3-21
皆さん長期間間を空けてしまい申し訳ありません。
人生初の新型コロナに感染してしまい、寝込んでおりました。
今日からはいつも通りのペースで更新していきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。
さすが東さんの幼馴染みなだけあって、川内先生も人の話を聞かない人だった。
あんなんで長年のしこりなんてのが溶けて無くなるとは思えないけど、それでも俺と上野さんは無理矢理バディを組まされることになってしまった。
1学期は変更できないって言われたから、少なくとも4か月?いや、2学期に新しいバディを見つけるまではそのままのはず。つまり、夏休みも含めれば5か月はバディでいなければならないわけか。
1年の約半分だということに気づいて、軽く絶望したね。
まあ、バディと言っても四六時中一緒にいなきゃいけないってわけじゃない。せいぜい1日の3分の1程度だろう。
「はい護、あ~ん!」
「・・・・・・」
そう思ってた時期が、俺にもありました。
いや、まあ?食事を一緒にするのは良いよ?でもさすがにこれは、いくらなんでも目立ちすぎるでしょ?
「どうしたの護、ほら、口開けて?」
「待ってください上野さん!どう考えてもこれはおかしいでしょ?」
高校生の男女が食堂で横並びに座って、しかもあ~んしてもらうなんて絶対におかしい。どう考えても幼馴染みの距離じゃないよ!
「でも、昔はよくこうやって食べさせたあいっこしてたじゃん」
「それ小学校の低学年のころの話でしょ?高校生にもなって人前でこんなことしてたら、周りは俺たちのことをどう思うでしょうね?」
「仲の良い幼馴染み?」
そんなふうに思うお子ちゃまいねえよ!
「良いですか上野さん。仲の良い幼馴染みでも、さすがにこんなことしませんし、距離間だってもっとしっかりとります。親しき仲にも礼儀あり、ですよ?」
「さすが護、難しい言葉知ってるんだね。それじゃあ頭の良い護くんには、特別にこのなんのお肉かわからないハンバーグをあげよう」
どうしよう。話が通じない。
バーサーカーの状態のときも厄介だけど、頭お花畑みたいな今の状態も非常に厄介だ。
バーサーカー状態なら、ぶっ倒して気絶させればどうにかなりそうな気がするんだけど、この状態の上野さんをぶん殴るわけにもいかないからなぁ。
「ねえねえ、そんな難しい顔してなに考えてるの?今はご飯の時間なんだから、ちゃんとご飯を食べるの!」
「は、はい」
「よろしい。じゃあ口開けて、はい、あ~ん!」
「だから!それは高校生の幼馴染みはやりませんって!それとも、刀司にも同じことができますか?」
「いや、普通にムリだけど?子どものころだって、1回もやったことないし」
そこでまじめな顔になるのはどうなんですか?昔から刀司とは仲が悪かったけど、どんだけ嫌いなんだろうか。
「刀司にできないことは、俺にもやらないでください。良いですね?」
「え?じゃあ一緒にご飯も食べちゃダメってこと?」
さすがに一緒にご飯くらいは許容してやって欲しい。仮にも今まで同じパーティを組んできたんだよね?あの事件のときには死線を共に乗り越えたんじゃなかった?
「せめて、ご飯くらいは刀司とも一緒に食べてあげてください」
「・・・・・・考えて見るけど、藤岡くんが嫌がるんじゃない?」
「誰が嫌がるって?」
ガチャリと音を立てながら、俺の向かいにトレーを置いた刀司は、遠慮なくイスに腰掛けた。
「・・・・・・ひかりちん、なんかキャラおかしくない?」
いつになく大人しい様子の甘楽さんは、顔を引きつらせながら上野さんの向かいに座る。ぜひ友人として、上野さんを注意してもらいたいところなんだけど、かなりドン引きしていて、そんな余裕はなさそうだ。
「藤岡くん、席なら他にも空いてるよ?わざわざ相席しなくても良いんじゃないかな?」
「別にどこ座ろうと俺らの勝手だろ?それより、お前らなにやってんの?」
なにやってるんだろうね。俺が1番知りたいよ。
でも、おかげでこの地獄のような時間が終了しそうだ。
「ほら、上野さん。刀司にさっきのヤツできますか?できないですよね?だったらもうちょっと離れて、普通にご飯を食べましょうよ」
「大丈夫だよ護。アタシ、護のためだったら筋肉の塊にエサくらい与えてみせる」
なに決意を固めた表情で箸を握りしめてるんだこの人。セリフがちょいちょい病んでる感じを匂わせてるのが非常に怖い。
あと、幼馴染みを筋肉の塊とか、エサを与えるって、普通に考えて悪口より酷いからね?
「ふ、藤岡くん。く、くく、口、開けてもらえる?」
「ん?こうで良いのか?」
大きく口を開けた刀司を見て、上野さんは自分の皿に乗っていたグリンピースを1つ、箸でつまみ上げた。
なぜわざわざグリンピースなんて箸でつまむのが大変なものを選んだのかわからないけど、力が入りすぎているせいか、豆が潰れて若干中身が飛び出している。
「はい、あ~ん!」
上野さんは手首のスナップを効かせて手を振ると、グリンピースは真っ直ぐに刀司めがけて飛んで行った。
それはまさに一瞬のこと。
グリンピースは刀司のおでこに命中。原型をとどめることができず、ぐしゃりと潰れていった。
「ぶっへ!」
「刀司く~~~~~~~ん!」
グリンピースの直撃を受けた刀司もまた、小さい悲鳴をあげながらひっくり返っていった。
豆鉄砲を放つだけで人を倒すことができるなんて、上野さんも普通からどんどん遠ざかっていくなぁ。
「ちょっとちょっとちょっとお!なにしてんだよひかりちん!刀司くん目ぇ回しちゃってるじゃん!食べ物で遊んじゃダメだよお」
甘楽さんは気を失っている刀司を抱えてイスに座らせる。自分より頭1つも2つも大きい刀司をお姫様抱っこしている姿は違和感しかなかったけど。
女子2人は、ステータスが上昇したことで随分とたくましくなってしまったものだ。
「それでそれでそれで?どうやってあれだけ嫌がってた護くんとバディになれたのかな~?もしかしてもしかしてもしかしてぇ、エロいことでもした?」
「「・・・・・・」」
いやちょっと待ってくれ!俺がなに言ってんだこいつって顔で甘楽さんを見るのはおかしなことじゃない。
でも上野さん、あなたはなにツヤツヤした顔で含みのある笑みを浮かべてるの?
なにもなかったじゃん!なにもなかったって言ってくれよ!
「も、もも、もしかして、本当にエッチなことを?」
「ふふ・・・・・・どうかなぁ」
「どうかなぁ、じゃないですよ!なに意味ありげな返しをしてくれてんですか!それじゃあ俺らの間でなんかあったみたいじゃないですか!ないですからね?全くもって、これっぽっちも!ただの幼馴染みなんだから、今までも、これからも、なんか間違いがあるわけないんですよ!」
「そ、そっかそっかそっかぁ、そりゃわずか数時間で関係性が変わるんならとっくに変わってるもんねぇ」
上野さんは俺の言葉がお気に召さなかったのか、明後日の方向を向いてほっぺたを膨らましてるけど、甘楽さんに正しく理解してもらえたようなので良しとしよう。
「いってててて、意識飛んでたわ。ったく、不意打ちとは姑息なマネしやがって」
豆鉄砲を被弾した刀司が意識を取り戻したらしい。
べちゃりと潰れたグリーンピースだったモノがおでこに張り付いてるんだけど、見なかったことにしよう。
「ったく、メシが冷めちまうだろ。って!なんで俺の豚カツ半分無くなってんだよ!」
「知らない知らない知らな~い。自分で食べんじゃないの~?」
だいたいそういうヤツが犯人です。
刀司も気づこうよ?甘楽さんの煮魚定食の皿に、明らかに場違いな豚カツが乗ってんじゃん。
「そっか、俺が食べたんならしょうがねえな。んなことよりよお、俺たちとパーティ組んで、10階層のボス倒しに行こうぜ、護」
刀司のバカさ加減より、その言葉によっぽど頭が痛くなった。