85話
冬くんとさくらさんが教室を出て行った後の教室の雰囲気はまさに「静寂」だった。
静まり返った教室、先ほど俺と敬都の前で啖呵切っていた村野と大村も何も喋らなくなっている。
そのくらいさくらさんの言葉には力があって迫力があって怖さがあった。
「これでわかっただろ?冬くんに絡むな」
「僕たちオタクは自分のテリトリーの中にいることが一番なんだから」
あまりの沈黙に耐え切れず俺は一言村野と大村に声をかけた。
敬都もそれに続いた。
「結局おまえら何もしていないだろう。陰キャが調子に載んな」
「まぁ陰キャは否定せんけど」
「なら黙ってろ」
村野と大村の言う通り俺も敬都も陰キャの自覚はあるし、それを否定するほどの教室での実績があるわけではないからいい。
お前らも陰キャよりだろと言いたくはなるが、ここで気を逆立てするのはよくないと思い何もいわなかったのだが、俺たちの斜め後ろにいる人からの圧がすごいことになっていることに二人は気づいていない。
俺はここで目立ちたくないと思って我慢するけど、最近教室での才色兼備イメージも崩れつつある、俺の彼女がブチギレ寸前みたいになっているのが逆に怖い。
敬都を横目でみていると、明らかに愛の視線に気づいて背筋を伸ばしている。
「わかったから!そのくらいにしよう。もう何も言わないから」
「はぁ?なんかおまえら陰キャがこの場を収めたみたいな雰囲気になってムカつくな」
「中村もいつの間にか「そっち側」みたいになっているけど、お前は松岡以上の陰キャだろ」
「それは否定しないけど」
「おい」
「ねぇ?」
「あぁ?」
俺たちに強気で文句をいっているときに隣から突然声をかけられて俺たちに話していたテンションで返事をして振り返ると、そこには完全にキレている嶋野愛が立っていた
「さっきから陰キャ陰キャってみっちゃんのこと言っているけど、あんたたちはそんなに偉いの?」
「あっいや。」
愛の圧倒的な圧にまたもや勢いを消失させられた二人は黙り込む
「ねぁ桐生さん」
「どうした嶋野さん?」
愛は隣にいた桐生さんに声をかける
「この二人の名前知っていた?」
「すまない。名字は知っていたけど名前までは覚えていない」
「私は名字すら知らなかったけど」
半年以上同じクラスにいて名字すら覚えていない発言は言われた側からしたらショックがでかいだろ
「私のせいではあるけど、名前と名字と顔をクラスから覚えてもらっているみっちゃん。ついでに文化祭の実行委員をしていた中村と私たちにフルネームを覚えてもらっていないあんなたちのどっちが陰キャラなの?さくらも言っていたけど、自分たちがいっていることがブーメランになって帰ってきていることにまだ気づいていないの?」
「嶋野さんそれぐらいにしておこう」
「だってこの二人みっちゃんのことを」
「愛!!大丈夫だから。もういいよ。その優しさが嬉しいから」
「いいの許して?」
「全然許す。今回は俺たちより冬くんのことが本題だから」
「みっちゃんが許すならいいけど」
「うん。桐生さんも止めてくれてありがとう」
「うん」
「お前たち二人ももういいだろう?」
「「いいです。すいませんでした」」
2人は静かに自分の席に戻った。
それに合わせて野次馬状態になっていたクラスメイト達も各々の席に戻ったのだった。
休み時間の終わりごろには冬くんとさくらさんも戻ってきて、その日の教室の雰囲気はかなり微妙な感じにはなっていたけどなんとか学校は終わり、俺、愛、さくらさん、冬くんの4人で帰宅していた。
他の3人は予定があるらしく4人での帰宅になった。
正直敬都あたりがいてくれたほうが空気的には和むかなとは思ったけど予定があるのなら仕方がない
「冬くん大丈夫?」
「ありがとう。もう大丈夫。春乃さんのおかげだね」
「いやぁ。今考えたら私結構やらかしたなって学校でずっと反省していたよ」
「さくらかっこよかったよ」
「愛ちゃんありがとう!!!」
さくらさんは愛に抱き着く
「今日は流石にもう帰る?」
「もし時間があるなら家にきませんか?」
「冬くんのお家?」
「はい。なんか昨日自分の過去を話して、今日教室で起きたことを踏まえてみんなには本当に感謝しているんです。なのでもし時間があるなら僕のお母さんにみんなを紹介したいなと思って」
冬くんは少し恥ずかしそうに話した
「私はいいよ」
さくらさんは即答する
「俺たちも大丈夫」
俺と愛も了承する
そうして俺たちは冬くんのお家にお邪魔することになった。
冬くんの家は学校から歩いて20分ぐらいのところにあるマンションの5階だった。
「ただいま」
「おかえり」
「えっ?」
冬くんの家に入って迎えてくれたのはかなり若い女性だった
ラノベの展開だと「冬くんのお母さん若いね」というセリフが飛び出すところだが
流石にこれは違うとわかる
「なんで姉さんがいるの?」
「へへへ。サプライズ~。ってその子たちは」
冬くんのお姉さんは話に聞いていた通り明るく優しそうな聞いたままの印象だった
「お母さんに紹介しようと思って。僕の友達を」
「友達。。。そっか。みんなあがって。あ母さん~~。冬くんが友達連れてきたよ」
リビングに入ると綺麗に掃除された中に、冬くんのお母さんが立っていた。
えっこの人実は冬くんのもう一人のお姉さんっていうサプライズじゃないかなと思うぐらい
冬くんのお母さんは若かった。
「あらあら。なんでお友達連れてくるのに何も連絡がないの」
「急に決まったから。ごめんなさい」
「何も用意していないわよ」
「お構いなく」
「お母さん」
「うん?」
「僕が学校でできた「友達」の春乃さんと嶋野さんと松岡くん。今日は来ていないけど中村くんと桐生さんと鏡さんっていう「友達」もできたよ。みんな僕の過去も現在も知っている」
冬くんのお母さんは「みんな僕の過去も現在も知っている」という言葉に驚きを隠せない様子だった
しかしすぐに落ち着かせて
「そう。みんなありがとう。冬くんの友達になってくれて。でもなんて急に紹介しようと思ってくれたの?」
「実は。。。」
冬くんは今日教室で起きたことをお母さんとお姉さんに話した




