表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/168

82話

「お前は知っていたのか?」


「知っていたわよ。この家で冬くんの好きなものを知らないのはあなただけよ」


「なんで言わなかった」


「あなたがこうゆうことをするとわかっていたから」


「お前。。。」


お母さんはひるまずにお父さんの前に立つ。


「また殴るの?」


「なんだその態度は」


「冬くんの頬をみればわかるわよ。とうとうあなた子供にまで手を出したわね」


「それの何が悪い。冬樹は俺の息子なんだ。俺も昔は殴られて育ってきた。男だったらこれぐらい普通だ」


「はいはい。その昭和の考え方を今の令和にもってこられても困るんですけど。それであなたは冬くんにどうしてほしいわけ」


「そんなの最初からいっている。冬樹には男らしく生きてもらう」


「あなたは根底から間違っている」


お母さんはお父さんに向かってはっきりと「間違っている」といった

流石のお父さんも面と向かっていわれたことに少し動揺している。

僕はさっきから両親の喧嘩を目の前でみて心臓が破裂しそうになっていた

いつもはこのタイミングで姉さんが止めてくれるが、今日は姉さんたちはいない


「何が間違っている」


「子供の生き方を決めるのは親ではなく自分自身よ。そして私たち大人が子供にしてあげれることは道を示すことではなく道を選ぶ選択肢を作ってあげることだと私は思う。あなたみたいに男らしく生きろといわれて、そう生きたいと思っていない子からしたらそれは「幸せ」ではなく「辛い」になってしまうわ」



「でもそれで子供が間違った道を選んでしまうことだってある。だから俺たち大人は経験と知識を使って子供にできるだけ間違わない道を示すんだ」


「間違った道も正しい道も未来のことは誰にもわからない。あなたも私も成功だけの人生なの?違うでしょう。あなたも私も間違いもたくさん経験して今がある。間違いを避けるよりも間違った時に支えてあげるのが親の役割じゃないの?」


「それでも冬樹は男なんだ。可愛く生きるなんて許されるわけがない」


「もう冬くんを自由にしてあげて。この子には自分の生きたいようにいきてほしい。それがどんな道だって私はいい。冬くんが今心から幸せだと思える生き方ができているのなら母親としてそれ以上の幸せはない」


僕はお母さんの言葉で涙が止まらなかった。

今までたくさん我慢してきた。

自分が好きなことを一番聞いてほしいお母さんや姉さんたちに言えなかったのが一番つらかった。

先日姉さんたちに自分の好きを認めてもらえて、今お母さんからも認めてもらった気がした。


「ダメだ。俺は許さないぞ」


それでもお父さんだけは僕のことを受けれてくれることはなかった


「これだけ言ってもダメなのね」


「当たり前だ。お前たちは誰のおかげで暮らしていけると思っているんだ。この家の中で俺の意見が一番になるのは当然だ」


「最初にあなたが怒った時から考えていたことなんだけど。今がその時だと思う。」


お母さんはそう言って部屋から出ていきすぐに一枚の紙を持って戻ってきた


「なんだそれは」


「自分の目で見て確かめてみたら」


お父さんはお母さんが持ってきた書類に目を落とすとすぐに目を見開いた


「これ本気か?」


「冗談でこんな紙出さないわよ。あなたが冬くんの生き方を認めれないのなら私たちはこの家を出ていく」


「お母さんあの紙は何?」


僕はお母さんの耳元で小声できいた


「離婚届」


「えっ」


「冬くん」


離婚届という言葉に驚いているとすぐにお母さんは僕を抱きしめた


「もう大丈夫。これからは私と一緒に冬くんの好きなように生きていこう。ずっとずっと我慢させてごめんね。私は母親としてあなたの好きなことを好きなようにさせてあげれないことをもどかしかった。流石に私も春香も秋野何も準備なしにはこんな決断できなかったから準備に時間がかかってしまった。本当にごめんなさい」


「でも。。。」


「さっきも言ったでしょ。私は冬くんが幸せだと思える生き方をしてくれることが幸せなの。私とお父さんは性格の不一致は今に始まったことではないの。あなたたちが知らないだけで疲れるほどぶかってきているの。だからあなたたちが精神的に大人に近づいたら離婚というのは考えていたことなの。それが今回早まっただけ」


「本当にいいの?僕は行きたいように生きて」


「当たり前よ。私もお姉ちゃんたちも冬くんが自分らしく生きたいと思う生き方をしてほしい。悩むこともあるし、傷つくこともあると思う。それを私たちは支えるから。これからは可愛くてもかっこよくてもどっちの冬くんを心から応援するわ」


泣きっぱなしの涙腺をお母さんの言葉はさらに決壊させた。

涙で前がみえなくなるほど泣いた。


「ありがとう」


「うん」


「お前本気なんだな」


「本気よ。春香も秋野も私の気持ちは知っている。それに向けての準備はできている」


「そうか。そうなのか」


お父さんは静かに下を向いた

僕はお父さんの手を握った


「お父さん、ごめんなさい。あなたの理想の息子になれなくて」


「冬樹。。。」


「僕は自分の生きたいように生きたいです。時間はかかるかもしれないけど、お父さんに認めてもらえる日がくるかわからないけど、これからの僕の生き方を見守ってください」


「わかった」


お父さんは静かに下を向いて一言そういった。


こうしてお母さんとお父さんの離婚は成立し、姉さんたちは今まで通りうちから大学に通うことになり、僕とお母さんは知り合いのつてでこっちに引っ越してきた。


「これが僕の過去になります」


苑田くんは全部話してくれた。

俺たちは苑田くんの話を黙って最後まで聞いた


「うううう」


隣を見るとさくらさんが大号泣していた


「冬くん頑張ったんだね」


いつの間にか苑田くんの家族と同じ呼び方にシフトチェンジしている

多分敬都も同じことを言いたそうだが。

流石にここは空気を読んだ


でも愛の家庭も特別だったと思うけど、苑田くんの家庭も特別なんだと思う。

その特別の形は違うと思うし、みんなそれぞれ違うんだなと改めて思い知らされて。

愛がいつも「みっちゃんは素敵な家族がいて幸せだね」と言ってくれるけど、本当に自分が恵まれているんだなと思った。


「一つお願いしていいですか?」


「どうしたの?今はなしてくれたことを私たちは誰にも話さないよ」


「それはありがたいですが、さくらさんも呼んでくれたように僕のことは名前で読んでくれたら嬉しいです。冬樹でも冬くんでも冬ちゃんでも好きな呼び方でいいので。だめですか?」


「そんなの断る理由がない」


「よかった」


みんなで冬くんの過去を聞いたあと、ご飯を食べて帰宅した。


「なんか今日も濃かったな」


「そうだね」


「でも、俺思うんだよね。きっと冬くんのお父さんはひどい人ではないって」


「私もそう思う」


冬くんのお父さんの行動は確かに暴力的なところや乱暴なところがあったのかもしれない。

これがもし冬くんが男としてかっこよく生きようとしていたらどうなっていたのだろうか。

苑田家の話を聞いていると冬くんの生き方だけが家族という形にほつれを作って

それが次第に大きくなり、ほつれはほどけないところまできてしまったような気がした。

たらればだし他人事だけど、誰も悪くないし、誰かが悪いといってはいけないような気がする。


それに最後に冬くんがいっていたのが


「お父さんとは離れたんですが、逆にこの距離感がいいのか連絡は取りあっているし、姉さんたちの説得もあるからから、少しずつお父さんの価値観も変わりつつあるみたいです。まだすべてを受け入れることはできないですが、少しずつ少しずつお互いを理解していけたらと思っているんです」



「冬くんは自分をもって強いな」


「そんなことないです。僕なんかより離婚してでも僕とこっちで暮らすことを選んでくれたお母さんと僕の好きなことを全部受け入れてくれて背中を押してくれた姉さんたちがすごいです。家族がいなければ今の僕はいません」


それでも、その気持ちを言葉にしてみんなに話すことができる冬くんのことを俺は心の底からかっこいいと思った。

かっこいいも可愛いもどうしても見た目で決まってしまう固定概念があるけど、本当のかっこいいと可愛いは人間の本質なのかもしれないと思ったけど、これを俺が口にするのはちょっと恥ずかしいのかっこつけすぎている気がしたから口にはしなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ