シメのあいさつをお願いします」

「うん。それじゃあ、今日の配信はここまで。また機会があったら配信しますねぇ」


 阿鼻叫喚が流れるコメント欄は全て無視して配信を終了した。


俺もけっこう配信はやらされたけど、生の配信はやったことがないからね。視聴者のいじりかたなんて全然わかんないから、ぶった切っても仕方ないよね?


「それじゃあ上野さん、先に進みましょうか?」

「え?あれ?上野さん?ひかりって呼んでくれないの?」

「いや、配信のときは身バレ防止で苗字なんて呼べないでしょ」


 なぜかこちらに悲しそうな視線をよこした上野さんは、手元に戻って来たドローンを再び上空へ送り出した。


「皆さんこんにちは~!ひかりと護のカップルちゃんねる、張り切ってやっていきたいと思いま~す!」


 なぜか、再び配信が再開されてしまった。








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