91話
「どうじゃ田舎は。都会と違って何もないけど自然は綺麗じゃろ」
「はい。とても。こんな綺麗な星空を見たのは初めてです」
「これは、ここでは普通の空だよ。もっと寒くなれば空気が澄んで綺麗に見える」
「そうなんですね」
「お正月もおいで」
「はい」
少し沈黙が流れる。
お祖母ちゃんは私の隣に座って一緒に空をみる
こんなときに面白い話の一つや二つ話せればいいのだが
私は基本的に話が上手じゃないから、こうゆうときの会話が思いつかない
「愛ちゃんのお祖母ちゃんのこと真奈さんにきいたよ。大変だったね」
お祖母ちゃんの口から私のお祖母ちゃんの名前がでてきて少し驚いた
「はい。でもみっちゃんや松岡家のみなさんのおかげでちゃんと向き合えています」
「それはよかった。愛ちゃんはお父さん側のお祖母ちゃんとかとは連絡とっているのかい?」
「いえ、父とは母以上に連絡をとっていないし、父側の祖父母とは物心がついてからはお会いしていないと思います」
「そうか。それなら今日から私があんたのお祖母ちゃんになろう」
「えっ」
そういってこっちを見るお祖母ちゃんの笑顔はてとても優しかった
「私たちみたいな祖母ちゃんは寿命的にはあんたたちよりも先に死ぬだろう。もしかしたら長生きすることもあるかもしれない。でも私にとって重要なのはいつまで元気に生きているかなんだよ。そして今は元気に生きている。俊哉が真奈さんと結婚して瑞樹と真紀が生まれて、私はあの子たちの成長を見守っているのが本当に幸せだと思っている。年に何回会えるかはわからない。テレビをみていると実家に帰ってこない子供たちもいる中で、あの子たちはこうやって定期的に私たちに顔をみせてくれる。これを幸せと呼ばなかったら私はバチが当たってしまうよ」
「素敵です」
やはり俊哉さんのお母さんなんだなと思った。
こんなお祖母ちゃんだからこそ俊哉さんも素敵で、その血筋はちゃんとみっちゃんと真紀ちゃんに受け継がれている。
「次から愛ちゃんの顔も私にみせてちょうだい」
「私ですか?」
「瑞樹の彼女でもあるけど、それ以上に私は愛ちゃんのことが好きになった。だからまたここに遊びにおいで」
その優しい言葉に私は少し俯いてしまう。
「いいんでしょうか?私は本当に人に恵まれていると思います。みっちゃんに出会えたこと松岡家のみなさんに出会えたこと、どれも私には贅沢すぎる時間を送らせてもらっています」
「愛ちゃん、人の幸せだと思う数は決まっていないんだよ。あんたは、お祖母ちゃんと一緒に住んできてお祖母ちゃんにしか甘えてこれなかったんだ。でも今は違う。あんたの周りには俊哉たちがいて、今は私たちもいる。子供は大人に甘えていいもんだよ。孫は祖母ちゃんにもっと甘えていいんだよ。それでも申し訳ないと思うのなら、大人になって返しおいで」
「私に返せるものはありますかね」
「あんたが幸せだと思うものを私たちにみせておくれ」
「幸せだと思うもの。。。」
「なんでもいいんだよ。欲を言えばひ孫とか」
お祖母ちゃんはいたずらっぽく笑った
その笑顔が少し俊哉さんとみっちゃんに似ているような気がした
「ひ孫ですか?!」
「冗談だよ。でもひ孫までみれたら本当に幸せだね」
「が、がんばります」
「楽しみにしている」
「祖母ちゃん!愛に変な事言ってない?」
その声で後ろを振り返るとお風呂上がりのみっちゃんが立っていた
私は口には出さないがみっちゃんのお風呂上りはかっこいい。
普段おろして目にかかっている前髪もお風呂上りはいつもかきあげており
セットしているような感じになっているけど、濡れている分少し色気が+されてドキドキしてしまう。
ちょっとマニアック感があって変態と思われたくなくて言わないが
「もうお風呂から上がったのかい。せっかく私が愛ちゃんと仲良く話していたのに」
「祖母ちゃんおしゃべりだから愛が困っていないかって話だよ」
「みっちゃん大丈夫。お祖母ちゃんとたくさん話ができたよ」
「ほら愛ちゃんがこういっているし」
「愛がいいならいいけど。ちなみになんの話をしたの?」
「ひ孫がみたいと」
「おい祖母ちゃん。初めてきた孫の彼女になんてこと言っているんだよ」
「本音を言っただけだよ」
「ひ孫って俺たちまだ高校2年生だからね」
「もうすぐ高校も卒業だからわからんぞ」
「もういいから。あ~。父さん呼んでこよう」
「からかいすぎたかな」
「あんなみっちゃん初めて見ました。新鮮で面白かったです」
「あの子は変に真面目だからね。たまにはあんな風にからかってやるのも面白いんだよ」
「勉強になります」
「さて、私も風呂に入ってこようかね。愛ちゃん夜は冷えるからちゃんと布団をきて寝るんだよ」
「ありがとうございます」
お祖母ちゃんはお風呂にいってしまった
私は縁側にまだ一人で座ってお茶を飲みながら空気を楽しんでいた
また来たいなと思っていた。
私はこの場所が好きになっていた
すると背中が急に温かくなった
みっちゃんが毛布をかけてくれていた
「夜は冷えるからね」
こうゆうことをさりげなくやってしまうのがみっちゃんはずるい
毎回キュンとなってしまう
「みっちゃん」
「どうした?」
「またきたい」
「じゃぁまたこよう」
「うん」
みっちゃんはそれ以上なにも聞かずに隣にいた
私はその幸せな空気と背中にかかった毛布の温かさに睡魔がきてうとうとしていると
みっちゃんが私の頭を膝の上に連れて行ってくれた
そこで私の意識はなくなった
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下を見ると幸せそうに眠る愛の顔がある
俺はそれを眺めていた
愛は俺のことも松岡家のことも本当に大事にしてくれている
それが父さんたちにも伝わっているし、祖母ちゃんたちにも伝わったからこんなに受け入れられているんだと思う。
最初に出会った時にこんな風な関係性になるなんて微塵も思っていなかった。
自分はクラスの陰キャで、愛はクラスで一番人気の女の子。
交わるはずがない2人が交わったことに今考えたらすごいなと思う。
お祖母ちゃんが倒れて認知症が発症して愛のことを覚えていなかった時の愛の顔は今でも忘れることができない。
あの時の愛の顔を思い出すとこの幸せそうな顔で眠る愛を守っていきたと心の底から想う。
「愛好きだよ」




