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84話

冬くんのことを知った時に初めて思った感情は「かわいい」でも「かっこいい」でもなくて「すごい」という感情だった。

だって冬くんは私にない「自分」をちゃんともっていたから。

どちらかというと私は周りの空気を読んだり愛ちゃんの行動に流されたりすることが多かった。

私は昔からある程度こなすことはできても1番になるほどの熱量は持てなかった。

この前のテストとマラソン大会の時に初めて自分が2番という立ち位置を当たり前と思っていることに疑問を持ち1番を目指して愛ちゃんと勝負をした。

でも、やってみて思ったことだけど1番を目指すことは大事かもしれないけど、結局はなんで1番になりたいのかが大事なんだと思う。きっと自分のやりたいことに向かって進んでいる人たちにとって1番や2番みたいな順位は関係ないんだと思う。

私は順位にこだわる人よりも自分のやりたいことに向かって真っすぐ進んでいる人にあこがれたんだと思う。

冬くんは私にとってまさに自分のやりたいことに向かって真っすぐ進んでいる人だった。

男の子が女装をすることは今の日本では受け入れられつつあるが当たり前ではない。

それでも自分が好きな「かわいい」を貫き通してやり続けている冬くんは本当にすごい。

だからこそ教室で男子達が冬くんのことを馬鹿にしているように見えて、冬くんが悲しそうな顔をしているのをみたときに怒りが爆発した。

ふざけんな!!冬くんはすごいんだ!!!ってもっともっと大声で叫んでやりたかった。


「春乃さん大丈夫?」


冬くんは私に優しく声をかけてくれる。

私の行動は正しくはなかったと思う。

教室をあんな空気にしてしまったから冬くんまで居心地が悪くなってしまうかもしれない


「冬くんごめんね。私余計なこと」


「余計な事なんてしていないです」


「でも変に冬くんを目立たせてしまった」


「僕はですね。長崎からお母さんと引っ越してきて自分のやりたいように生きていいんだと舞い上がっていました。だから今日村野くんと大村くんに話しかけられたときに現実を見せられたと思ってしまいました」


「現実?」


「はい。やっぱり僕のやりたいことは普通じゃないんだと」


冬くんは少し悲しそうな顔でそういった


「冬くん。。。」


「そう考えたら急に怖くなってしまったんです。お父さんがいっていたことは間違ってはいないとは思っていましたが、本当にこれでよかったのかなと。自分のせいで家族をバラバラにしてしまった自覚はあります。だからこそ自分がやりたいことを精一杯やって生きようとこっちに引っ越してきました。その自信がなくなりそうになりました」


「。。。。」


私はなんて声をかければいいのかわからなかった


「でも」


「でも?」


「春乃さんが村野くんと大村くんたちに向けて言った「好きなものを好きだといって何が悪い」というのが心に刺さりました。姉さんたちやお母さんが僕にかけてくれた言葉ぐらい勇気をもらいました」


~冬樹~


昨日は自分の過去を赤裸々に話してちょっと恥ずかしさもあったけどみんなに自分をさらけ出すことができたのが恥ずかしさ以上に嬉しかった。

それでも恥ずかしいから教室に後から入るよりもみんなを待とうと思っていつもより早く登校した。

みんなどう思ってくれたのかな?引かれていないかな?

自分から話をしたものの実際にみんながどう思ってくれているのかはわからなかった


「苑田」


「はい」


確か、この人は村野君だったと思う。その後ろにいたのは大村くんだったかな。まだ話ことはなかった


「これってお前なの?」


「えっ」


村野くんが出してきた写真は僕が女装しているときの写真だった。

なんでこの格好の写真があるんだと頭が真っ白になった


「その写真をどうして村野くんが持っているの?」


僕は声を振り絞って村野くんに尋ねる


「大村がゲーセンにいったときに苑田がトイレに入っていくのが見えたからトイレの前で待っていたら、この格好をした人が出てきて。大村も一瞬だれかわからなかったらしいけど、苑田に少し似ているような気がしたから写真撮って俺に送ってきた」


どのタイミングかわからない。

正直教室では顔と名前は一致するぐらいは覚えてきたけど外で会った時に顔と名前が一致するほどクラスの子たちのことは覚えていないから大村くんがトイレの前にいたことも全く気付いていない


「そうなんだ。その写真は僕だね」


僕は正直に白状した。だって自分の好きなように生きるって決めてこっちに引っ越してきたんだからこんなところでうしろめたさを覚えてはダメだと思った


「お前女装趣味とかあるんだ」


「ちょっとキモイな」



村野くんと大村くんから見られる視線は軽蔑のような感じがした

世間的に自分が普通ではないことは自覚しているけど、いざ現実的にその視線を受けるのは思っていたよりもきつく感じてしまった。


「えっなになに?」


席の近くの女の子たちも近づいてくる


「苑田、女装趣味あるんだって。この写真が苑田」


「可愛い。本当にこれが苑田くん?」


「はい」


「へぇ~。でも意外だな」


そのあとはすぐに教室にいるクラスメイトに僕の女装した写真は回っていった。

明らかに引いている人、物珍しそうに僕のことをみている人、全く興味がない人。

反応は様々だけど好意的な人はいないような気がした。


教室がざわめいていたときに


「これは何の騒ぎ?」


聞きなれた声が聞こえて、声のする方をみてみると春乃さんと松岡くんと嶋野さんが立っていた

僕は3人の顔をみると少し安心できた。

改めて教室の視線を確認したところで僕は今までの理想がただの理想でしかなかったんではないかと自信がなくなってきて下を向いた


「なにおまえら?」


村野くんの声が聞こえて顔をあげてみると松岡くんと中村くんが立っていた。

そこからは松岡くんが村野くんと話そうとしたが二人は聞く耳をもとうとしなかった


「村野くんも変なもの見せてごめんなさい」


僕は村野くんと大村くんに謝るしか思いつかなかった


「なんかそんな謝られたら俺が悪いみたいになるじゃないか。そうだ。ここで女装してみろよ」


「面白そうだからいいんじゃん」


それでも2人の勢いは止まらなかった

やっぱりダメかとあきらめそうになっていると


「バンッ」


急に大きな音が鳴り、隣をみてみると春乃さんが机を思いっきり叩いていた

クラスの人の視線が一気に春乃さんに集まる


「あんたらの汚い口でがそれ以上冬くんを汚すな」


春乃さんは完全に怒っていた。僕なんかのために


「冬くんはあんたたちに何をした?下げないでいい頭を下げたんだ。あんたたちも冬くんに謝れ。好きなものを好きだといって何が悪い」


僕はこの言葉を聞いたときに無くしかけていた自信にまた灯をともしてもらった気がした。

気づけば春乃さんは泣いていて。

その涙をみたときに僕は春乃さんの手を取って教室を後にした



「春乃さん、僕は自分のやりたいことをやります!!姉さんや母さん。そして春乃さんたちにたくさんの勇気と希望をもらいました。これからも悩むことも辛いこともあると思いますが、もう負けません。僕は「かわいい」が好きなんです」


「私も応援する。絶対味方だから忘れないで」


「ありがとうございます」




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