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「パーティ、か」


 騒がしかった夕食を終えて訓練場までやって来ると、ランニングを始めた。


頭を空っぽにするにはランニングが1番。そう思っていたんだけど、どうにも色んな考えが頭を巡ってくる。


 刀司たちとパーティを組むこと。


 どうやら10階層のボスに苦戦しているようだ。


今までは上野さんという回復役がいたから安定して戦闘を行えていたんだと思う。さらに久賀くんもいなくなってしまったから、今までのように戦闘が行えなくなってしまったんだろう。


 2人だけでの立ち回りを考え直すか、その前にパーティを結成して人数を増やすか。


 刀司は後者を選んだようだ。


 上野さんなら、ついこの間まで一緒に戦っていたから、すぐに馴染むことができるだろうけど、そこに俺が入る余地があるんだろうか?


 自慢じゃないけど、俺この前10階層のボス、ワンパンしたんだよねぇ。タンク職の俺が。


明らかにステータスに差がありすぎる。


 攻撃を一際せずに攻撃を受け止めるだけであれば、刀司たちの訓練にはなるだろうけど、今後を考えたらステータスの近い人を正式にタンクとして採用した方が良いと思う。


 パーティの中で1人だけ手を抜いてるヤツがいるのは気分も良くないだろうし。


 それに、上野さんとのバディについてだ。


 正式に書類を提出したから1学期は変更できない?今年できたばっかの学院で、できたばっかりの決まりのはずだ。


 不備があればいくらでも変更できるはず。


 東さんとしては、『ひかりの盾』の効果を試させたいから、『変更できない』なんて言ってるんだろうけど、どうしたもんかな。


 やっぱり刀司や上野さんと四六時中一緒にいるってシチュエーションは、メンタル的にかなり辛い。こうして訓練の最中に余計な思考が入ってくるくらい、集中力を欠いてしまう。


 トラウマ、なんて格好良いものじゃないから克服できるかどうかなんてわからない。


1番良い対症療法は、上野さんと長時間一緒にいないこと。なんだけど、それはおそらく使えない。それ以外になにか良い打開策がないか探っていこう。


「考えごとは終わりましたか?そろそろ自分が話しかけたいのですが?」

「・・・・・・」


 なぜか今日も俺と併走してくる新治くん。


 きっと小雪が女子寮に入ったから暇になったんだろう。女子寮は男子禁制だからね。いくら専属執事とはいっても、女子寮の中にまで入るわけにはいかないはずだ。


 あれ?でも今朝は、小雪の朝の支度がどうとか言っていたような?初日で持ち物なんか無いに等しかったってのに、なんの支度が必要だったんだ?


「よろしいですか?中里護くん?」

「うおぉ!」


 ビックリしたぁ。意図的に無視していたとは言え、まさか走っている俺の目の前に顔を出してくるとは思わなかった。


 つうか、バック走で俺と同じ速度で走られると、こっちのこころが折られそうだわ。


 仕方がないので足を止めて、新治くんの話を聞くことにしよう。別にバック走にすら追いつけない自分を想像するのが嫌だとかじゃないんだよ?


「それで?そんなお話がしたいんで?」

「はい。自分と本気で戦っていただけないかと思いまして」

「本気で戦う?新治くんと?なんで?」

「今日のグループ分けでは、Aグループに入ることができませんでした。自分とAグループに、どれほどの差があるのか、気になりまして」


 俺や小雪はAグループ。新治くんはBグループに分けられていた。ステータスの差、だけではないだろう。


 大山さんの事件があってから、生徒のダンジョンへの入場はかなり厳しく制限がかけられるようになった。


 ダンジョンに入場できたのは、事件以前からダンジョンで訓練を行っていた5パーティのみ。


 刀司のパーティはハイペースで階層を攻略していたが、俺たちのパーティは全く入場せず。残りの3パーティも、2階層に行くのがやっとで、ろくにレベル上げもできなかったって聞いている。


 新治くんは早期入学ではなく、入学式から学院にやって来た後発組。当然ダンジョンに入場して攻略をしたり、レベル上げをすることはできなかった。


 それなのにAクラスにいる。入学までの間に、どれだけ自宅で訓練を積んできたんだろうか。


「俺なんかじゃなくて、刀司に頼めば良かったんじゃないの?あいつなら喜んで模擬戦してくれると思うよ?」

「それは、中里護くん、自分はあなたを超えなければ意味がないからですよ」

「・・・・・・わかったよ」


 あまりに真剣な眼差しを向けるものだから、思わず受けてしまった。絶対受けないでよそうと思ってたのに。


「ルールはどうする?」

「スキル、魔法の使用は自由。武器は、訓練用の物を使う、というところでいかがでしょうか?」

「わかった。決着はどうつける?」

「どちらかの戦闘不能、降参は認める、ということで」

「了解」


 レギュレーションを確認し、訓練用の武器が保管されている倉庫に向かう。


俺はショートソードと大盾を、新治くんは2本のショートソードを手にし、訓練場の中心で向かい合った。


「手加減は無用。全力でお願いします!」


 そう言った直後、視界から新治くんの姿がかき消えた。咄嗟に盾を正面に構えるが、衝撃は背後からやって来た。


「あの一瞬で、俺の背後に回ったのかよ。早すぎるだろ」

「無防備な背中に全力の一撃を入れたのですが、まさかダメージがないとは。あなたこそ硬すぎでしょう」

「そりゃどうも」


 振り向きざま、ショートソードを横に薙ぐが、すでにそこに新治くんの姿はなかった。


 ちょっとこの速度は厄介だな。


まるでアニメの世界の早さだ。早すぎてまさに目にもとまらぬってやつ。どんだけ俊敏のステータスが高いんだか、後で聞いて見よう。


 さて、そのためにはこの模擬戦をとっとと終わらせなければならないわけだけど、俺の俊敏では動いてる状態の新治くんに攻撃を当てるのはムリ。


 となれば、早いヤツ相手のテッパンネタを使ってみよう。


「氷魔法」


 自分の周囲の地面を、凍りつかせていく。氷はなるべく厚く、平坦になるように。それを徐々に範囲を広げ、周囲を高速で移動している新治くんの足下にも届くように。


「きゃっ!」


 なんか女の子みたいな悲鳴が聞こえたけど、声の主は新治くんのようだ。勢い良く足を取られたようで、いまだにゴロゴロと氷の上を転がっている。


 すかさず新治くんの体にも氷魔法を使用して、氷の床に拘束する。


「なるほど。魔法も使いこなしているわけですか」

「使いこなすって程じゃないけどね。小雪に比べれば全然だよ」

「お嬢様はこれ以上、ということですか?」

「あれ?小雪の魔法見たことないの?バディなのに?」

「・・・・・・まだダンジョンの第1階層までしか入場したことがありませんので。あの程度の魔獣に、お嬢様のお手を煩わせるわけにはいきませんから」


 ちょっとだけマウントをとろうとしたら、新治くんは悔しそうに顔をしかめた。


 とは言っても、俺も小雪も第1階層でまともに戦ったことってないんだけどね。


「さあ、勝負はまだついていませんよ。自分が動けるようになる前に、とどめを刺したらいかがですか?」


 いや、どう見ても勝負はついてると思うんだけど、とどめを刺さなきゃダメ?手加減って習ったことないから、どれくらいの威力で攻撃したら新治くんをぐしゃってしないかわからないんだけど。


 なんて考えている間に、新治くんの体を拘束している氷が少しずつ砕けはじめる。たしかに決着は早いほうが良さそうだ。


「大けがしても、文句言うなよ!」


 ショートソードを握りしめて、新治くんに向かって駆ける。


「ずおおぉ!」


 その瞬間に氷に足を取られて、つるりと転がってしまった。


「ああ、お空あおい」


 見上げた天井は、全く青くはなかったけど。








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