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81話

高校1年生になって僕の「可愛い」に対する理想は大きくなっていた。

高校がバイトがOKだったのもあり、入学して部活動には入らずファーストフード店のバイトを始めた。

中学時代に比べて使えるお金が増えたこともあり、プチプラコスメだけではなく、SNSで話題になったコスメなんかも買って楽しんでいた。

それとジェンダーレス男子が着るような女性物に近い洋服も買うようになった。

もちろん家族が誰もいないときに可愛い服を着てお化粧をしてネイルをして楽しんで、みんなが帰宅するころには男に戻るを繰り返していた。

一応それだけでも満たされていたけど、本当はもっともっと可愛いを追求したくなっていた。


ある日、いつものように家に誰もいなかったので洋服を着て化粧をしていると、ふとトイレに行きたくなって部屋を出た。


「冬くん?」


ドキッと心臓がはねた

振り返ると大学生になった2番目の姉さんが立っていた


「春香姉さん。。。」


「冬くん。。。。」



あの日以来姉さんたちにも隠し続けていた秘密がばれてしまった。

そのことを考えたら悲しくなって下を向いてしまった


「可愛い!!!」


「えっ」


春香姉さんから出てきた言葉は予想外の言葉だった


「冬くんが可愛いコスメをちょこちょこ集めていたのは知っていたけど、まさかこんなに可愛くなるなんて!!お姉ちゃんときめいちゃう」


今集めていたの知ってたっていった?

バレてたの。。。

それはまぁ今は置いといて


「引かないの?」


春香姉さんは首をかしげた


「どうして引くの?」


「だってこんなこと普通の男がすることじゃないし。。。」


「私も秋野ちゃんもお母さんも冬くんが小さいころから可愛いが好きって知っていたし、最初に可愛いを教えたのは私たちだからね」


「それにさっきコスメをちょこちょこ集めていたのも知っていたっていったけど」


「それは冬くんが100均でコスメの商品を選んでいるところを目撃したからかな。冬くんは隠しているようだったから私たちはふれないようにしていたけど。それに前にテレビでジェンダーレス男子の特集があっているときの冬くんの嬉しそうな顔は今も私たちは忘れないよ」


「そっか。知っていたのか」


僕は廊下に座り込んでしまった

すると春香姉さんは僕を抱きしめてくれた


「冬くん、あの日以来我慢ばかりさせてごめんね。私たちにもっと力があればお父さんに言い返すこともできるのに。実際お父さんの収入がなければ私たちが暮らしていけないのも事実だと思う。でもいつか冬くんが自分らしくいれる環境を私たちが作ってあげるからそれまで待っていてね」


「僕は可愛くいていいの?」


「もちろんだよ。冬くんが可愛くいたいならいていいんだよ。お姉ちゃんたちはそれを応援する」


その優しい言葉に僕は涙が止まらなくなった


「ごめんね。もっと早くいってあげたかったけど、お父さんにばれたら冬くんの我慢も全部無駄になると思って」


「大丈夫。ありがとう」


「よし、じゃぁ冬くんこっち向いて可愛い顔を見せて」


「えっ」


突然姉さんに言われて振り返ると

カシャッ

写真を撮られた


「なんで写真?」


「秋野ちゃんに送らないと」


「突然送ったら驚かない?」


「大丈夫」


そういって春香姉さんは秋野姉さんに写真を送信した


「ほらすぐに既読ついた」


「はやい」


するとすぐにビデオ電話がかかってきた


「もしもし秋野ちゃん」


「春香ちゃん!!今のって冬くんだよね?」


「そうだよ~~。可愛いでしょ」


「私たちのアイドルが降臨した感じだよね」


「わかるわかる」


姉さんたちの会話は僕が思っていたのはかけ離れていて

今まで自分が隠していたのが馬鹿みたいに思えるほどだった


「ほら冬くん、秋野ちゃんにみせてあげて」


「うん。。。」


そういって画面に映り込むと


「きゃぁぁぁぁぁ。冬くん可愛い!!!」


「ありがとう」


「あ~。今から大学ぶっちして帰って冬くんとイチャイチャしたい」


「姉さん、大学はちゃんといこうね」


「春香ちゃん」


「なんだい秋野ちゃん」


「私たちの弟、鬼可愛くないか」


「わかる」


こうして僕の秘密は2人の姉さんたちにバレてしまった。

そしてこの日から昔みたいに姉さんたちと一緒に可愛いを話したり動画をみたりする楽しい日常が始まった。

ただそんな幸せな日常はすぐに終わりを告げた


姉さんたちにバレて隠すことに対して気が緩んでいたのかもしれないし、どこかで自分はありのままでいいんだと思っていたのかもしれない。

その日はバイトもなくて家に帰って昨日更新されていた動画を見ようと思い家に帰宅すると。

鍵が開いており、玄関にはお父さんの靴があった。

なんだか嫌な予感がした。

そしてその嫌予感はすぐに現実に変わった。


「ただいま」


おそるおそるリビングに入るとそこにお父さんはいなかった。

普段はこんな時間に家にいることがないから、なんかの用事で帰ってきたのかと思い

とりあえず着替えようと思い、自分の部屋がある2階に登ると僕の部屋の扉が開いており電気がついていた。

やばい!!と思い急いで部屋にはいると。

お父さんが僕が昨日の夜に呼んでいたメイク雑誌を片手に、そしてもう片手に僕が集めいてたポーチを持っていた。


「冬樹、これはなんだ」


「それは。。。」


「なんだっていっているんだ!!!」


お父さんは怒鳴ると同時に僕のポーチを床に投げつけた。

下に投げた衝撃でポーチの中身は散乱し、僕が集めたコスメアイテムがあらわになった。

少し見ただけでもわかるぐらい割れているものもあってそれをみただけで泣きそうになった。


「俺はお前に男らしく生きろと前にいったよな」


「はい」


「それでお前の答えがこれか」


僕は何も言えなかった。

いつかはバレるのかもしれないと思ったし、少しの希望でお父さんもわかってくれるのかもしれないと思った


「だんまりか」


僕はお父さんに何も言えない。

単純に恐怖が勝ってしまうんだ。

ここで僕が全ても捨てて男らしく生きる道を選べばこの問題がこれ以上大きくなることはないと思った。

でも。。。姉さんたちが「可愛い」といって今の僕を受け入れてくれたのが本当に泣くほど嬉しかった

姉さんたちが受け入れてくれたことで少し勇気をもらったような気がした


「可愛いが好きなんです」


声が小さくなってしまった


「なんだと」


「僕は可愛いが好きなんです。お父さんがいっている男らしくっていっていることはわかります。でもそれでも僕は可愛いを捨てることができない」


次ははっきりと言えた。

これが今の僕の精一杯の本音だった


「お前自分が言っていることがわかっているのか」


「わかっています」


「そうか」


お父さんは一度大きく深呼吸して僕の目をみた。


パチンッ


「うっ」


頬がうずく。とても痛い。

でもここで折れたくないと思った


「ふざけるな。お前は生まれた時から男なんだ。男が可愛く生きるな。お前は俺の息子なんだ」


お父さんの言葉には怒りの中に悲しみが隠れているような気がした。

僕の頬を叩いた左手は強く握りしめられている。

その時ただ怖かっただけのお父さんに対して謝罪の気持ちが湧いてきた。

僕が普通に男だったらお父さんはこんな気持ちにはならずに済んだのに、僕が他の人と違うことでお父さんはいろんな葛藤があって現在があるんだと思ってしまった。

そう考えたら叩かれた頬の痛みは気にならなくなった。

このくらいの代償は当然であると思ってしまった。


「なにしているの」


そんなことを考えると後ろから声が聞こえて振り返ってみると。

仕事から帰ってきたお母さんが立っていた。






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