83話
「みっちゃん」
「うん」
「みっちゃん起きて」
「もう少し」
「ちゅーしちゃうぞ」
「いいよ」
「じゃぁ」
口に柔らかい感触が伝わった
「えっ」
その感触に驚き目を開けるとそこには愛の顔があった
「おおおお」
俺はその場で飛び起きた
「おはようみっちゃん」
「なんで愛が俺の部屋にいるの」
「昨日早く起きれたら起こしに来るっていってたから有言実行しました」
確かに昨日の帰りにそんな話になっていたけど、まさか本当に起こしにきてくれるとは
「父さんと母さんは」
「2人とも仕事いったよ。真紀ちゃんは朝ごはん食べている」
「そっか」
「眠そうだね。昨日遅かったの?」
「ちょっと目が冴えて漫画読んでいた」
半分本当で半分は嘘である
冬くんの話を聞いて、人それぞれなんだなと考えていたら
目が冴えて眠れなくて漫画を読んでいたら寝たのは夜中になっていた
まぁ寝不足もさっきのキスで全部吹っ飛んでいるけど。
こんなの他の男子に知られたら後ろから刺されるのは間違いない。
俺はこの朝の出来事を墓まで持っていくことにしたと同時に心の中ですごくいいと思ってしまった。
結婚したらこんな朝を迎えることができるのかなとキモイ妄想を1人でしていると
「みっちゃんも朝ごはん食べないと遅刻しちゃうよ」
「愛はご飯食べたの?」
「私の分も用意してくれているから一緒に食べよう」
「わかった」
愛が隣のアパートに住むようになって母さんと愛は頻繁に連絡を取り合っており、こうやって愛の分の朝ご飯も一緒に用意してくれるようになった。
既に愛は家族の一員みたいになっている。
「お兄ちゃんおはよう。美人な彼女に起こしてもらった感想はどうですか?」
真紀は既に朝ご飯を食べ終わっていた
「明日もお願いしたいぐらい」
「キモッ」
「明日も起こしてあげる」
「冗談冗談。目明けたら愛がいるのは心臓がはねる」
「確かに目明けて愛ちゃんの顔があったら飛び起きるね」
「なんか私の顔って怖い感じなの」
「まぁある意味」
「みっちゃんでも怒るよ」
美人すぎて怖いって意味だけど
なんか目明けた時に目の前に真紀や母さんがいるのって普通でありがたいなと真紀を見ながら言考えていると
「今お兄ちゃん失礼な事考えているよね。今度いきなりお腹に飛び乗ってあげるね」
「それ俺死なない?」
「それは私が太っているっていっているのかな」
「言っていないです」
「愛ちゃん、お兄ちゃんがいじめる」
真紀は愛に抱き着く
「よしよし。真紀ちゃんは太っていないし可愛いよ」
「ふふふ。愛ちゃん好き」
「私も真紀ちゃん好き」
最近この二人は本当の姉妹みたいになっている。
朝ご飯を食べて学校に向かっているとさくらさんが前を歩いていた
さくらさんはすぐに俺たちに気づく
「おはよう二人とも」
「「おはよう」」
「今日も二人は仲良しですね」
「毎日仲良しです」
愛は俺の腕にくっつく
「はいはい」
「さくらが冷たい」
「うん。なんか最近こんな感じに流すの正解かなと敬都を見ていて思ったんだ」
確かに敬都もいつもこんな感じで流してくる
3人で話しているとあっという間に学校についた。
しかし教室に入るといつもと少し空気が違っていた。
冬くんの周りにはクラスの男子生徒が数人いて、それを女子は不安そうにみていた
クラスの異変に気付きさくらさんが男子生徒に声をかける
「これは何の騒ぎ?」
「春乃さん!!聞いてよ。苑田って実は女装趣味があるんだよ」
男子生徒が出てきた言葉は冬くんの趣味のことだった。
でもどうして冬くんの趣味がばれているんだろ
気づけば敬都も鏡さんも桐生さんも近くから様子をみていた
冬くんは気まずそうに下を向いている
別に冬くんは自分の趣味を隠しているわけではないが、この状況では誰だってそうなってしまう
握りしめた手は少し震えている。
「大村がゲーセンにいったときに苑田がトイレに入っていくのをみて話そうと思ったら女装した苑田がでてきて写真撮って俺たちのラインに送ってきてくれた」
大村も今話している村野もクラスの人気者ではないが自分たちの好きなものを大声で話していて、趣味陰キャだけど教室の中では陽キャで立ち位置でいやいようなやつらだ。
本人たちの中で今の状況がどのような気持ちでいっているのかはわからないし、もしかしたら仲間同士のいじりぐらいの感覚でいっているのかもしれないが、これはこうやっていじる内容ではない。
事を変に大ごとにしているせいで他のクラスの生徒まで傍観に来ている
クラスでもこのカミングアウトの衝撃は大きいらしく
「苑田くんって女装趣味あるんだ」
「なんか気持ち悪いね」
「でも、あの写真みたけど結構可愛かったぞ」
「高校生で女装趣しているやつ初めて見た」
もしかしたらこれが普通の反応なのかもしれない。
でも俺たちは冬くんの我慢した過去を知っている
すぐさま俺は冬くんの前に立った。すると敬都も隣にきた
「なにおまえら?」
「村野、人の趣味は自由なんだからおまえらが変に扱っていい問題じゃないからやめろ」
「お前ら元々陰キャの癖、最近嶋野さんや春乃さんが近くにいるからって調子乗ってんのか」
「そうゆうわけじゃなくて、これはよくない」
「苑田がやっていることをそのまま言っているだけの何が悪い」
「この周りの空気をみてただ言っているだけなのか?明らかに馬鹿にしているようにしか見えないだろ」
村野は俺の言葉で少し周りをみて一瞬怯んだが、ここで引くのがださいと思ったのか
「はっそもそもこいつがキモイ恰好しているのを言っているだけで俺が攻められる理由がないな」
「お前」
「松岡くん大丈夫だから」
冬くんの方をみると悲しそうな顔、悲しそうな声でそういった
「でも」
「大丈夫。こうなるのは自業自得だから。村野くんも変なものみせてごめんなさい」
冬くんは席から立ち上がり村野に頭を下げた
「なんかそんな謝られたら俺が悪いみたいになるじゃないか。そうだ。ここで女装してみろよ」
「面白そうだからいいんじゃん」
村野の言葉に大村が続く
「お前らいい加減にせろよ」
俺は村野たちに向けて声を張る
「陰キャは黙ってろ」
クソ。ここにきて自分の日頃の行いのせいで全く俺の言葉に力がないことに気づく。
いくら俺が冬くんを守ろうと声を張ろうと陰キャのイメージが強くて効力がない。
「バンッ」
教室のその音が響く
音の鳴った方に目をやるとさくらさんが力いっぱい机を叩いていた
「あんたらの汚い口でがそれ以上冬くんを汚すな」
「苑田、お前女子に守られて恥ずかしくないの」
「村野、私はあんたにそれ以上冬くんを汚すなといったのが聞こえなかったの?」
「春乃さんは黙ってて」
その時、聞こえるはずのない何かがキレる音がしたような気がした
そしてさくらさんの目の色が変わった
「村野、あんたがいつも大声で好きだといっているアイドル。大村、あんたがいつも可愛いといっている漫画のキャラ。あんたたちは自分の好きなものを話して楽しいだろうけど、アイドルと漫画に全く興味がない人からしたらあんたたちが今冬くんに抱いている気持ちを抱かれているって気づいていないの?そしてこのクラスにはあんたちに共感する人よりも引いている人の方が多いって気づいてないの?」
「それは」
「まさか気づかずにこんなブーメランみたいなことを大声でいっているの?逆に聞くけど自分が他の人から思われていることを自分で言っていることが恥ずかしくないの?」
「こいつの趣味と俺たちの趣味は違うから」
村野と大村は確信をつかれたらしくさっきまでの威勢はなくなり、言い訳をしだす
「何が違うの?」
「こいつの趣味は普通じゃないだろ」
「普通かどうかを決めるのはあんたたちじゃない。あんたらの匙加減で勝手に人の趣味を馬鹿にするな」
「。。。」
「アイドルを好き、漫画が好き。別にいいじゃない。誰が何を好きになっても。自分の好きは無理やり肯定させようとして人の趣味は否定して幸せね。私からみたらあんたたちの方がみじめで仕方ないけど。明日から教室の真ん中で自分たちの好きな事大声で話したらいいさ。周りの目を気にしながら」
さくらさんの猛攻は止まらない。
今までもさくらさんは何度か怒っているところをみてきたけど
今回は今まででみたことがないほど怒っているのが伝わってきた
既に村野と大村は何も言えなくなっている。
2人とも陽キャの立ち位置でいたいだけで、おそらく根は陰キャで俺と敬都相手だから虚勢をはっていたが、クラスの本当の陽キャのさくらさんからここまで詰められて言い返す力はないだろう
「冬くんはあんたたちに何をした?下げないでいい頭を下げたんだ。あんたたちも冬くんに謝れ。好きなものを好きだといって何が悪い」
「春乃さん。ありがとう。もう大丈夫だから」
「でも!!」
「大丈夫」
静かに冬くんはさくらさんを抱きしめた
「僕のためにこんなに怒ってくれてありがとう。それだけで十分だよ」
「冬くんは絶対に悪くない。もっと自信をもっていいんだよ」
さくらさんは泣いていた。
その涙が悔し涙なのか悲しくて涙を流しているのかはわからない。
「いこう」
冬くんはさくらさんと一緒に教室を出て行った。
教室には静寂が訪れる。
さくらさんの激高は他のギャラリーも黙らせて。
村野と大村は2人とも呆然と立ちすくんでいた




